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ヒトネコトリップ! ~ヒトネコホテル~ 4


 ヒトネコホテルの廊下では、色んなヒトネコが行ったり来たりしている。

 わたしと美里もその内のふたり、いえ、二頭となってホテルの廊下を歩いていた。

(美里は相変わらずマイペースねぇ……)

 わたしの前をいく美里は、薄手のラバースーツに身を包んでかなり恥ずかしい格好にも関わらず、楽しそうに軽く弾みながら歩みを進めている。

 さすがにわたしもヒトネコとして行動するのが恥ずかしい、という段階は過ぎてしまったけれど、美里ほどウキウキと冒険するように行動出来はしない。

(そういえば美里って、修学旅行でも好奇心のまま行動しまくって怒られてたわね……)

 当時はいまほど知った関係じゃなかったし、わたしのいた班は普通に真面目な人が多かったから、怒られている美里たちを遠巻きに見かけて、呆れた覚えすらある。

(そんな美里と、こんなところで一緒に行動することになるなんて……)

 人生、何が起こるかはわからないものだ。なんて。まだまだ若いのにそんなことを考えてしまう。

 そんなことを考えているわたしの前で、唐突に美里が止まった。

「にゃあ?」

 目的地に着いたのだろうか。わたしが少し顔を傾けて美里の前方を見ると、美里の前に『ヒトネコ触れ合い場』という看板が見えた。どうやら一つ目の目的地に着いたらしい。



 このホテルには、ヒトネコと触れあえる遊技場が存在する。

 触れ合い方は人それぞれ、ヒトネコそれぞれではあるが、基本的には猫カフェのイメージが近い。

 人間として入場する場合、希望する触れ合い方を設定してから、カフェコーナーで飲み物を注文して暫く待つ。

 すると、ヒトネコの方から指名が入って別室に呼ばれ、そのヒトネコに合わせた『触れ合い』が可能になる。

 あくまでヒトネコ側に主導権がある感じは、まさに猫カフェだ。システム的には指名制のホストクラブとかが近い気もするが。

 自分たちの方が選ばれる側、というのも斬新な感じだ。

 選ばれるのを待たないといけない以上、延々と待たされて時間を浪費する可能性もある。

 だがこのホテルに泊まっているようなヒトネコは、磨き抜かれたヒトネコばかり。多少のギャンブル性はあっても、待つ甲斐は十二分にあるのだ。

 そもそも問題が起きないよう、人間側もホテルに訪れる時点で選び抜かれた者ばかり。時間の浪費になろうとも、それで気を悪くするような者はいない。

 カフェとしても十分雰囲気が良く、提供されるお茶も美味しい。お茶を堪能するついでに、ヒトネコと戯れたら儲けもの、という感覚でいればいいわけだ。

 そうして数十分は和やかに過ごしただろうか。

 席のランプが点き、指名されたことを知らせてくる。思わず顔が笑み崩れたのは仕方のないことだろう。

 俺は席の上に置いてあったタブレットを確認し、部屋番号を確認する。

 指定された通りの個室に行くと、驚いたことに二頭のヒトネコがそこにいた。

 栗色のヒトネコと、黒色のヒトネコ。栗色の方は部屋に入った俺に早速近付いて来て、何かを期待するキラキラした目で見詰めてくる。見るからに人懐っこい感じだ。

「おお……ご指名ありがとな」

 そう言って俺は彼女の頭に手を伸ばし、優しく撫でてやる。ヒトネコは目を細めて気持ちよさそうに笑っていた。

 もう一頭の、黒色の方はヒトネコ歴が浅いのか、もじもじと腕や足で身体を隠そうと必死だった。しかしそれが返って俺に女体を意識させる結果になってしまっている。

 いっそ栗色の方みたいに堂々とされている方が、意識されなくて済むのだ。

 だが恥ずかしがっていることが明らかな相手に、意識させてしまってはまともな触れ合いは出来ない。極力意識しないよう、素知らぬ顔で呼び掛ける。

「君も一緒に遊ぶかい?」

 呼び掛けに対し、黒色のヒトネコは迷っているようだった。

 これ以上は押しても逆効果だと悟った俺は、とりあえず近付いてきている栗色の方と遊ぶことにする。



 美里に促されるまま、触れ合い場に入ってしまった。

(よ、よかったのかな……)

