SamSuka
夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


上位種姉妹の愛されペット

§  友好的な上位種のもとに、半年間。  そう決めたのは自分のため、キャリアのためなはずだった。  世界の裏側に隠れていた、聡明な妖精たちが姿を現し、まだ日は浅い。今滞在すれば、貴重な経験として扱われるはず。そんな、随分よこしまな動機で僕は旅立った。  けれどそんな思い、彼女らを前にどうして保てるだろう。  人形のように愛らしい、猫の姉妹がここに二人。落ち着いて、大人びた少女と、その背に隠れた人見知りの子供が一人ずつ。人世ならゴシックに似た、しかしポンチョとドレスを組み合わせたような、不思議な服装が特徴的だ。そんな懐かしくエキゾチックな出で立ちで、小さな人影が二つ、ひっそりとこちらを向いていた。 「この人、優しいひと?」  姉の影から顔を出したそのケットシーは、不安げにこちらを見上げた後、そう呟いた。そしてトコトコと歩み寄って僕の裾をつかみ、しばらく逡巡し、それから人懐っこい笑みをパッと向けたのだ。  こんなに嬉しいことはなかった。  ずっとここにいてもいい、そう思ったのだ。 §  結局、ルーに懐かれるのにそう時間はいらなかった。  いや、懐かれすぎたほどだ。 「りーくん、ご本読んで〜♪」  件の幼女が、甘えた声を出しやってくる。ポンチョを脱いだワンピースのような格好で、トタトタ駆けてくる。そしてソファの上に僕を見つけると、ポンと膝に飛び乗った。 「もちろん。……でも、ちょっと後でもいい?」  彼女の手には小さな本、かたや僕の手には、気の進まないレポートが握られている。  えー、と口を尖らせる猫耳少女。年のほどは人間にして10歳と余年といったところだろうが、言動はこの通り。幼いのか、年相応なのかはわからない。ただ、いたく気に入られていることだけは確かだ。 「りーくん、ルーと遊んでくれないの……?」  へんにょりと倒れる猫耳。亜麻色の髪の奥から、ルーが悲しげな目を向ける。子供はいつだって今が一番だ。待てるはずがない。そんな甘えを受け取ってもらえなかった子供の、乞うような瞳が潤んだ。その上、ルーは絵に描いたような美少女だ。敵わない。  言葉に詰まる僕をよそに、フリルシャツの裾をイジイジと摘む。  僕の負けだ。 「ルーナ、だめよ? リンさんを困らせちゃ」   そこに背後から、助け舟を出してくれるもう一人のケットシー。  クスクス笑いながら、ニナさんがルーをたしなめる。ミルクをたっぷり入れた紅茶色の髪、眠たげな目をした麗しい少女。ソファ越しにルーの頭を撫でて、唇を突き出す妹をなだめる。  僕はレポートを放り投げた。 「いいんですニナさん。ちょうど飽きてきたところで。……それに多分、これはもう必要ないですし……」  本を受け取り、降参したようにニナさんに笑いかける。それは、まだあどけなさの残る美少女の姿。それと同時に眠たげな眼差しは妖艶で、子供のような大人のような猫耳少女。そんなニナさんが、"そうですか?"と首をかしげる。 「無理なさらないでくださいね? この子、すごく甘えんぼさんで……。ふふっ、ルナちゃん、リンさんのこと大好きですね♪」 「お邪魔させてもらってるのは僕の方ですよ? それに……安心しますし。人間なんてケットシーに嫌がられるんじゃないかって、心配だったので……」 「あはっ♪ 不思議なことを考えるんですね?」  だって、人間は下位種って言うじゃないですかと言ってみる。  恐る恐る、賭けに出てみたのだ。下位種と呼ばれる所以は聞いてこなかった。恐ろしかったのだ。  そんな僕を、ニナさんは耳を揺らし可笑しそうに笑った。 