「行って来まーす」
「はーい、行ってらっしゃい」
黄色い帽子に、赤いランドセル。
小学生らしい格好で、小夜子が登校して行く。
「小学校で、上手くやって行けるだろうか」
「きっと、大丈夫よ」
清神夫妻は、元気良く駆けて行く愛娘を見送る。
虚弱だった体質は、何処へやら。
健康で美しく成長しつつある小夜子は、小学校に通う年齢になった。
「お医者さんは、問題ないと仰ってましたし・・・」
「ああ。そうだ、な・・・」
妙子の含みのある物言いに対し、剛一郎も同じような返事。
「背も胸も、遺伝なんだろう」
小夜子は、二人の想像以上にスクスクと育った。
いや、強いて言うのであれば育ち過ぎ、と言っても過言ではない。
「あの子、この一年で30cm以上も伸びたのよ。胸だって・・・」
身長『150cm』は、小学六年生並の数値である。
胸は、トップ『88cm』という大人の女性顔負けな胸囲。
高身長の剛一郎と、豊満な妙子。二人の血を引いている、と言えばそうだが・・・。
小学一年生の時点で、着せてる服は高学年用。
ブラジャーを初めて着ける年代は、個人差があるものの。
小学一年生の時点で『Cカップ』を着けなければならないぐらい、成長著しい。
「まあ、ちょっと成長が早くなっただけさ」
『オーラマスター』の事なんて、既に忘れ掛けていた頃合い。
二人は直ぐに、現状の認識が甘い事を知らされる。
――とある日の、昼休み。
「なぁ、お前がキヨガミ?」
「え、なにー」
小夜子のクラスに、五年生の男子たちが押し掛けていた。
「何で、五年生がいるのー」
「わー、なになにー」
一年生のクラスなんて、物心が付いて間もない子供も居て。
状況を理解が出来ている者は少なく、対応も様々。
「うわ、すっげ」「胸、でけー」
「ちょっとー。女の子にそんな事言っちゃダメなんだからぁ」
一年生としては育ち過ぎな小夜子を揶揄する五年生の男子たち。
「なぁ、俺らと遊ぼうぜー」「良いだろー?」
「何で、小夜子ちゃんが男子と遊ばなきゃいけないのよ」
小夜子と初めて友達になった梨花ちゃんが庇ってくれる。
「うるせー」「下級生は黙ってろよ」
男子が、梨花ちゃんに掴み掛かろうとした時。
「いいよー」
「え、小夜子ちゃん。良いの?」
庇っていた筈の、小夜子の承諾。
「うん。たまには男子と遊んでみたい」
小夜子は最近、剛一郎に余り遊んで貰えておらず。
常々、身体を動かしたいとウズウズしていた。
「おーし。じゃあ、運動場行こうぜ」
「お外? わかったー」
五年生の男子数人と、小夜子が教室から出て行った。
「心配だから、行こ」
「うん」
梨花ちゃんと他のクラスメイト女子も、心配で付いて行く。
「なにするの?」
「相撲でもしよーぜ」
運動場に仕切りの二本線と、俵かわりの円を描き始める。
男子たちは、最初からそのつもりだったのだろうか。
「えー、おすもう? まあ、いいけど・・・」
「相撲はルールが簡単だからな。一年生でも出来んだろ」
手や身体で押して、相手を土俵から出すか。
もしくは、廻しを掴んで投げて地面に転がせば、勝ち。
種目ごとでルールが異なる球技と比べれば、下級生でも簡単。
しかし、それなら他にも鬼ごっこや隠れんぼ等、遊びは幾つもあるのだが・・・。
「へへっ。誰から行く?」
「俺から行かせろよ」
五年生の中でもガキ大将と思しき大きな男子が、前に躍り出る。
「俺は、権田(ごんだ)ってんだ」
自分を指差し、そう名乗った。
「何だ、やっぱり俺の方がデケェな」
権田は確かに、小夜子より目線一つ分ぐらい背が高かった。
小夜子が『150cm』なので、下手すると160cm近いだろうか。
「目方は、俺の方が圧倒的だけどな」
古い言い回しをする権田は、実はわんぱく相撲の横綱だった。
