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MGガール17「高1:⑥拉致」

「真理奈、今日も行くの?」

「うん」

真理奈は最近、放課後にジョギングに出掛けるようになっていた。


有り余るパワーで物を壊すことが増えてしまい。

せめて、ガス抜きをしたい、ということらしい。


「健ちゃんも、来る?」

「や、やめとくよ」

一度、僕も一緒に走ろうとしたことがあった。

しかし、10分もしない内に付いて行けないことに気付いたのだ。


真理奈の脚は、僕に合わせようと軽めに走っても、自転車より速かった。

もし仮に、一般的な自転車の速度を『20km/h』として。


男子マラソンのトップランナーが同じぐらいの速度らしく。

計算してみたら、僕が『50m走』で全力疾走する速度が同じぐらいだった。


「あんまり、夜遅くならないようにね」

「うん、ありがと」

そう言って、真理奈は軽やかに駆けて行った。


「は、っや・・・」

軽やかな所作の普通の走りですら、僕から見れば爆速だった。


「健ちゃん、ごめんね。でも、これも巡り巡って健ちゃんのため・・・」

真理奈は自分にそう言い聞かせながら、軽やかにジョギングを開始。


スポーティなポニーテールに、ジャージの上下。

ジャージの上は『5XL』、下は特注した『10XL』なのでかなり余裕がある。


「走るのも、だいぶ慣れて来たかも」

最初、上下動が激しくて、Gカップ巨乳がバルンバルンッと揺れていた。


大胸筋が発達しているせいか、乳房が揺れても痛みは無いものの。

砲丸並の巨乳が揺れると、流石に周りの人の注目を集めてしまう。


尤も、原付バイク並みの高速で走る長身女子の姿はどちらにしても目立つのだが。


「そろそろ“遭遇”しても良い頃なんだけどなぁ・・・」

真理奈には、別の“目的”があった。

むしろ、ジョギングはあくまで、手段。


「映画とかドラマみたいに、そんな上手く行か・・・」

陽が落ち、今日もお開きかと思った瞬間。


キキィーッ、ドンッ!


「っ!?」

何かがぶつかった音と、きゃーという女性と思われる悲鳴。


音がした方角に全速力で駆けて行くと、お爺さんが尻餅を付いていて。

『シビック』タイプの白い車が、ギャギャーッと走り去って行った。


「お爺さん、大丈夫ですか?」

「怪我、ないですか?」

サラリーマンと思われる周囲の大人たちが、何人か駆け寄っている。


「ふぅ、良かった。お爺さんは大丈夫そう」

一先ずは、安心。

駆け寄った人が、念の為に救急車も呼んだ模様。


「お爺さん、ダシにしてごめんなさい」

真理奈は、軽症で済んだと思われるお爺さんに頭を下げた。


「走って行った方向もわかるし、“音も追えてる”」

真理奈は一目散に、“その方向”に向かって走り出した。

今までがセーブしていた、と言わんばかりの全力疾走。


ビュンッ!


