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MGガール11「中3:③夏祭」

「健ちゃん、花火行こう」

「うん」

中学三年の、夏休み。


本来なら遊んでいる暇はなく、受験勉強に勤しむべき時期。

だけど、たまには息抜きも必要だろうと、お互いの両親から小遣いを渡された。


「その格好で行くの?」

「うん。浴衣は・・・入んなかった」

真理奈は、大き目の半袖シャツとスカートを穿いていた。

真理奈のように、ボリューミーで立体的な体型だと浴衣は着られない。


僕のようなヒョロくてガリッとした体型なら、兎も角。

僕より10cm以上高い長身に、体重120kgというプロ格闘家も真っ青な体格。


「背は・・・変わってないよね?」

「うん、伸びてないよ」

中学に入ってから、成長著しい真理奈。

春先の身体測定から、身長はそのままらしかった。


「いつか、大人用の浴衣を買えば入るよ」

「うん、そうだね」

真理奈は、何処か寂しげだった。


思春期の急激な成長は、誰しも戸惑う所だけど。

それでも、ここ数年の真理奈の成長は異常だった。


身長が伸び、筋肉が大きくなり、体重が増えて。

しかし、女性らしさも増し、胸やお尻は大きく。


もう少し大きくなれば、精神的に整理も出来そうな感はある。

勿論、この場合の“大きく”は、精神的な意味で、だ。


僕自身も、真理奈の身体の成長に付いて行くのがやっとだった。

ここ数ヶ月とはいえ、ずっと伸びていた身長が止まったのは良い傾向・・・なんだろうか。


「体型も、変わってない・・・よね?」

「うん・・・多分」

真理奈が今、着ている服は何と、『4XL』らしい。

毎回買い直すのも面倒で勿体ないので、大き目を買ったとのこと。


「・・・・・」

だから、かな。ちょっと、“ふっくら”したように感じた。

ゆったりとしたシルエットだから、きっと“そう見えた”だけだろう。


「うわ、凄い人だね・・・」

世間的にも色々あったせいか、それなりに大規模な花火大会はかなり久々。

だから、河川敷の花火大会の会場は、かなりの人でごった返していた。


「う~ん、良い場所は何処も空いてないね」

川べりは勿論、堤防の坂になっているところも、人で埋め尽くされていた。


「しょーがないから、この辺で見よっか」

「うん」

僕たちは、花火大会の会場として整備されたスペースの端っこに陣取った。


「何なら、肩車したげよっか?」

「え? 良いよ・・・ぉっ!?」

僕が断るよりも早く、真理奈の両手が僕の脇腹をキュッと掴む。


「えい♪」

「う、お、わぁっ」

一瞬にして、僕の身体が宙空高く浮かされる。

真理奈の身体能力からすれば、僕の身体を持ち上げるぐらい朝飯前。


「ちょ、恥ずかしいから放し・・・っ」

「だーめ♪」

真理奈は、久し振りの僕との外出が嬉しいのか、何処かテンションが高め。


「ちょ、真理・・・あっ」

その刹那。ポロッと、僕のポケットから財布がズリ落ちた。


「真理奈、財布が落ちたから拾いた・・・」

次の瞬間。


ブイーッ!


「・・・っ!?」

何と、花火大会の方から走って来た原付バイクが、目聡く僕の財布を見付け。


パシィッ!!


