流刑少女の監理員の受難 おわり
Added 2018-08-04 11:42:13 +0000 UTC故郷である国を離れるのは辛かったけど、このまま残ってもいい結果が待っているとはとても思えなかった。 上層部にとって私の存在は邪魔でしかないはず。死人に口なしと命を狙われかねない。国の上層部に睨まれるというのは、私のような一般市民にとって、死刑宣告を受けるようなものだ。 それなら、一縷の望みにかけてバイクの提案に乗るしか無い。 「……私を他の国に連れて行ってください」 移住を受け入れてくれる優しい国があるのかどうかはわからなくても、もしかしたら元の国よりもいい国にたどり着けるかもしれない。そう考えておくしかない。 バイクは相変わらず淡々と、私の言葉を受け入れてくれる。 『了解いたしました。移住を受け入れる国まで貴女を護送します。貴女の固有名は?』 「名前ですか? レエルですけど……」 『認識しました。固体名レエル。登録を行います』 その言葉と同時に、私の首輪から奇妙な電子音が生じる。 「……いまの、何の音ですか? 登録って?」 『囚人登録を行いました。貴女は軽犯罪を犯し、大国より追放処分を受けた囚人として扱われます』 「え……っ」 いきなり犯罪者になりましたと宣告され、戸惑う。 『これにより貴女は私の護送対象となり、共に行動することが可能になりました』 「あの、首輪って外してもらえるんですよね……?」 『移住先が決定すれば取り外せます。それまでは外せませんが』 そういうことはもっと早く言って欲しかった。 「いまから元の国に帰りたいと言ったら……?」 『登録は成されましたので、外せません』 「ちょっとぉ!?」 さらっととんでもないこと言ったバイクは、さらに続ける。 『首輪は身分証明にもなりますが、危険な旅をする上ではつけておいた方がよいと思われます』 バイクの淡々とした物言いを、私は訝しんでジト目を向ける。 「……どういうことですか?」 『首輪は安全装置でもあるからです。もし銃などの脅威に晒されることになっても、展開するラバースーツがその身体を守ります』 「え、この服、銃弾も防げるんですか!?」 身体にほとんど密着している、不思議な材質で出来た服を、驚きを持って見つめる。 確かに身体の動きを阻害するくらい固くなるのだから、それくらいできても不思議じゃないのかもしれない。 『完全に、というわけではありませんが。着弾時の衝撃で内蔵を損傷したり骨折したりはすると思われます』 「ダメじゃないですか!?」 『即死しなければ救援が間に合う可能性が高まります』 それはそうかもしれないけど、なんだか納得がいかない。 「……治療はどうなるんですか?」 『当機は治療機構も備えています』 そう言って機械で出来た手のようなものを示してくれるバイク。たぶんそれが治療する装置なんだろう。 ハイテクノロジーだとは思っていたけど、本当にこのバイクはどこまで備えてあるのやら。大国の技術力がどうなっているのか、本当に気になる。 「はぁ……まあ、わかりました。よろしくお願いします」 もう疲れた。とにかくすごい技術力なのは間違いないし、そんなバイクが一応味方である内は安全だと思ってもいいだろう。 私は開き直って新天地を目指すことにする。 「そういえば、私の名前を聞きましたけど、あなたには名前ってないんですか?」 『それは貴女に必要な情報ですか?』 どうしても必要か、といわれるとそうではないのだけど。 「呼ぶ機会があるかどうかはおいといて、そのときにバイクさんっていうのも変でしょう?」 できればこのバイクを示す固有名詞があって欲しい。 バイクは少しの間沈黙した。まるでそれを話していいのか躊躇っているかのようだった。 機械だし、そういう訳ではないのだろうけど。 『……イロゥト。強いて言うならば、その呼称が当てはまるでしょう』 「イロゥト、ですか」 変な名前だ、という感想は飲み込んだ。命名も文化の一つ。自分たちの名前の感覚とは違うのが当然だ。 