SamSuka
夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


健やかなる時も、病める時も

式は終わった。  俺はもう既婚者だ。 「何見てるのかな?」  立ち尽くしチャペルの十字架を仰ぎ見る、そんな俺の背筋をなにかが這い上がった。  タキシードの背を這う、繊細な指使い、まとわりつく、蔓のような感覚。  間違いなく、それはサヤの指だった。 「ひぃッ!?」 「ふふっ、ボクだよ? 怯えることないじゃない。ねえ? "あ・な・た"♪」  純白の人影が目に飛び込む。たっぷりした三つ編みと、女性的なライン、蠱惑的な笑み。怯える俺をニヤつく女の姿。  それは、ウェディングドレスを着た少女の姿だった。  うら若く匂い美しい小娘。しかしその雰囲気は、どこか毒蛾を想起させる何かを纏った。  這わせた指先軽く口元を押さえ、その目は妖しく歪む。  その白手袋をわずかに膨らませるのは、今しがた俺の嵌めた指輪に他ならない。  それを見た瞬間、絶望感が一気に押し寄せる。 「俺は、なんでここに、いや、どうして、どうしてこんなこと……」 「あはっ♪ それが結婚したての殿方の顔? こんなに綺麗な花嫁と結ばれたっていうのに♪」  クセのある笑い声で自賛する女を、俺はキッと睨め付ける。しかし、そんな怒気など彼女に届くはずもない。俺の鋭い視線は、クスクス笑う美貌に受け止められ、絡みつかれ、手繰り寄せられては萎えてしまう。それは魔性の笑みとしか言い得ない。匂い立つ美しさは白百合に似て、醜い感情を立ち枯れにしてしまう魔力があった。  その魔に憑かれてしまったのだ。  俺は、この魔女と結ばれてしまった。 「これからボクはキミのものなんだよ? 嬉しくないの? 毎日毎日ボクを好きにできるのに。ねえ?」  思わず俺はハッと笑う。 「"俺が、お前のもの"、の間違いだろ?」  自嘲気味の呻きも軽く受け止め、サヤは己の唇をなぞってみせる。透き通る肌と、スッキリとした輪郭。そこにあるのは、ねっとり肉厚の唇だ。  男を誘うフェロモンを放ち、堕ちたら離さない食虫植物。それがサヤだった。 「そうさ。キミはもう、ボクんだ♪」  結局、俺は負けたのだ。  この美少女の、魔力と狂気に。 「そんなこと言って、キミも本当は嬉しいんでしょ?」  頰を撫でるしっとりした手。細い手。狂気の魔の手。  そんなヤンデレ娘の手に触れたのは、ふとした出来事。無自覚に与えた優しさを誤解され、弱みを握られ、爛れ切ったゴールイン。  いや、先に道を踏み外したのは或いは俺の方だったかもしれない。  彼女の美貌に毒され、疚しい行為を働いた。恐怖で焼き捨てるまで、俺の部屋には彼女の下着があった。それを受け入れられた時、どれほど嬉しかったかわからない。そして、それが釣るための餌だと知った時、どれほど慄いたかも。  異常者。ヤンデレ。ストーカー。およそありとあらゆる恋愛狂者の名を冠する娘に、つきまとわれ、襲われ、結婚させられ……。そしてまんまと俺は堕ちたのだ。 「ボクたちは一緒だよ。一生、一生、一生ね♡」  その偏執狂的執着心からは、逃れられないと知ってしまった。  文字通り、彼女は魔女だった。  俺を堕とすため、悪魔と契約を結んだのだ。 「愛してる、愛してるよ♡」  魔女の甘い抱擁が、俺の背に絡みついく。 「〜〜♡」  俺を絡め取る、力の弱いハグ。  そんな、女性の、長い長い抱擁の後、彼女はクスッと笑った。 「さ、始めようか」  そして、パチリと指を鳴らしたのだ。  世界の糸を断ち切るようにして。  その途端グニャリと背景は歪みだす。  それはまさに非現実的光景。  現世の灯火が潤みだしたのだ。  サヤの使った魔法で、霞む世界。溶け行く次元。  俺たちを囲むチャペルも遠く消えた。  サヤだけがそこにいる。  