SamSuka
夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


hunny bunny scramble

§  こんなところ来るんじゃなかった。  最初に思ったのはそれだった。  高級感あるフロアに、煌めくシャンデリア、流れる音楽と、欲望のたぎる音。  カジノなんて場所、自分が来ることになるとは思わなかった。いや、来るべきじゃなかったと言うべきかもしれない。今世紀最大級の場違い感にどぎまぎしながら俺は、どうしたら良いかもわからず右往左往するばかりだ。  初めてのギャンブル場で、借りてきた猫のようにあたりをうろつく。バニーガールが当たり前に歩き回っているのにギョッとすれば、にこやかにカクテルを勧められぎこちなく受け取ったりもした。  そして、ルーレットやマシンゲームを冷やかした後、ようやくブラックジャックの卓を見つけたのは足を踏み入れてから30分は経った頃だった。 「参加なされますか?」  女性ディーラーの声に、おっかなびっくり頷く俺。  あとは、流れに身を任せる他ない。そう思ったのを覚えている。  思えばこのとき、既に俺は場に流され始めていた。  テーブルに札束を置く。  その時までは良かったのかもしれない。  手探りで慣れない賭けに打って出る。  そこまでも多分よかった。  タガが外れたのは、勝ち始めた時。  心もとない量だったチップが、みるみる膨れ上がり始めた時。  そう、俺は、勝ちに勝ってしまったのだ。 「勝った! 次だ、次のゲームをしよう!」  一瞬。俺はこの世の王者の気分だった。  何をしても出せば増える。増えればさらに増え、まるでチップが自己増殖していくようだ。 「ベットしますか?」 「ベットしますか?」 「ベットしますか?」 「もちろんだ」  得意顔で俺は言った。片手に酒、片手に葉巻。慣れないものに手を出せば非日常感はグッと増す。コイーバの煙を燻らせ、古木のような喫味を楽しむ。或いはグラスになみなみとマッカランを注ぎ、均整の取れた琥珀色を雑に喉に流し込む。……普段ならアランやグレンアラヒ―の華やかな香りをゆっくり楽しむところだが、箔が付かない気がして思わず見栄を張っていた。思わぬ勝ちに舞い上がっているのは確かだった。  だったのだが。  下卑た笑顔がひきつるまで、そう時間はかからなかった。 「ベットしますか?」 「ベットしますか?」 「ベットしますか?」 「……もちろんだ」  減っていくチップの山を前に、けれど虚勢はむしろ加速していく。  金がチップに形を変えているのもよろしくない。それが現金と等価であることを分からなくなるのだ。  頭に血がのぼった時点で負けは確定していた。そして、チップが底をつくまでもそう時間はかからなかった。  バカだった。勝ちと負けが表裏一体であるここでは、プラスとマイナスの境界さえ揺らいでいく。負債はその分儲けの可能性を示していた。だって隣のこいつは稼いでるじゃないか。これだけ負け込めばそれだけ勝てるかもしれない。そんなことさえ本気で思ってしまったのだ。  旅費や貯蓄までつぎ込むまではあと一歩だった。  そしてそれも瞬く間に溶けた時。 「あれしかないか……」  脂汗を流しながら、足を向けたのは場内の一角。  すっからかんになった人間が、最後にたどり着く場所だった。 「1㎝が1000$……なんだこのレートは」  法外と言って良い、もちろん、安いという意味で。バカにしてるのかと喚きたいくらいだ。  だが。 「……10㎝で」  背に腹は代えられなかった。  俺は、身長を売ったのだ。    もう、売るものなど体しかない。しかも男の身の上となれば、後は内臓くらいしかなかったのだ。  痛いのは嫌だ。  内臓を売るのはもっと嫌だ。  その分身長などというものは印象と腕力にはなるかもしれないが、少しくらい縮んでも生活に支障はない。第一、子供だってまともに暮らしているのだ。  だから。  バカげたレートへの怒りもどこへやら。  10㎝縮んで扉から出てきたときには、実に晴れやかな気持ちだった。  これでまだ戦える。そうしたら身長も取り戻せて、今に俺は億万長者だ……!  少し高くなったテーブルに着き、俺は意気揚々と金持ちごっこに興じていった。  ……バカだった。  身長という大事なものを失った分、一刻も早く取り戻さねばという思いに押し流されていった。歯止めが効くはずもない。頭の底が冷たくなっていくが冷静にはなれず、いや、冷静になればこそ、このままでは心理的にも物理的にも帰れないとわかってしまうのだ。 