「・・・え」

同じ道を走っていた原付バイクは、自分を抜き去って行く長身の陰を見て唖然。


「今、“走り”に抜かれた・・・のか?」

徐々に遠ざかって行く後ろ姿は、女性のそれだった。


「多分、大通りに出られたら追い付けない」

脚が凄まじく速くなったとはいえ、フルアクセルの自動車には及ばない。

真理奈もその自覚はあるので、狭い裏道で逃げている今がチャンス。


「あ、居た」

程なくして、コンビニ裏の駐車場に停まっている白い車を発見。

運転席の窓が開いていて、中に男が居る。


「ちょっと、お兄さん」

「何だ、アンタ」

如何にもチャラそうな、金髪の男が乗っていた。


「さっき、道でお爺さん轢いたでしょ」

「あん? 知らねえよ」

人を一人轢いておいて、コンビニで呑気に休憩してるような輩。

問い質したところで、自白する筈もなく。


「“ここ”。“ここ”に、お爺さんのズボンの跡があるよ」

真理奈は、フロントバンパー辺りを指差して言った。


「あん? そ、そんなもん、ねぇよっ」

金髪男は、急にしどろもどろになる。


「お前も轢かれたくなきゃ、そこをどけっ」

逃げるつもりなのか、ドルンッとエンジンを掛ける。


「あ、“お前も”って言った! 逃がさないから」

世の中のトラブルを解決する、正義のヒーロー的な。

真理奈はそんな中二病的な義憤に駆られ、興奮していた。


「けっ、うるせぇ」

窓を閉じて施錠された自動車は、密室と変わらない。

外に居る人間からすれば、堅牢なシェルターにもなる。


「ふぅ・・・」

真理奈は、先ほど指差したフロントバンパーに取り付き、しゃがみ込んだ。


「何をしようってんだ?」

長身で体格が良いとはいえ、ジャージ姿の女子に何が出来る。

金髪男はそう、思った。


「・・・ふぅっ、ん」

下手でバンパーを持ち、腕やお腹、背中にお尻、太腿全てに力を籠める。


『シビック』の重量は、約1.3トン。金髪男の体重込みで、1.4トン。

前輪駆動でエンジンはボンネットの中にあり、車体前面が一番重い。


ググ、グ・・・


「・・・え」

ギギィ、という軋む音と共に、車体が傾いて行く。


「うぅ、ん・・・っ」

アドレナリンのせいか、真理奈は全身に力が漲るのを感じていた。


ググ、グ・・・


「う、っそだろ・・・くっそ!」

男は慌ててアクセルを踏むも、タイヤは空転して進む気配はない。


中腰だった真理奈は、既にスクッと直立不動の状態。

勿論、その両手は未だにシビックの車体を持ったまま、だ。


「まだ、行けるっ」

重いエンジンルームを持ち上げ、既に車も男も何も出来ない。

にも関わらず、真理奈は全身に更なる力を籠める。


ググ、グ・・・


「マ、マジかよっ!?」

今度は、車体後部が徐々に立ち上がり始める。

遂には、四輪全てが宙空に持ち上がってしまった。


「お、下ろせっ」

「ふぅ。ホントに持てちゃった・・・」

真理奈は内心、驚いていた。


両腕合わせて『900kg』超の腕力があるとはいえ、普通自動車の重量は1トン超え。

持てても、前部分を持ち上げるのが精一杯だと思っていた。


「火事場の馬鹿力、なのかな」

アドレナリンの影響はあるにせよ、実際には火事場の馬鹿力ではない。

単純に、重い荷物を持ち上げる動作が、腕以外にも多くの筋肉を使う為だった。


広背筋に脊柱起立筋群。腹筋に、大殿筋。大腿四頭筋にハムストリングス、腓腹筋。

わかり易く書けば、背中から腰にお腹。お尻に太腿、ふくらはぎ。


言う迄も無く、上腕以外のそれらの筋肉も凄まじく発達している。

それらが等しく、筋力を発揮した結果だった。


「じゃ、行こっか」

真理奈自身、重く感じるが持てなくはない、と言った所。

自動車を水平に持ち上げたまま、ズンッズンッと真理奈は歩き始めた。


「ど、何処に行く気だっ」

「何処って、決まってるじゃない」

真理奈はその健脚で、数十キロ単位で毎日、走り回った。

その結果、かなりの広範囲で地理に詳しくなっていたのだ。


「警察よ」

「ひぃっ」

真理奈はワザと、目線の高さが同じになるように車を更に高く持ち上げる。

運転席に乗っているのに、歩き始めた長身女子と同じ高さという違和感。


ズンッ、ズンッ。


「う、おっ」

真理奈が歩く度に車内が上下に揺られて、身体が浮く。


ズンッ、ズンッ。


「お、下ろっ・・・うぉ」

最寄りの警察署に着くまでの十数分の間、男は生きた心地がしなかった。


ズンッ、ズンッ。


車乗りとして、横方向への加重は何度も経験がある。

しかし、縦方向への加重移動は生まれて初めての経験だった。


「じゃあ、お巡りさん呼んで来るから・・・」

「お前、何をし・・・うぉわぁっ!?」

そう言って、真理奈は警察署の壁に『シビック』を立て掛けた。

律儀に前輪を浮くようにして、自走して逃げられないように、だ。


「てめぇっ、舐めた真似してくれやがって。覚えてろよ」

金髪男は、警察署に入って見えなくなった真理奈に対し、そう毒づいた。


車を持ち運び、壁に立て掛けるような怪力女に。

面と向かってやり合う度胸は無かった・・・かに見えた。



――数日後。


「今日も何事もなく、かな」

日課になりつつあるジョギングを終え、帰路に着こうとしていたその時。


ブーッン・・・ドンッ!


