MGガール14「高1:③体験」
Added 2023-09-14 15:00:00 +0000 UTC「健ちゃん、部活見に行こ」
「うん」
僕と真理奈は幸い、高校一年目は同じクラスに割り当てられた。
同じ中学出身な生徒が意外と少なく、そういう意味ではラッキーだった。
このまま行けば、高校生活初日は何も無く終わりそう。
勿論、それは『Mr.平均』な僕ではなく、真理奈の事だ。
一見すると、真理奈は大柄で恰幅の良い女子高生。
巨大な力瘤や、極太の太腿。メートル超えのGカップ巨乳に、巨尻。
そのどれもが、『5XL』という特大サイズの制服のお陰で目立たず。
中学時代の体力測定の記録を知ってる者が居れば、また違う印象になるんだけど。
高校でも身体測定や体力測定はあるし、体育の授業で薄着になる。
ただ、その時までは平穏無事に過ごしたい。
「でも、真理奈が部活を見たいなんて珍しいね」
「うん、何となく」
僕も真理奈も、小学生時代から一貫して変わらないのは、運動が苦手な部分。
高校でもずっとそうだと思ってたんだけど、真理奈は違うのかな。
「バレーボールで一緒に全国行きましょう~」
「見学だけでもどうですか~。今なら、サンドバッグ叩けますよ~」
始業式を済ませた後の自由時間を狙って、部活の先輩たちが必死の勧誘合戦。
流石に高校ともなると、部活の熱も違う。
「健ちゃん。私、サンドバッグ叩いてみたい」
「・・・へ?」
真理奈が突然、そんな事を言い出した。
「サンドバッグ? 真理奈って、ボクシングに興味あったっけ」
僕も真理奈も運動は苦手だけど、スポーツ観戦ぐらいはする。
野球やサッカー、プロレスやボクシング。
「ううん、別に。ただ、何となく・・・」
真理奈も、ボクシングがどうしてもやりたい、とかではなく。
只々、興味本位なだけ、みたいな。
「真理奈って、パンチとかしたことあったっけ。・・・あ」
僕は、去年の夏の花火大会を思い出していた。
原付バイクの泥棒男を、ヘルメットごと殴ろうとした一件。
あの時は、真理奈も興奮していて不意に手が出た、ぐらいに思った。
でなければ、自分から能動的に他人を殴ろう、なんてする筈がない。
・・・いや、そう思うのは僕の勝手な思い込みで。
真理奈自身、激情を秘めていてそれを表に出していないだけ、なのか。
「うん、良いよ。行こっか」
真理奈が内心どう思ったかは、さて置き。
僕としても、見ておきたい、とは思った。
真理奈が今、本気で殴ったらどうなるか、を。
「すみません。見学だけでも良いですか?」
「勿論! 見てって、見てって」
僕たちがボクシング部を訪れると、部長と思しき先輩が快く迎えてくれた。
「君は、アレかな。身体を鍛えたい、とかそんな感じ?」
「いえ。まあ、そんな感じで・・・」
流石に、女の子の付き添いで、とも言えず。
「すみません。これ、叩いて良いですか?」
真理奈はいきなり、本題のサンドバッグの前に居た。
「あー、えーっと。君の付き添いの女の子?」
「あ、はい」
僕が部長の話を聞いている内に、用件を済ませてしまおうってことか。
ボクシング自体に興味はなく、本当にサンドバッグを叩きたいだけらしい。
「良いよー。拳、痛めないようにね」
先輩も、女子ボクシング部が無いせいか、真理奈には興味ない感じ。
「だから、ウチとしてはね・・・」
「ええ。あ、はい・・・」
先輩の話に相槌を打ちながら、横目で真理奈を伺っていると・・・
「・・・ふっ!」
という呼吸と共に、真理奈が振り被った右拳をサンドバッグに打ち突ける瞬間だった。
スドボォァッッ!!!
「・・・へ」
「・・・え?」
およそ、“砂袋を叩いたとは思えない”音。
まるで、大砲か何かの砲弾が炸裂したかのような、衝撃音。
「あれ・・・?」
真理奈の右手・・・いや、右腕はサンドバッグを“貫通”していた。
そして、当の本人が一番、驚いている。
僕は当然ながら、真理奈の身体の事を知ってはいる。
だから、漫画で良くあるようなサンドバッグを殴り飛ばす、ぐらいは想像していた。
だけど、まさか貫通させるとは・・・。
「・・・え。君、何をやったの?」
先輩は事態が飲み込めず、慌てて真理奈に駆け寄る。
「え、と。その、普通に殴ったんですけど・・・」
ズボォッと、真理奈はおもむろに右腕をサンドバッグから引き抜く。
サバァーッと、空いた両穴から中身の砂が一気に零れ出す。
「手、見せてみて」
「は、はい」
先輩は、悪戯でメリケンサック的なモノを握り込んで殴った、と疑った。
しかし、真理奈の手には何も握られていない。
「・・・っ! いや、でも、まさか」
先輩は、真理奈の手を見て、何か思うところがあったようで。
「今度は、“これ”を殴ってみてくれない?」
先輩を指示したのは、天井と床にロープで固定された、『パンチングボール』だった。
「良い、んですか?」
「ああ、思い切りやってみて」
先輩に促され、真理奈が渋々、パンチの体勢を取る。
「じゃあ、ふんっ!」
今度は衆人環視での、真理奈渾身の右パンチ。
シュゴォッ、パァンッッ!!!
