SamSuka
デアカルテ
デアカルテ

fanbox


MGガール07「中2:③腕輪」

「最近、ご飯食べる量を増やしたりした?」

「うーん。特に増えてない、と思うんだけどなぁ」

僕の指摘で普段の食生活を思い返し、思案している。

真理奈も、自身の体重がニア100kgなのはショックだったようだ。


身長170cmとはいえ、“少し逞しい”ぐらいの女子が、体重98kg。

幾ら、僕らが中学生の知識や頭脳でも、おかしい事ぐらいはわかる。


真理奈からヒアリングした普段の献立は、特に変わった所は無かった。

いつの間にか、一食で三人前をペロリ、とかいったことも無く。


確かに、ご飯やおかずの数はウチの食卓よりは多いけど。

それでも、育ち盛り、で説明が付くぐらいの差でしかない。


「何か、忘れてる気がする・・・」

何だろう。頭に靄が掛かっている気分。


「・・・・・・・」

何か“切っ掛け”さえあれば、もう少しで思い出せそうな、感覚。


「・・・ん」

「どしたの」

僕はふと、真理奈の左手首に光るモノに注意が行った。


「そう、いやさ。“それ”、いつから付けてたんだっけ」

「これ? えーっと、いつからだっけか・・・」

真理奈の左手首に装着している、ブレスレット。

宝石とすら呼べない、燻(くす)んだ赤い石の付いた、腕輪。


「それ、貸してみて」

「うん、良いよ」

僕は、真理奈からブレスレットを受け取り、左手に嵌めた。


「それ、何かあるの?」

「う、ん。いや、でも・・・」

僕は何か掴める。もしくは、思い出せるかと期待したが・・・。


「そう、だ」

「・・・?」

僕は、台所からリンゴを手に取って戻って来る。


「んぅ・・・っ!」

右手で、リンゴを力一杯握り締める。


「ダメ、か。じゃあ・・・」

今度は、左手。


「はぁ、はぁ・・・」

手を替えた所で、僕程度の握力でリンゴは傷一つ付かなかった。


「真理奈、潰せる?」

「良いの? じゃ・・・」

バグシャ。


「はい」

「・・・・・」

真理奈に手渡したリンゴは、ホンの数秒で果汁に変わった。


「うーん、違ったか・・・」

てっきり、僕はこの腕輪に原因となるような何か、があるんじゃないかと思った。


例えば、特撮ヒーローや変身ヒロインみたいな。

そんな『超パワー』がゲット出来るアイテムだったり、とか。


「・・・ん、いや」

僕は、勘違いをしていた。


真理奈にもし、“何か”があって、今の身体になっていたとして。


このシンプルなデザインの質素な腕輪も、原因ではなく。

真理奈の身体同様、“結果”なのだとしたら。


真理奈は、この腕輪を“いつから”着けていた?

そして、その時に何があった・・・?


