魔女狩り05「門番」
Added 2023-10-04 15:00:00 +0000 UTC「衛兵さん。この先に、王様が居るのですか?」
漆黒のローブに身を包んだ少女が、そう問い掛けた。
「あぁん?」
「何だ。“おのぼり”さんか?」
王都から続く長い街道の先に、固く閉ざされた城門が在った。
そこに、二人の門番が立っている。
「おい、お嬢ちゃん。ここは、子供が来る所じゃないぜ」
目立った戦乱も無く、平和な世の中とはいえ。
素性も知れない小娘を通す程、門番は平和ボケしていない。
「この先は、我らが王の居城。ここは、その王城への門なるぞ」
「と、言う訳だ。さぁ、帰った帰った」
シッシッ、と手をヒラヒラさせ、門番は少女を相手にしない。
「・・・ふぅ。“わかりました”」
そう言うと、少女はスタスタと“前に進んだ”。
「お、おい!」
「お前、話を聞いてたのか?」
二人の間を通り抜けようとした少女の肩を、門番はガシッと掴む。
「・・・お? おぉっ!?」
門番の右手は確かに、少女の右肩を掴んだ。
門番の身体は二人とも大きく、無骨な鎧で武装しているにも関わらず。
華奢な筈の少女の身体を止める所か、ズズッと引き摺られてしまう。
「・・・? 何を、しているんですか」
「何、って・・・」
門番は確かに、帰るよう言った筈。そう思った。
「・・・あの。ひょっとして、“止めてた”んですか?
少女は、身体を止めた事を咎めたのではなく。
「気付きませんでした」
「「っ!?」」
何と、自分の身体が実力行使で制止されようとしていた事に、全く気付いていなかった。
「おい、お前。この女、どう見える?」
歳の頃は十代半ば、といった感じか。
肩口に掛かるぐらいの金髪に、あどけなさが残る童顔の美少女。
「そ、そりゃ・・・。綺麗なお嬢ちゃんだとは思うが・・・」
歳の割に豊満な肢体がそこはかとなく色気を醸し出しているものの、体型そのものは華奢。
体格の良い、武装した門番と比べ。目の前の少女は、頭半分は背が低い。
「お、おい! もう一度だけ、言うぞっ。この先に・・・」
「ええ、ですから。“わかった”と言いましたよ?」
少女は、門番の制止を意に介さず、再び歩みを進める。
「お、お、ぃっ・・・」
「ぐ、ぐぅ・・・っくそ」
今度は二人掛かりで少女の肩を掴み、体重を掛けて引き倒そうとする、も。
少女の身体は倒れるどころか未だ、その歩みを止める事すら出来ない。
「これが、門」
豪奢な装飾の施された、巨大な城門がそこには在った。
「では」
と、少女が自分の背丈の倍はあろうかという城門に両手で取り付いた。
「重・・・」
「っへ。この門は到底、人が開けられる代物じゃねぇんだ」
厚さがどれ程あるかわからない、鉄製の巨大な門扉。
その門は、片側だけで十数人分もの大人と同じ重さがあると言われる。
それも、その筈。当然と言える。
戦争や襲撃の際に真っ先に狙われるのが、この城への門である。
人間の手で簡単に開けられるようであれば、城門の意味を為さない。
実際、この城門は『巨人門』と呼ばれ、機械式の歯車でようやく開けることが叶う。
「・・・いかと思いましたが、そうでもないのですね」
しかし、その『巨人門』ですら、少女の歩みを止める事はなかった。
「なぁっ!?」
ゴゴ・・・ギゴゴォッ、という鈍く重い音と共に。
「う、っそだろ・・・」
門番の男二人に身体を掴まれながら、少女の手は『巨人門』を押し開けて行く。
かつての戦争時、『破城槌』という攻城兵器を以ってしても破られる事の無かった『巨人門』。
『破城槌』とは、丸太状の巨大な棒を突撃させる事で、城壁や城門を破る兵器の事である。
「くそっ、止まれっ・・・よ!」
形振(なりふ)り構っては居られない、と門番二人はそれこそ全身でガシッと抱き付く。
鎧を着た男二人が華奢な少女にしがみ付くという、異様な光景。
グゴゴゴォ・・・ッンン!!
「こんなもの、かしら」
ものの数秒で、『巨人門』は守る筈の城門をパックリと開け放ってしまった。
「・・・いつまで、触っているのかしら」
少女は、右手で上半身を羽交い締めにしている男を。
更には、左手で下半身にしがみ付く男をムンズと掴んで投げ飛ばした。
ドゴッ・・・シャァッン!
