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夜空さくら
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学園島 その2


 世界各地から優秀な学生が集められている島・学園島。

 そこに通う文学少女・井塚葵はある日、学園島にやって来た吹田という男の手によって陵辱されてしまった。

 四肢を縛られ、空中に吊され、全身余すことなく鞭打たれ、嬲りに嬲られた彼女。

 無残に純潔を散らした彼女は、その島に集められている学生達は、実は『性奴隷候補』として集められた存在であるという学園島の裏の顔を知り、絶望するのだった――



「……と、いうのが今後の私の『設定』、ね。ええ。把握したわ」

 地下の一室で呟いたのは、件の井塚葵本人であった。

 つい先ほどまで吹田の手によって、目を覆うような陵辱の限りを尽くされていたとは思えない自適さである。

 その手には学長秘書が持ってきた書類が握られており、そこには陵辱されたことによって変化した彼女の『設定』が纏められていた。

「島の真実を知りながらも、脅されて誰にもそのことを相談できない……って感じね。日常生活は普通に送ってもよし……と」

 ふむふむ、と書類に書かれた設定を咀嚼する葵。

 裸の体にかけられた毛布を、バスタオルのように体に巻き、風呂上がりに自室で寛いでいるような調子だった。

 露出した手足や肩には、陵辱されていた時に打たれた鞭の跡がハッキリ残っており、外見だけみればとても痛々しい姿だ。四肢を乱暴に引かれて吊り下げられていたこともあり、体には疲労や苦痛が残っているはずだった。

 しかし彼女は、顔を顰めることもなく、むしろ恍惚の表情を浮かべている。

「もう少しの間、普通の学生でいたかった気もするけど、あの人の容赦のない責め自体は気に入ったわ」

「そういっていただけると、こちらは助かります」

 学長秘書はそう言いつつ、葵が内容を確認し、返却した書類を受け取って鞄に収める。

「では参りましょうか、葵さん。立てますか?」

「ん。ちょっと待ってね」

 葵はそう言いながら、慎重に体に力を入れ、微かに小さく呻きつつも、立ちあがった。

 一瞬足元がおぼつかなくなったが、すぐに自力で立て直す。

「ん……っ、うん。大丈夫。なんだかんだ、後遺症が残らないようにしてくれてたみたいだし」

「吹田様は学園島の常連ですからね。学園島のスポンサーとして、人並み以上の出資をしていただいておりますから……」

「あー、じゃあ、やっぱりあの人は『知ってる』側の人間なわけね?」

 そう葵が確認すると、学長秘書は頷く。

「はい。あの方は学園にいる学生たちのほぼ全てが、希望してこの学園に所属していることを知っております。吹田様は知らない立場として振る舞っておいでのはずですが……気付かれてしまいましたか」

「ええ。あの人、私が処女でないことに気付いた時、『これは仕方ないか』って呟いてたのよ。だから、私が設定通りの清純な文学少女じゃないってわかってたんだなって」

「ああ……なるほど。吹田様らしからぬ単純なミスですね。葵さんの設定では、確か、『激しい運動をした際に意図せず喪失』になっているんでしたっけ?」

「実際は色んなプレイを経験済みだからなんだけどねぇ。でも処女の学生って少ないんじゃないの? 『知らない』側の人もおかしいって気付くんじゃ?」

「内密な話になりますが、処女膜再生手術を施す場合もあります」

「それで誤魔化せるの?」

「基本的にこの島に来ることが出来るような方は、優秀な方が多いので……少し考えを巡らせれば、大方のカラクリは察するのでしょう」

 暗黙の了解で楽しんでいる者も多いというわけだ。

 葵は、でしょうね、と溜息を吐く。

「まあ、よく考えると不自然だもんねぇ。友達がいつ何人いなくなっても気にしない子ばかりとか」

 もしも実際に裏の顔のことを知らない学生ばかりなら、突如失踪して学園に戻ってこなくなる者が次々出たら、相応に騒ぐはずだ。

 それをまるで示し合わせたかのように沈黙するのであれば、勘の良い物はカラクリに気付く。

「学園の真の顔どころか、裏の顔のことを知らない学生も、一応いるにはいるんだったっけ?」

「ええ。その方々は、露出プレイなどの特殊な性癖を抱えていらっしゃる方々ですね。この島の特殊環境が都合が良いため、各々特殊な性癖を楽しんでいらっしゃいますよ」

 その言葉を聞いた葵は、何かを思い出したのか苦笑を浮かべた。

「ああ……そういえばこの間、用事があって夜中に出掛けたら、犬みたいに四つん這いで駆け回ってる裸の女の子を見かけたわね……私に気付いて茂みに隠れているつもりだったみたいだけど、アナルプラグの突き刺さったお尻が丸見えで、正直呆れたわ」