狂愛のあまり悪魔に魂を売った魔女が、特製の舞台を用意しようというのだ。  俺は逃げられない。  結婚してしまった。  契りを結んでしまった。  魂を結わえてしまった。  逃げられない。絶対に。  そして、若い新婚男女のしとねが現れた時。 「ふふっ、キミの初夜権はボクのものさ♡」  最後にサヤは、そうさえずった。 §  サヤが、面妖な力で俺を連れ去った先。  その空間は、なるほど高級ホテルに似て美しく、清潔豪奢なスイートルームだった。  夢見がちなボクっ娘にとっては、まさに理想的、きらめく夜景に星空、間接照明で落ち着いた部屋はロマンティックな雰囲気を醸し出し、望むべき全てがあるかに見える。  しかし、出口だけがなかった。 「たっぷり、たっぷり愛してあげるよ……♡」  ほのかに頰を紅潮させた花嫁は、大きく膨らんだウェディングドレスを揺らし一歩近寄った。歩きやすいようにスカートの前面に開けられたスリットから、白タイツを纏った美脚が一歩こちらに踏み出す。フリル地獄に純白の海。キュッと締め付けられたくびれに、溢れ出す豊満な胸と寄せた谷間。その清純な姿が、俄かに色情を滲ませる。  ゆさっと、無数のレースの擦れる音が響いた。  思わず後ずさるのは当然だ。華奢な体は、俺より頭一つ分小さく可愛らしい。しかしそれだけ、どこかそこにいないような軽さ、弱さ、非現実味を帯びていた。  万能の少女が、発情と幻想を背負って近寄ってくる。人形のような出で立ちが一歩、白磁の乳房を揺らす。  それを前に、俺の鼓動は否応なく速められた。  白状しよう。魅せられた。魅了されていた。  滑らかなチョコレート色の髪は、豊かな三つ編みで肩から垂らされている。それは理想的な花嫁の姿そのもの。  そんな小さな娘が、俺を見上げ恍惚と近寄ってくるのだ。  そんなこの上ない幸福が、同時に毒蛾の罠に思えてならなかった。  二歩と進まないうちベッドに行き当たる。  これ以上近づかれば、俺は逃げられない。 「う、あ、ああああ!!」  衝動的に俺は叫んでサヤを突き飛ばした。キャッと、陶器のぶつかったような声が上がる。それにも構わず、俺は魔女から逃げんとベッドをよじ登り這い出した。必死だったのだ。  そして俺が、三度目手をつこうとした瞬間。 「痛いじゃないか」 「わっ!?」  突如仰向けに叩きつけられた俺は、見えない腕にベッドへ押し付けられ、あとはもう微塵も動けはしなかった。  ベッドの向こうでは、イテテ、と埃を払う音。  続いて、ゆっくりと衣擦れの音が近づいてくる。 「ダメじゃないか、女の子を突き飛ばしちゃ。そういうのDVって言うんだよ? せっかくの初夜だっていうのに。……ふふっ、でもボクは怒らないよ。キミがそういうことするって、わからないボクじゃないもの」  サヤの魔法で、見えない手が俺を押さえつけていた。がんじがらめにベッドへ縛り付けた俺を、ゆっくり覆っていくドレス型の影。逆光でよく見えないサヤの口に、けれど、美しく狂った笑みがあることはわかっていた。  花嫁が、ゆっくり俺の上に這い上ってくる。  わさわさと音を立てたフリルの海に、徐々に体が飲まれていく。  そして、天を仰ぐ視界に少女の小さな顔が映ったと思うと。  柔らかな唇が、俺の口にのしかかったのだ。  初めは優しく、乾いた俺の唇に少女の肉厚なリップが広がった。夫とのキスの喜びに少し震えると、上唇を、下唇を、プルプルの口元が甘く食み始める。嫌がろうにも嫌がれない、極上の接吻に俺は引きずりこまれるばかり。 「あむ、ぅ、んっ……♡」  ねっとりと唇を舌先で潤され、トントンと突き、それから一気にねじ込まれる。くぐもる男の声も、女の発情した喘ぎに隠された。サヤの手は、何度も何度も頭を優しく撫でる。そこから感じる愛は本物。その愛情を、拒絶できない俺がいた。脳に渦巻く葛藤も、娘のトロトロした舌で舐めまわされた。