目の前で、私の首輪から伸びている鎖が揺れる。
鎖はそれなりの長さがあったため、引っ張られるまでに余裕はあったけど、少しでも歩みが遅れればあっという間にテンションがかかって私の首を絞めるだろう。
その鎖が繋がった先、先生の乗る人力車が前に進むのに合わせて、私はヒトイヌ拘束をされた状態で必死に前に進んでいた。
四つん這いで動くこと自体が難しいのに、強制的に歩かされるのは余計に辛かった。
教室移動の際、クラスメイトのみんなと繋がれていた時も条件は同じだったはずだけど、あれでもみんなは私を気遣って歩くのを遅くしてくれていたようだ。
いまはみんなも体育の先生の指示に従うことしかできないためか、さっきより動くスピードが明らかに速い。
私は短く折りたたまれた手足を必死に動かして、それになんとかついていく。
「フゥッ、フゥッ、フゥッ……!」
鼻でする呼吸は苦しくて、口から空気を取り込みたいのに、喉の奥まで貫く口枷がそれを許してくれない。
喉を犯す張り子がただでさえ苦しいのに、呼吸が必要になってさらに苦しくなる。吐きそうになるけど、もしこんな状態で吐いてしまったらそれこそ喉が詰まって窒息してしまう。根性で堪えるしかなかった。
さらに、四つん這いでの移動は文字通りの全身運動で、ラバースーツに包まれた身体に熱を籠もらせてしまっていた。
全身が汗ばんで気持ち悪い上、額から垂れてくる大粒の汗も拭うこともできない。もしそれが眼に入ってしまえば、私は視界まで奪われることになる。
ついていくのだけで精一杯で、頭の中が真っ白になっていく。次第に考える余裕もなくなり、ただひたすら身体を動かすことだけしかできなかった。
「よーし、止まれー!」
先生の指示が聞こえて、目の前の人力車が止まる。
少し休める、と思って必死に鼻で呼吸をして息を整えていると、先生が振り返って私の様子をちらりと確認していた。
すぐに視線を前に戻してしまったけど、一応注意を払うつもりはあるみたいだった。
歩いているときは無我夢中だから、定期的に振り返ってくれているのかどうかはわからないけど。
ふと、私は学校の外、運動場に面した通りから見ている人が増えていることに気づいた。
立ち止まって私たちの方を見て、携帯電話を構えている人もいる。
彼らが浮かべている表情はどう好意的に解釈しても性的な関心が含まれたもので、私たちが人力車を牽いている・牽かれている様子を楽しんでいた。
そういう視線を向けられているということがとても恥ずかしく、逃げ出したくなるけど、もちろんそんな自由は私にはない。
「よし、行くぞ!」
先生の無情な号令に合わせて再び動き出す人力車に、ついていくしかない。
地獄の行軍はまだ始まったばかりだ。
人力車を牽いているクラスメイトたちの様子は、『一糸乱れぬ連携』という表現が的確だった。
そんなに団体行動が得意な子ばかりじゃなかったはずだけど、いまに関していえばそれを当たり前のように行っている。みんな合図もなく足を揃えて動かしていて、テレビとかで見る、外国の軍隊の行進みたいだった。
それでも、たまに足並みが乱れることがあって、そのたびに先生は一度みんなを止めた。
そして手に持った卓球のラケットのような道具で、足並みを乱した子のお尻を引っぱたいていた。とても痛そうな音が響いて、悲鳴がうめき声として聞こえてくる。
それは本来可愛そうだと思うべきことだったのかもしれないけど、引き摺り回されている私にとっては貴重な休憩時間だったので、ありがたくさえ感じていた。
「フゥ、フゥ、フゥ、フゥ……ッ」
全身から吹き出す汗がラバースーツの中に溜まっているのがわかる。特に肘と膝あたりの違和感はとてつもなく大きく、まるで水に漬けているかのようだ。こんなに汗を?いてしまって水分は大丈夫なのだろうかと不安になる。
顔まで汗だくなので、額や頬に張り付いた髪の毛が非情にうっとうしい。振り払おうにも、私には何の自由もないから、どうすることもできない。
また人力車が動き出す。それに慌ててついていきながら、私はあとどれくらいこれに耐えればいいのか、疑問に思っていた。
(授業時間は通常七十五分……もう半分はすぎた……?)