 無論、葵はその彼女に気付いていないふりをして、無視した。

 島にいる学生のほとんどは裏の顔のことを知っているので、全裸で徘徊する者を見つけても、知らない振りをするのが暗黙の了解だった。

 この学園島は、様々な暗黙の了解の元、成り立っているのである。

「その話を聞くだけで、誰のことか大体想像はつきますが……あまり暗黙の了解が露骨すぎると、それはそれで問題かもしれませんね。程よく注意しておきます」

 話しながら、学長秘書は葵を先導して、葵が陵辱されていた地下室から外に出る。

 葵はバスタオルのように体に巻いていた毛布を、肩からポンチョのようにかけ、体全体を隠した。

「ここから普通に出て大丈夫なの?」

「現在島には吹田様しか来客がありませんから問題ありません」

 そういって葵を誘導して歩く学長秘書は、廊下の突き当たりまで行くと、その場で床を踵で数回叩いた。

 すると、行き止まりだったはずの壁に隠し扉が出現し、ゆっくりと開いていく。扉の先には、さらに下へと続く階段があった。

「へぇ……ここが……」

 そう呟く葵を、学長秘書が促して階段を降りていく。

 その階段の先には、広間があった。たまたまそこにいた女学生が、降りてきた学長秘書と葵を見て、目を見開く。

「わぉ! 久々のお仲間さんじゃーん!」

 その女学生は学長秘書と葵に駆け寄ってくると、葵に対して握手を求める。

「初めましてだし! あたしは真辺晶! 1年くらい前からここで暮らしてるから、色々教えてあげれると思うよ! なんでも聞いてだし!」

「あ、えっと、どうもありがとう……まなべ、さん?」

「あきらでいいし! うわー、すっごい跡残ってるし! やばくない? うえ、まだ傷塞がってないし! 悲惨だし……」

 握手のために差し出した葵の腕を見た晶が、鞭の跡を見て声をあげる。

 姦しい人だな、と葵は思ったが、口には出さないでいた。

 代わりに口にしたのは、別のことだ。

「痛々しいっていうなら……それは、晶さんの方じゃない?」

「えー、どこがだし?」

「いや、全体的に……」

 そういって晶の体を見詰める葵。その葵の言葉通り、晶の体は見た目が大変痛々しい状態になっていた。

 基本的には、どこにでも良く居るような、陽気な女学生という姿だ。髪の色も明るく染め、カラコンなのか、目は虹色のような不思議な輝きをしている。肌もこんがりと焼いているため、見る人が見れば一昔前の不良ギャルと感じるだろう。

 だが、明らかにそうとは感じない要素が、彼女の体には無数に存在した。

 耳にピアスホールが空いているのは、若者らしいと言えるかもしれないが、その穴に通されているのは、ギラギラとしたイヤリングでも、宝石で作られたピアスでもなかった。


 彼女の右耳には、家畜に取りつけるような、無骨な耳標が取りつけられていた。


 耳標には何の意味があるのか、数字が刻印されており、『性用途人畜』という文字もある。彼女が人間扱いされていないことを示している。

 実際に開けられている穴がどれくらいの大きさかはわからないものの、その耳標自体は大きく、彼女の耳の大きさとほぼ同等のものだった。

 それは彼女が首を傾げると、ゆらゆらと動き、存在を大きく主張する。

 さらに、彼女の体には他にも痛々しい要素が無数にあった。

 その中で最も目立つのは、顔の中央に燦然と輝く、銀の鼻輪であろう。オシャレとは無縁の、金属の無骨さが感じさせるその鼻輪は、彼女の鼻の穴の中央の境目を貫通している。

 輪の太さも彼女の小指ほどはあるもので、オシャレと言うには存在感が大きすぎる。

 彼女の首には、これもまた太くて重そうな金属で出来た首輪が巻かれていた。その首輪があるため、首元が締まった服は着れないらしく、肩が露出しているオフショルダーのトップスを身に付けている。その露出した肩や背中をよく見ると、鞭跡が刻まれており、生々しさでいえば葵の真新しい傷には劣るものの、傷の数や深さ自体は葵に勝るとも劣らない。