 ふたりで同じ触れ合い部屋に入るのは、果たして良かったのだろうか。止められはしなかったから、禁止されているわけではないようなのだけど。

 本来は一対一が基本なのだと思う。

 その証拠に、わたたしたちが待っていた個室に入って来たとき、わたしたちを見て驚いていた。

 けれどすぐにその驚きは引っ込め、美里の頭を柔らかく撫でるのだから、かなり手慣れた感じがした。

 わたしの方を見て、その人が何か喋る。意味はわからないけど、手招きしてる感じだから一緒に遊ぼうとかそういう感じだと察する。

(どうしよう……)

 美里みたく、すり寄りにいけばいいのだろうけど、まだ羞恥心が勝っていた。

 男の人は私の葛藤を理解してくれたのか、美里の方に向き直り、美里と遊ぶことにしたようだ。

 わたしたちが彼を指定した理由は、彼の指定する触れ合いの内容が『手による愛撫主体、道具使用、フェラ・挿入などは無し』だったからだ。

 他の人は『ペニスへのフェラ希望』とか『愛撫主体の挿入あり』とかで、性行為に到ることが明白だった。

 意外とそういう人に対する指名も入っているみたいで、わざわざ『触れ合い場』に来るヒトネコたちだからその指定の仕方はある意味正しいのだろう。

 そんな中でわたしたちが彼を選んだのは、本格的な性行為をするのは避けたかったのがある。そういう意味では、彼がいてくれて良かった。

(けど……この人はそれでいいのかなぁ)

 その疑問はあった。

 彼はじゃれつきに行く美里をいなしながら、美里の身体をまさぐって悶えさせている。

「にゃん♪ にゃにゃ、にゃはっ、にゃにゃっ!」

 まるで子供をくすぐって笑わせているようだ。美里の方はとても楽しそうである。

 わたしたちは愛撫されて気持ちよくなれるからいいけど、フェラも挿入もしないのであれば、彼自身は全然気持ちよくなれないのではないだろうか。

 わたしは少し離れた位置から、美里と彼の触れ合いを眺める。

 こんな触れ合いで、彼は本当に満足なのだろうか。



 俺は栗色のヒトネコとの触れ合いに夢中になっていた。

(この子……! やばいな!)

 基本的にヒトネコになりたがるのは、人懐っこい性格の者が多く、触れ合い場にくるような子は特にその傾向が強い。

 性欲旺盛な子も多く、挿入やフェラを率先してやりたがるヒトネコも結構いるのだ。

 俺はどちらかというとヒトネコというエロい格好をした子と、楽しく触れあいたいという気持ちの方が大きく、性欲全開で来られると逆にちょっと引いてしまう。

 セックスやフェラだけを求めるなら、普通に女性とした方がいいと思うからだ。

 かといって完全に猫として触れあうなら、それこそ猫カフェにでもいけばいい。

 コスプレとして割り切るのでも無い限り、案外ヒトネコとの触れ合いは繊細なバランスが求められるものなのである。

 その点、この栗色のヒトネコは完璧と言って良かった。

 じゃれついてくる態度は猫のようでありながら、その艶めかしい女体の動かし方、こちらの愛撫に対する反応の仕方には性的魅力を感じさせてくれる。

 時に無邪気に、時に挑発するように。

 俺の手に身体をすり寄せてくる彼女の動きはヒトネコとして最良のものであると言えた。

「にゃおん♪」

(普通に、めっちゃ可愛いしなぁ……こういうヒトネコとの出会いがあるから、ここに来るのはやめられないんだよな)