口内を犯され、触られたくない口のあちこちを撫で回され、ただただ美少女にされるがまま。俺の7割程度の体重しかない、そんな小さな体に乗っかられ、好き放題口内を舐めまわされるのだ。  それに、どうしても下半身は熱くなってしまう。  スカートを俺の上に広げ、その影で、少女の膝先が俺の股間に触れる。身を乗り出し俺の口を貪り、その度サワサワと言うドレス、その白いストッキングにガーターベルトさえ、俺の体を襲っていく。  そうだ、この、この媚態。この女性性。極上の体つきをした少女に、俺は争うことが出来ない。  脳内に響く、唾液の水音がクラクラさせた。魔法で腕を封じられ、片手で頭を撫でられ、頰を撫でられたり、胸を撫でられたり。大の男が泣きそうになりながら、ただひたすら小娘に慰みものにされていた。  心ゆくまで、サヤにキス責めにされる。  それから充分時間がたち、やっと口を離してもらえた時、俺はもう息も絶え絶えになっていた。  ぷはっと音を立てて、サヤが唇を離す。トロンと恍惚の表情で俺を見下ろし、ねろりと唇を舐め上げ、それでも俺から視線は外さない。  そんな様から、俺も目を離せずにいた。蕩けた顔、上気した頰、潤んだ瞳に男を求めるメスの顔。  キスの後のサヤは、美しくエロかった。  しかしベルトを弄る金属音がした途端、俺は思わず青くなる。 「な、何をっ……!?」 「何? 何って、ナニさ♪」  カチャカチャとベルトを外され、無抵抗のままスラックスを下げられる。 「……あはっ♪ やっぱり嬉しいんじゃないか♪」  笑声に淫らな狂気を漂わせ、サヤは俺を裸に剥いていく。服をもぎ取られ、不遜な下僕に不相応な衣装をはぎ捨てるのだ。そして、彼女が見出したのは、フリルスカートの帳の下、みっともなくサヤを求め屹立したペニスがあった。  薄暗い中、ガターベルトと太ももの間で膨らんでいたそれは、間違いなく俺の興奮を告白していたのだ。 「切ないだろう? ボクが欲しいだろう? 我慢することはないよ。大丈夫、美味しくいただいてあげるから……」  サヤの待望の時。うっとりと頰を染め膝立ちにそびえ立つと、純白の少女は己の清純さを解いていく。本性を見せ出したのだ。ショーツからはすでに一筋、緊張とも興奮とも取れる水滴が垂れ落ちていた。スカートの隠し部屋の中は、その白さ、清純さからは想像もつかないほどに少女のフェロモンが立ち込めて蒸し暑い。  そんな様を、膝立ちでサヤは見せつけた。  血色のよくなった生の太ももにガーターベルトをはべらせて、ほんのり染まったショーツを見せつけたのだ。  それから、ゆっくり大事な下着をずり下ろしていく。  それは、純潔と処女性を体現したウェディング姿からは最もかけ離れた、極度にエロティックな行為だった。ストリップのように、淫らに己の脱衣を見せつけていく。縛り付けた男に、無理やり恥部を見せつける行為。そんな行為に、確実にサヤは興奮していた。俺の視線を釘付けにする、その支配感と愛欲に身を痺れさせながら。  俺の目の前で、湿った下着は太ももの上を転がり、クシャッと丸まっていく。そうすれば、真っ白な太ももが、その付け根が、鼠蹊部のV字、滑らかな白い下腹部、その全てが現れ、秘めるべき場所さえもう隠すことはない。そしてサヤがひざ下までショーツをずり下ろせば、もう秘部は丸見えだ。少女のまんこはほんのりピンクに色づいて、練り菓子のように一条走ったスジが美しい。しかしもう表面は濡れていて、トロみある輝きを放っているのだ。  思わず息を飲むような美しい女性器。  しかしそれが、俺を犯し倒そうというサヤの淫部だと気づけば、途端俺はもがき出しなんとかその魔の手から逃げようとした。  が、悲しいかな、それが不可能なことは、本能がわかっていた。  無様な姿を晒し暴れる俺に、余裕の表情でサヤは覆いかぶさる。  