「「っ!!?」」
爆ぜた。
少し前まで『パンチングボール』だった筈の革の切れ端が、宙空を舞っている。
因みに、『パンチングボール』は中身が空気で、言ってみれば分厚い革製の風船。
「ってか、見えなかった・・・」
真理奈は、これから打つぞ、と宣言して右ストレートを放ったようなもの。
にも関わらず、ストレートの起動も、軌道も全く見えなかった。
振り被った右拳が消えたと思った瞬間、『パンチングボール』が爆ぜたのだ。
「・・・き、君。ボクシングとか空手の経験でもあるのかい?」
先輩は、そんな馬鹿な、といった表情をした。
どうやら、ボクシング部の先輩も僕と同じ感想だった模様。
素人目で凄いのではなく、経験者目線でも驚くレベルで凄いということ。
「・・・え、いえ。全然・・・」
少なくとも、真理奈が格闘技未経験なのは、僕が保証する。
だけど、それは別にして、先輩の気持ちは良くわかる。
何となく凄い結果になるだろうな、ぐらいに思ってたけど。想像以上だった。
「空手の有段者とかウェイトのあるボクサーでも、こんなのは見たことない」
空手家が鋭い裸拳で突き刺したり、ボクサーが殴り飛ばしたり。
そういった逸話は、フィクションやノンフィクションを問わず、枚挙に暇がない。
しかし、サンドバッグを丸ごと突き破って貫通するなんてのは、前代未聞。
「今日はあくまで、見学なんだよね?」
「あ、はい」
冷やかし、とまでは行かずとも、僕も真理奈も本気でボクシングをやろうって気はない。
「なら、安心した」
先輩の、意外な回答。
てっきり、部員が増えなくて残念がるかと思ったんだけど・・・。
「僕には、君を教えることは出来ないからね」
どういうこと、だろう。
こと、ボクシングに関しては僕も真理奈も素人。間違いなく、未経験者。
「技術とかそういうレベルじゃない。君は、余りにも強過ぎる」
パンチスピードは、ボクシング経験者でも目で追えない速さで。
その威力は、サンドバッグを打ち抜き、パンチングボールを破裂させる。
文字通り。言葉通りで、一撃必殺のパンチが目に見えないスピードで襲って来るのだ。
ボクシンググローブを嵌めてどうにかなる、そんなレベルではない。
「格闘技をやらずに済むなら、それに越したことはない。その代わり・・・」
「もし、人を殴ったりしたら・・・?」
僕は、先輩の言葉を先読みして、質問した。
僕自身も、ずっと頭の隅っこに引っ掛かっていた疑問。
「サンドバッグか、パンチングボールみたいになる・・・かも知れない」
先輩は敢えて、人体の何処が、とは言わなかった。
もし、あの時。泥棒男を殴っていたら・・・。
タラれば、は言い出したらキリがないけど。それでも。
「わかりました」
僕は一言、そう答えた。
「・・・?」
当の本人はキョトンとして、良く理解出来ていない風だった。
ひょっとして、僕や先輩みたいに他人が見た真理奈のパワーと。
真理奈自身が実感しているパワーには大きな開きがあるんじゃなかろうか。
「陸上部とかは、無理そうだね」
「うん、そだね」
ボクシング部を程ほどで後にした僕たちはグラウンドに出てみる。
それなりに時間が経ったからか、普通の部活を始めている所もあって。
とてもじゃないけど、見学させて貰えるような雰囲気じゃなかった。
「砲丸、投げてみたかったなー」
「真理奈って、陸上部に興味・・・ある訳ないか」
てへっ、と真理奈は軽く笑った。
「そうだ。砲丸は無理だけど、他のなら行けるかも」
「え、何それ」
僕も、真理奈の投擲力が今どうなっているかは、何となくだけど気になる。
「ここ、だよ」
僕が連れて来たのは、『バッティングセンター』だった。
僕も来るのは初めてなんだけど、ここは『硬球を投げられる』のを売りにしているらしく。
いわゆる、『ストラックアウト』を硬球で楽しめるのだ。
硬球は、重さとしては150グラムぐらいなので、砲丸と比べると軽いんだけど。
ただ、軟球やテニスボールと比べると重くて、力が伝わり易い。
「ここの『ストラックアウト』、スピードガンも兼ねてるみたいでさ」
僕は、物の試しと100円を入れて、専用のブースに入る。
すると、ブース内には硬球が全部で十二球、用意されていて。
それらを『3×3』のマス目掛けて投げ、九ヵ所を全部当てれば商品ゲット、な寸法。
「え、いっ」
ごんっ、と弱々しい音が響く。
『69km/h』
「えー、そんなもん?」
僕が投じた一球目は、お世辞にも速いとは言えないものだった。
「はぁ、はぁ・・・」
僕は、ブースを出る頃にはヘトヘトになっていた。
たった十二球、されど十二球。
高校生になったばかりの僕には硬球は重く、最後は『50km/h』しか出なかった。
「ま、まあ、こんな感じ」
「うん、わかった。面白そうだし、やってみるね」
そう言って、セーラー服にスカートな、如何にも女子高生な真理奈がブースイン。
「これ、が硬球・・・」
真理奈は、初めて触れる硬球に興味津々な様子。
「これを、全力で投げ・・・」
ボグシャッ。
「あ・・・」
「・・・え?」
真理奈の手の中で、硬球がグシャッと潰れていた。
中身のコルクやらゴムやら糸やら、が内臓みたいに飛び出している。
「・・・あー。投げる時に全力で、の方が良いかな」
「う、うん」
真理奈の握力は前にも増して強くなってる・・・のは、今は置いておいて。
「じゃ、行くね」
真理奈は振り被り、綺麗なフォームで第一球を投じた。
ズガァンッ!!