人力車は運動場のトラックを回っているだけで、ゴールらしきものがあるわけじゃない。体育の時間が終わることだけが、地獄の行進から解放される道だった。
私は苦しみから早く逃れたいばかりに、歩かされながら校舎の時計を見上げてしまった。あと何分耐えればいいのか、知りたかったから。
けれど、それは非情に愚かで、浅はかな思考でしかなかった。
(え……? うそ……でしょ……)
時計の針は確かに進んでいた。
けれど私の願いとは裏腹に、授業時間は半分もすぎていなかった。
それどころか、授業が始まってからまだ十五分しか経っていないということに、気づいてしまった。
地獄の行軍をあと一時間近くも続けなければならない。
実際には片付けとか次の準備とかでもう少し早く終わるのかもしれないけど、それでもいままでの倍以上の時間を歩き続けなければならない。
すでに体力も尽きかけて、ふらふらなのに、あと小一時間も。
(そんなの……むり……)
絶望して手足の動きが止まってしまった。
先を行く人力車がそれを斟酌してくれることはない。
鎖にテンションがかかって、強く首が締まった。
「グゥッ!!」
慌てて身体を動かし、なんとかついていこうとしたけど、首を絞められた苦しみと動揺は確実に混乱をもたらしていた。
動かさないように、と意識していたことを忘れ、足首から先を動かしてしまう。
いまの私の足首から先は、金属でできたフレームのようなもので拘束されており、足首から先を動かすと、フレームに仕込まれたスイッチが押されることになっている。
そのスイッチは私の肛門に挿し込まれたアナルパールに備わった機能のスイッチになっている。
その機能とは、アナルパールを形成する玉ひとつひとつが大きくなるというものだ。
挿し込まれる時の状態でさえ、五十センチ以上の長さだったというのに、その膨張機能によって、私の腸内はさらに暴力的な長さと太さのものによって蹂躙されることになる。
「――ンギィッ!!」
お腹がまた一段階膨らんだような気がした。身体の中が下から圧迫されるような感じがして、激しい辛さが襲いかかってくる。だけどその辛さから逃れる方法は無い。金属の貞操帯にしっかりホールドされたそれが抜けることは無いからだ。
私がいくら息んでも、それが排出されることはなく、苦しみが和らぐこともない。
一瞬目の前が真っ暗になるほどの苦しみ。
それを堪え、手足を動かす。そうしないと首が絞まってさらに苦しいことになるのはわかっていたからだ。
きっといまの私はすごい顔をしているのだろう。女の子が浮かべちゃいけないような、必死の形相をしているのだと思う。
それを恥ずかしく思う余裕もなく、私は両手手足を動かしてなんとか人力車についていこうとした。
けれど、そんなギリギリの綱渡りがそう長く続けられるはずもなく。
焦るあまり、前に出した肘に角度がつきすぎて、そのまま滑るようにして転んでしまう。
「アぐゥッ!!」
胸を地面に打ち付けて衝撃が走る。
胸はぴったり身体に沿って固定された金属のブラジャーで覆われているから、衝撃がダイレクトに走って来て息が詰まる。
さらに、ただでさえ内側から押し広げられて苦しいお腹が地面に押しつけられ、苦しみが倍増してしまった。
「ぐ、ぎゅッ!」
私が転んだことに気づいていないのか、人力車は無慈悲に前に進む。あっという間に鎖の遊びがなくなり、私は首輪を引っ張られて引き摺られ、息ができなくなった。
苦しみの波状攻撃。
ひとつひとつが的確に私を追い詰めていく。
(死ぬっ、死んじゃうっ!)