そして、ぽそぽそと声を潜め耳元で囁いた。 「ふふっ♪ 無駄だって気づいてるの、ボクにはわかるよ? それでも無駄な抵抗しちゃうの、すっごく可愛い♡ これから、キミをたーっぷりぶち犯してあげるよ。結婚当日花嫁に逆レイプされた、世界で一番惨めな新郎にしてあげるんだ……♡」  そして、ゆっくり腰を下ろし始める。 「いやだ、こんな初夜、あ、ありえない! 訴えてやる、この、このイカレ女!!」 「なんとでも言うといいよ♪ ボクは喚いてるキミがすっごく可愛くて可愛いくて仕方ないんだ♪ 嬉しいくらい泣き叫んで、誘ってるのかな? じゃあ言う通りにしてあげる♡」 「つきまとわれて、結婚させられて、犯されて……。こんな、こんな惨めなこと、いやだ、いやだいやだいやだ!!!」  スウィートルームに俺の叫びが響く。  が、緊縛され無防備な俺に、抵抗権はない。  そうするうちにも、みるみる少女の割れ目は降りていく。 「やめろ、やめてくれえっっ!!」 「やーだよっ♪」  そしてまさに、サヤのスジとペニスの先端が触れようとした、その時。  ピタリと花嫁は腰を止めた。 「……、そうだった」 「……え?」 「さっき、ちょっと痛かったんだよね」  笑みの音を漏らし、小さく言葉を零したサヤ。  蒼白になって謝り出す俺の口を、そっと指で黙らせると。 「これはちょっと、躾が必要かな?」  そして、これまでずっと我慢していた、とっておきのお仕置きを始めたのだ。  縮小の刑。  俺から、体格差という最後の優位さえ奪い去る。最低最悪の刑だった。   §  泣き叫んで許しを請うも、サヤの脚の間、男の体はみるみる縮んでいった。 「縮んでいくキミも素敵だね。これでキミは、ボクから絶対に逃げられない♡」  覆いかぶさる花嫁の下、俺は怨嗟の声を吐き続けた。見上げるのは、履き直されたショーツの天蓋と、ニマつく恋狂いの美貌だけ。  生活も、自由も、尊厳も、何もかも奪われた挙句体まで掌握される。ただ愛されてしまっただけで、ヤンデレ娘に全てを握られてしまったのだ。こんな不条理、到底許されるはずがない。一方的な愛の押し売りはもはやとどまることを知らず、今からは丸腰同然の体格差で逆レイプしようと言うのだ。  しかし同時に、体格差は本能的な恐怖を呼び起こす。男であれば知る由もない、自分を圧倒する体格差。それが、性別を逆転させ、子供と大人、そして、赤ん坊と母親の体格差へと広がっていく。  初めて知る恐怖と畏怖。震撼を、禁じ得ない。 「どうだい? 怖いかい? 重いかい? さっき突き飛ばしたボクの軽さとはもう比べ物にならない。余裕がなくなってきて、まるで吠える駄犬だね♪」 「てめぇ、こんな、くそ、クソクソクソ!! 殺してやる! 殺して、いや、死んで、いつか、絶対、絶対罰が……」 「ふふっ、駄犬の勢いも無くなっちゃたみたいだ。つれないなあ、もっと元気よく吠えてよ。つまんないキミなんて、全然面白くないもの」 「うるさい!! この、強姦魔め……!」 「あはっ、嬉しいことを言ってくれるね♡ じゃあ、ウェディングドレスのまま犯されちゃうのはどこの男の子かな? キミはもう一生ボクのペットさ。結婚しちゃったんだから、当然だよね? 泣いたって無駄だよ? これは初夜なんだから。愉しまないと♪」  俺の上に覆い被さった少女は、勝ち誇った恍惚顔で囁いた。耳を甘噛みされる、顔を舐め回される。どんなに押しのけたって意味はない。今やサヤは俺の3倍、27倍の体重は乳房だけで俺を超えていた。嬰児が母親を突き飛ばす以上に不可能だ。俺は今、レイプ魔と化した新妻から逃げられない。しかも、体格差は加速度的に開き続けているのだ。  花嫁の巨体を押しのけようとしても、ぴっちり締め付けられた豊満なバストに押し返されるだけ。その巨乳で下半身はぺったんこ、足はすべすべしたドレスのお腹に下敷きになり、長い白手袋に絡みつかれた体は手の重さだけで動けない。