「お? っとと・・・」

真理奈は突然、背中から何かに“押された”。

転びはしなかったものの、前に詰んのめってしまう。


「なに?」

振り向くと、直ぐ後ろに『ハイエース』タイプのワゴン車が停まっていた。


「おい、マジかよ。『80(km/h)』で当てたのにピンピンしてやがる」

「だ、だから言ったじゃないっすか」

パンチパーマの柄シャツ男と、金髪男がワゴン車から下りて来た。


「何、お兄さんたち。今、何したの?」

「うるせぇっ」

真理奈は出会い頭に、“黒い警棒”のようなモノを押し当てられ。


バチバチバチッ!


という強烈な“刺激”を浴び、一瞬でその場に倒れ込んだ。



―――。


「おい。足までグルグル巻きにしたら、股ぁ開けねぇだろうが」

「でも、こいつ普通じゃなさそうなんで、念の為・・・」

柄シャツ男が、金髪男にそう咎めていた。


「この女、車で轢いたのに倒れもしないなんて、変っすよ」

「そうですよ。女一人運ぶのに、俺ら四人掛かりでやっとなんて初めてっす」

他の男たちも、金髪男に同意。


「・・・う」

空間に響く声で、真理奈は薄っすらと目を覚ます。


「ここ、どこ・・・」

高い天井に、薄暗い電灯。


「私、何でこんな所に」

周囲を見渡すと、車のボディにシャーシ。タイヤなんかもある。

一見すると車の整備工場のようだが、あちこちが錆び付いている。


稼働していない廃工場、と言った所だろうか。

真理奈はその奥て椅子に座らされ、男たちに囲まれていた。


ガチャ、ガチャッ。


「何、これ」

真理奈は只、椅子に座らされている訳ではなかった。

正確には、鎖でグルグル巻きにされ、縛り付けられていた。


「よう、お嬢ちゃん。どんな、気分だ?」

「どんなって、言われても」

生まれてこの方、複数人の男たちに囲まれる経験なんて皆無。

真理奈は今まで経験したことがないような状況で、理解が追い付いていない。


「なぁに、言うこと聞いてくれりゃあ、悪いようにはしねぇ」

「聞かなかったら?」


「そうだな。海にでも、沈んで貰おうか」

「へっへっへっ」

リーダー格と思われる柄シャツの男に合わせ、周りの男たちも下卑た笑いを浮かべた。


走り屋集団、『スピードジャンキーズ』。

この廃工場は男たちのアジト兼、“ヤリ部屋”だった。


女の身体が恋しくなったら、街で適当に女を見繕う。

ノって来れば良し、ダメでも強引に浚ってしまう。


女の身体を縛るだけであれば、ガムテープやロープがあれば事足りる。

しかし、男たちは敢えて武骨な鎖を使うことで、“脅し”に説得力を持たせようとした。


「海に沈める」

という言葉に現実味を持たせることで、その後の展開をやり易くする。


「それか、俺たちと“楽しむ”か、どちらか選べ」

強姦ではなく、同意の上での行為、という言い訳を成り立たせる為のプロセスなのだ。

そして、ヤッてる最中を動画に収め、もし通報すれば動画をバラ撒く、というダメ押し。


『スピードジャンキーズ』という走り屋ならぬゴロツキ集団は、こうやって多くの女を弄び、泣き寝入りさせて来た。


「しっかし、よぉ。この女がどれ程のモンか知らねぇが、やっぱり縛り過ぎじゃねぇのか」

これは何も、真理奈を慮っての台詞ではない。

いざ、行為に移る際に解くのが面倒なのだ。


男たちの誰もが今までやったことがないような、厳重な拘束。


真理奈は先ず、椅子の背もたれ越しに後ろ手に手錠を掛けられ。

背もたれの上から、上半身を固定するように鎖でグルグル巻き。

両足も足首に手錠を掛けられた上で、向こう脛辺りを鎖でグルグル巻きにされていた。


「いや、しかし・・・」

他の男たちは“知らない”からそんな事が言えるんだ、と金髪男は思った。


「あ、思い出した! そこの金髪の人、あの時のお兄さんだ」

真理奈は突然、修羅場に似つかわしくない呑気な声を上げた。


「車を持ち上げた、んだっけか? 馬鹿言え」

「ぎゃはは。だよなぁ」

