SamSuka
夏目なつめ
夏目なつめ

fantia


少女は女神の階段をのぼる(中編)

§  朝起きると、沙希の姿が見えなかった。    まさか、羞恥心に負けて雲隠れしちゃったんじゃ。 「沙希!? 沙希、どこに行ったの!?」  思わず母親を探す赤子のように叫ぶ僕。それから、ハッとして落ち着きを取り戻す。未だ舌に残る甘い香り。それにまだ狂わされていたのかもしれない。 「沙ぁ希ぃ! どこなのったら!」  落ち着いて、けれど一層情けない声で少女を呼ぶ僕。隠し切れない不安で、幼馴染の姿を探した。  けれど、次に響いてきたのは。 「待ってて~、今開けるから」  間延びした、幼馴染の声だった。  次いで、突然天井が開けば。 「やっほー」  腐れ縁が顔を覗かせたのだ。  更に、巨大な姿となって。  まるで虫箱を覗き込むように、僕を見下ろしながら。 「ごめんごめん、ちょっと大きくなりすぎちゃって、隣の部屋に移ることにしたんだ」  僕に手を伸ばすと、胴を鷲掴みにして持ち上げてくれる白ワンピース姿の沙希。  見下ろせば、そこにはこれまで暮らしてきた部屋の天井。どうもこの家、たくさんの箱をつなぎ合わせた形になっているらしい。 「この家、こうなってたんだね……」  それは、倍々ゲームで隣の部屋が大きくなっていく部屋だった。というより、大きな100倍サイズの部屋を半分ずつ仕切って行くというのが正しいのかもしれない。そして、再び成長してしまった沙希は、より巨大な一室へと身を移したのだ。  それほどに、巨人種娘の成長は速い。ものの数日で沙希は倍の大きさになってしまう。そうして、どんどん僕を置いて行って、最後には……。  そして気づく。  僕を抱く沙希の胸、それがもうほぼ完全に僕を包み込んでしまっていることに。昨日まではバランスボールほどだったおっぱい、それがいまや大玉転がしのようなスケールとなって、僕を挟み込んでしまっている。もう視界はおっぱいに覆い尽くされて顔さえ見えはしない。  僕はもう、パーツごとにしか沙希を認識できないのだ。 「ほらボク、ちゃんと立てる~?」  地面におろしながら、小さな僕を囃し立てる巨大美少女。そうすれば次に現れたのはすらりとした美脚だった。それももう、僕には白い塔のようにしか見えない。  だが、そのサイズ感に衝撃を受けているのは沙希も同じだった。 「……もう、私の膝にも届かないんだね」  そういって僕の隣に立とうとする沙希。  そうすれば、白ワンピースの中から掲げられた足は大きく天を覆い隠し。  “ズドンッ!”と、大きな音を立ててすぐ隣へと振り下ろされるのだ。 「ひっ!?」  一瞬フラッシュバックするかつての巨人の足。それが沙希の美しい足裏と重なって、圧倒的な僕の無力を笑う、蔑む。美少女の素足という巨大な鉄槌、そんなものが一直線に降ってきたものだから僕は反射的に逃げ出し、後は身を丸めて震えるばかりだった。  ガタガタと震え、うずくまる僕。  自分を本能的に恐怖する矮躯を見下ろして、沙希はどうしたらいいかわからないようだった。そして、僕に近寄ることも出来ないまま、 「もう、怖がらないでよ」  困ったように、そう言った。 「ご、ごめん……」 「……謝らないでよ」 「……」  気まずい沈黙。沙希が、ショックを受けているのが気配で分かる。  ダメだ、沙希を支えるって、そう決めたのに。  僕は自分を叱咤して立ち上がる。そして、沙希の脚に近寄ると。 「身長、測ろっか」 「……うん」  そう言った。  半ばルーティンとなりつつある身体測定。仕切り直しといった風に僕らはメジャーを柱につるし少女の巨体を測りにかかる。 「ほら、持ち上げるよ? ……落ちないでよね、私の肩から落ちて骨折とか、面白くないもん」 「はいはい……」  未だ震える体で、促されるままに沙希の肩に乗る僕。  けれど。 「……沙希、もうここからじゃ見えないよ」  沙希の頭と背比べして、自分が負けていることに気づくのだ。隣にいる形のいい耳にそう伝えると、ただ沙希は一言。 「……そう」  何とも言えない声音で呟くだけ。 「ちょっと待ってて」  そして僕を頭の上に乗っけると。 「なら、これなら見れるでしょ」  恥ずかそうに、けれど僕をしっかりそこに押さえつけて言うのだ。  沙希の黒髪、その艶やかでいい香りのする大地にしがみつき、僕は目盛りを見定めて。 「……815.5㎝」  衝撃的な数字を、ありのままに伝えた。  絶句したのは僕だけじゃない。沙希はしばらく黙ってから、 「…………優、落ちないでね」  少し低い声でつぶやくと、 「もう、私から落ちただけで死んじゃうんだから」  そう、自嘲するように言うだけだった。  ⁂  身長差が、僕らを引き裂こうとしている。  僕らを、幼馴染ではいられなくしようとしている。  そんな焦燥感だけが、僕らの唯一共有しているものだった。  けれど沙希は、その帰結に感づいているようで。  ……時々、切なそうに僕を見下ろすことが増えた気がするのだ。  例えばそれは、こんな時。 「そうだ、部屋にこんなの置いてあったから、渡しとくね」  それは、小人用のスマホだった。沙希の手にも巨人種用が握られている。 「これで遊ぼうってこと?」 「それもあるだろうけど、やっぱりコミュニケーション用かな?」  