改変された世界の片隅で ~メイド・犬川チトセ編~ 第六章
Added 2018-11-26 14:45:04 +0000 UTC屋敷では土足でほとんどの場所に立ち入ることの出来る、土足文化を採用しています。
そのため、外に出る時でも私は朝履いたブーツを脱ぐことなく、そのまま外に出ることになります。
一昔前までは浸透し辛かったこの土足文化ですが、最近の日本では一気に広まっているようです。
それはいうまでもなく、私のように家で働くメイドのためです。ご主人様の中にはメイドはホワイトプリムと首輪以外一切身に付けさせない主義の方もおられるようですが、大抵のご主人様は、メイドにメイド服の着用義務を課しています。
そのため、メイド服に一番似合うブーツを常に身に付けさせておくために、土足で行動可能な建築様式が流行っているらしいのです。
特に、うちのご主人様のように自分一人では決して脱げないようにする拘束の趣味も合わさると、一般の日本の家屋のように逐一脱いだり履いたりするのは手間がかかります。
メイドの行動を楽にするための処置ですので、私たちメイドにとってもありがたい話でした。
「それでは、行って参ります」
絶頂抑制剤が良く利いているのか、午前中慢性的に発生していた快感も緩く、ほどよく快適な状態で、私は屋敷を出ました。
エプロンのポケットにはご主人様から預けられている買い物メモと財布が収まっています。それ以外は特に持つ必要がありませんので、歩いて近所の商店街へと向かいます。
ご主人様の立場であれば、食材やその他生活に必要なものを直接屋敷配送してもらうことも可能なはずですが、主義なのか趣味なのか、メイドが買い出しに出ることになっていました。
それほど歩くという距離でもなく、昼過ぎの喧噪賑やかな商店街にたどり着きました。
昔からこの商店街に住んで店を営んでいらっしゃるおじさんやおばさんが、しきりに道行く人に呼び込みをかけています。
「おっ、メイドさん! 今日はいい魚が入ってるよ! 寄ってってくんな!」
魚屋の方が声をかけてきてくださいました。にっこりと笑って見せてくれる白い歯が健康的で眩しいです。Tシャツの袖を肩までまくり上げ、たくましい上腕二頭筋をむき出しにした格好といい、見ていてこちらも元気をいただいてしまいます。
首から下の身体を全てラバーで覆われた私とは実に対照的です。
「ありがとうございます。他にも用事がありますので、あとで寄りますね」
私はそう応えつつ、まずは野菜から買って揃えていくことにしました。
昔ながらの商店街の景色の中を、ラバーメイド服に身を包んだ私が歩きます。
それは、とても――自然な光景でした。
賑やかな商店街を、ラバーメイド服に包まれた身体で歩きます。
普通のメイド服ならまだしも、ラバーで出来たメイド服はそれなりに珍しいらしく、通行人の方々の視線が、自分に集まっているのを感じました。
学生時代から、良くもなく悪くもなく普通だった私には、これほど人に注目された経験はなく、少し恥ずかしく感じて顔が赤くなっていました。
(買い出しも普段は他のメイドがやっていますからね……)
館の外に出るということ自体久しぶりで、高揚感と羞恥心が新鮮に感じられました。絶頂抑制剤の効果がなければ、感じてしまっていたかもしれません。
街中を吹き抜ける風が身体を撫でていきます。ラバーに覆われた身体でそれを感じられるのは顔だけでしたが。
極普通の格好をした人たちの間に混じると、黒光りするラバーメイド服は目立ちます。
手早く買い出しを済ませてしまおうと、ご主人様に預けられた買い物メモを見ながら、いくつかのお店を回りました。
買い物袋に入れた野菜を手に提げ、商店街を歩いていますと、ふと、懐かしい声が耳朶を打ちました。
「チトセ……? チトセじゃないか!」
私が声がした方を振り返ると、そこには懐かしい笑顔が。
OLらしいビジネススーツのようなものに身を包んだ勝ち気そうな彼女は、知己の者でした。
声をかけてきたのが誰なのかがわかって、思わず目を見開いて驚いてしまいました。
「まゆこ……? まゆこですか!」
「ああ! なんとも奇遇だねぇ、こんなところで会うなんて!」
まゆこ――私の親友の、加納路まゆこは学生時代となんら変わりない笑顔と、豪快な態度で私の背中を叩いてきました。
ラバーとラバーが触れあう独特の音が響きます。
「まゆこも、この近くのご主人様に仕えていたんですか?」
「いや、あたしはね――」
そう言ってまゆこは現状を説明してくれました。
彼女は、現在とある企業の社長を主人として働いているそうです。外回りを主に担当していて、契約の確認や調印を主に行っているのだとか。
