SamSuka
デアカルテ
デアカルテ

fanbox


ギガル01「プロローグ」

「ここ、か」

スーツ姿にソフトハットを被った男が、マンションの前に立っていた。


男は、五十代前半ぐらいだろうか。顔の皴や、ロマンスグレイからも初老の佇まい。

しかし、若い頃は武道で馴らしたのか背が高く、体格もガッシリとしている。


「あなた、本当にこんな所で良いのかしら」

一方、その大柄な男に付き添う女性は妻、だろうか。


こちらも妙齢だが、肌には手入れが行き届いていて、皴は少ない。

ワンピースの胸元を押し上げる豊満な肢体は、美魔女を思わせる。


「仕方あるまい。もう、他に行く所が無いのだ」

白髪混じりの髪を掻き揚げ、大柄な男が妻に答える。


『オーラマスター 光輝』


古びれたマンションの一室。表札には、そう書かれていた。


「ねぇ、パパー。きょうは、ここなの?」

「ああ、そうだよ」

男は、抱き抱えている少女に、そう微笑み掛けた。


資産家の清神(きよがみ)剛一郎とその妻、妙子。

この夫妻は、なかなか子宝に恵まれなかった。


色々な治療やカウンセリングを受けるも、効果が無く。

この歳になって、やっと生まれたのが。


念願の一人娘、小夜子。


その小夜子は、まだ小学校に上がる前の年頃だろうか。

同年代と比べてかなり、痩せ細っているように見える。


しかし、この夫婦は別に虐待をしている訳ではない。


充分な食事を与えているにも、関わらず。

小夜子の身体は栄養の摂取を拒み。筋肉が落ち、痩せ衰えて行く。


「長年診てくれていた医者も、遂に匙を投げてしまった」

ようやく授かった娘は、病を患っていたのだ。


保(も)っても、十歳まで生きられるかどうか。

医者は無情にも、そう宣告した。


「もし、ここがダメなら。後はもう、海外製の薬しか・・・」

「そんな、あなた! 可愛い娘を未認可の薬漬けにするなんて・・・」

既に、何人もの医者にかかり、認可が下りている薬剤は全て試した。

効果があるかどうかも良くわからない薬に頼る前の、最後の砦。



「コウ・・・キさん、で宜しいのかな?」

「儂の事は、オーラマスターと呼ばれるが宜しい」

初老の男より、幾つか歳上と思われる白髪に白髭の男。

白いハチマキを巻き、身体は襷で縛った白装束。


一昔前のテレビショー、心霊番組で出て来そうな霊媒師か、祈祷師。

そんな、どう見ても胡散臭そうな風貌の老人だった。


「ねぇ。あなた、やっぱり・・・」

「既に前金は払っているんだ。ここまで来た以上、診せるだけ診せてみよう」

目の前でのヒソヒソ話に、オーラマスターはウォッホンと咳払いをした。


「オーラとは、【氣】の流れや迸りを指す。【チャクラ】とも言う」

報酬分の仕事は果たす、と言わんばかりに男は説明を始める。


「娘さん・・・小夜子さんは、【陰の氣】が身体に充満しておる」

「・・・はぁ。インの気、ですか」

剛一郎も、世間一般で言う所のチャクラは聞いた事ぐらいはある。

しかし、この老人が言う様な“スピリチュアルなモノ”では無かったように思う。


「【チャクラ】を少しだけ開くことで、その【陰の氣】を祓えるだろう」

「そのチャクラ・・・と言うんですか? 少しと言わず、全部開いて下されば・・・」

それはならん、とオーラマスターはキツく言い放った。


「成人ならまだしも、幼子な小夜子さんには悪影響が出てしまう可能性がある」

「は、はぁ・・・」

清神夫妻は納得が行かないものの、一先ずは施術を受けることにした。


「小夜子ちゃん、目を瞑って気を楽にしていなさい」

オーラマスターは小夜子のお腹に手を当てる。


「・・・・・」

剛一郎は、施術の様子をしっかりと見詰める。


この手の輩にありがちな、治療を装ったセクハラでもしようものなら。

その太い腕をいつでも振るえるよう、身構える。


「・・・はぁっ!」

しかし、オーラマスターはそんな周囲を気にせず、気合いの声を上げた。


ドンッ。


「ねぇ、あなた」

「・・・っ」

“それ”は一瞬、確かに周囲に迸った。


窓が開いていて、風が入り込んだ訳でも。地震があって、地面が揺れた訳でもなく。

お腹、丹田に響くかのような。確かな【波動】を、清神夫妻は感じた。


「どうだい?」

施術は終わったとばかりに、オーラマスターは小夜子に優しく語り掛ける。


「うーん、わかんない」

夫妻にも、小夜子自身にも。何処がどう変わったのか、良くわからない。


「これで、終わり・・・ですか?」

「ああ、そうじゃ」

かつて武道で馴らした剛一郎は、先程の感覚が嘘でないことは直感した。

しかし、具体的に何が変わったのか、が自身の経験ではわからなかった。


「儂は逃げも隠れもせん。何かあったら、また来なさい」

そう言われ、清神一家は渋々、帰路に着いた。


More Creators