つまりは、機械を通さないと意思疎通できなくなるということだ。当たり前だった。だって既に沙希の身長は3階建てほど。マンションの下から叫んで、4階の住人に声が届くだろうか? そろそろ、限界が迫っていた。  沙希もそれに気づいたらしい。ハッとして口をつぐむと、一瞬暗い顔をする。自分たちの趨勢が、見えた気がしたのだ。 「……踏まれそうになったら電話してね」 「たぶんその時には遅いと思うよ」 「踏まれてからでもいいよ」 「踏む前に気付こうね」  善処しますとだけ言って、しばらく手の中のものをこねくり回す沙希。なんとも曖昧で切なげで、けれど同時に、知ってしまいたいといった不思議な表情。  それから、そんな気持ちをごまかすようにこちらにカメラを剥けると。 「はいチーズ」  カシャリと一枚、写真を撮った。 「ふふっ、私にとっての優だよ」  そこに映っているのは、細長い何かだった。  普段見ることのない俯瞰視点。一緒に映りこむむちむちとした胸や太ももと比べて、それは不安になるほど小さくて。    これが、僕?  この、ペットボトルみたいな小さなものが?  それは、とてもじゃないが同じ存在には見えない何かだった。 「……」  衝撃を受ける僕を見て、沙希はどう思ったのか。 「……優が小さいんじゃなくて、私が大きいんだけどね」  しゃがみこみ、頭を撫でてくれながら。  曖昧な笑みで、僕を見下ろすばかりだった。 「大きな私、怖い?」 「そんなことあるわけないだろ」 「……そう」  はにかんだように笑う沙希は、可愛かった。  それから恐る恐る僕に手を伸ばすと。 「ほら、つかまえた♪」  パクッと食べるように、僕に指を絡めてしまうのだった。 「ちょっと、人を鷲掴みにしないでよ!!」 「ふふっ、もう優なんて一掴みなのだよ」 「怖がってほしいのか!?」 「……どうだろうね」  むにむにと僕をくすぐり、身をよじってくすぐったがる小人を愛でる沙希。  そうしてしばらく、僕を人形代わりに弄んだ沙希は。  何を思ったのか、自分の手のひらに僕を座らせた。 「もう、手のひらにも座れるんだね……」  立ち上がり、感嘆するような声を出す沙希。だが僕は、それどころじゃなかった。 「待って、こ、これ、怖い……!」  少女の手のひらはすっぽりと僕を包み込み、安定感は申し分ない。けれどこの高さだ、僕は必死に沙希の親指にしがみつき、下を見ないようにしていた。 「……もうっ、女の子の身長を怖がるなんて失礼だよ?」  手の中で怖がる幼馴染を見かねたのか、そっと両手で僕を包んでくれる。安心するその柔らかさ。ずっしり重い手のひらが安心毛布のように僕を圧し包み、ほっとさせてくれた。  そんな僕を、沙希は苦笑したように見つめる。 「……」  実際のところ、自分の手の中に幼馴染が収まっているというのはどういう気分なんだろう。  僕のサイズ感を探るように、微かに動く沙希の指。撫でたり、握ったり、突いたり。  そして、出来心だろうか、僕に指を這わせ始める。  小人の大きさを確認するように、ゆっくり、しっかり、僕の輪郭を触診していくのだ。 「……沙希、なんか、怖いんだけど」 「そう?」  軽く流しながら、けれど少し汗の浮かぶ手のひら。繊細な少女の指先がこそばゆくて、僕は身悶えしながら段々息が荒くなる。沙希の指が、服の中に入りこみ、くすぐり、押し倒す。  そして何かに気付いたのか、服を引っ張ると。 「さ、沙希っ!?」 「……」  わざと僕の抵抗を誘うのだ。 「やめて、沙希、苦しい、お、重いよ……!!」  けれど5倍少女はやめてくれない。僕の苦しげな表情さえ楽しむように、少しずつ、少しずつ小人を追い詰めていく。  僕は必死でそれを押し返そうとするけど、無駄だ。5倍少女の指は一本一本が僕の腕よりも大きく、力強くて、とうてい太刀打ちできる相手じゃなかった。 「……」  妙に湿度の高い表情で見下ろしながら、僕が自分の指に凌辱されていく様を見守る沙希。男子の全力の抵抗があまりに微弱になってしまったのを、指先に感じて。何か、いけないことを知ってしまったような顔をするのだ。 「……優、ダメだよ、そんな顔しちゃ」  豹変する自分に怯え切った、小さな小さな同居人。服をはぎ取られ、全身を愛撫され尽くし、涙目で喘ぎながら何もできない。指一本、そう、指一本押し返せないのだ。あっという間に服を暴かれシャツもズボンもズタズタ、涙目になりながら愛撫に耐える僕は、集団で犯されたも同然の姿になり果てていた。  そして、そんな僕に沙希は頬を紅潮させて。 「ふふっ、優、弱っち……♡」  そっと、唇を近づけるのだ。 「沙希!? だめ、ダメだって、あ、ああ……!!」  麗しい少女のキス顔、それが視界を覆い尽くしたと思えば襲ってきたのはぷるんっとした柔らかさだった。吐息が股間を撫でた次の瞬間には、少女の唇が胸いっぱいに広がったのだ。胸にぎゅっと押し付けられた少女の柔らかリップ、その感触だけで僕は強制的に興奮させられてしまう。  そして、チロッと舌先が肌を撫でたと思えば。 「……♡」  “れろぉ……っ♡”と、顔まで一気に舐め上げるのだ。


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