 ただでさえ最高だというのに、もう一つ。

 まだこちらを警戒している様子の、黒色のヒトネコの存在もあった。

 こちらは栗色の方ほどヒトネコに成りきれていないのか、どこか初々しさがある。

 躊躇しつつも、こちらに目を剥けることはやめられないといった様子で、これはこれで警戒心の解けない猫っぽくていい。

(容姿もすごくいいしな……まさに美人な猫って感じ)

 それに、本人は無意識だろうけど、俺と栗色の子の触れ合いをまじまじと見詰めている視線がとても強い。

 興味津々なのがわかる。その視線は俺が直接触れるのとはまた違った刺激となって、栗色の子の気分を盛り上げているようだった。

「にゃんっ」

 俺の手が触れた時の反応が、どんどん良くなっている。

 それを本人も、黒色のヒトネコも理解しているのだろう。

 栗色の子は少し、黒色の子はかなり頬が赤く染まっていた。

(よし……ここだ……っ!)

 十分に気分と感度が高まったことを見切り、俺は一気に栗色の子への愛撫を強めた。

 仰向けにひっくり返った彼女のお腹から胸を撫で、はしたなく広げられた両足の間、股間を手で覆って掌で柔らかく刺激を与える。股間に添えた掌から、熱い体温が伝わって来ていた。ラバースーツ越しにも、そこが濡れているのがわかる。

「んにゃ、あっ」

 身体を波打たせて栗色の子が仰け反る。どうやら軽く逝ったようだ。

 なかなかの感度で、悶える彼女の姿はとても魅力的なものだった。

 一端手を離し、栗色の子が呼吸を整えるのを待つ。

(さて……)

 俺は黒色のヒトネコの様子を見ようと、そちらに視線を向ける。向けて、驚いた。

 黒色のヒトネコは、俺が手を伸ばせば届くほどの距離に近付いてきていた。

 基本四つん這いで移動する彼女たちの視点は低い。しゃがみこんで栗色の子の身体を弄っていた俺よりもさらに低いので、自然と上目遣いになる。

 おねだりするような形になるため、ただでさえ破壊力抜群なのだが、その時その黒色のヒトネコの瞳は期待に濡れていたものだから、威力は倍増だ。


 愛撫を期待する目が――俺を見上げていた。


 ヒトネコとしての触れ合いを重視する俺だが、何も性欲がないわけじゃない。

 むしろ、猫としてだけの触れ合いだけを求めているわけじゃないからこそ、栗色の子をそういう意味で気持ちよくしてあげたのだ。

 だから、黒色のヒトネコのように、思いっきり期待されてしまうと。

 こちらとしても、全霊で応えなければならないだろう。

 俺はひとつ息を吐き、頭を一端クリアにしてから、近くにおいてあった道具箱に手を伸ばす。

 道具には普通の猫と遊ぶためのようなおもちゃもあるが、ヒトネコの相手をするための道具もある。

「よし、これで遊ぶか」

 言葉は通じないことは知りつつ、そう言いながら俺が手に取ったのは、猫じゃらし。

 無論、ただの猫じゃらしではない。

 俺が太くなっている持ち手にあるスイッチを親指で押すと、その猫じゃらしは先端のふわふわした部分が細かく振動し始めた。

 いわゆるローターと言われる機能が付いているのだ。

 そのことに黒色のヒトネコは驚いたのか、一瞬身を竦めたものの、逃げようとはしない。

「にゃ、あ……」

 不安と期待がない交ぜになった、少し涙の浮かんだ目で俺を見詰めている。

 そのなんとも色んな意味でそそられる表情に、俺の理性の方が保つのか心配になった。

 細く深く息を吐き、心を落ち着かせながら猫じゃらしローターを振る。

「ほら……おいで?」

 黒色の子を招き寄せる。

 少しの逡巡を挟んだ後、黒色のヒトネコはゆっくりと動き出す。


 そして、しゃがんでいる俺の脚に、頭を擦りつけてきたのだった。


つづく


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