この街にはその関係で偶然立ち寄ったらしいです。
「まゆこにはぴったりのご主人様ですね。その格好も似合っていますよ」
「何言ってんの。チトセのメイド服の方がよっぽど似合ってるよ。ちょっと変わってるけど……まあ、あたしも似たようなもんだね」
そういってまゆこは私を褒めてくれましたが、まゆこのOLスタイルの方が遙かに様になっていると、私は思います。
動きやすいように後ろでひとつに縛られたポニーテールは快活な彼女によく似合っていますし、そんな彼女の細い首を覆う無骨な金属の首輪もギャップがあってとてもいいです。
着ているビジネススーツのように見える服は、材質が上質なラバーで出来ていることが一目でわかりますし、その上からアクセントとして彼女の腰を細く引き絞っているコルセットが、彼女の美しいスタイルを際立たせています。
袖口から覗く手も薄いラバースーツに覆われていて、生身とは全く違う色気を醸し出していました。
タイトスカートから伸びるまゆこの長く細い足も、ラバーで覆われていますので、恐らくですが私たちと同じようにインナーとして全身一体型のラバースーツを身に付けているのでしょう。
ヒールの高い靴を履きこなし、かつかつと音を立てて歩く様はまさにキャリアウーマンという感じです。小脇に抱えたビジネスバッグも実に様になっています。
ただ、首輪を身に付けさせられていたり、ラバー素材で出来た服を着せられたりしていることからすると、うちのご主人様と似たような性質を持つご主人様なのかもしれません。
私がそう思いつつ、自分の方の現状に説明すると、まゆこは「なるほど」と納得したように頷きました。
「卒業してから全然連絡くれないと思ったら……そっかー。自由時間がない系のご主人様に仕えてたのか。それじゃあ仕方ないね。……しっかし、寝るときまで完全拘束って良い趣味してるわ……寝れるの?」
「慣れたら以外と楽ですよ? 数日に一度は解放される私はまだ楽な方ですし……同僚の中には全然解放されない人もいるくらいですから」
「うへぇ……あたしにゃ無理だわ」
そういってまゆこは渋面を作ります。それが嫌味にならず、様になるのですから美人は得と言いますかなんと言いますか。
「まゆこは優秀ですからね。じっとしているのは苦しいでしょう」
だからこそ、ただ拘束するだけの状態ではなく、自由時間も与えてくれるようなご主人様に仕えることが出来ているのでしょうし。
「……本当に、特権階級になれなかったのは残念でしたね」
学生時代から、まゆこの優秀さは群を抜いていました。私のような凡人とは根本的な出来が違うと何度も思ったものです。
そんな私にも、まゆこは優しく接してくれていましたが。
正直に思っていたことを伝えると、まゆこは気恥ずかしそうに頭を搔きました。
「いやー……優秀っていっても、所詮あたしなんざは凡人の範疇だったよ。卒業前の最終試験で少しだけ一緒になったけど、実際に特権階級なるようなご主人様たちはまじで化けもんだね。特権を許されるだけのことはある」
でももし特権階級になれてたら、とまゆこは続けました。
「そのときはチトセを従者に指定してたんだけどね-。そしたら毎日毎晩愛し合いたい放題だったのにさ」
熱烈なまゆこのラブコールに、私は少し顔が赤くなるのを感じました。
「またそういうことを……学生時代、仲良くしてくれてたのは嬉しいですけど、きっと私よりも優秀な従者がたくさんついてくれましたよ?」
「それでもあたしはチトセが良かったんだよ」
まゆこはそんなことを堂々と言い切るのです。
そんな未来もあったのかなと思いますが、そうならなかったのが現実です。
私は曖昧に笑うだけで済ませることにしました。
「ねえ、まゆこ……従者階級の期間が終わったら、一緒に旅行でもしましょうか」
従者階級には、その階級でいられる期間、というものがあります。
その期間はご主人様の考えによって違いますが、うちのご主人様は遅くとも三十代後半くらいで役割を解いてくださいます。
大体の従者期間はそれくらいで終わるので、まゆこの従者期間も同じくらいに終わる可能性は高いです。
特権階級に長く仕え、解放された従者階級の者達には、報酬として相応の期間自由にする権利が与えられるのです。
ただしそれは――お互い無事に従者期間を過ごせれば、ということになりますが。
私の提案に、まゆこは物凄くいい笑顔を浮かべてくれました。
「おっ、いいね。楽しみだよ! あたしは休みの日に色々旅行に出かけたりしてるから……その時は色んな場所を案内してあげる!」
「……楽しみにしていますね」