と、曲芸のように拾い上げると、そのまま走り去ってしまった。


「あぁっ!」

「健ちゃん、どしたの?」

真理奈からは、僕の脚が死角になって一連の流れが見えなかったらしい。


「財布を、盗られた」

「ええっ!?」

真理奈は直ぐ様。それでも、ゆっくりと落ち着いてスッと下ろしてくれて。

鋭い目付きで、フイッと首を回して、周囲を見回す。


「あれ、ね」

原付バイクは恐らく、この手の所業(窃盗)に慣れているのか。

速度を落とさず近付き、地面に落ちた僕の財布を拾って、スッと行ってしまった。


「え、見えるの?」

花火の喧騒とは反対側、ほぼ真っ暗な明かりのない河川敷の堤防の道。

方向的には合っているにしても、既に僕の目には見えない。


「健ちゃん、ここで待ってて」

「え、どうするの・・・っ!?」

真理奈は、暗がりの堤防の道を、一気に駆け出して行った。

恐らく、『50m走』の時以来の、全力疾走。


「うそ。は、っや・・・」

非公式ながら、真理奈の脚力は50mを『5.15秒』で走る。

もし、50mを超えてもそのまま走り続けたら・・・。


「って、関心してる場合じゃないっ」

原付バイクに乗れるってことは、少なくとも僕たち中学生より相手は歳上。

幾ら、今の真理奈の身体能力が凄くても、何があるかわからない。


僕は慌てて、真理奈の後を追い掛けた。


その一方。


「ちょっと。健ちゃんの財布、返して」

「あぁ? 何だぁ・・・うぇっ!?」

真理奈は、ジョギングをしているかのような軽やかな走法で、原付バイクと並走していた。


「く、っそ!」

原付バイクを運転している男は、更に速度を上げる。


「あ、逃げるなっ」

そう言うと、真理奈も走る速度を上げる。


「うっそ、だろ!? 50(km/h)は出してるのに」

もし仮に、この原付バイクが本当に『50km/h』だったとして。

それと並走する真理奈は、100m走に換算すると『7秒台』という事になる。


「もうっ、いい加減にして」

普段は、どちらかというと大人しい真理奈が、苛立ちを表に出す。

その気勢に乗ったまま右手を出すと、おもむろにフレームを掴んだ。


「うぉあっ!!?」

それまで『50km/h』で走っていた原付バイクが、一気に停止する。

当然、慣性の法則で男は前方向に吹っ飛ぶ形になる。


ズッシャアァァァッ!!


と、男は頭から地面にヘッドスライディング。


ここが、河川敷で土の地面だったのが幸いか。

もし、アスファルトだったら、男の首は折れていたかも知れない。


「このぉっ!」

しかも、男はフルフェイスのヘルメットに厚手の上着を着ていた為、ダメージも少なく。

立ち上がるなり、真理奈目掛けて殴り掛かる。


「きゃあっ」

真理奈はつい、“右手に持っていたモノ”を振り回してしまう。


火事と喧嘩は江戸の花、とは言うが。

真理奈は、そう言った荒事や喧騒とは無縁の生活をしていた。


咄嗟に、“その辺のモノ”で対処してしまうのも致し方なし。

それが例え、原付バイクであっても、だ。


ドガッ。


「うぎゃあっ」

大きな鉄の塊を喰らい、男は綺麗に吹っ飛んだ。


50ccの原付バイクは、だいたい車体重量で70kgぐらい。

体重50kgの幼馴染を軽く持ち上げる真理奈からすれば、片手で足りるのだ。


「・・・う、くっそ」

「あ!」

真理奈に勝てないと判断するや、男は踵を返して走り出した。


「ちょっと! 財布返してっ」

真理奈も、慌てて追い掛ける。


「・・・うぇっ!? うわ、うわぁぁ」

男が見たもの・・・それは、“原付バイクを片手”に追い掛けて来る大柄筋肉少女だった。


「あんなの持ってて、何で速いんだよっ!?」

男は半ば、半狂乱だった。


普通に考えて、走って追い掛けるにしても原付バイクはその場に置けば良い。

だけど、それが気にならないぐらい、真理奈のパワーは有り余っているのだ。


原付バイクを持ち上げる腕力に、原付バイクに追い付く脚力。


「か、返す! 返しますからっ」

「もう、早くそうしてくれれば良いのに」

男がようやく、財布を真理奈の左手に返す。


「じゃあ、バイク返すね」

真理奈は、ドンッと男の脇に原付バイクを置いた。


「このぉっ」

男は、バイクを受け取ると見せ掛け。

腹いせに何と、真理奈に殴り掛かった。


「何、してるの」

「・・・え」

真理奈は、ヒョイッと首を傾げるだけで男のパンチを躱す。


「さっきはビックリしちゃったけど、それパンチ?」

男は何度か拳を放つが、当たらない。

まるで、完全に見切られているかのような、身のこなし。


「財布を返してくれれば、それで良かったのに」

「ひぃっ」

真理奈の空気が変わったのを、男も感じ取った。


「一発ぐらい、良いよね」

真理奈は、生まれて初めて拳を握り、振り被った。


「真理奈っ!」

「あ、健ちゃん」

真理奈は、右ストレートを放つ動作のまま、後ろの声に振り替える。

そのお陰か、真理奈の拳は男のヘルメットを掠めるに留まった。


ビシィッ!