あまりの苦しみにパニックを起こし、自由に動かない身体を暴れさせてしまう。
それは結果として最悪の事態を引き起こした。
足首から先を何度も動かしてしまい、お腹の中のアナルパールをどんどん膨らませてしまったのだ。
ボコッ、と音がしていてもおかしくないほどに、私のお腹は膨らんだと思う。それを私が見ることはできなかったけど、妊婦もこうはならないレベルに膨らんでいただろう。
それが与えてくる苦しみ、辛さは目の前に星を瞬かせ、一瞬で意識を飛ばしてしまうほどの衝撃だった。
けれど、その苦しみの大きさゆえに気絶からすぐに叩き起こされ、また激しい苦しみに悶えることになる。
(も、もう、だめ……)
いよいよ意識が遠くなってきた。死の気配をすぐ近くに感じ、私は死を覚悟する。
でも、これでいいのかもしれない、と遠ざかる意識の中そう思った。
この改変されたおかしな世界で今後も生きていくことを思えば、いっそここで死んでしまった方が私としては楽かもしれないからだ。
何年もこんな異常な授業を受け続けるなんてそれこそ地獄だし、仮に学校を卒業できたとして、あの調子じゃきっと外での扱いも似たようなものなのだろう。
そんな中でまともな意識を持ち続けるなんて無理だ。
いつか解放されることを信じられるほど、私は楽観的ではいられなかった。
抵抗をあきらめ、脱力する。もう身体を暴れさせる元気も気力も残っていなかった。
すると、死に瀕した人間の生存本能なのだろうか。
全身を襲っている苦しみはそのままなのに、急にあそこが熱くなり、もどかしい快感が沸き上がり始めた。
呼吸できない苦しみも、全身を引き摺られる痛みも、お腹を突き破りそうな内側からの苦しみさえも、気持ちよく感じてしまう。
脳が誤作動を起こしてしまっているのかもしれない。
あるいは本格的に狂ってしまったのか。
(もう、どうでも、いい……)
私は千切れてしまいそうになる意識を感じ、身体を震わせながら、最期の絶頂に達しようとしていた。
そのとき。
「おおーい! イヌが倒れとるぞーっ!」
外から見ていた通行人が、先生に向けてそう叫んだ。
先生はその呼びかけで私が倒れていることに気づいたのか、慌てた声でみんなを停止させる。
首を締めていた力が緩み、血が頭部に通ってくるのがわかる。息ができるようになって、窒息死こそ免れたものの、膨らんでしまったアナルパールは戻らない。
「ングッ、ンアァッ!」
文字通り逝く寸前まで高められていた死の快感が、身体の中で暴れる。肩や腰が勝手に震え、手足が跳ね回った。
その刺激が最後の後押しになったのか、私はいままで経験したことのない絶頂を迎え、その意識は完全に闇に落ちていった。
気づいた時、私はベッドに寝かされていた。
起きたばかりでぼんやりとする思考のまま、身体の状態を確認する。
施されていたヒトイヌ拘束は外されたみたいで、普通に仰向けになれていた。お腹も引っ込んでいるところを見ると、あの凶悪なアナルパールも外してもらえたみたいだ。
開け放たれた窓から、さわやかな風が吹き込んで来ている。風の動きが、むき出しの頬に感じ取れた。
見るとはなしに、ぼーっと天井を見ていると、
「水下司さん、眼が覚めた?」
保険医の古山さんがそう声をかけてきた。私が視線をそちらに移すと、『いつもの』ぴっちりとしたミニスカのラバーナース服を着た古山さんがいた。
ピンク色の薄いラバーで出来たナース服は、その道を目指している子たちにとっては憧れの象徴だ。張りのある乳房の頂点をくっきり浮かし出しているそのラバーの薄さは、それだけ古山さんがラバーを着こなしている証拠だった。私ではきっと破いてしまうだろう。