きっと彼女と一緒なら楽しい時間を過ごせることでしょう。
そんな未来を想像して少し胸の奥が暖かくなり――
どくん、と心臓が高まりました。
思わずメイド服の上から胸を抑えます。
普通に歩いていただけなのに、急に心臓の鼓動が早くなっていました。
(……っ、まずい、ですねこれは……まさか……っ)
ご主人様曰く、私に投与した薬は快感を抑制し、絶頂しなくて済むようにするためのものらしいので、快感を消してくれているわけではなかったのです。
つまり、私の身体は歩いている間も、普通に快感を覚えていたはずなのです。
その抑制剤の効果が消えかけているようです。
「チトセ? どうかした?」
一緒に歩いていたまゆこが、急に足取りの重くなった私を心配してそう声をかけてくれます。
私はまゆこに気づかれないように、なんとか笑顔を作りました。
「なん、でもありません、よ?」
さっきまでは全く気にならなかった身体が疼いています。ラバースーツの中で、胸の頂点がじんじんと刺激を求めて固くなっているのがわかりました。
貞操帯を填められた股間には、貞操帯の微妙な突起が歩く度に刺激を与えて来ます。
幸いまだそんなに性感は高まっていませんが、このままだと感じすぎて歩けなくなってしまいかねません。
「ま、まゆこ。すみませんが、私は屋敷に戻らないと……」
そう考え、まゆこと別れようとしましたが、まゆこは首を横に振りました。
「体調が悪いなら、手を貸すよ?」
「だ、ダメですよ。まゆこも仕事があるでしょう」
外回りということは、時間までに所定の場所に行かなければならないはずです。
多少の雑談くらいなら大丈夫かもしれませんが、余計な場所に立ち寄っている暇はないはずです。
「う……それはそうだけど……」
まゆこもご主人様には絶対服従の従者階級ですから、多少の裁量を任されていたとしても、完全に命令を無視するわけにはいきません。
「私は大、丈夫ですから……っ、また、会いましょうまゆこ」
まゆこはそれでも私を心配して迷っていましたが、下手について行かない方がいいと判断してくれたようです。
「……わかった。じゃあチトセ。必ずまた会おうね」
そう言ってまゆこは踵を返し、その場から去って行きます。久しぶりに懐かしい親友に会えて、少し郷愁に焦がれてしまいました。
(ふぅ……さあ、帰らないと、ですね)
感覚が激しくなる前になんとかまゆこと別れられて良かったです。
こう言ったことをされている、というのは程度の違いこそあれ、まゆこも変わらないはずです。
巧妙に隠されていましたが、私もよく馴染んだ臭いが彼女からもしていましたから。
だから本当は感じてしまっているということを、まゆこに言っても良かったはずです。
でも、それを彼女にいうことがどうしようもなく、恥ずかしかったのです。
(学生時代には、まゆことそれ以上のこともしたんですけどね……大人になると、感覚が違いますね)
しみじみと思い返しつつ、私は急いで屋敷への道を歩きます。走ることはできません。
歩く刺激でさえ、どんどん苦しくなっているというのに、走りなんかしたら大変なことになります。
焦りが胸を焦がすのと、抑制剤が完全に切れて身体の感覚が通常に戻るのは、ほぼ同時でした。
「あっ、ぐぅ……っ!」
性感帯が疼いて、嫌な汗が全身から噴き出します。思わずふらついた足を叱咤しつつ、倒れる前に近くの電柱に寄りかかりました。
身体の中で快感が暴れ、今にも爆発しそうです。
貞操帯に封じられたあそこが、燃えているように熱く、なんでもいいから長い物を突っ込んで掻き回したくなる衝動にかられます。
(がまん、がまん……っ、とにかく、屋敷に、かえらなきゃ……!)
こんなところでメイドが倒れたとなったら、ご主人様の醜聞に繋がりかねません。それだけは回避しなければなりませんでした。
ご主人様の名誉のためでもありますが――そんな粗相をやらかしたメイドが、平穏無事に済ませてもらえるわけがないからです。
解放の時まで、封入回廊に閉じ込められたまま過ごすことになるかもしれませんし、それ以上の何か恐ろしい実験に使われてしまう可能性もあります。
私はいまにも崩れそうになる足を叱咤して、屋敷への帰り道を急ぎました。
あまりに激しい衝動のために、目が霞んで、手足の感覚がなくなってきました。
(あと……少し……!)
頑張った甲斐あって、屋敷の姿が見えて来ます。
ほっと息を吐いたのが、よくなかったのでしょうか。いえ、恐らく気を張ったままでも意味はなかったでしょう。
貞操帯の中に仕込まれたバイブレーターが、突如振動し始めたのですから。
第七章につづく