SamSuka
夜空さくら
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流刑少女の監理員の受難 その7

 周囲の地面が崩落し、落ちていく映像が消えた。  再び暗闇に閉ざされた視界の中、私はほんのわずかに全身に震動を感じる。まるで高いところから飛び降りた時のような震動だった。 (え、え、なに? 何が起きたの?)  解放されるはずだったのではないのか。奇妙な震動はその後も続き、やがて何事もなかったように落ち着いた。 「ムゥ……?」  口も鼻も完全に塞がれているから、バイクに問いかける事も出来ない。声をあげれば教えてくれるかと思い、うめき声をあげてみたけど、バイクから声はかからなかった。 (さっきの映像……司令官がなんか合図したかと思ったら、周りの地面が崩落してたよね……まさか……嘘でしょう?)  散々攻撃をかわされていたというのに、愚かにもまた攻撃をしかけたのだろうか。  若くして最高司令官になっただけあって、優秀な人だという認識だったのだけど、そこまで馬鹿だったのか。 (これ、私どうなるの……?)  私が人質として扱われているというのに、本格的に攻撃を仕掛けたということは、もはや私に人質の価値はないということになる。バイク側にしてみれば、もはや生かしておく必要もないはずだ。  仮に攻撃によってバイクが壊れたのだとしても、それはそれでまずいことになる。なにせ自分の首には首輪が巻き付いたままだし、そもそもバイクに拘束されたままだ。バイクが動かなくなったのだとすると、食べることも排泄することも出来ず、国の救出が間に合わなければ死んでしまう。 (いまのところ呼吸が苦しくなったりはしてないけど……)  仮に拘束が解けたとして、全身を覆うラバースーツはどうなるのだろうか。バイクの話ではものすごく頑丈に出来ているという。手足を拘束している枷もそうだが、密着しているラバースーツだけを綺麗に取り除くことは、うちの国の技術力でできるだろうか。 (それにそもそも……上層部は私をどう扱う気なのよ)  バイクに人質として抑えられた関所管理員。拘束されているにも関わらず容赦なく攻撃を仕掛けてきたということは、上層部は私が死んでも構わないと思っていたはず。  そんな私の存在は、上層部にとって邪魔以外の何者でもない。 (人質ごと攻撃したなんて国として最悪よね……批難は避けられないのに……ん?)  そう考えて、誰がその批難の声をあげるのかということに気づいた。  いまの上層部は一枚岩だ。それなりの権力闘争はある、と思いたいけど、派閥があるという話は聞いたことがない。その上層部がする、と決めたことに対して、誰か異議を唱えられる人はいるだろうか? (あの隊長さんくらいは批難してくれるかな……いや、でもそうだ)  私には身寄りが無い。親しい恋人も家族もいない。強い繋がりを持つ権力者もない。  ある程度の批難の声はあがるだろうけど、それはいつまで続くだろうか。オーバーテクノロジーの塊であるバイクの残骸を得て得られる利益は計り知れない。それを考えれば、女一人の命なんて安いもの、と思われている可能性は十二分にあった。 (まさか、最初からこれを見越して、私を……?)  自国の恐ろしい暗部に気づいてしまったような感覚に、私は震える。  どう転んでも死ぬ未来しか見えない。  緊張で身体が硬くなり、吐き気を覚える。口が塞がれている状態で吐いたら死にかねないので堪えたけど、そうでなくてもこのままバイクが動かなければ死んでしまう。 (お願い……動いて……!)  私は動かせる範囲で身体を揺すり、拘束が緩むなりなんなりしないか試してみた。  その時。  突如、私の股間と胸に電気を流されたような刺激が走った。 「ンギィイィッっ!?」  何も刺激がなかった状態からの、突然の暴風。身体が勝手に跳ね回り、拘束を吹き飛ばす勢いで暴れた。もちろん、枷はびくともしなかったけど。 「カ、カハッ、フーッ、ウーッ!」  呼吸が制限されているのに、この刺激は強烈すぎる。必死に浅い呼吸を繰り返すけど、ちっとも楽になれる気はしなかった。 (バイクは、壊れてない……!? 良かった……とりあえずこのまま拘束されたまま死ぬってことはないはず……)  バイクに繋がれたまま、衰弱死するなんて御免被りたい。  私は塞がれた口で出来る限り呻いて、バイクが何か言うのを待った。誤動作でないことを祈る。 『……報告。本格的な攻撃を確認しました。当機に損傷はありません』  どうやら無事だったようだ。落下していた映像は途中で途切れてしまったから、正確なところはわからないけど、それなりに高さがあった。生身で飛び煽りようと思ったら足首を挫くくらいは覚悟しないといけないくらい。  けれど、いまのところバイクに異常は見られない。 『これは明確な敵対行為と見なします。相応の対応を開始します』  そのバイクの言葉を聞き、私はこの国が壊滅させられるのだろうと思った。  こんな馬鹿げた技術力を持つバイクに攻撃を仕掛けること自体、無謀を通り越して自殺みたいなものだ。  私は諦めの境地に達し、どうでも良くなった。 (……私には何も出来ないし……あれ? でもこのバイクって……武器とか積んでるのかな?)  罪人護送用のバイクなのだから、ある程度自衛の力は必要だとは思うけど、かといって国を滅ぼせるレベルの武器を積んでいるというのもおかしな気もする。  何気ない疑問を抱いていると、バイクが一瞬大きく震動して止まる。 『さて……貴女には申し訳ありませんが、見せしめとなっていただきます』  それは死刑宣告のように聞こえた。身体の中に管を入れられているのだ。その管を通して何か注がれればそれだけで死ぬだろう。  上層部の勝手な行動で殺されるなんて、納得いかなかったけど、このバイクにしてみれば関係ないんだろう。どうでも良くなった、と思っていたけど、命の灯火がいまかき消されようとしていると思うと、急に怖くなった。 (い、いやだ……しにたくない……っ)  死が間近に迫った恐怖で身体が震える。  心臓が不規則に高まり、涙が零れた。 『あ』  何かあったのか、バイクの音声が不完全に途切れた。 『……見せしめ、とお伝えしましたが、命を奪う訳ではありません』 (へ……?) 『直接的に命を奪う行為ではありませんが……其方の国の方が無謀なことを行えば死ぬ危険性はあります。ご了承ください』  どういう意味なんだろう。  私が絶望と希望の間で混乱していると、急に両腕が左右に引かれた。 「ンムゥ!?」  どういう理屈なのか、私の両手は左右に伸ばした状態で動かせなくなった。スーツが固まったわけじゃない。何か、身体の後ろにあるような気がする。  バイクの胴体に沿うように倒していた身体が無理やり起こされる。馬に跨がるような姿勢にされた、と思ったら今度はいきなり股が突き上げられた。 「ングウウウウ!!」  何が起きているのかわからない。私は身体を大の字に開いた体勢にさせられていた。 (身体に何かあたって……!? これ……もしかして、風の感触……私、晒されてる!?)  体勢からして、あの卵状の形態には収まらないと思っていたけど、どうやら私は磔にされたような状態で晒されているみたいだった。 (嘘でしょ……!? あんな、身体にぴっちりスーツが張り付いた格好を、皆に見られてるってこと!?)  そうとしか考えられない。自分がいまどんな状態にあるのか、映像で見せて欲しいような、絶対に見たくないような、そんな矛盾した気持ちが私の中で暴れる。  そんな私をいたぶるように、スーツの胸辺りと、股間を突き上げているものが動作を始めた。 (ひゃああ!? うそ、嘘、嘘でしょ!? こんな格好で、体勢で……! 止めてぇ!)  私の身体はこの数日の拘束生活ですっかり機械の与えてくる刺激に慣れていた。  どう慣れていたかというと、その動きから自然に快感を得られるようになっていたのだ。 (誰に見られてるかもわからないのに……! み、見られてるの!?)  バイクは見せしめ、という言葉を使った。見せしめである異常、見られなければ意味が無い。だから、私は国の人たちに見られているはずで……。  そう考え始めると、急に全身に視線を感じるような気がした。逆の立場に立ってみたらどうだろう。人質がいるはずのバイクの中から、不可思議なものに身を包まれた人型が出てきたら。十字架に張り付けられた罪人のようにされていて。それが動いていたら。  私でもそれに注目するだろう。胸のあたりや股間にあてがわれたものが動いているのにさえ、気づくかも知れない。 (み、見ないで……!)  意識すればするほど、全身に視線が刺さっている気がする。  さっきまでと違い、身体にはある程度の自由があった。自由があるせいで、与えられる刺激から逃げようと身体をくねらせてしまう。  この数日、絶頂にはほど遠い刺激しか与えられてこなかったせいで、身体は刺激に飢えていた。明らかに異常な状況だというのに、身体が快感を求めてしまう。  もぞもぞ、と腰の位置を動かし、少しでも快感を味わおうとしてしまう。それを恥じて動きを止めようにも、胸と股間を刺激するのをバイクは止めない。 (あたま……おかしくなるぅ……っ)  いっそ快感に流されてしまえばいいのではないかと。  そんな囁き声が聞こえてくる。そうすれば楽になれると。どうせもう取り返しのつかない姿を晒したのだから、絶頂してしまう姿を晒しても構わないと。  わずかに残った理性がそれはダメだと叫ぶけど、その時にはもうどうにもならなかった。  激しい絶頂が弾け、私の全身を駆け抜ける。  頭の中まで真っ白になって、何も考えられなくなった。  頭から奇妙な感触がして、私は目を覚ます。  ぼんやりとした頭で、自分が誰か、どうなっているかと思い出す。 (あれ……私……いつの間にか、気を失って……?)  まだはっきりとしない頭を抱えつつ、私は重い瞼をこじ開ける。どうせ真っ暗だと思った私の予想は外れ、明るい野外の景色が見えてくる。 (広い草原……草原?)  国は城壁に囲まれている。使われていない区画もあるとはいえ、草原が国の中にあるわけがない。国の外にでなければ。  思わず身体を動かそうとした私は、気を失う前と同じ体勢から動けないことを知る。