「まったく、斉條先生も人が悪いんだから。拘束は次の授業のことも考えてしないといけないのに。そもそも、明確な校則違反を犯していない生徒に対してやりすぎよ。左藤先生もちゃんと拘束度合いを確認しないで授業に参加させるなんて……」
古山さんはそう言って怒ってくれている。
やっぱり、斉條先生はやりすぎだったらしい。
「ちゃんと学園長に報告を上げておいたから安心してね。ふたりには厳正に処罰がくだされると思うから」
「あり、がとう、ございます……」
お礼を言おうとして、声がかすれていることに驚いた。
古山さんが水を持ってきてくれる。コップ一杯の水が、とても美味しかった。
「ちょっと脈拍を計らせてね……うん。正常に戻ってる。顔色も悪くないし……もう大丈夫そうね」
「あ、あの、それじゃあ……」
私がそう求めると、心得ているとばかりにアームバインダーを持って来てくれた。
それを見た私は、ほっとする。
腕を自由に動かせるのが、なんとも落ち着かなかったのでありがたい。
古山さんにアームバインダーを被せてもらい、しっかり固定してもらう。そうなると、腕を動かそうとしても、アームバインダーに包まれている腕はびくともしなかった。
「全頭マスクも被せるわね。あーんして」
大人しく頭の大半を覆う全頭マスクを被る。内側にある突起が私の口、鼻、耳の穴を塞ぎ、視界以外のすべてが封じられた。
歩くことと見ること以外、すべての自由が封じられた状態。
それはとても――安心する状態だった。
全頭マスクに仕込まれたイヤホンから古山さんの声が聞こえてくる。
『もうとっくに授業は終わっているから、自由に動いても大丈夫よ。水下司さんは部活には入っていないから、寮に帰ってもいいし』
頷いてベッドから降りようとすると、古山さんが私の足にブーツを履かせてくれた。ブーツはつま先立ちを強制する踵の高いもので、やはりこの状態がとても落ち着く。
立ち上がった私は、古山さんにお礼の意味を込めて頭を下げ、保健室の扉を潜った。
(どうしようかな……ん?)
これからどうしようかと思っていると、保健室の扉の脇に美夜が立っていた。
美夜は私が保健室から出てきたことに気づくと、心配そうな目をして近づいてくる。
(あ、そうか……心配かけちゃったのね)
体調管理や躾の行き届いている寮生が、保健室に担ぎ込まれることはそうそうない。
それなのに、私が保健室に担ぎ込まれたものだから、美夜はとても心配したはずだ。
私は大丈夫だという意味を込めて、美夜に近づくとその口に自分の口を合わせた。
途端に身体の中で蠢きだした棒が、私たちの深いところを刺激して、じんわりとその場所に快感を生み出し始めた。私も美夜も腕は拘束されているから、相手の身体を弄ってあげることはできない。
まあ、自由だったとしても金属のブラと貞操帯がそれを許してはくれないのだけど。
私は美夜を壁際に追い詰め、口を合わせたまま、美夜の足の間に自分の片足を割り込ませる。そして太ももで美夜の股間を突き上げるように押し上げた。
もちろん貞操帯に阻まれて直接刺激を与えられるわけではないのだけど、貞操帯自体を押し上げれば、中に埋め込まれている部分にも動きが伝わる。
それ自体はとても微弱な動きではあるのだけど、全身を拘束されて刺激に乏しい私たちにとっては「互いに与える刺激」としては十分なものだ。
「ンンッ、ンゥ~ッ」
美夜は可愛らしく肩を震わせ、私の与える刺激に浸っていた。美夜の身体が熱を帯び、感じているのがラバースーツ越しにも伝わってくる。
私は美夜が絶頂する寸前で足を引き、口も離した。おあずけを喰らった形になる美夜は不満そうに見つめてくる。
私は内心いじわるな気持ちになりながらも、視線と仕草で「寮に戻ろう」ということを伝えた。
放課後である以上、寮生である私たちは学校外に出る以外ならどこで何をしてようが自由なのだけど、廊下で弄り合うのは疲れる。どうせならちゃんと落ち着けるところで美夜といちゃつきたい。