本当はもう少し身も蓋もない、番号みたいな物を言うんじゃないかと思っていたけど。意外とちゃんと名前がついている辺り、囚人の護送用であっても大切に扱われているみたいだった。 「……ところで、軽犯罪者となった私の扱いって、どうなるんですか? まさかそっちの人と同じように、各国の刑罰を体験しろとか言いませんよね?」 そうだとしたら今からでも元の国に返して貰おう。 私の故郷での扱いだけ考えても、私がそれに耐えられるとは思えない。 『それは重犯罪者の扱いですのでご心配なく。その国の風習には従っていただきますが、刑罰を受ける必要はありません』 「そっか。それなら良かった」 郷に入っては郷に従え、という旅人の言葉もある。その国ごとのルールに従うのは当然だろうし、普通の旅人と変わらないだろう。 そのときの私は、そう思ってしまった。 普通の旅人なら訪れる国を選べるけど、私の場合訪れる国を選ぶのはバイクであるということ。 バイクの目的は重犯罪者の罰になるような風習・刑罰を持った国を訪れるということ。 そのふたつのことを失念していたがために、私は今後散々な目に逢うことになる。 一通りの話が終わったのか、バイクが――イロゥトがゆっくりと動き出す。 『それでは早速ですが出発しましょう。次の国に向かいます』 「……そうね」 『重犯罪者の後ろに乗車してください』 「ちょっと待って、この格好で? さっき見せてくれた服は返してくれないんですか?」 『移動中はその格好の方が都合が良いですので。国に着く前に身支度を調えられるようにします』 「……もしかして拘束するつもり?」 『走行の震動や予期せぬ衝撃を受けた結果、防壁内を跳ね回られても困りますし、貴女自身が苦しむことになりますが』 それはこっちも御免ではあるのだけど。 「シートベルトみたいなものだと思うしか無いかぁ……」 私は仕方なく、ラバースーツの格好のまま、同行者の後ろに跨がった。 それと同時に、足が足首、膝、付け根の三点で固定される。いきなりの拘束っぷりに溜息しか出ない。 『同乗者の身体に抱きつくような姿勢を取ってください』 「えぇ……わかりましたよ……」 恐る恐る、前の人の身体に腕を回す。触れるとラバースーツ越しに体温が伝わって来て、相手も緊張に身体を固くしているのがわかった。 (……いきなり同行者が増えて、この人はどう思ってるのかしら。というか、そもそもこの人ってどんな犯罪を犯したのかしらね……) 言葉を交わすタイミングがあるのかわからないけど、あったら聞いてみようと思った。 そんな私と彼女をまとめるように、腰のあたりにベルトのようなものが巻かれる。首輪同士が不思議な力で引き合い、嫌でも身体をぴったり密着してしまう。 ふたりの身体に挟まれた私の乳房が潰れてしまっている。形が崩れてしまいそうというのもあるけど、同性とはいえ他人に胸を押しつけるのは恥ずかしかった。 せめてもうちょっと離れられないかともがいてみたけど、腰のベルトも首輪の引きつけも弱まる気配がなく、身体を擦り合わせただけになってしまった。 『防壁を展開します』 組み合った私たちを覆うように、バイクの防壁が展開される。人質になっていた五日間でだいぶ慣れたけど、ふたりで閉じ込められると空間がかなり狭くなったように感じる。 前の人に抱きついたまま、私はじっとしていることしかできなかった。 何気なく動かした腕が、前の人の胸に触れてしまい、慌てて離す。見ていたからわかっていたけど、この人の胸はかなり大きい。ラバースーツに包まれているからか、その弾力が余計に強調されているようで、二の腕越しに伝わってきた柔らかさは相当なものだった。 (思わず揉みたくなるような……って、何、考えてるの!) 私に同性愛の趣向はなかったはずなのだけど。 不埒な考えを振り払うため、軽く首を横に振る。そんな私の顔に、例のマスクが近付いてきた。あの口や鼻や耳を塞ぎ、顔の前面を完全に覆うマスクだ。 『マスクを装着してください』 「う……どうしても、ですか?」 正直、五感の大半を奪うこのマスクは苦手だった。 