「リンさんも怖がり何ですね♪ 大丈夫ですよ? ケットシーの方がいろんな能力はありますけど、それだけですもの」 「でも、ケットシーの方が上位種、なんですよね?」 「日常に上も下もありませんよ? まあ、契約しなければ、ね?」 「契約……?」  尚訊こうとする僕の口を、少女は指でふさいでしまう。 「ふふっ、知らない方がいいこともあるんですよ〜? それにそんなこと、考えたって仕方ないことじゃないですか♪」  眠たげな目でやんわり僕をみつめ、それからクスッと笑ってみせた。  きちんとポンチョドレスを着て、ルーと対照的に随分大人びているのがニナさんだ。実年齢は知らないが、換算すれば僕より年下のはず、だが、ルーの世話をするせいか、包容力ある雰囲気をまとっている。  その声に安堵して手の中の本を見、僕は呻いた。 「これは、……ちょっと読めないかもしれない」 「えーなんでー?」  僕は呻く。そこにあるのはケットシーの言葉。無論一通りの勉強は試みた、が、膨大な格変化に音韻変化、学べば体系的で合理的なことはわかるが、人間の処理能力で扱える代物ではない。たやすく人語を学べられる、聡い彼女らの扱う言葉がこれだ。今でも、二人が母語を使えばすっかり置いてかれてしまうだろう。 「ごめん、ニナさん、パスです」 「ふふっ、良いんですよー気にしなくって。誰でも苦手なことはありますから、ね?」  ドレスを広げゆったり僕の隣に座って、彼女は本を開く。澄んだ声で、読み聞かせを始める。  自分で読めても、ルーはまだ読んでもらいたい年頃らしい。或いは、ほかの甘え方が思いつかなかったのかもしれない。  それがなんだか、くすぐったく思えた。  なんだ、上位種と言ったって、人間と同じじゃないか。  そんな事実は随分気持ちを軽くしてくれる。  今だって、まるで若い家庭のような風景だ。読み聞かせをせがむ幼女に、並ぶ男女。小さな娘に、まるで幼妻、いや、娘にさえ見える少女と3人肩を並べている。  まるで子供と、奥さんだ。  そう思った瞬間、かぁっと顔が熱くなった。  そこに、クスリ、と、笑い声。  見ればニナさんが、流し目にこちらを見て微笑んでいる。  眠たげに伏せた目が、見すかすようにこちらを笑った。 §  おしまい、と最後に言って、ニナさんは本を閉じた。 「面白かった? そう、それは良かった♪」  ぼくの膝の上に座る妹に、ニナさんは優しく頭を撫でてあげる。ぴこぴこ猫耳が跳ねる。 「さ、ご飯を作ってきますね。……リンさん、もう少しルナと遊んでもらってもいいですか?」 「もちろんです」  一も二もなく引き受けて、僕はニナさんに微笑んだ。笑みを返すと、少女は席を立つ。  立ち去るニナさん。  清楚なドレスに身を包む、その後ろ姿に大きな臀部を見つけて、思わず胸がどきりと跳ねる。ポンチョのゆったりした服に包まれて、その女性的なラインは隠れている。その分思いがけない曲線に、僕はその女性らしさを意識せずにはいられなかった。 「ねーねーりーくん。あそぼ?」  僕の袖を引っ張って、ルーは所在無げに呟いた。 「ああ、ごめんごめん。なにしよっか?」  誤魔化すように頭を撫でてやる。サラサラとした指通りは、まるで絹糸のよう。指の間を流れるその感触は、いつまでも触っていたいほどだった。  ひこひこ跳ねるネコミミが、快哉を叫ぶ  。嬉しそうなその動きを見て、出来心で僕は耳をわしゃわしゃ撫でてやった。 「あははっ! りーくんくすぐったいよ〜! でも、気持ちいい♪ ね、ね、もっとやって〜!」 「いいぞーほら、よしよし〜!」  細い体をよじらせる。不安になる程軽く薄い体。子供特有の柔らかさが膝の上で踊った。  きゃっきゃと弾む子供の声。撫でれば撫でるほど喜ぶものだから、こちらもつい楽しくなってしまう。  