美夜もそのこと自体は賛同してくれているみたいだったけど、同時におあずけされたのは不満だったようで、歩き出そうとしたら肩口に軽い頭突きをしてきた。全然痛くは無い。
(ごめんごめん)
さらに頭突きしてこようとする美夜をかわしつつ、私はそういう意思を込めて美夜の眼を見る。美夜は「ムーッ」と不満そうな声で唸りつつも、頭突きをするのはやめてくれた。
ふたりで並んで校舎の入り口に向かう。
校舎の入り口には、行き先ごとにコンベアーがあり、通常はそこで箱に詰めてもらって運ばれることになる。
けれど、今日はふたりいるということで、ふたりでしか使えない特別なルートを通ることにした。
広いエントランスの端、細長いロッカーのような箱がいくつか置かれている。その前に置かれたタッチパネルを操作して、そのうちのひとつを開いた。
ロッカーの中は何も入ってなくてがらんどうだった。美夜に視線で合図すると、まず美夜がそのロッカーの中に入っていく。ロッカーの中は狭く、美夜が入った段階でほとんど空きスペースはない。
そこに、私は無理矢理身体を押し込んだ。美夜と絡み合うようにして密着しながら、身体をロッカー内のスペースに納める。お互いの体温がハッキリ感じられた。
無事身体を押し込めることに成功すると、それを検知したロッカーの扉が自動的に閉まる。
扉には内側に若干厚めのクッションが仕込まれていて、それに押し込まれるようにして私たちはさらにぎゅうぎゅう詰めにされてしまう。
ロッカーの中には小さな灯りが灯っているとはいえ、美夜の輪郭くらいしかわからない。 私は目の前の美夜の顔に口を寄せ、美夜も同じように口を合わせてくれた。
ぎゅうぎゅうで動けない私たちの体内で、バイブ機能が動き出す。互いに呼吸が荒くなり、それがまた興奮を高めるいいスパイスになってくれた。
そうこうしているうちに、ロッカー自体が動き出す。このロッカー自体が移動手段になっているのだ。
二人以上でなければ使えないけど、仲のいい友達がいれば退屈な移動時間の暇を潰せるということで、人気の移動手段だった。
美夜と楽しみながら移動すること数分。
徐々にロッカー内の空気が薄くなって来て、頭がぼーっとし始めた頃、目的地に到着した。
扉が開いたので、名残惜しいけど外に出る。ロッカー内に籠もったむわっとした熱気が、涼しい外気に霧散していった。
蒸れたラバースーツが冷えていく。
そういえば、体育の授業の際にラバースーツ内に大量の汗をかいたはずだけど、保健室で目覚めた時には特に不快な感じはしなかった。
もしかすると、気を失っている間に一度ラバースーツを脱がされていたのかもしれない。
医療行為であることはわかっていても、無防備な裸を見られたと思うと少し恥ずかしい。
ここに入寮してから、自分でも自分の裸を見たことは数えるほどしかないから、余計にそう思った。
「ムーウ?」
考え込んでいる間にロッカーから出てきた美夜が、不思議そうに私の肩を頭で小突く。
私は考えるのをやめ、美夜に向かって「なんでもない」と首を横に振った。
ふたり連れだって『談話室』に向かう。談話室は、私たち寮生が自由に喋れる数少ない場所だった。
部屋に入る前に、管理人さんにマスクを外してもらい、中に入る。談話室は広いカフェのような雰囲気だった。すでに利用している他の子たちも、賑やかに話している。
私が空いていたソファに座ると、美夜は隣に座ればいいのに、私の膝の上に乗ってきた。
「ちょっと美夜……重いんだけど」
背もたれに身体を預ける。アームバインダーはそのままだけど、当然それを見越して設計されているこのカフェのソファは、腕が入る分の溝があり、身体を背もたれに預けても腕が強く圧迫されることはない。