「ベットしますか?」 「……ベットしますか?」 「本当にベットしますか?」  大損なのは言うまでもない。カモにされたのかもしれない。あるいは小細工でもされたのか。しかしそう訝しんだ頃にはもう俺は、のっぴきならない事態にまでなっていた。 「ベットだ!」  椅子の上に立ち、テーブルからわずかに顔だけ覗かせるみっともなさと言ったらない。見かねたディーラーが、バニーガールに代打を命じる始末だった。クスクス笑われながら、高身長バニーガールの膝に乗せられる屈辱。それでもテーブルは見えず、立ち上がれば豊満な乳に遮られる。結果、周囲の客にもバニーにもニヤニヤされつつ俺はテーブルに座り込み、バニーの持つカードと睨めっこする羽目になった。  もう、一歩も引きさがることはできなかった。  俺は賭けた。いや、賭けてもらったというべきかもしれない。母親に読み聞かせをしてもらう子供のようにバニーガールの膝に乗り、手札をめくってはチップを出してもらうのだ。  しかし、思考力を奪うのは少女のかぐわしい香り、ツヤツヤですべすべのバニースーツとストッキング。挙句上空では“たぷんっ♡”とミルクの音さえ聞こえてきそうな爆乳がエナメルのパッドからあふれ出し、集中力を削ぐのだ。  負けた。  負けに負け込んだ。  試合にも、勝負にも、女体にも。  網タイツのむちむち太ももに立ち、時にはそのすべらかな肌に滑ってこける始末。乳房のひさしとテーブルの隙間からカードを覗き、けれど甘い香りは脳髄に染み込み離れない。  勝てるわけがなかった。  そして、負けるごとにバニーに身長交換所まで連れ去られ、一層巨大になった彼女に連れ戻されるのを繰り返したのだ。  結果、現れた光景は。  テーブルの上に立ち、裸の体を娘のスカーフで隠す俺。  自力でカードをめくろうとし、その大きさに負けてはぶちまける俺。  マンホールのようなチップを抱え、自分より巨大な手にもぎ取られてしまう俺。  そして、周囲にクスクス笑われながら。  いつしか俺は、もうカードと大差ない大きさにまで縮んでしまっていた。 「クソっ! クソクソっ! なんでこんなことに!!」  同じ男として俺の醜態に見ていられなくなった他の客は去り、周囲をぐるりと取り囲むのは着飾った美女たちだけ。それが一様に俺よりデカい乳と美しさを誇ってはテーブルに身を乗り出し、クスクスと俺の矮躯を笑っているのだ。もう、10分の1サイズの俺は見世物も同然。挙句の果てには、女性ディーラーすら憐れむようにせせら笑う始末だった。 「……カードをめくってくれ」 「ダメですよ~♡ お客様がめくらないと不正を疑われてしまいますからね~♪」  紅茶色の髪を豊かに背に伸ばしたバニーガールは、もはや嘲笑の色を隠そうともしない。そして小悪魔じみた顔で眉を悩ましげによせ、10倍の躯体で超然と俺を見下ろすのだ。うさ耳や蝶ネクタイといったふざけた格好も、もう俺を馬鹿にしているようにしか見えない。第一、なんでこの格好は袖と襟だけあって他はないんだ!? 「ほらほら~、めくらないと始まりませんよ~?」  悪魔のような天使の微笑みで、バニー娘は俺を笑った。  ……それが、美しくないはずがない。  実際彼女は、悪魔じみた美しさだったのだ。  スラリと高い身長に、すこし童顔寄りの愛らしい顔。なによりその体は豊満で、Gカップは超えそうな爆乳が目の前に膨らんでついつい視線が吸い寄せられる。バニースーツのM字の切れ込みが大きく膨らみ、そのデカさを主張するのだ。  それに気づいたのか、誇るように胸を張れば“たゆゆんっ♡”と揺れるまんまるおっぱい。一瞬それに自失してから、馬鹿にされたことに気づいた俺は苦々しく視線をもぎ離す。 「くっ……!」  もはやベッドのような大きさとなってしまったカード、それを前に俺は立ち尽くす。そして、歯ぎしりしながらそちらへ歩み寄った。  歩み寄ったのだが……。 「あはっ♪ 私疲れちゃったかも~♪」  俺がカードを持ち上げようとしたとき、突如ぐらりと揺れたのは15mもの巨体。それが、こちらへ一気に倒れ込んだのだ。そうすれば、続いて降ってきたのはどたぷんおっぱいだった。ぎっちりバニースーツの中に詰め込まれたそれが俺へと叩き込まれようとしているのだ。重々しく吊り下がり今にもまろび出てしまいそうな爆乳、その球体が視界の中でみるみる膨らんでいく。そして1トン以上もの乳重で飛び込んできて──!


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