金髪男以外は皆、何処か他人事だった。

車に走って追い付き、更に車を持ち上げる、なんて誰も信じていない。


「この“ビビリ野郎”の与太話は兎も角、アンタはアンタでエラく余裕だな」

「そう、かな・・・」

真理奈は最初、目を覚ましたてでボーッとしているのかと思った。

状況が整理し切れず、脳の処理が追い付かない、と。


「そう、かも」

しかし、真理奈の頭は既にクリアになっていて、意識もハッキリしていた。


鎖でガチガチに拘束され、男たちに取り囲まれている。

普通に考えれば、絶体絶命な状況。


「何だか、“こんなもん?”って思っちゃった」

「あぁん?」

自らトラブルに飛び込み、気絶させられた上に拘束されている。

余計な事をして、そのしっぺ返しを喰らった格好なのに。


冷静になれば、緊張感や恐怖感が出て来るのかと思った。

しかし逆で、冷静になればなるほど、余裕が出て来るのだった。


「てめぇ、舐めてんのか」

舐める、侮る。戦力差を理解出来ずに、威勢を張る。


男たちからすれば、今まで何度も犯し、泣かせて来た女と変わらない。

多少、背が高くて体格が良い程度、だ。


「だって、“こう”だもん」

椅子の背もたれがバキッと折れたかと思うと、真理奈の身体に合わせて破断された。


真理奈が座らされている椅子は、極々普通な木製の椅子だった。

そして、手錠を嵌める為に、背もたれを挟み込むように後ろ手を組まされている。


鎖で固定された真理奈の上半身と、背もたれ。

一方で、下半身は椅子の足ごと鎖で固定されている。


鉄製の椅子ですら圧し折る真理奈の筋力を以ってすれば。

木製の背もたれと座板が繋がっていられる筈もなく。


「なぁっ!?」

厳重に縛った筈の女が、何事もなくスクッと立ち上がったのだ。


ミシ、ミシミシッ・・・パキ、パキキッ。


「何を、してやがる・・・?」

「どのぐらいの力で鎖が切れるかな、と思って・・・あ」

バッキャァッ!!という鉄が破断する音。

手錠を繋いでいた鎖もろとも、グルグル巻きだった鎖が全て、弾け飛んだ。


「どんな手品、使いやがった!?」

今までにも、鎖を抜けようとした者は居た。

ヨガ経験者で身体の柔らかい者なら、身体操作で拘束が緩むことはあった。


「嘘、だろ・・・」

男たちの内の一人が、弾け飛んでバラバラになった鎖を破片を拾い上げる。

鉄製のリングを連続で繋いだ、オーソドックスなリンクチェーン。

そのリングが幾つも、視力検査の『C』マーク(ランドルト環)の様に破断していた。


「手品、なのかなぁ・・・これ」

首を傾げながら、真理奈は両脚を何と無しに広げた。


『気を付け』の姿勢から、『休め』の姿勢に移行した。そんな軽やかさ。

動作の軽さとは裏腹に、両足からは鎖が引き千切られるバキャアッ!という音。


ピン、ピピンッ。


「痛っ・・・何だ?」

男の顔を直撃したのは、散り散りになった鎖の破片だった。


「「「・・・・・」」」

やり過ぎなぐらい、厳重に拘束した筈の女が。


「うぅー、ん」

ものの数秒で、手足をプラプラと解しつつ、伸びをしている。


「う、うおぉぉぉっ!」

金髪男が突然、その辺にあった鉄パイプを持ち、殴り掛かった。

ドガァッ!と、肩口にクリーンヒット。


「痛ったぁ・・・くないや」

「っ!? く、クソがっ」

ガン、ガンッと金髪男は何度も、何度も打ち付けた。

肩だけでなく、腕や腰や脚。遂には、頭にも振り下ろした。


「はぁっ、はぁっ・・・」

武器を持って襲い掛かった男は肩で呼吸し、息も絶え絶えなのに対し。

殴られるが儘だった真理奈は、ケロッとしている。


「それ、貸して」

金髪男から鉄パイプを奪い取ると、両端を手で持ち。


「何を、して・・・」

殴り疲れて肩が上がらない男の頭越しに、横にして持った鉄パイプを通す。

鉄パイプと両腕で作った輪っかの中に、男が閉じ込められた格好になる。


「へへーん♪」