サヤの三つ編みさえずっしり重いのだ。裸の細い肩が、少女の麗しいとろけ顔が、面積9倍の迫力で圧倒した。  がっしり魔女に抱き着かれれば、腰は完全にバストで下敷き。その圧力にはただただ絶望感を覚える他ない。  キュッと締め上げられたお腹が俺の脚を押しつぶした。そして動けないところを、色っぽい唇が、無茶苦茶にキスで俺を埋め潰す。パクリと頭さえ咥えられそうな唇が、肉厚の花弁を俺に押し付けるのだ。すぐ顔はどデカイキスマークで埋め尽くされた。それでもサヤはやめない。肉で出来た枕のようなむちむちの唇が、何度も何度も俺に吸い付くのだ。 「可愛い、すごく可愛い……! 子供ができたみたい♡」  ぺたんと女の子座りになったサヤは、眼下の縮小劇を色っぽい眼差しでみおろしていた。  あれよあれよという間に、膨らんでいくベッド、世界、狂女。  俺は赤ん坊へと、人形へと、小鼠へと縮んでいく。  そして縮小が止まると、まるでハムスターでも持つようにつまみ上げ、手の中で縮んでいく俺の胴の細さに感嘆の声を漏らす。 「とりあえず、100分の1くらいかな? ああ、なんて可愛いんだろう♪ 食べちゃいたいくらいだ。ふふっ、大好き、大大、だーいすき♡ ……ボクはこんなに愛してくれないのに、なんでわかってくれないのかな? でももう安心だ。だってキミはもうボクの花婿♪ 二人の仲はみんなも法律も認めてくれる♪ だから、これからゆーっくり時間をかけて、キミを……」  躾けてあげるんだ。  そう彼女は言った。  断崖絶壁から突き落とされた、そんな恐慌に貫かれる。 「こんな……こんな人生嫌だ! イヤだイヤだイヤだ! 殺してくれ! お願いだ、殺してくれ!!」 「あはっ♪ 死ねば逃げられると思ってるのかい? 死ねると思ってるのかい? ううん、死んだって魂がボクの魂から逃げられる訳ないじゃないか! だって今日は結婚初夜。ボク達の魂は永遠に結ばれたんだ♪」  堪らない、とでも言うように、喉奥から病んだ笑いを漏らすサヤ。その言葉に、胃の底が寒くなる。目前の100倍花嫁は超然と聳えたって、これ以上なく美しく扇情的だ。一生忘れられないほど蠱惑的な美少女だ。しかしその現実離れしたほどの美しさが、俺の魂を縛る魔性に思えてならなかった。 「ヒッ……!」  サヤが美しくて、美しすぎて、思わず俺は後ずさる。  そして、弾かれたようにシーツの海を駆け出した。けれど荒波のようなうねりは行く手を阻み、小さな小人を嘲弄する。サヤの巨体でねじれ乱れたベッドのシーツ。そこに残る少女の香りが、どこまでいってもなくならない。 「あはっ♪ 逃げようたってそうはいかないよ? だってボクらは夫婦♪ 死ぬまで、ううん、死んだって一緒さ。キミは死んだってボクから逃げられない。これからたっぷり教えてあげるよ……♪」  まるで雪化粧したモンサンミッシェルのような、サヤのドレス姿。それがわずかに重心を移すだけで、地面は大きくたわみ足をすくった。  そうすれば、コロコロと蟻地獄のように俺は少女の元へと押し戻されていき……。 「ふふっ、健やかなる時も、病める時も……、ってね♪」  巨大な蜘蛛のように、俺に襲い掛かる真っ白な手。  白手袋の感触に包まれ、その快さに思わず気が緩んでしまう。 「バカな子だね、逃げられると思うのかい? そんな体で? ふふっ、ボクから逃げられるはずないんだって、分からせてあげる……♪ そうだね、どこがいいかな……?」  すべすべの白手袋で俺をこねくり回しながら、うーんと思案顔を作る。  そして、フッと微笑むと。 「ボクのでっかいおっぱい、たんと味合うがいいよ♡」  俺を、その凶暴な乳の中にねじ込んだのだ。


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