赤鬼伝説 第二話「鬼娘伝説」
Added 2023-04-04 15:00:00 +0000 UTCそれは、昔々の話だった。
山深い、土地。その中でも一際、大きな山『赤犠山(あかぎやま)』。
その『赤犠山』の中腹に、とある大岩があった。
鬼を封じていたとされる『大鬼岩』はもう、見る影も無く。
いつ、誰がやったのか。いや、人の手に依る所業なのか。
それすら定かでないぐらい粉々に砕けており、今やその跡が残るのみ。
―――。
「・・・ぅ、う」
『赤犠山』とは別の山の中腹で、“少女”は目を覚ました。
可愛らしい顔には、少女らしいあどけなさが残る。
“顔だけ”見れば、歳の頃は十二か十三ぐらいだろうか。
「あたし、どうして・・・」
その少女、凛は“大きな身体”をムクッと起こし、起き上がる。
「あ、あれ・・・?」
凜は、立ち上がった自分の目線の高さに驚く。
少女の身の丈は『八尺(240cm)』、身の重さは『八十貫(300kg)』にも及ぶ。
その首から下には、伝説の【鬼】を思わせるような巨体が備わっていた。
「あたし、何でこんなに大きく・・・」
ボロボロな着物の隙間から覗く、胸の谷間。
両手でモニュ、モニュッと揉んでみると、まるで餅のような弾力。
小さい頃から満足に食べられず、瘦せぎすだったとは思えない豊満さ。
「腕や、脚も・・・」
乳房を揉む度に二の腕がモコッ、モコッと蠢くように力瘤が動く。
ダランと伸ばして『二尺(60cm)』、曲げれば『二尺六寸(80cm)』にもなる剛腕。
着物の裾から伸びる『三尺三寸(100cm)』の太腿は、大木と見紛う程。
「昨日の事って、夢だったんじゃ・・・」
昨日だけでなく、ここ数日の間の出来事は余りにも壮絶で、凄惨だった。
住んでいた村を山賊に襲われ、命からがら逃げ延びたお寺もまた、襲われ。
どうせ山賊に殺されるぐらいなら、と鬼に身を捧げようと願ったら・・・。
・・・ドクン。
「そう。“こんな感じ”で・・・」
ドクンッ。
「・・・あれ、何で? 身体が“また”、熱い・・・」
伝説の鬼【赤鬼丸】の“血を飲んだ”時と同じ、感覚。
ムク、ムククッ。
「うぁんっ、う・・・あ、あああぁっ!」
普段は絶対に発しないような、悲鳴に近い嬌声。
モコッ、モコモコ・・・モゴォッ!!
「はぁ、はぁ・・・はぁっ、ん」
【赤鬼丸】の時よりは“迸り”が緩かったせいか、何とか気を失わずに済んだ。
「あたし、また大きく・・・」
【赤鬼丸】の血を飲んだ時のような、歪な順番ではなく。
それが“自然”とさえ思えるような、全身の成長。
「何か、力が漲る感じがする・・・」
凜は、力の流れに倣(なら)うかのように、右腕を折り曲げる。
モゴゴォッ! ビリッ!
「・・・あ」
元々、袖がほぼ無くなっていた着物の、肩口の布地が千切れてしまい。
ハラリと着物が前後に分かれ、スイカを思わせる豊満な乳房が露わになる。
「これが、あたしの腕・・・」
さっきまでは【赤鬼丸】と同じぐらいだった筈の、二の腕。
それが今や一回りは太く、伸ばしただけでも『二尺六寸(80cm)』もあり。
曲げれば『三尺四寸(100cm)』という、人の頭を二つ繋ぎ合わせたぐらいの大きさになった。
「脚は・・・これ、脚なの」
『四尺二寸(130cm)』という極太の太腿は、両腿の隙間が殆ど無くなり。
擦れ合う度にゴリッと、まるで岩石同士がぶつかったような音がした。
凛の身の丈は『八尺五寸(260cm)』、身の重さは『九十貫(340kg)』に達していた。
「そう言えば、あたし。昨日・・・」
昼間の、【赤鬼丸】とのやり取りは確かに覚えている。
だが、夜に何をして。何故、今この場で目を覚ましたのか。
靄が掛かったかのように記憶が朧気で、ハッキリしない。
「・・・っ? 何、これ・・・」
凛はようやく、周りに転がる山賊達の亡骸に気が付いた。
死屍累々。生きている者どころか、五体満足な者すら居ない。
「・・・?」
凛はおもむろに、口を拭う。
「・・・え」
口を拭いた右手にはベットリと、乾いた血が付いていた。
「あたし、怪我を・・・」
しかし、身体の何処を触っても、傷らしい傷は一つも無く。
怪我をしていないのであれば。一体、誰の血なのか。
「・・・う」
頭がズキッとする。身体は無傷なのに、心が本調子じゃない・・・ような。
「そう言えば、ここ・・・何処なの。お寺に戻らないと・・・」
お寺のお坊さん達が“そのまま”になっているのを思い出した。
山賊達なら兎も角、お世話になったお坊さん達はちゃんと弔ってあげたい。
――と、その時。
「おい・・・“あれ”、何だべ!?」
「ん~? ・・・うへぇっ!」
質素な着物を着た、二人の男がそこに現れた。
一人は弓、一人は鉈のような物を持っている。獣狩り、なのだろうか。
「あ、どうしよう」
この辺りの、近くの村の人だろうか。
凛は最初、“この惨状”をどう説明しようか迷った。
「なぁ、“あれ”って・・・」
「あ、ああ。間違いねぇ」
狩人二人が注目したのは、そこらに転がる亡骸ではなく。
その中心に居る、凜を見上げて・・・。
「「お、【鬼】!!」」
・・・そう、叫んだ。
「え、【鬼】? 何処に・・・」
凜は、辺りを見回す。
しかし、周りには鬼どころか。立っている者は、凛と狩人の三人だけ。
「あのぉ・・・」
凜は、事情説明とここが何処の山か、という質問を投げようと近付く。
凜としては恐る恐る、ゆっくりと歩み寄ったつもり・・・だったのだが。
ズン・・・ズシッ。ズンッ・・・ズシィッ。
「・・・ひぃっ!」
男達からすると見上げるような巨女が、歩く度に激しく地面を揺らした。
「く、来るなぁっ!」
「・・・え」
片方の男が何と、弓を構え。凛に目掛けて、矢を放った。
ビュンッ!
