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夜空さくら
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改変された世界の片隅で ~メイド・犬山チトセ編~ 序章


 目を覚ますと、目の前は透明な壁に覆われていました。

 透明な壁は私の眼球の曲線に合わせて歪曲しているため、若干外の景色が歪んで見えています。

 目の前には綺麗に磨かれ、清掃されている廊下があります。

 私と反対側の壁には、絵が掛けられていて、メイド服を着た使用人の肖像画が掛けられていました。高名な画家に描いていただいたとかで、独特な味がありながらも描かれたモデルの判別がつくほどに精巧な絵です。

 世界で一枚しかない絵を用意してもらえているのですから、非常に光栄なことです。


 絵に描かれたメイド――つまりは私なのですが。


 目が覚めてすぐに視界に入る場所にその絵が置かれている理由は、使用人としての自分を見つめ直すためだとか、自分の立場を自覚させるためだと言われています。

 けれど、本当はそうではなく、ただ純粋に――選びやすくするためなのでしょう。

 私は眼球だけを動かして少し視線をずらしてみました。斜め四十五度の方向には、別のメイドの絵が飾られています。私と同時期にこの館に雇われたメイドで、名前も知りません。一日のうち、割と長い割合で、ずっと隣にいるわけですが、いまのところ彼女と話をしたことはありません。

 それに、彼女はご主人様の好みではないのか、『解放』されているところを見たことがないのです。

 好みでないならなぜ雇ったのか疑問ですが、ご主人様にも色々としがらみがあるのかもしれません。上流階級の方々の考えや風習はよくわからないことが多いのです。

 私は益体もないことを考えるのをやめ、せっかく目覚めの時間よりも早く目が覚めたので、いましか出来ないことをしておくことにしました。

 私は現在、両足を揃え、背筋を伸ばした状態で、両手を身体の前で重ねる、というメイドの基本的な待機姿勢でいました。本来なら立ったまま寝る、などといったことは出来ませんが、それを可能とする理由があります。


 透明な材質で出来た人型の中に、私は閉じ込められているのです。


 その人型の材質の詳細はわかりませんが、アクリル板やガラスのように透明で、とても頑丈です。私の身体の形に合わせて、寸分違わぬように設計されていて、中に閉じ込めている者を――つまりは私を、一分の隙もなく覆っています。

 一部を除いて隙間は全くなく、足の指先すら動かせないように、身体に合わせて作られていました。身体に合わせて作られているため、当然ながら全裸なのですが、寒いと感じたことはありませんでした。屋敷の中は常に空調が利いていますし、謎の材質で全身覆われていますからね。なお、呼吸に関しては鼻の部分に穴が空いており、問題なくできます。

 その密着度合いが、例え全身を脱力しても動かせない要因になっており、私は立ったまま寝ていられたというわけです。逆にどれほど力を入れても動けないので、ここに入れられた時点で内側からの脱出は不可能です。


 私を含むこの屋敷の使用人たちは皆、夜間はこうして全裸で透明な人型に閉じ込められて過ごすのです。


 この館に勤めることになった当初は、この就寝姿勢がかなり辛くて、満足に眠ることも出来ず、ふらふらの状態で日々の仕事をしなければならなかったものでした。

 いまではご主人様に多少の『いたずら』をされても眠り続けられる程度には、この寝方にも慣れてしまいました。

 人間の適応能力とは恐ろしいものです。

 さて、身体にフィットした透明な人型に押し込められているという状態なわけですが、この状態でも私に出来ることがいくつかあります。

 まず、見ること。

 眼球に当たる部分は完全にフィットしているわけではなく、ほんの数センチ遊びがあります。これによって、瞬きは妨げられておらず、私はある程度の視野角の確保と、透明な壁を通した周囲の状況を把握することが出来ます。滅多にしないことではありますが、瞬きの回数や速度を用いれば簡単な意思の疎通も可能です。

 そしてもう一つ。

 私は両手を身体の前で重ねています。私を覆う透明な人型は、私の身体の一番外側の線にそって作られているため、重ねている上の手の自由は利かずとも、下になっている方の手は多少自由が利きます。