160cm、80kgの巨体を活かし、四年生から無敗を続けている。
「権田くん。“取組”みたいに、泣かせたりすんなよ」
「わーってるって」
小学生がメインとなるわんぱく相撲は、体格差が激しく。
大人顔負けの権田が相手だと、大抵の子供は泣き出してしまうのだ。
「はっきよーい・・・のこった」
「まあ。“結果的”に泣かせちまうかもだけど、なっ」
行司代わりの男子の仕切りを受け、権田が小夜子に組み付く。
ぽよんっ。
「うっほ。すっげぇ感触」
権田は、小夜子のスカートを掴み、小夜子の身体を引き寄せる。
いや、正確には自身の顔を、小夜子の胸元に押し付けた。
「ちょ、なに。やー」
「何って。これが相撲だぜ」
物心が付いて間もない小夜子は、権田が何をしてるか良くわからない。
だけど、生理的な悪寒だけは、十二分に感じられる。
「おすもうって、どうすればかちなの?」
「小夜子ちゃんっ。土俵から押し出せば勝ちだよ」
梨花のアドバイスに、小夜子は初めて土俵の線を確認。
「なぁんだ」
「させる、かよっ」
権田は、少しでも長く小夜子の胸の感触を味わいたい腹積もり。
自分の優位になるよう小夜子を下がらせるべく、上手(うわて)に力を入れる。
「・・・っ!?」
しかし、小夜子の身体は、一向に動く気配がない。
まるで、お地蔵さんか何かを相手にしているよう。
「なん、っで・・・だ」
摺足で電車道、が自分の得意技で。大半の相手は、押すだけで勝てたのに。
今組み合っている一年生女子は、一ミリも動かない。
「“こう”やれば、いいんだ」
小夜子は、権田を真似て相手の腰辺りのむんずと掴む。
メキ・・・
「うぎぃっ!?」
権田の腰骨は突如、激痛の悲鳴を上げる。
メギ・・・
「痛って! おい、何処掴んで・・・っ」
「あとは、おせばいいんだよね」
小夜子は、ベルトのつもりで権田の腰骨をガッチリと掴んだまま。
権田の巨体を押してズン、ズンッと土俵際に寄せて行く。
「小夜子ちゃん、すごーい」「そのまま、押し出しちゃえ」
優勢な女子側のギャラリーが、一気に沸く。
「どーっん」
「う、お、わぁ・・・っ」
小夜子が両手をバーッと広げると、権田の巨体が宙に浮き。
土俵際を大きく越えて、運動場にお尻から強制着地した。
「・・・がぁっ!?」
ドゴンッ、ゴロゴロゴロ・・・
80kgの巨体が宙に浮くほどの勢いは簡単に収まらず。
権田は後ろ向きにでんぐり返しを繰り返して、やっと止まった。
「うっわ。だっせー」
「権田くん、手加減し過ぎじゃね?」
男子たちが、一年生女子に転がされた権田を囃子立てる。
「う、うるせー。お前ら、良いから全員で行け」
「えー。何だよ、それー」「どうする?」
権田以外の男子が相談して、取り敢えず二人掛かりで行くことになった。
「ちょっと、男子ー」「二人掛かりなんてヒキョウよ」
いつの間にか他クラスや学年も集まり、ギャラリーが増えていた。
「うーん、いいよ。ゴンダくん、弱かったし」
「なぁっ!?」
小夜子は権田を弱いと言い切り、男子二人相手に向き合う。
「はっきよーい、のこった」
「うりゃ」「そぉいっ」
土俵中央で、男子二人が小夜子に組み付く。
「何だ、これ・・・」「動かね・・・ぇっ」
男子二人の頭がそれぞれ、小夜子の胸元に当たっているものの。
二人とも、その感触を味わっている余裕はなかった。
「やっぱり。なんか、やー」
小夜子は、男子たちと組み合う度に嫌悪感を感じていた。
「おさなくても、どひょうからだせばいいんだよね」
「え、何言って・・・」
小夜子は、右側の男子の腰を右手で。左の男子を左手で掴み。
「どーっん!」
権田と同じ要領で、思い切りブン投げた。
「「う、わぁぁぁっ!!?」」
ドッゴン!と男子二人が宙を飛び、土俵の外で尻餅を付いた。