頭を撫でれば耳を弾ませ、顎下をさすれば嬉しそうに喉を鳴らす。  そしてあちこち触れているうち……。 「わっ!?」  ふに……、と、指先にやわらかいものがあたり、僕は慌てて手を離した。ささやかだが確かな感触、すでに単なる皮膚以上のものを孕んだ、独特の感触だ。言動こそあれ、すでに娘に片足を入れ始めていたルーの、生々しい柔らかさだった。 「ご、ごめん」 「? なんでやめちゃうの? ねえりーくん、もっと撫でて〜!」  嬉しそうに耳をはためかせ、ルーはおかわりをせがむ。どうやらお気に召したらしい。幼女の体をまさぐるいかがわしさに若干気は引けるが、当人の頼みとあっては仕方なかった。指先にはまだ疚しさが残っていたが、愛くるしい少女にせがまれて抗えるはずもない。 「そうか? なら……!」 「きゃはははっ! くすぐったい、くすぐったいよりーくん!」  背中を撫で、脇腹をくすぐり、その度ルーは身をよじって声を弾ませる。むちゃくちゃにくすぐられる、それが楽しいようだった。  けれど、なるべく力は出さないでやった。大人の男の腕から抜け出せないのは、幼女にはとても怖いはず。そう思ってすぐ押し返せる程度にまさぐってあげた。背中を、首を、お腹を、脇腹を……。  そして尻尾の付け根をくすぐった時、ルーは違った反応を示してきた。 「あはっ、ふっ、んっ……、そこ、くすぐったくて……、ね、ね、もっとやって!」 「ここ? あははっ、ルーったら顔真っ赤じゃないか」  笑いすぎたのか、はしゃぎすぎたのか、猫耳幼女は真っ赤になって身をくねらせた。どうも尻尾と耳の付け根が好みらしい。さっと撫でるだけで体を跳ねらせ、それから声を弾けさせる。  指先で擦りあげ、トントンと叩き。  そして同時に耳と尻尾の付け根をくすぐった時、ルーの喜びは頂点に達した。 「……ッ、う、りーくぅん……」 「? どうかした?」  おかしいなと思ったのは、急にルーの口数が減ってきたからだ。  時折体を震わせては、僕の手の動きに敏感に反応する。堪えるように喉を震わせて、耳もなんだかぎこちない。  はっ、んっ、と吐息が湿っぽくなった。やりすぎたか? 笑いすぎて疲れたようにも見える、が、なお快哉の色は色濃い。 「疲れた? もうやめよっか?」 「ううん、もっと、もっとやってぇ……」  なお媚びるように言う。嬉しいなら仕方ない。幼女の体をまさぐってやる。それはケットシー特有の反応で、いまいちどのような状態か掴めない。とはいえ嬉しそうなのは確かだ。なら、愛でられるだけ愛でてやるのも吝かでない。  腕の中の小さな体を、たくさんたくさん撫でてやる。毛並みの良い髪が跳ねた。手の中で小さな体が転がりまわった。僕の胸に顔をうずめて、ルーはプルプルと体を震わせる。堪えるように声を漏らしたり、ピンと脚をそらしたり、撫でられる感触を堪能しているのだろうか、どうにも反応が読めない。  手の中の小さな体は、重みを感じさせること無くふるふる震えた。  どことなく不穏に揺れる猫耳。  そんな髪の影から、熱に浮かされたような瞳がこちらを見上げた。  そして。 「もう、無理ぃ……!」  パチン、と、変なスイッチが入る音がした。  それは突然の出来事。  気づけぬほどの速さでもってルーは僕の胸にしがみつく。  そして。 「リーくん、交尾、交尾しよっ?」  目の色が変わったルーは、勢いよく僕の首筋に飛びついて、言ったのだ。 「……は?」  唐突な言葉に声を失う。  何を言っているかわからない。 「ねっねっ、ルーと交尾しよ? もうおさえられないもん、良いよね? 良いでしょ? ルーと契約しよ? 我慢できないから、ね? ね? いいでしょ?」 「いや、え?」  