美夜は楽しそうに笑みを浮かべつつ、身体の前面をほとんど密着させるようにして、私の動きを封じていた。
「心配させた罰だよっ。晃ちゃんが倒れたって聞いてびっくりしたんだからね」
言いつつ、美夜が私の口に自分の口を合わせる。私はそれを受け入れつつ、応えた。
「心配かけたのは……んっ、悪かった……わよ……むぁ……」
「んぅ……寝不足だったの? はむ……変な夢を見た、とか?」
「そんな、んぅ、ことはなかった、んっ、だけど……」
舌と舌を絡めるディープキスをしながら喋るものだから、喋りにくい。
美夜に問われると、改めてどうして自分が倒れてしまったのかわからなくなる。直接的な原因は斉條先生と左藤先生のせいなんだけど、間接的にいえばそうされてしまう原因になった集中力の欠如だ。
いま思い返してみると、今日はどうしてあんなに当たり前のことに集中できなかったのかがわからない。
箱詰めにされて運ばれるのなんて毎日のことだし、教室移動の並び順も変更があったわけじゃないし、罰則で拘束されている生徒を見るのだって――いつものことなのに。
自分でいうのも何だけど、私は真面目な方でそういうことで怒られたことはいままで一度もなかった。
「なんで、かな……?」
いま考えても、どうしてそんなに気もそぞろになっていたのかわからない。
まるで、起きながら変な夢でも見ていたかのような。
美夜はしばらくディープキスを続けた後、疲れたように私の肩口に顎を乗せてきた。
甘えるように摺り寄せてくる美夜の頭を見ながら、私は気になっていたことを聴く。
「そういえば、違うクラスなのによく私が倒れたってわかったわね?」
「終わりのホームルームでうちの担任の先生が教えてくれたの。体育の授業中、保健室に運ばれた生徒がいるって。晃ちゃんの担任の先生にはきびしー罰があるらしいよ」
「……そうなんだ」
処罰はあると聞いていたけど、この学校の教師が厳しいと強調するくらいだから相当きついんだろう。
ざまあみろ、とちょっと思ってしまった。
その後、美夜とじゃれ合いながら話をしていたら、夕食の時間になった。
いつも通り食堂に行ってご飯を食べ、そのあとはトイレに寄ってから自室に戻る。
しばらく部屋で待機していると、管理人さんがやってきてアームバインダーを外してくれた。
「それじゃあ、勉強頑張って。時間までには済ませて、寝るようにね」
「ンム」
口枷はそのままなので頷くことで管理人さんに応える。
管理人さんはアームバインダーを部屋の壁にかけると、すぐに部屋を出ていった。扉が閉められ、外から鍵がかけられる。勉強に集中するようにという配慮だった。
(一昔前の囚人みたい……って入寮当時は思ったわね)
いまでは勉強中邪魔が入ることもなく、気が散ることもない良い仕組みだと思っている。入学前よりよっぽど成績もあがったし。
それまではどうしていたのか、思い出せないくらいだ。
授業中に出されている宿題は机の上の端末に送信されていて、出された宿題を間違えるということもない。
ノートに書いて今日勉強した内容を覚えながら、宿題を済ませる。
いつもならばそう時間のかかるものではないのだけど、今日は日中の集中不足のせいか、授業で教えてもらったはずのところがわからず、何度も教科書を見直さなければならなかった。
四苦八苦しながら、なんとか宿題を終わらせる。
(ふぅ、やっと終わった)
本来宿題が終わったあとはしばらく自由時間で、好きな本を読んだりゲームをしたりできるのだけど、今日はそこまで時間の余裕もなく、ギリギリだった。
(ちょっと早いけど、もうこのまま寝ちゃおう……)
スプリングの強いベッドの上に寝転がり、仰向けになって呼吸を整える。