まだ磔にされたままのようだ。 『お目覚めですか。拘束を解除いたします』  目を覚ましたことを感知されたのか、バイクらしき声が真下から聞こえてくる。  私は相変わらずバイクの上で両手両足を固定されていた。ただ、真下を向いた拍子に髪の毛がばさりと垂れてきて、どうやら頭部だけは自由になっているようだった。  さらにバイクが言った通り、磔状態だった身体が解放される。両手両足、腰、首、固定されていた部分が解除され、私はバイクに跨がる格好ではありながら自由になった。 『降車してください』  私は状況が飲み込めなかったけど、言われた通りバイクから降りる。私の身体はまだラバースーツに覆われていて、身体がくっきりと露わになっていて少し恥ずかしかった。  ふと、バイクの全体を見ると、どうやって展開したのか、私が座っていた場所に十字型の支柱が立っていて、それに手足が固定されていたのだとわかる。  理解すると同時にその十字の支柱は折り畳まれ、バイクの中に収まっていく。そうしていく過程で、私はその支柱を挟んで反対側に別人が腰掛けていることに気づく。  頭までスーツに覆われていて、顔こそ見えなかったけど、それがバイクによって連れてこられた囚人であることはすぐわかった。 『囚人を回収し、貴女の国はすでに脱出済みです』 「……ああ、やっぱり……」  広々とした草原を見てわかっていたけど、どうやらとっくに国外に出てしまっているようだった。辺りを見渡してみるけど、国の城壁すらみえない。 「……滅ぼしたんですか?」  思わずそう聞いてみると、バイクは淡々と応えた。 『いいえ。脱出の際、強引に関所は突破しましたが、殲滅はしていません』  いくら上層部に切り捨てられたとはいえ、故郷には違いない。国がまだ残っていると言われ、少しほっとした。  ただ、そうなるとこれはこれで不安が生じる。 「あの……もしかしてこんなところで解放する、とか言いませんよね?」 『解放されたいのですか?』 「そりゃあ……」  解放されたいに決まっている。  けれど、その言葉を私は飲み込んだ。言葉通りこんなところで解放されても困るということと、もう一つ理由があった。  普通に国がみえる位置で解放して貰ったとして、私はあの国でいままで通り暮らしていけるのだろうか。  見せしめにされて痴態を晒した、という外聞的なこともあるけど、最大の問題は上層部に見捨てられているということだ。私なんて上層部にしてみればただの捨て駒。  それこそ口封じか何かで殺されてもおかしくはない。  かといって、他の国に伝手なんてあるわけがない。知識として存在は知っていても、大抵の庶民は生まれた国からほとんど出ないのが普通だ。  稀に旅人となって世界を旅する人はいるけど、それは文化も技術もそれぞれかけ離れた国々を渡り歩けるだけの、特別な力や立場を持つ人である。  私程度の存在が旅人になれるはずもない。  戻っても地獄、進んでも地獄。  私の未来は真っ暗に塗りつぶされていた。 『当方より提案があります』  そこに、一筋の光が差し込む。 『この度の一件、其方の国の愚かな行為が原因ではありますが、貴女自身は巻き込まれただけであり、情状酌量の余地があると考えています。貴女が希望するのであれば、他国への移住を支援しましょう』 「移住を、支援……?」 『はい。ただし、口添えなどの直接的な支援が出来るというわけではありません。他国への移動を手伝う、という意味です』 「つまり、他の国までは連れて行ってくれるけど、移住できるかどうかは私自身でどうにかしろってこと、ですか?」 『肯定します。私はあくまでも囚人護送を目的としたバイクであり、快適な旅路を保証するわけではありませんが』  半ば拘束されての移動になることは想像に難くない。とはいえ、この数日そうやって過ごしてきたこともあり、それ自体にはそこまでの嫌悪感や拒否感は湧かなかった。 「……その、他の国……次に行く国で受け入れてもらえなかったら?」 『移住が可能な国にたどり着くまで支援します』  それは破格の申し出だった。一も二も無く飛び付くべきなのかもしれない。  けれど、あまりにこちらにとって都合の良すぎる話に、警戒心が湧いてしまう。 「それは……本当に大丈夫なんですか……? やってもらって、いいんですか?」  バイクの本来の職務ではないはずだ。確かに高度な判断力を有しているらしいけど、明らかに本来の権限を逸脱しているような気がする。  そんな私の不安を、バイクはばっさり切り捨てた。 『可能ですから提案しています。断るのであれば、貴女の国の近くに行ってから解放しますので、それでも構いません』  そう言って、バイクは私が身に付けていた服を取り出して見せてくれた。乱暴にはぎ取られたはずなのに、その服は破れているわけではなく、普通に着れそうだ。  上層部に命を狙われかねない国に戻るか。  それとも、あるかもわからない新天地を目指すか。  どちらも危険な事に変わりは無い。  だから、私の答えは決まっていた。 続く


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