 トップスの裾は長く、胴体のほとんどは覆われているのでそこがどうなっているかは外見からはわからないものの、胸の先端が奇妙に持ち上がっていたりするなど、まともな状態でないことは容易に想像が付いた。

 さらに、彼女は裸足であり、彼女の両足首には首輪と同様に重そうな枷が取りつけられている。

 奴隷――否、家畜扱いを受けているような、そんな体と、姿であった。

 しかしそんな体でありながらも晶の表情は明るい。

「あー、びっくりしたし?」

 あっけらかんとした表情に曇りはない。

「びっくり、というか……晶さんは、もしかしなくても、永久奴隷って奴?」

「そうだし-。あたしを買ったのはある資産家のおにーさんなんだけどさ-。世界中跳び回ってるとかで、中々学園に来てくれないんだし。そのおかげで体のメンテの時以外は大抵ここで暇してるんだし」

「それは……なんといえばいいのか」

「住めば都っていうし? この体も、慣れれば大したことじゃないしー」

「その割には、メンテの時は毎度大変そうですが?」

 葵と晶が話しているところに、学長秘書が割り込む。

 秘書の言葉に、晶はその頬を朱に染めた。

「あ、あれは不可抗力だし! それより! ここに来たってことは、ここで過ごすこともあるってことだし? あたしが紹介するから、皆を呼んでくるし!」

 誤魔化すようにそう言いつのった晶は、大慌てで広間を離れていった。

 葵はそれを唖然として見送ったあと、学長秘書の方を見る。

「……大変って、もしかしなくてもそういう関連?」

「所有者様のご意向で、彼女は性感帯の開発を施されています。それが鈍化してしまわないよう、定期メンテでは常に限界以上に絶頂するノルマがありますので」

「うわぁ……それは……なんとも可哀想ね」

 そう葵は呟いた。

「……私もそういう風に管理されちゃうのかしら?」

「吹田様のご意向次第……ということになるでしょうね。ただ、これまでの例から考えますと……いえ、これはいまは止めておきましょうか」

「ええ……そこまで言ったのに言わないって酷くない?」

「今回の吹田様のご滞在は数日ですから、それが終わる頃には判明しますよ。楽しみにお待ちくださいませ」

 しれっと学長秘書は告げる。

 葵はその言葉を聞いて、不満そうに唇を尖らせながらも――その体の芯に熱が集まるのを感じていた。

 結局のところ、葵もまた望んでこの学園島にやって来た女学生の一人。

 どんな風に扱われるのか、人を人とも思わない扱いをされてしまうのか。

 普通なら悲惨としか表現されない未来を想像するだけで、興奮してしまうのだ。

 その興奮を悟られないように、葵は話題を変える。

「それにしても、晶さん、だっけ? あの人でも相当取り返しの付かない扱いをされてるみたいだったけど……ここにいる人はあんな感じの、すごい状態の人ばっかりなの?」

「所有者様の意向によりますが、この地下室で暮らしている方々は皆、『日常生活に溶け込むのは不自然な状態』の方々です。葵さんのように、一時的に来ることになる人も当然いますが」

 二人がそんなことを話していると、広間に晶が戻ってきた。

「お待たせだし~! ごめん! いつもはもっと集まるんだけど、いまはひとりしか捕まんなかったし!」

 そう言う晶だが、その後ろから誰かが付いてきている様子はない。

 葵は首を傾げかけ、戻ってきた晶の手に、手綱のようなものが握られているのに気付く。

 その手綱の先を何気なく追いかけた葵は、目を見ひらいた。

 手綱の先には、四つん這いでひょこひょこと歩く、人間――のような者がいたからだ。四つん這いで、晶の身体の影になっていたので最初は気付かなかったのだろう。

 全体のシルエットは確かに人間なのだが、人間のような者、と表現するのには理由がある。


 その人型の何かの四肢は――人間本来の手足の長さの、半分ほどしかなかった。


つづく


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