そして、ベッド脇にある『就寝』ボタンを押すと、部屋がすっと暗くなり、甘い香りがどこからともなく漂い出した。
それをゆっくり吸い込んでいると、急激に眠気が襲って来て、穏やかに眠りにつくことが出来たのだった。
水下司晃が眠りについて数分後。
彼女の部屋の扉が外から開かれ、ガスマスクを身につけた女性が部屋に入ってきた。
『拘束』の授業の際、晃に拘束具を取りつけるのを手伝った者と同じような筋肉質な身体をした女性で、ベッドで寝ている晃を軽々抱き上げて部屋の外に出て行く。
本来の晃は、寝ている際に身体に触れられれば起きる程度には普通の感覚をしている人間だったが、いまは抱き上げられても目を覚まさなかった。
無論、薬で睡眠状態にあるためである。
運ばれた先は、大浴場と呼ばれている場所だった。本来なら服を脱ぐ脱衣所に用意された簡易ベッドの上に晃を寝かせると、作業員は次々装飾品を外していく。
口枷、ブーツ、首輪、金属のブラに貞操帯。
貞操帯は内側に相当太い棒が突き出していて、晃の体内を埋め尽くしていた。
それを抜き取られる際には、さすがに晃の身体はびくんと震えたが、起きる気配はない。
ぽっかり空いた穴は、その太さの棒に慣らされていることがわかる。
そして、ついにラバースーツが脱がされていく。さなぎから脱皮する蝶のように、真っ白な晃の素肌がラバースーツから解き放たれた。
ラバースーツの内側には肌の状態を整える潤滑油が塗られており、彼女たちは入寮してから卒業までの間にシミ一つ無い完璧な身体を手に入れることができるのだ。
ラバースーツから手足の先までが解き放たれ、晃は全裸となる。晃の身体は若々しい張りと艶にあふれた肢体で、作業員の女性が思わず羨むように息を吐いたほどだった。
全裸になった晃を改めて抱え上げ、作業員の女性は風呂場へと向かう。中は一般的な大浴場に見られる大きな浴槽はひとつしかなく、代わりにいくつも細かく区切られた浴槽が準備されていた。
浴槽ひとつひとつに、ひとりずつ入浴させられるようになっているのだ。
その浴槽に浸からせる前に、作業員の女は晃を抱えたまま、一般的な大浴場に見られるような数名が一度に浸かれる浴槽へと歩いて、その中に入っていった。
そうすることで抱えられたままの晃もそのお湯に浸かり、大まかな汚れを洗い落とせるようになっているのだ。これは晃が眠っている状態であるために、シャワーなどで頭から水をかけるのが危険だからだ。
その浴槽はお湯の循環が頻繁に行われるように作られており、汚れをざっと洗い流すための浴槽だった。
次に、並べられた一人用の浴槽に晃を浸からせる。浴槽の縁には首を固定するための窪みがあり、例えるなら美容院などで頭を洗ってもらう時の体勢に近い。
ちゃんと首が固定され、無理な力がかかっていないことを確認した作業員の女性は、柔らかなスポンジを手に取って、晃の身体を隅々まで磨いていく。
胸や手や足の指の隙間、普通は人に触らせないであろう股間のヒダや肛門の皺に至るまで、作業員の女性は真剣に晃の身体を徹底的に磨く。
水がかからないよう、顔にタオルを被せた上で、頭もシャワーで洗われた。晃の背中の中程まで届く髪は丁寧に洗われ、しっかり水気を払われる。
さらに、その徹底的な清掃は、口の中にまで及んだ。作業員はまるで歯医者か何かで使うような器具を駆使し、口内の歯垢という歯垢を除去。無論、水分を吸い取る器具を併用し、晃が窒息しないように配慮されていた。
内も外もぴかぴかに洗われた晃の身体を再び抱え上げ、作業員の女性は次の行程に移行する。その頃には他の寮生も眠りについたのか、別の作業員に抱えられて晃と同じような流れで入浴させられていた。
裸の女子生徒たちを、ラバースーツを身に纏い、仮面を被った作業員たちが黙々と洗っている様は不気味ではあったが、この場にそれを気にする者はいない。