「小夜子ちゃん、すっごい!」
「えへへー♪」
小夜子は何処で覚えたのか、観衆に向かってピースサイン。
「だって、かるいんだもん」
投げ飛ばされた二人は、五年生らしい体格ではある。
しかし、権田に劣るとは言え、二人合わせれば重量は権田以上。
「くそっ! こうなったら、四人全員で行くぞっ」
「「「お、おうっ」」」
権田と、取り巻きの五年生三人。合計で、男子四人が。
小学生とはいえ恥も外聞も掻き捨て、一年生女子に向き合う。
「うーん。いつでもいいよぉ」
行司が居なくなったから、ではなく。
小夜子からすれば、“この程度”の男子に開始の合図は要らないとの判断。
「てんめぇ、舐めやがって」
「俺らが行くから、権田くんは後ろから押してくれ」
男子三人が前衛とばかりに、小夜子に取り付く。
「何っ、で・・・」「動かねぇ、んだっ」
「・・・お」
正確には、小夜子の身体はジリジリと後ろに押されていた。
しかし、裏を返せば男子三人掛かりでも、やっと少し押す程度。
「お前ら、そのまま抑えてろ・・・よっ!」
まるで、ラグビーのスクラムのように、権田が男子三人に後ろからブチかます。
「あ、これは・・・」
この日初めて、小夜子が苦しそうな顔をした。
「“パパぐらい”にはつよそう。なら・・・」
“本気出しちゃえ”と、そう呟くと。
小夜子は、その長い腕を大きく広げ。
男子三人を抱え込みながら、後ろに居る権田の腰骨を再び掴んだ。
メキメキ・・・
「あぎゃ」「いぎぃ」「うげぁ」
両サイドの二人と、後ろの権田が同時に呻き声を上げた。
「う、ぅんっ!」
男子三人から骨が軋む音がするのも、構わず。
小夜子が、渾身の力で男子四人を土俵際まで一気に押し出す。
「ど、っせーいっ!」
バキバキッ・・・メギョッ!
両サイドの男子の脇腹と、権田の腰から厭な音がしたと同時に。
男子四人は、土俵の外まで吹っ飛ばされる。
「いぇーい♪」
「きゃー、すごーい」
沸くギャラリーに、小夜子は完全勝利のピースサイン。
・・・とは、行かなかった。
「ちょっと! 何やってるの!?」
騒ぎを聞き付けた先生が、何人か駆け付けて来た。
「うわぁぁぁん」「痛いよー」
投げ飛ばされた男子たちが運動場に転がり、泣き叫んでいる。
「おい、これ・・・」
「ああ。救急車を呼ばないと」
只事じゃない様子を感じ取ったのか、先生が携帯で『119番』。
――二時間後。
『大変申し上げ難いのですが、清神さんの娘さんが・・・』
「えぇっ! ウチの娘が怪我をさせた!?」
電話口の先生が告げた内容に、剛一郎は我が耳を疑った。
小夜子が、上級生四人に怪我を負わせたと言うのだ。
「これは、一体・・・」
病院に駆け付けると確かに、“相手と思われる男子たち”がワンワン泣いていた。
「お昼休みに、相撲を取ったらしいんです」
高学年並の上背がある小夜子は入学当初から、目立っていて。
そこを、上級生の男子たちに見咎められたのが発端。
「小夜子さんは、その・・・膨(ふく)よかなので」
担任の先生は言葉を選んでいるものの、言いたい事は直ぐにわかった。
高学年とはいえ、所詮は小学生の男子たち。
小夜子の『Cカップ』バストに目を付け、あわよくば触ってやろうと画策したのだ。
「小夜子さんは、普通に相撲を取っただけのようなんですが・・・」
一年生女子一人に対し、五年生男子四人。
どう考えても、怪我をするなら小夜子の方だろう。
しかし。
腰骨の骨折が、一人。
肋骨の骨折が、二人。
臀部の打撲が、四人全員。
死屍累々の屍を晒したのは、上級生である男子の方だった。
デアカルテ
2023-12-11 09:42:57 +0000 UTCokita
2023-12-08 13:51:19 +0000 UTC