「・・・裏山」

そうだ。確か・・・。


「裏山行ってから、それ着けるようになったんじゃなかった?」

「そう、かも」

あれは確か、小学四年生の・・・。


団地の裏にある山。文字通りの、裏山。

かつて在ったそれは、今はもう存在しない。


近隣で大雨の土砂災害が続いた時に、何かあってはと裏山が調査対象に挙がった。

その時の調査で崩れ易くなっていることが判明し、宅地開発で潰されたのだ。


実際のところ、“一度崩れてから盛り土した”かのように、地盤がユルユルだったらしい。


「ねぇ、腕輪さん。私の身体って、何処かおかしいのかな?」

僕が考え事をしている間、手持ち無沙汰だったのか、真理奈は腕輪に話し掛けた。


『何処もおかしい所はありません。至って、健康です』

「「っ!!?」」

何の変哲もない腕輪から、まさかの返答。


「それ、スマートウォッチか何かだっけ?」

「さぁ、知らない」

電子機器が発達した現代、時計型の電子端末も存在する。

スマホと同じ『OS』が組み込まれ、あたかもパソコンのように動作する。


「あなたは何ですか」

真理奈は、悩む僕を尻目に思い切りストレートな質問をぶつけた。


『“自立支援型携帯端末”です』

「「・・・・・」」

スマホに搭載されている『AI(人工知能)』とかだと、もう少しウィットに富んだ回答をしそうなもんだけど。

至極、当たり前というか。普通の回答で、逆にビックリしてしまった。


「充電とかどうなってるの?」

もし、この腕輪が『呪いの腕輪』的なオカルトじゃなく。

機械的な端末だったとして。何で動いているか、が気になる。


『太陽光や、酸素。水などから動力を得ています』

「それって、電源フリーってこと・・・?」

科学が進歩して、どれだけ端末が小型化しようとも。

スマホであれ、スマートウォッチであれ。電源に繋いでの充電は必須・・・だと思う。


それこそ、空想科学とかの『永久機関』になるんじゃ・・・。

オカルトでないのなら、『超科学』としか・・・。


「ねぇ、真理奈。それ、何か怖いから捨てちゃおうよ」

「・・・嫌」

即答。

いつも僕に好意的な反応しかしない真理奈が、即拒絶。


「これ、お気に入りなの。いくら健ちゃんの頼みでも、ダメ」

「いや、でも・・・」

その腕輪には、得体の知れない何かを感じる。


「・・・わかった」

「っ! それじゃ・・・」

僕のお願いを聞いてくれる気になった、かと思いきや・・・。


「私に“腕相撲”で勝ったら、健ちゃんの言う通りにする」

そう言って、真理奈はテーブルの上に右腕を置いた。


「腕相撲って、そんな・・・」

テーブルに載る、真理奈の右腕。

その右上腕には、最大で39cmにもなる砲丸大の力瘤がこんもりと盛り上がる。


ここ数年、徐々に・・・どころか、段々と強くなって行く真理奈。

ハンドボール投げで二倍以上、握力に至っては三倍差。


「・・・わかった。勝ったら、約束だからな」

体格で上回るとはいえ、僕にとって真理奈は可愛い幼馴染。

そんな幼馴染が、得体の知れない腕輪をずっと着けるのはやめさせたい。


「じゃあ・・・」

テーブルの腕で、お互いの右手を組み合う。


「・・・っ」

真理奈の腕は、岩か何かで出来ているんだろうか。

岩か、はたまた壁か。何か、凄く硬いモノを相手にしているかのような感覚。


「・・・ん? 健ちゃんのタイミングで始めて良いよ?」

「・・・え」

僕は、“既に力を入れていた”。

フライングや不意打ちでは無く。さっき、『じゃあ・・・』と言ったのが開始の合図のつもりだった。


「え、あ・・・じゃあ。んぅっ・・・く、ぬぅっ!」

今度は、身体を傾けて体重を掛けつつ、右腕に渾身の力を籠める。

中学二年生らしい、24cmの力瘤がポコッと盛り上がる。


「健ちゃん、ひょっとして・・・」

真理奈は困ったような目で、僕を見た。

蔑むでも嘲笑うでも、無く。只々、困惑するような目線。


「健ちゃん。両手とか、全身も使って良いよ」

真理奈はきっと、今の自分の力でも僕と良い勝負になる、ぐらいに思っていたんだろう。

勝負を楽しんだ上で、気持ち良く勝ちたかったのだ。


「・・・なぁっ!?」

僕はつい、カッとなる。


真理奈に悪気がないのはわかっている。

だけど、同い年の女の子に片手であしらわれるのは気持ちの良い話ではない。


「じゃあ・・・ぬ、ぐぅあぁっ!」

恥も外聞も捨て。僕は真理奈の右手に両手どころか、全身で取り付いた。


「ふぅっ、ぐ・・・あぁっ」

僕は、単純な算数が出来ていなかった。


僕の体重は締めて、47kg。

真理奈の握力は、100kg超。


例えば、僕が紐の付いた秤に載って、紐を滑車に通し。

紐の反対側を真理奈が片手で掴むだけで、僕ごと秤を上下させられる。


「健ちゃん。力、入れるね」

僕を気遣ってか、真理奈はそう宣言した。


「うおあぁぁぁっ!?」

真理奈の右手がホンの少し、動いただろうか。

それだけで、僕の全身は一回転して、床に投げ出され・・・。


「・・・あれ」

・・・なかった。


「健ちゃん、大丈夫?」

いつの間にか、僕は真理奈の左腕に抱かれていた。

正確には、一回転した僕の身体を真理奈が片腕で受け止めてくれたのだ。


「あはは、完敗だよ」

文字通り、手の平で転がされた上に、フォローまでされてしまった。

ここまで完膚なきまでに力の差を見せ付けられると、諦めも付く。


「うーん。やっぱり、私って力強いのかなぁ・・・」

「え。じゃあ、今までは・・・」

今日の体力測定の結果を踏まえて、も。

真理奈の中では、力が強いという自覚には至ってなかったらしい。


今日の一連の出来事で、ようやく。


真理奈は、体重だけじゃなく筋力も人より多いと認識。

真理奈の自覚を促せただけでも、腕相撲勝負した甲斐はあったのかな。


ただ一つ言えることは、腕輪の件がいつの間にか、有耶無耶になったのだった。



▶次の話へ


■目次へ


More Creators