とりあえず落ち着かせるため、僕はルーを身から引き剥がそうとした。  しかし、ルーは甘酸っぱい吐息を漏らし、僕に食らいついて離れない。  それはまるで、エサを貪る猛犬のようだった。 「ね、交尾しよ? 交尾されて? ルーの魔力注ぎ込まれて、ケットシーのペットになって? いいでしょ? ね? ね? 今から襲うね?」 「いやいやいや、何言ってるっ、て、力、つよっ……! おい、待て待て待て……っ!!」  目をぐるぐるさせながら、ルーが尋常じゃない力で僕にしがみつく。魔法? けれどその目になんら妖光はない。  まさかこの幼女、素の体力で人間の男をねじ伏せて……!! 「なんだよその力!? どこからそんなっ……!」 「だってルーはケットシーだよ? ヒトがケットシーに勝てる訳ないもん。ルーは上位種なんだよ? だから犯されよ? 契約しよ? 良いよね? 始めるね?」 「バカっ、服を脱がすな抱きつくな!! 離せルー! じゃ、じゃないともう息が……!」  はあはあと甘酸っぱい吐息を漂わせ、幼女が僕に飛びかかる。足をすくわれれば体重差なんて無意味で、あっという間に僕は床に叩きつけられた。両手でその細い肩を押しても意味はない。接着剤でつけたようにルーは僕にしがみついて、ズボンを破きシャツを喰い千切る。  そして男の無骨な体を光の元に引きずり出した。  その様は美しいケモノで、途端に僕はルーの本性を思い知った。可愛いだけだけのロリと思っていたが、相手はケットシー。人間をはるかに上回る妖精であり、上位種でありケモノなのだ。  その瞬間の戦慄たるや、他にない。  美幼女相手の手加減なんてかなぐり捨てて、僕は全力を振るう。  そして返ってくるのは絶望だけ。 「あははっ♪ りーくん全力出さないと負けちゃうよ? ちっちゃなルーに負けちゃうよ? 負けたくないよね? だって勝ったらルー、契約しちゃうもん♪」  契約? それがどう言うことかを僕は知らない。その無知による恐怖が、一気に僕を青ざめさせた。  そんな僕の心を見透かすように、ルーは言った。 「あれ、りーくん契約も知らないの? あはっ♪ だってルーは上位種だよ? 人間なんて劣等種とする契約なんて、主従の契約しかないもん♪ でもりーくんならいいよ? 契約してあげるね? 愛して愛して、むちゃくちゃにしてあげるね?」 「なっ!? やめ、やめろルー!! こら、服を……、ひ、や、やめてくれ!!」  問答無用でルーは僕の服を捨て、自分も服を脱ぎ去って覆いかぶさる。それはまさに、理想的な少女の体。僕なんかの体とは比べ物にならないほど美しくて、肌も綺麗だ。自分の体が恥ずかしくてたまらなくなる。  そんな僕の顔を、ルーはヨシヨシと撫でた。一気に近くなる小さな顔、目にはハートマークを浮かべて、愛情いっぱいに僕を犯そうとしている。それに対する感情を、恐怖と呼べばいいのか当惑と呼べばいいのか、僕にはわからない。 「あははっ♪ りーくんがルーに敵うわけないもん。だから大人しく契約しよ? りーくん大好きだから、大事にしてあげる♪ でも抵抗するなら……、劣等種だって教えてあげるね♪」 「むぐっ!?」  突然のことに僕は目を見張った。  キュッと僕の首にしがみ付き、ルーが僕に舌をねじ込んだのだ。  首を振ろうにも触れない、口を閉じようにも小さな口は口内を塞いだまま。  そして痺れるような甘い感覚が、背筋から脳髄へ駆け巡ったと思えば……。 「っぷは! ふふっ、ごちそうさま♡ あははっ、早速始まったぁ♪」  その声とともに、ズッ……、とルーの体が重くなる。  いや、違う。  僕が縮んでいるのだ。  そう思った時には遅かった。


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