SamSuka
夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


たびさきしゅりんく

§  沛然たる驟雨、車軸を流すような大雨に湯煙も鈍く湿りだした。けぶる温泉街、弾ける女性らの悲鳴にはしゃぎ声。慌てて屋台を引く者や、傘もなく走り惑う者、今日も街は女人の声で姦しい。  そこを一人、足早に駆ける華奢な姿があった。  ブーツにこうもり傘、足元に葡萄酒色の袴をはためかせ、後に残る金木犀色の香りの軌跡。どうも少女ではあるらしい。だがその顔も、レインコオトと傘に隠れ、良く見えない。 「厘さんのいうように、合羽も持ってきて正解でしたね……!」  慣れない運動に細い喉を喘がせながら、鈴の音に似た声がそう囁く。傍らにそれらしい人影はない。それでも今は、返事も気にせず足を進めるだけだった。  そして、立ち止まったのはとある旅館の軒の下。 「ふぅ……、災難でした」  そう言ってフードを脱げば、現れたのは白百合にも勝る美少女の相貌。こぼれる髪は紅茶色、ハイカラにも鮮烈な赤のリボンで後ろに結び、ほろほろと嫋やかに波打っている。  当世随一のハイカラ娘、大正浪漫を体現する美少女の姿がそれだった。 「お疲れ様です、厘さん。……厘さん?」  安堵したのか、柔らかく笑みを見せるその少女。だが、返事の声は聞こえない。  訝しんで自身の胸元に視線を下ろせば……。 「ち、千代さん……」  少女の足取りに振り回され、すっかりくたびれ尽くした小男が腕に抱かれていた。挙句容赦ない乳揺れで殴打され続け、ほとんど失神しかけている始末だ。 「だ、大丈夫ですか!!?」 「千代さん、急ぎ、すぎ……」  そして、そうこぼせば。 「厘さん? 厘さん!!?」  小男こと僕は、がっくり力を失くしてしまったのだった。 ⁂  部屋に通された時分になって、ようやく僕も気力を回復しつつあった。 「せっかくの旅行ですのに、とんだ災難ですね」 「……ええ、まったくです」 「この雨、いつ止むのでしょう?」  こてんと首を傾げて言う、線の細いハイカラ少女。わかっているのかいないのか、いそいそと荷解きをしつつ気づかわし気に窓外を見遣っている。 「どのみち、外にはあまり出ないのではないですか? 千代さん、出無精ですし」 「まあ非道い! そう言うからせっかくこうして温泉まで来たのに、厘さんの意地悪……!」  そう言って、ぷいっと他所を向いてしまう千代さん。まあまあと笑いながら僕は、痛まないうちに千代さんのブーツの雨を拭いに立った。 「……相変わらず大きいな」  それは、矮躯60㎝の僕と大差ない大きさの編み上げブーツだった。少女らしく、造形こそちんまりとかわいらしい。けれど、それは僕がすっぽり入れてしまえる大きさなのだ。  ……過日、実際に僕はその大きさを体感したわけだが。 「厘さん、どこですか? ああ、ここですね」  そこへ、ふわりと金木犀のような香りと共に訪れる少女。 「雨を拭かせてもらってます。痛んでしまいますからね」 「はい、……でも、こうしてみると厘さんってなんだか……」  僕とブーツを見比べて、何か言葉を飲み込んだようだった。 「言いたいことがあったらはっきり言ったらいかがでしょう?」 「言って欲しいんですか? それで喜ぶのでしたら何度でも」 「ぐ……、千代さんも言うようになりましたね……」  小人より大きな自分の体を恥じるほどだった千代さんも、小男を揶揄う愉しみを知ってしまったようだった。上品な立ち居振る舞いはそのままだから、余計にその落差が心を揺さぶる。 「ふふっ、千代だって成長するんですよ?」  しゃがみ込み、膝の上からフフフッと僕を見下ろす和装美少女。優雅に笑ってはいる姿は本当に愛らしいが、そんな素振りで小男を揶揄っているのだから困りものだ。ころころと鈴を転がしたような笑い声もどこか胸の底を撫でて、僕の心を落ち着かなくした。 「千代さんが悪女になってしまいました」 「なっ!? 厘さんが減らず口を覚えてしまいました……!」 そういって、白魚のような指で僕に軽くデコピンをくれる美少女。それだけで小人はのけ反って、ずっしり重いブーツに受け止められてしまった。 「厘さんがわるいんですよ? 忘れたとは言わせませんからね?」  そう言ってジリジリにじり寄ってくる、その迫力たるや。僕を見下ろす膝小僧、そこに乗っかる大きな乳房、そして覆いかぶさるようにこちらを覗き込む幼い美貌。なにより見てしまうのは、その美しいおみ脚だ。今は袴の中に隠れているが、しゃがんだ姿勢のせいで薄布越しにその形が浮かび上がっている。それがなぜだか艶美で、裾から足袋が覗いた時、思わずドキリとしてしまう始末だった。  だが、そんな視線に彼女もやっと気づいたらしく。 「……? あっ、も、もうっ、見ないでください!」  千代さんは慌てて立ち上がり、足もさっと袴の影へと隠れてしまう。見上げれば、頬を赤くした千代さんの、怒ったような困ったような呆れ顔。  それから、もじもじ足同士をこすり合わせると── 「……厘さんの莫迦。ばぁか」  トスッと、僕をつま先で小突いた。 「不埒です、厘さんは。