「ひぃぃっ!!?」

しかし、その掠めた拳は、バイザー部分にしっかりとヒビを入れた。


「はぁ、はぁっ。や、っと、追い付いた・・・」

僕は、あれからずっと走り続けて、ようやく真理奈に追い付いたのだった。


「健ちゃん、財布取り返したよ♪」

「あ、ありが、とう・・・はぁ、はぁっ」

僕は、かなりの距離を走ったと思う。

真理奈はこれだけの距離を、原付バイクを追い掛け、追い付いたことになる。


「真理奈、今・・・」

「・・・ん、何?・・・あ!」

僕が話し掛けようとして真理奈が目線を切った瞬間。

ブイーッ!と原付バイクがあっという間に走り去ってしまった。


「あー、逃げた! 追わな・・・」

「真理奈、もう良いよ」

再び、走り出そうとする真理奈を、僕は制した。


「もうっ、健ちゃん。逃げちゃったじゃない」

「無理に追わなくて良いよ」

幸いにも、僕も真理奈も怪我はない。

下手に追い掛けて、刃物でも持ち出されたら敵わない。


・・・いや、今の真理奈なら。

そう考えそうになるのを、僕は何とか堪えた。


「真理奈、何か興奮してない?」

「え? そっかな」

さっき、確かに真理奈はバイク男を殴ろうとしていた。

状況的に正当防衛とはいえ、普段なら殴り返すような性格じゃない。


現に、あれだけ走って息を切らしていないのに、顔が少し赤く上気している。

アドレナリンが出て、いつもより気が大きくなっているのかも知れない。


「あー、うん。言われてみると、そうかも・・・」

ちょっと、熱を冷ますというか。クールダウンしようとってことになり。

僕と真理奈は、人気の少ない河川敷に降りて行った。


花火会場から橋二つ分は離れている為、花火の音もかなり遠い。

向こうに人が集まっているせいか、会場から離れると人出は皆無。


「でも、クールダウンってどうやるの?」

「そう、だな・・・」

僕は、その辺に転がっているを石を拾い、川に向かって投げた。


パシッ、パシッ、パシッ。


投げた石が水を切り、何度か跳ねてから川に沈んだ。


「こんな感じで、軽く身体を動かして発散してみたら」

「うん、わかった」

いつもの真理奈らしい、素直な返事。


「え、っと。これ、かな」

真理奈は、ピンポン玉ぐらいの石を右手で掴んだ。


バゴッ。


「・・・あれ?」

「・・・え」

真理奈の手の中で、石は粉々になっていた。


「あれ、おっかしいな・・・」

「き、きっと。元々、割れ易い状態だったんだよ」

僕は、少し大きいとは思いつつも、拳大ぐらいある大きな石を見繕い。

硬さを確かめてから、じゃあこれで、と真理奈に渡した。


ミシミシ・・・ミシィッ、バゴォッ!!


「あ、あれ・・・」

真理奈の手の中で再び、石は粉々に砕かれた。

割れた、ではなく。明らかに、真理奈が砕いた。


「う、っそ・・・」

僕は、前に観た映画を思い出していた。

ウチはいわゆる、動画見放題に加入していて、古い映画も良く観るんだけど。


外宇宙からやって来たスーパーヒロインが、地球で活躍する話で。

あの映画も確か、ヒロインが水辺で力加減を間違って石を握り潰してたっけ・・・。


「これって、火事場の馬鹿力状態・・・なのかな」

「そ、そうだよ。多分・・・」

もし仮に、アドレナリンが出捲っていたとしても。

さっきの一悶着から少し時間が経って、二人とも精神的には落ち着いている。


果たして、この状況でも未だに火事場の馬鹿力が発揮されたりするんだろうか。


「じゃあ、折角だし色々、試しても良い?」

「え、良いけど・・・」

何やるんだろう、と思っていたら。

真理奈は、何処からか金属バットを拾って来た。


「前にテレビでやって、今の私なら出来るかなって」

真理奈はどうやら、ビックリ人間ショー的な番組を観たらしい。


「ん、っぐ・・・」

真理奈は、胸の前で金属バットの端と端を持ち。

徐々に、内側に向けて力を籠めて行く。


グギャ、グギャゴ・・・


真理奈の両手がの距離が縮まる毎に、金属バットが拉げて行く。


「・・・ん?」

モリモリ・・・って、何か肩とか腕が・・・。


「・・・んぅっ」

メキメキメキ、メギャッ!!


「凄・・・あっ!」

モリモリモリィッ、ビリリッ!


「へへーん。どう、凄いでしょ♪」

真理奈は、誇らし気にグチャグチャに圧し潰した“金属バットだった塊”をひけらかした。


「真理奈、シャツが・・・」

「へっ? ・・・あっ!」

いつの間にか、真理奈の上半身は一回りは大きくなっていて。

勿論、その大きくなった分は全て、肩とか二の腕の筋肉の盛り上がりで。


ゆったりと余裕のあった筈の『4XL』のシャツは、あちこちがビリビリに破けていた。


筋肉を盛り上げるボディビルのポーズをやったなら、兎も角。

力を籠めただけで筋肉が膨らんで、着ている服を破くなんて聞いたことない。


「真理奈・・・あ、っと」

僕は途中まで出掛かった言葉を飲み込んで。


「そろそろ、帰ろっか」

「あ、うん」

気付いたら、花火の打ち上げも終わっていて。

花火大会の帰り客に、今の服ビリビリの真理奈を遭遇させたくなくて。


僕たちは、クールダウンも終わっただろうということで、帰路に着いた。


恐らくだけど、真理奈が観たテレビ番組は、僕も観ていた。

そこでやっていたパフォーマンスは、あくまで金属バットを“圧し折る”、ってものだった。


いや、確かに金属バットを圧し折るだけでも充分、凄いんだけど。

真理奈がやったみたいに、縦に圧し潰すなんて、他の人間に可能なんだろうか。


更に、付け加えるなら。

あれから小一時間経ってるけど、火事場の馬鹿力っていつまで発揮され続けるのか。


僕は内心、色々と思うところはあったけど。

服を破いてシュンとしている真理奈を見て、野暮なことは言うまいと心に留めて置くことにした。



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