「「うぎゃっ!!」」
鎧を着ていた事もあってか、二人とも怪我は無いようだった。
いや、むしろ武装した男を片手で軽く放り投げる怪力に着目すべき、か。
「貴方がたに関わっている程、私も暇ではありません」
「なん・・・っだ、と!?」
門番とはいえ、二人は列記とした王国の兵士である。
王都に住む民衆の血税によって、彼らは生活出来ている。
裏を返せば、外敵から国・・・強いては王を守る事が責務なのだった。
それが例え、見目麗しい年端も行かない美少女だったとしても。
外敵であれば排除するのみ、である。
「もう一度、言うぞ。止まれっ」
門番は最後通告と言わんばかりに、槍を構える。
「はぁ・・・そう、ですか」
少女は気怠そうに振り向くと、おもむろに槍を掴んだ。
「なぁっ!?」
槍の切っ先を掴んだまま、グググ・・・っと槍がどんどん折り曲げて行く。
「おい、何をし・・・うぉ!?」
少女は、門番から槍そのものを奪い取ると、胴体に合わせて水平に這わせて行く。
「あ、あ・・・や、やめ・・・うぎぃ」
槍が門番の鎧に沿うように一周すると、少女は更に槍を這わせ始める。
メキ、メキ・・・メギ
「おい、お前! 何をしてるんだ!? やめろっ」
もう一人の門番が激高し、柄から長剣を引き抜いた。
「おい、た、助け・・・うぎぃ、い・・・」
鉄製の筈の槍が、飴細工のように二周、三周と身体に巻き付き。
メギ、メギギ・・・ギギィ、グギョ
槍よりも頑丈な鋼鉄製の鎧が、厭な音を立てて拉(ひしゃ)げて行く。
「う、が・・・ぁ、あ・・・」
鉄同士が潰し合う音で紛れているが。
男の腕は『くの字』に潰れ、胴体に減り込んでいた。
バギィンッ!!
「“これ”で、如何でしょう」
まるで、革袋の口を紐で縛ったかのように、門番の胴体は“キュッ”と縛られ。
背骨という支えを失った身体は、後ろ向きに倒れた。
「このぉっ!」
同僚が目の前で革袋のように“絞り殺された”事に激高し。
遂には、怒りに任せて斬り掛かる。
ガィンッ。
「・・・なぁっ!?」
長剣は確かに、少女の身体を捉えていた。
正確には、少女の脳天に刃が“突き立って”いた。脳天唐竹割。
薪割りであれば、間違いなく真っ二つになったであろう、精密な太刀筋。
「そんな、馬鹿な・・・」
人体において鍛えようがない、頭部。そこを、正確に狙ったにも関わらず。
頭蓋を割るどころか、頭皮に傷の一つすら付いていなかった。
「お前、まさか・・・。噂の・・・魔女」
国王直々の命で、魔女に懸賞金が懸けられているのは知っている。
しかし、未だ杳として“その行方は知れない”。
「何で、魔女がここに・・・」
「わかって・・・は、頂けないのですね・・・」
少女は元々、門番に道を聞いただけだった。
王の元への道を確認したことについて、わかりましたと答えたに過ぎない。
大気中に漂う空気や埃が、人の歩みを止めることが無いように。
高(たか)が門番二人の制止など、塵以下でしかない。
しかし、その塵も、行く手を阻む邪魔となるのであれば、振り払う対象となる。
「ピュィ・・・」
門番は直ぐ様、長剣を捨て。口笛で仲間を呼ぼうとした。
しかし、サーラは、右手でその顔面を一息に掴む。
「うがぁっ」
メキメキメキ・・・と、少女の手とは思えない万力のような締め付け。
「そうだ。お口を、“取ってしまえば”良いんですね」
「っ!?」
門番は痛みを悶えながら一瞬、何を言っているんだと思った。
しかし、直ぐに少女の意図を思い知る。
少女は左手で門番の頭を固定すると、右手をそのまま“後ろに引いた”。
ボグワァッッ!!!
「‘+}@$%!?」
声にならない、悲鳴。しかし、確実にそれとわかる、絶叫。
「あはっ☆」
つい、サーラは笑みを零してしまう。
余りにも、“上手く行ってしまった”からだった。
サーラの右手には、門番の“顔の下半分”が握られていた。
そして、門番の顔面から、下顎が綺麗に無くなっていた。
「おごぼぼぼぼ・・・っ」
門番は、前のめりにドシャッと倒れ込んだ。
倒れた事で、出血による窒息は免れたものの、直ぐに動かなくなった。
「さて、それでは進みましょうか」
少女は、誰に話し掛ける訳でもなく。
そう独り言ちて、城門から更に先に歩を進めるのだった。