『209km/h』
「何キロ、だった?」
「・・・・・」
僕は、直ぐに言葉が出なかった。
「ねぇ、健ちゃん。どったの?」
唖然とする僕をよそに、当の真理奈はケロッとしている。
「・・・あ、いや。後で教えるから、続けて」
「うん、わかった」
そう促すと、真理奈は小気味いいテンポで十一球を投げ切った。
「ふぅ、良い汗掻いたかも」
「お、お疲れ・・・」
僕は、平静を装うのがやっと、だった。
一番遅い記録で、『198km/h』。
最速で、『211km/h』。
大昔の、昭和時代の熱血野球漫画のような、嘘みたいな球速。
今の時代、食生活の向上やスポーツ科学の発展で、人類は日々、進歩して。
昔は少なかった、夢の『160km/h』台投手が何人も居る。
それでも、そんな一流メジャーリーガーですら、足元にも及ばないような球速。
一度だけならマグレや偶然、機械の故障もあるだろう。
しかし、十一球を投じて、『200km/h』を下回ったのはホンの数回。
平均を取れば、間違いなく『200km/h』を上回る投球速度だった。
帰り道。
僕は今日一日あったことで頭の整理が追い付かず、公園で散歩して帰ろうと思った。
「じゃ、私も行く」
と、真理奈も同伴で公園の散歩。
「・・・ん、あれ」
「風船、だね」
遊歩道の脇にある、大きな木。
そのかなり上の方の枝に、風船が引っ掛かっていた。
「風で、飛ばされて来たのかな」
「お母さん連れの女の子が飛ばしちゃったみたい」
真理奈は突然、そんなことを言い出した。
「え、うそ。何処に?」
周りを見回しても、そんな二人連れは居ない。
「えーっと、ちょっと向こうの方かな」
「え、何処・・・」
真理奈が指差した方向に、薄っすらと二人連れらしき人影が見える。
「取って、渡して来るね」
「え、どうやっ・・・」
僕が真理奈に視線を戻した時には、既に真理奈はしゃがんでいた。
真理奈が屈むことで、スカートが膝掛け布みたいになって。
スカート越しに太腿が浮き上がったかと思うと、モリモリッと更に一回り大きくなり。
「ん、っと」
ビュンッと、真理奈はその場で一気に跳び上がった。
「・・・うわ」
推定で4メートルぐらいの高さで引っ掛かっていた風船を、真理奈はパシッとキャッチ。
そのまま、僕の目の前にドンッと着地した。
「す、ご・・・」
助走も付けない、その場のジャンプで。
真理奈の足は、僕の頭の遥か上にあった。
垂直跳びで、2メートル強。
最高到達点は恐らく、4メートル近く。
ビルの二階程度なら、軽く跳び移る事が出来る計算。
『走り高跳び』の世界記録の『2.45m』まで、後少し。
「・・・・・」
事の一部始終を見ていた僕だけど。
真理奈は確かに、『取って(渡して)来る』と言った。
決して、『やってみる』とは言わなかった。
それはつまり、やってみるまでもなく。
最初から、出来る確信があったということに他ならない。
高跳びどころか、陸上競技以前に運動経験がほぼ無いに等しい、真理奈。
その真理奈が、ジャンプすれば4メートルの高さまで跳べると自覚している。
高校生離れした肉体に、人間離れした身体能力。
いつから、そうなっていたんだろうか。
真理奈の、意識。真理奈の、身体。
今までは、幾ら幼馴染とは言え。
異性の身体を外野がとやかく言うのはどうなんだろう、と思っていた。
でも、そうも言って居られないレベルになっている気がする。
「確かめないと、な・・・」
風船を届けて戻って来る真理奈を見ながら、僕はそう独り言ちた。
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