 私はそれを利用して――指先が触れている秘所を弄り始めました。


 他の身体の自由が全く利かない中、そこだけが自由に動き、自分で自分を慰めることができるのです。

 これはご主人様のご厚意でした。

 本来なら、弄れないように貞操帯を履かされるのですが、私は模範的な就労態度を貫いてきたので、自慰を行う自由が許されているのです。

 触れ初めてすぐ、私のそこは指先に感じるほどに熱く濡れて来ました。我ながらはしたないとは思うのですが、こうして透明な人型に閉じ込められ、ことごとく自由を剥奪されているという事実が私を昂ぶらせるのです。

 もしかすると、この空間に満ちている甘い空気に何らかの成分が含まれているのかもしれませんが、いずれにせよ気持ちよくなってしまうのが事実です。

「ん……っ、んんっ……」

 じんわりと高まりつつある快感に思わず声が零れます。

 とはいえ、口を開けられるわけではない上に私の身体で外気に触れているのは鼻の穴に当たる部分だけなので、声はほとんど外に漏れていないでしょう。

 私と同じように待機させられているメイドたちも、耳は塞がっているはずですので、私の喘ぎ声を聞ける者は限られています。

 そのため、存分に自分を慰めることに精を出すことができました。朝っぱらから自慰するのはどうかと思われるかもしれませんが、私が自由に自慰ができるのはここに入っている間だけなので、割と切実です。

 動かせない身体が徐々に火照り出します。こうなると外気が快適に保たれていても人型の内部が熱くなって、汗ばむようになりました。

 目の部分はちゃんと曇り止めがなされていて、視界が曇ることはありませんでしたが、内側から沸き上がる快感に視界が滲みます。

 指先は自由とはいえ、逆に言えば指先しか動かせないので、弄れる範囲にも限度があります。そのもどかしさがまたいいのですが、なかなか絶頂まで達することが出来ません。

 透明な人型の中で身体を揺すり、少しでも刺激を増やそうと浅ましくも努力を続けます。 いよいよ性的な高まりが絶頂にまで達しようとかとした、そのとき。


――ピ、ピピピピピ――


 耳の奥で甲高いアラームの音がし始めました。

 起床時間になったようです。この人型の中に入れられる前に、耳栓兼イヤホンを耳に入れられており、それから音がしているのです。

 私は慌てて秘部を弄っていた指を抜き、両手を合わせて待機状態に戻ります。指先が愛液で濡れているのを感じましたが、気にしてはいられません。

 呼吸を整えながらしばらく待っていると、目の前の廊下をご主人様が歩いて来ました。背後にはご主人様お気に入りのメイド長を連れています。

 メイド長はご主人様と同年代の方で、同じ学校に通っている間に親交を深められ、卒業後屋敷で雇ったのだとか。ご主人様とはとても仲睦まじく、少々妬けてしまうほどには仲がよろしいようです。

 そんなメイド長ですが、着ているメイド服は私たちが普段着ているものと同じでした。裾の長いロングスカートに、フリルのついたエプロン。メイド服の象徴とも言える、ヘッドドレス。

 エプロンは布製ですが、メイド服はラバー製であり、身体の首から下を余すこと無く覆っています。私も毎日着ているからわかるのですが、ひとりひとりの体型に合わせて、ぴっちり密着するようになっており、胸の膨らみから手足の弛みまでを理想的なフォルムになるようにきっちり整えてくれています。

 メイド服とは別にインナースーツがあり、それらが手足の先まで覆っているので、素肌が露出しているところはほとんどありません。ブーツは編み上げのものですが、膝の下まで届くもので、きっちり縛り上げているがゆえに履くのにも脱ぐのにも多大な時間を必要とします。

 そして――革製の首輪。ご主人様の所有物である証が首に巻き付いています。

 メイド長には特別にその首輪にネームプレートのようなものがかけられており、そこにはご主人様自らの手で「藍子」と書かれていました。それはご主人様からの寵愛の証であり、少し羨ましく思ってしまいます。

 ご主人様とメイド長が私の前を通り過ぎて行きます。私はそれを目で追えるところまで追いました。それからほどなくして、再び耳に入れたイヤホンから音がしました。

『あー、みんな、おはよう。いまから今日のメンバーを選ぶからよろしく』

『選ばれた者は今日一日誠心誠意お仕えするように』

『今日は誰にしようかな……藍子は誰がいい?』

『……緑郎様。ご自身でお決めください』

 ご主人様の質問を、ばっさり切り捨てるメイド長。寵愛されているからこその名前呼びと言動ですが、聞いていて冷や冷やしてしまいます。ご主人様は「藍子はいつも通りクールだなぁ」といって気にしていらっしゃらないようですが。