私は飼い主なんですよ? なのに、発情して、挙句足に興奮するなんて……、ヘンタイ」  低く、けれど揶揄うように少女は罵る。一方の僕はうずくまったまま何か乞うような視線を向けてしまって、どうにもその色気に抗えない。  そんなどうしようもない男の姿に、千代さんもぞわりと何か欲動を感じたようだった。 「……そんなに、気になるんですか?」  そういうと、裾を少し上げて見せる。見えたのは純白の、目にも艶めかしい足袋の足先。僕を抱えたまま雨を掛けた、小さな小さな足が僕を見下ろしていた。くるぶしの愛らしさも、足袋から覗く脛の白さも、僕を甘く囃し立てる。見上げれば華奢な体が塔のようにそびえたち、荘厳なほどに大きく見えた。その足元に這いつくばる、倒錯感が僕をクラクラ酔わせていくのだ。 「どうなんですか? なんで黙ってるんですか? 物もいえないお人形さんになってしまいましたか?」  クスクス言いながら口上を連ね僕を追い詰める、その楽し気な様と言ったら他にない。茶会で談笑でもしているかのように軽やかなのに、その一言一言が僕の心臓を撫でてくるのだ。 「ぼ、僕がわるかったです、だから……っ」 「何がわるかったんですか? 千代は怒ってませんよ?」  クスクスと可愛らしい笑みで僕を攻め立てる、そのえくぼさえどうにも愛しい。とはいえ今は窮地に追い詰められているわけで、もう僕はしどろもどろになって言葉も意味もなさない。挙句はツンツンとつま先で僕を小突いて僕を慌てさせ、反応を見て喜んでいる始末だった。   「ああ、そういえば」 それから、僅かに甘く微笑んで。 「すこし雨に濡れてしまったかもしれないので、拭いてくれますか?」  つま先を、僕に向けたのだ。 「あれ、厘さん?」  もしかしたら、僕を揶揄っただけだったのかもしれない。 けれど、跪く僕は、ただ、それに腕を伸ばすと。 「ひゃんっ!?」  その美しいおみ足へ、抱き着くように触れてしまっていたのだ。  驚いたのか手が冷たかったのか、可愛い声を出し千代さんは足を引っ込めてしまう。そうすれば小男は袴の中に体半分を引き込まれてしまうわけで、いよいよ僕は美脚の全貌を視界に収めてしまう。それは、僅かに内股になったスラリと長い少女の生脚。袴のうす暗い中、濃く立ち込める金木犀の香り、輝きを発するようなその柔肌。僕の美少女ご主人様の脚は美しくて、長くて、むちむちで、不意に目に入れるには強すぎる刺激を放っていた。 「なっ、何をしてるんですか!? やめて、出てください!! ちょっと、触らないで、くすぐったいですよ厘さん!」  あわあわと袴を押さえて股間を隠しつつ、足に取り付く矮躯を蹴り出そうとするハイカラ美少女。けれど当の足で踏んでしまったり挟んでしまったりと、僕をもみくちゃにしてしまうばかりだ。  だからようやく出てきたときにはもう、僕は千代さんの足跡でいっぱいだった。 「……厘さんはお莫迦さんです」  気づけば千代さんは、呆れたように揶揄うように僕を見下ろしていた。  それから、高くその足を掲げると。  僕の胴に、そっと足裏を押し当てる。 「厘さんの莫迦。ばーか♡」  そしてゆっくり重心を下ろしていけば、藻掻き始める小男の体、それにも構わず沈む細い足幅。それは雨でしっとりと熱く蒸れていて、丸く甘くなった花の香りがふわりを漂わしている。体が千代さんの靴底にされていくような感覚が、絶望感と共に確かな彼女の存在を教えてくれる。視界はもう、袴のパラソルでいっぱいだ。 「ばぁか♡ 勝手に触って好いなんて言ってませんよ? 勝手に発情して飛びついて、気持ち悪いです♡ そんな厘さんなんか、私の足で踏まれちゃえばいいんです♪」  そういうと更に体重をかけ、僕を啼かせるおみ足の主。ギュッと踏みつけ、抵抗できなくなっていく様を愉しむのだ。 「どうですか? 重いですか? もっと踏まれたい? 踏み潰されたい? 千代には簡単なことですよ。ふふっ♡ ちょっとビクッてした♡ 可愛いですよ厘さん♡」  袴の裾を摘まみ持ち上げて、踏まれる僕を笑うハイカラ少女。みっちり足指の詰まった足袋でコスコス顔を撫でこすったり、踵でグリグリ股間をイジメたり。喘ぐ小人の顔を足指で挟んで黙らせて、どんなに愉快なことだろう。指股の間から時折除くお淑やかな顔は、仄暗い愉悦の火に照らされ妖しくさえ見えるほどだ。  そんな和装美少女のおみ足に踏みつけられて。  あっという間に僕は、ぼろ雑巾のようにされてしまっていた。服ははだけ体には足跡だらけ、ビクビクと男根を屹立させて、獣に凌辱されたも同然のありさまだったのだ。けれど、それを為したのはあのお淑やかな女の子なのだ。  ……けれど、そこに水を差すように。 「失礼します」  やおら、仲居が戸を叩いた。 「は、はいっ!?」  仰天した千代さんは、慌てて居住まいを正そうとしつつも弄んだ小男をそのままにはしておけない。そうする間にもすすすとドアは開いていき……。 「……じ、ジッとしていてくださいね!」  何を思ったのか、僕をふくらはぎの上に載せる千代さん。  そしてそのまま、腰を下ろすと……。 「……えいっ!」  正座して、僕をお尻の下敷きにしてしまったのだ。


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