『安全のためです』 「わかりましたよ……」 私は渋々そのマスクを手に取る。しばらく躊躇していたけど、意を決してそのマスクを顔に嵌めた。突起物を受け入れるように、口を開いて、鼻の穴に突起物がはまるようにする。 最初に嵌められた時と同じように、口の中の突起物が膨らみ、私の言葉を奪う。鼻の穴の突起も膨らみ、管を通してしか呼吸ができなくなる。耳にも突起は入り込んできて、何も聞こえなくなる。 目の前に映像が表示された。それはバイクの防壁内の映像で、黒い塊が蠢いているのがみえる。もちろんその黒い塊とは私たちのことだ。どちらも黒い人型の人形みたいで、個々を判別できる要素がまるでない。複数の管が飛び出しているマスクをふたりして身に付けていて、なんとも奇妙な光景である。 (んー……このうちひとりが自分だなんて、本当に変な気分……) 軽く腕を動かして見ると、映像の中の人型の片方も同じように腕を動かす。自分だとわかっていても奇妙な感じだった。 『それでは出発します』 目に見えてる映像の片隅に草原の映像が増えた。すごい勢いでその草原を移動しているのがわかる。 (すごい速度……けど、思ったより震動とか感じないなぁ) たまに映像が大きく上下に揺れる時があって、その時はさすがに揺れているのを感じるけど、順調に走っている時の震動はほとんど感じない。 全身に纏ったラバースーツもその震動をかき消すのに一役買ってるのかもしれないけど、それにしても静かだった。 国から外にでることがないと思っていたので、高速で移動する景色は中々見応えがある。けれど、ほどなくしてその映像がふっと消えてしまう。 『映像の見過ぎはあまり目に良くありませんので、映像は定期的に提供いたします』 目に良くないというのがいまいちよくわからなかったけど、異議を唱えようにも口が塞がれているので喋れない。私は仕方なく、何も見えない、聞こえない、嗅げない状態を我慢することにした。 じっとしていると、前の人の身体の感触だけがはっきり感じられるようになる。それ以外の感覚が封じられているせいもあってか、より敏感に前の人の動きを感じていた。 (心臓の鼓動を感じる……同じ人間、なのよね……) とくん、とくん、と、その人の鼓動をはっきり感じることができた。 奇妙な縁ではあるけども、こうして一緒に行動することになったのだから、仲良くやれればいいなと思う。 (まあ、そもそも話せる機会があるのかどうかもわからないけど……) 移動中は互いに拘束された状態にあるわけだし、国についたら彼女はその国の刑罰を受けなければならない。 私が新しい国に受け入れられるまで、ひょっとしたら一言も言葉を交わさないということも十分あり得た。 彼女の身体をしっかりと抱きしめながら、私は瞼を閉じた。私の知る隣国に向かっているとしても相当な距離がある。何も見えないし喋れないので、少し眠ることにした。 人質として過ごした五日間で、こうしてバイクに跨がったまま眠るのにもすっかり『慣らされて』いた。 (まるで私が『こうして一緒に行動するようになるのを見越して慣らしてた』みたいよね……まあ、そんなわけないけど) バイクはあくまで囚人の護送が仕事のはず。余計な同行者を増やすことを目的に行動するなんて有り得ない。 私は走行するバイクの振動音を子守歌に、ゆっくりと眠りについた。 果たして、私の行く先にはどんな国が待っているのだろうか。 ~流刑少女の監理員の受難 おわり~
Comments
コメントありがとうございます! 流刑少女シリーズは、続きを書きたいと思っている作品のひとつです。時間はかかるかと思いますが、続編も書きますので、その際はぜひ読んでやってください!
夜空さくら
2020-02-19 14:25:53 +0000 UTCとてもおもしろく読みました. 監理員が無念に囚人扱いされる後続編を必ず読みたいです! ありがとうございます。 translated by google
Gator
2020-02-18 15:53:16 +0000 UTC