『そうだね……安定の一番・五番はいつも通り選ぶとして……ん? なんか数値がいつもと違うのがいるね?』

 私たちを閉じ込めているこの透明な人型は、ただ私たちを閉じ込めているだけではなく、非常にハイテクな代物なのです。内側に閉じ込めた人間のバイタルチェックが出来るとかで、何らかの不具合や体調不良などを感知することができるのだとか。

 それを見てご主人様は何か気づいたようです。

『藍子。どういうことだろ、これ?』

 ご主人様は何か不具合か体調不良などを心配してくださっているようです。

『……これは、どうやら朝っぱらから自慰をしていたようですね』

 メイド長がそう呆れ気味に指摘する声が聞こえ、私は心臓が跳ね上がるのを感じました。

 私のことです。

『おー、なるほどねぇ。……七番か』

(ああああ! みんなに聞こえるところで言わないでくださーいっ!)

 私に聞こえているということは、当然他の皆にも聞こえているということです。禁止されているわけではないのですが、夜中にこっそり間食をしているのを見つかったのと同じくらいには恥ずかしいことでした。

『うん。じゃあ元気そうだし、彼女にも出てもらおうか。あとは適当に……』

 ご主人様はそう意地悪くおっしゃっいつつも、私を選んでくださったようです。

 私を包んでいる透明な人型が前後に開き、封入されていた私の身体が解放されます。長く脱力していた関係で、解放されてすぐは、まず身体の動かし方を思い出す必要がありました。今日はあらかじめ自慰をしていて、ある程度身体の感覚を思い出していたこともあり、転ぶことなく、人型から出ることが出来ました。

 裸の身体に直接外気があたり、少しひやっとして身体が震えます。

 それでもそれを表に出さないようにしつつ、私はご主人様とメイド長の近くに歩いて行きました。すでに解放されていた他のメイドたちが並んでいる列に私も並び、待機の基本姿勢で待ちます。

 他に解放される人たちを待つ間に、軽く周囲を見渡します。

 長い廊下、高い天井、格式ある造りの建物。

 並べられた透明の人型に、その正面の壁にかけられたメイドたちの肖像画。


 『封入回廊』とご主人様が呼ぶこの廊下は、私たちメイドたちの寝室でもありました。


 今日働くメイドたちが並び揃った後にも、まだ透明の人型の中に残っているメイドたちはいます。

 この館で働いているメイドたちは、確か全部で十五人いるのですが、そのうちこの人型の外に出て働くのは五人だけです。

 残り十人はこの『封入回廊』を彩る調度品として居続けることになります。

 外で働くメイドも、そうやって飾られるメイドも立場は同じ。

 この館では同じ仕事仲間です。

 ですが、ご主人様に選ばれ、外で働けることの方が楽しいこともまた事実。

 ゆえに私たち選ばれたメイドたちは、優しい目で見つめてくださっているご主人様に向け、一斉に跪き、両手を揃えて頭を下げ、お礼の言葉を口にします。

「選んでくださり、ありがとうございます。なんなりとご命令を、ご主人様」

 五人のメイドたちが生まれたままの姿で、床に這い蹲って挨拶をする。

 それがこの館での朝礼のようなものでした。


 こうして真西院緑郎様に仕える私――メイド・犬川チトセの一日は始まります。



第一章につづく(次回より支援者限定公開となります)


Comments

kenさん、コメントありがとうございます!^w^ メイド編といいつつ、序章ではほとんどメイド服が出てきませんが、このあとはずっとメイド編らしくなりますーwーフフフ……

夜空さくら

サイクロンアクセルさん、コメントありがとうございます!^w^ 新しいキャラのお話ですが、楽しんでいただけると嬉しいですーwーペコリ

夜空さくら

序章、読まさせて頂きました。 序章からまた楽しめる展開ですね💕

ken

新章だ!ありがとうございます!

サイクロンアクセル


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