一足先に晃を抱えて脱衣所に戻ってきた作業員は、晃を先進的な機能が満載されたマッサージチェアに座らせる。作業員がタッチパネルを操作すると、その椅子が動き出して、座らされた晃の身体の至る所をもみほぐすように動き始めた。
そうして全体のもみほぐしは椅子に任せつつ、作業員は晃の手足の先、爪の手入れを始めた。一本一本丁寧に、伸びた分の爪をやすりで削っていく。磨き上げられた彼女たちの爪は、普段隠されているのがもったいないほどに綺麗で美しく仕上げられていた。
すべての爪の手入れが終わると、今度は髪。丁寧に水分を拭き取り、櫛で梳き、艶やかな黒髪がさらに映えるように整えられた。
それが終わる頃、ちょうど全身のもみほぐしも終わったのか、マッサージチェアから抱き上げられて移動。簡易ベッドの上に再び寝かされた晃は、さらに磨かれていく。
手足や背中に無駄毛が生えていないかを確認し、脇毛やあそこの毛も綺麗に剃ってしまう。さらに丁寧に全身にオイルが塗り込まれ、昔の貴婦人もかくやとばかりに全身がぴかぴかに磨き上げられた。
そんな彼女の身体を、再びラバースーツが覆っていく。無論、先ほど脱がされたものとは別の、メンテナンスを施された綺麗なラバースーツだ。
オイルが潤滑油代わりになっているのか、本人の意識がない状態でも、丁寧にラバースーツが着せられた。首輪が締められ、脱げなくなる。
続いて全頭マスクが被せられ、晃の聴覚や声を封じてしまう。
足を開かされ、無防備にさらされた二つの穴に、潤滑油が垂らされる。作業員が指で丁寧にその場所に塗り込んだ後に、突起物のある金属の貞操帯が履かされた。尿道を貫くカテーテルがあるため、排泄にも問題はない。
最後に金属製のブラをつけるのだが、ここで作業員は一端動きを止めた。すべての器具は晃の身体に合わせて作られており、一部の隙もないように作られている。だが、それを差し引いても、装着するブラが窮屈に感じたのだ。
着ている本人たちも知らないが、ラバースーツの胸の部分は実は多少薄く、柔らかく出来ており、乳房の成長を阻害しないようになっている。
だが、金属のブラはその身体にフィットする構造上、サイズの合っていないものを身につけていると成長を阻害するとされていた。
晃の乳房が成長していると感じた作業員は金属のブラを装着せず、しばしその場を離れた。ほどなくして戻ってきた作業員の手には、新しい金属のブラがあった。
それを改めて晃の胸に装着する。こちらのサイズは多少余裕があり、しっかりと胸をホールドし、触れることを妨げつつも、成長する余地を残していた。
満足そうに頷いた作業員は、再び晃を抱え上げ、彼女の部屋へと運ぶ。
晃をベッドに寝かせると、まっすぐ身体を伸ばし、両手を身体に沿わせた「気をつけ」の姿勢を取らせる。
それから晃の首輪に触れると、晃の身体はまるで凍りついたかのように、ぴくりとも動かなくなった。
ラバースーツが硬化し、全身が硬直したのである。
それよって彼女は朝まで指先ひとつ動かせない状態で、拘束されたままになるのだ。
作業員の彼女は最後にぶ厚いタオルのようなものを晃の目にアイマスク代わりにかけ、すべての作業を終えて部屋から出て行った。
完全に拘束され、管理されている彼女たち寮生の一日はこうして終わるのだ。
そしてまた――改変された世界の朝がくる。
「改変された世界の片隅で」 ~寮生・水下司晃編~ おわり
夜空さくら
2018-11-05 13:47:22 +0000 UTC夜空さくら
2018-11-05 13:46:09 +0000 UTCken
2018-11-02 21:14:46 +0000 UTC劣悪
2018-11-02 14:53:00 +0000 UTC