真理奈はニンマリと笑うと、鉄パイプを持つ両手を手前に引き始める。


ググ、グギ。


「お、おい。やめ・・・」

ニッコリとほほ笑むだけで、真理奈の手は止まらない。


グギャ、ギ・・・ギギィ。


男の身体に沿うように、鉄パイプが折り曲げられて行く。


「あ、余っちゃった」

男の背中から上腕を通り、胸元まで回った鉄パイプ。

かなりの長さだったのか、男の胸元でクロスしてもまだ余裕がある。


「じゃあ・・・」

真理奈は余った鉄パイプをグニャリ、グニャリと絡ませて行く。


「ひぃっ・・・」

両腕ごと上半身を固定され、動けない自分の胸元で。

鉄パイプがまるで粘土細工のように捏(こ)ねられ、捩(ね)じれて行く。


「出来た♪」

金髪男の胸元で、鉄パイプがツイストドーナツみたいになってしまった。


「う、っそだろ・・・」

男たちが今まで浚った女にやって来たような、鎖で縛るのとは訳が違う。

鉄パイプを強引に捻じ曲げての、お手製の拘束具。


「このアマァ!」

男たちの内の一人が真理奈に殴り掛かる。


「それ、本気で殴ってる?」

ヒョイ、ヒョイッと真理奈は首を動かすだけで、躱(かわ)す。


「くそっ! 何で、当たらねぇ」

「ふーん。やっぱり、そっか」

真理奈は男の渾身のパンチを躱しながら一人、得心が行った。


眼が、良く見えるのだ。

通常の視力は勿論、『動体視力』と『周辺視力』がズバ抜けて高く。


河川敷で突然、飛んで来たボールをキャッチしたり。

ストラックアウトで『200km/h』の超剛速球を投げても、実感が無かったのはこの為。


原付バイクをより速く、自動車に追い付く速度で走ることを考えれば。

寧ろ、必然と言える能力かも知れない。


「うーん、どうしよう・・・」

女の子として顔を殴られるのは生理的に嫌なので、躱しはするものの。

この男のパンチ程度なら、恐らくは喰らっても問題ない・・・が。


「そろそろ、ウザい」

パンチを打ち疲れて、止まった男の鼻先に親指で挟んだ人差し指を置き。


「・・・へ?」

真理奈は、“デコピン”の要領で人差し指を弾いた。


バッゴォッ!


「うっぎゃあっ!」

男はまるで、ヘビー級ボクサーに殴られでもしたかのように、後ろに吹っ飛んだ。


「こいつ、鼻が折れてやがる・・・」

泡を吹きながらピクピクと痙攣する男の鼻は、完全に高さを失っていた。


「おい。もっかい、“アレ”使え」

「うっす」

柄シャツ男は、残るもう一人の男にそう指示した。


「あー、“それ”!」

真理奈は見るなり、今日一番の大声を上げた。


頑丈で怪力で、脚も速い。

そんな真理奈が、拉致される原因になったモノ。


「象でもイチコロって触れ込みの、改造スタンガンだぜ」

男が手に持つのは、拉致される前に喰らった“黒い警棒”。


「・・・あ」

「へへっ」

真理奈が怯んでいる隙に、男は間隙を縫って真理奈のお腹にそれを当て。


バリバリバリッと、スイッチを入れた。


「痛っ、痛ったたた」

真理奈の全身に、激痛が走る。


「・・・え」

通常、スタンガンを喰らった者は感電し、電気ショックで身体が硬直する。

しかし、この改造スタンガンは極限まで電圧を上げていて、喰らった者は卒倒する。


・・・筈なのだ。


「何で、効かねぇんだっ」

男は興奮してつい、密着したまま再びスイッチを入れてしまう。


「ぎゃ!」

男は自ら、スイッチを入れたスタンガンの電撃で昏倒してしまった。


「この人、何がしたかったの・・・」

自爆した男を見下ろしながら、改造スタンガンを握り潰した。


「後はオニイ・・・オジサンだけだね」

リーダー格の柄シャツ男は、他の男たちより幾分か歳上に見える。


「く、来るなぁっ」

「何、それ」

男は手に、“銃のようなモノ”を握り締めていた。


「ちょっと、“そんなの”人に向けちゃダメじゃない」

「死ねぇっ」

男はおよそ、大の大人が女子高生に向けるものではない台詞を吐いた。


パン、パン、パンッ!