「きゃっ」
凜は咄嗟に左腕を掲げると丁度、上手く盛り上がった力瘤に矢が命中。
ガィンッ。
という鈍い音と立てて、矢は地面に落ちた。
「痛ったぁ・・・くない、や」
鉄製の矢尻は、凛の力瘤どころか、皮膚すら傷付けることは出来なかった。
「お、お助けぇっ!」
「え、ちょ・・・」
もう一人が、持っていた鉈を一心不乱に振り回した。
しかし、当時の男の平均身長は精々、『五尺(150cm)』ほど。
そんな上背で武器を振り回した所で、『八尺五寸(260cm)』の凜には届かない。
「・・・あ」
「・・・え?」
男はつい、鉈を持っていた手を滑らせた。
制御を失った鉈は、凛の土手っ腹目掛けて飛んで行き・・・。
ズガッ。
「きゃ」
鈍い音を立て、凜のお腹に突き刺さ・・・ることなく、地面に落ちた。
凜は胸元にスイカのような豊満な乳房を備えているため、お腹を見ることが出来ない。
仕方なく摩(さす)って確認するのだが、特に傷が付いた様子は無い。
「何だよ、あのお腹・・・」
男達は、見た事も無いようなお腹の隆起を見て、恐怖した。
筋肉を鍛えるという行為が、一般的では無かった時代。
ある程度ちゃんとした食事を採る事が出来て、身体鍛錬があった武士や僧兵ならまだしも。
巨大とは言え、豊満な乳房の女子(おなご)の腹筋が、ボコボコに割れている様は異様だった。
「もうっ、危ないじゃないですか」
凜は両親から散々、刃物の取扱いには注意するよう教わった。
医者が身近ではなく、病院なども無かった時代。
錆びた鉄で傷が付けば、破傷風に掛かり死に至る事は珍しくない。
「これ、返し・・・」
カランッと落ちた鉈を返そうと、凜は右手で柄を掴み。
拾い上げるように左手を添えて刃を持つと・・・
「・・・あ」
グニャリ。
「あ、あれ?」
「「ひ、ひぃっ!?」」
男二人の目の前で、鉄の鉈がグニャリと折れ曲がってしまった。
「あれ、あれれ?」
凜は元に戻そうと逆にグニャリ、また逆にグニャリ。
それを繰り返す内に・・・バキィンッ!と根元から折れてしまった。
「か、怪力っ!」
「お、お助けっ! い、命だけはっ!!」
二人は何を思ったのか、観念したかのようにその場で蹲(うずく)り、拝み始めた。
「え。ちょ、何で・・・」
凜は、まるで訳がわからなかった。
てっきり、山賊達の亡骸を見咎められ、糾弾されるものと思っていた。
記憶が定かではないが、“自分が何かやった”事は恐らく、間違いない。
兎に角にも話をして、現在位置とあわよくば帰り道を聞ければ、と思ったのだ。
しかし、狩人と思しき男達は矢を射かけ、鉈を振り回し。
挙句の果てに、勝手に自爆して、観念して土下座までする始末。
「もしかして【鬼】って、あたしの事・・・?」
「あ、貴女様のことでごぜぇますだ」
「んだ、んだ」
凜は慌てて、自分の顔や腕を手でペタペタと触った。
鏡がまだ貴重だった時代。自分の姿を自分で確認することは難しい。
近場に水場があれば、水面に映る様を見る事が出来るのだが・・・。
「角も、牙も・・・ない」
【鬼】らしい特徴と言えば、角や牙。
しかし、触ってわかる範囲に、そんな物は存在しない。
ただ背が大きくなり、筋骨が隆々となっただけ。
『六尺(180cm)』あれば、山賊の頭目になれるような時代なのだ。
男達からしたら只々大きくて、珍しくて。
それを【鬼】と評してしまったに過ぎない。きっと、そう。
「ごめんなさい。あたし、行きますね」
凜は、ポッキリと折ってしまった鉈を置いて、その場から駆け出した。
「行った・・・んだか?」
「・・・ああ。行ったみたい、だ・・・」
狩人二人は、地面にヘタリ込みながら胸を撫で下ろした。
「ありゃ、女子(おなご)だったなぁ」
「ああ、大っきかったべ・・・」
男達からすれば、凛の背丈は凄まじく大きかった。
だが、それ以上に、凛の乳房の大きさにも目を奪われていたのだ。
凜は気付いていなかったが、右肩口の着物が破けていて。
ずっと、右乳房が露わになっていた。
「女子(おなご)の【鬼】に出遭うたぁ、おっかねぇこともあるもんだ」
「ああ。幾ら女でも、“あれ”は人である訳が無ぇべ」
男達は命の危機に瀕したこともあり、“収まる”まで小一時間を要した。
山賊達の亡骸に気付くのは、その後の事・・・である。