ビス、ビスッ。


「あ、撃った」

「っ!?」

三発の乾いた音。しかし、真理奈は動じる気配すらない。


「くそがぁ」

パンパン、パンパンッ、パンッ!


ビス、ビスッ。ビス、ビス、ビスッ。


「ちょ、痛ったぁ」

「何で、平気なんだ・・・」

全弾打ち尽くしたのか、引鉄を引いてもカチッカチッと音がするだけだった。


「あー、破けてる!?」

ジャージのあちこちに、指の太さぐらいの穴が空いていた。


「あーあ、“赤痣”になってる・・・」

肩口に出来た穴を指で広げてみると、確かに赤く内出血していた。


「その“モデルガン”、改造してるでしょ?」

「モデル・・・? 何を言って・・・ぎゃ」

ツカツカと歩み寄ると、真理奈は男から銃を奪い取り。


メキ、メキッ。


「・・・っ!?」

メギャッ、ゴギャ。


今まで確かに握っていた銃が、目の前の女の手の中で、捏ねられて行く。

何処が銃身で、何処からが弾倉なのか、もうわからない。


「・・・・・」

手に余る大きさだった筈のモノが、テニスボール程にまで圧縮され。

真理奈がおもむろに手を放すと、ゴトッと鈍い音を立て地面に落ちた。


「オジサン」

「な、何だよ」

威勢を張ってみるものの、それは既に虚勢でしかないことは、男もわかっていた。


鉄パイプで殴り掛かった金髪男は、その鉄パイプを折り曲げられ。

顔面に殴り掛かった男は、“デコピン”一発で鼻を折られ。

改造スタンガンで襲い掛かった男は、逆にスタンガンを喰らって昏倒。


そして自分は、“拳銃”をぶっ放したにも関わらず、手傷すら負わせられなかった。


「私、結構酷い事されたよね」

真理奈は別に、聖人君子という訳ではない。

陰キャで基本的に大人しい性格、というだけ。


敵意を向けられ、被害を被れば、怒りもする。

例えそれが、中二病的な暴走の結果であっても、だ。


「い、いや、そうでも・・・」

ジャージ姿の若い女に凄まれ、碌に言い返すことも出来ない。


ワゴン車で轢き、改造スタンガンで気絶させ。

拉致した上に鎖で縛り、強姦を強要。

鉄パイプで殴り、スタンガンで襲い、更には銃撃。


数え役満、である。


「“腕相撲”と“くすぐり”、どっちが良ーい?」

「・・・へ?」

突然の二択。

柄シャツ男は改めて、真理奈の全身を見遣る。


身長は、175cmある自分と同じか、少し高いぐらいだろうか。

ジャージをダボッと来た、野暮ったい出で立ち。


顔は地味めだが、可愛い方。胸はジャージの上からでもわかるぐらいの巨乳。

ジャージ姿でジョギングするぐらい絞るような身体なのか、肉付きは良い。


「く、“くすぐり”で・・・」

男はこの期に及んで、性欲に判断を委ねてしまう。


『腕相撲』で、鎖を引き千切り、鉄パイプを折り曲げる腕力と勝負するよりも。

『くすぐり』なら、その肉感のある肢体を全身で味わえるのでは、という下世話な欲求。


「ふぅん。まあ、良いけど」

やや“含み”がある物言いをしつつも、真理奈は男の背後に移動。


「俺は、どうすりゃ良いんだ?」

「普通に、“気を付け”の姿勢で立ってて」

背中越しとは言え、あわよくば巨乳が味わえるかも知れず、男は素直に従う。


「じゃ、行くよ」

真理奈は後ろから両腕を回し、男の胸元に両手を持って行き。

柄シャツ越しに、男の胸筋に指を這わせる。


「おっ? お、お・・・」

背中に胸の、両腕に二の腕の。柔らかな感触があるかと思った、瞬間。


メギィ。


「お゛あ゛・・・あ、がっ・・・」

まるで、ギターの弦を爪弾くかのように、肉越しに肋骨が揺らされて行く。


メギッ、メリメリ・・・。


「お、おい・・・っ!?」

パキッ、という小気味良い音がした。


「うぎぃぃ・・・っ!!」

バキ、バキキッ!


男は別に、貧弱という訳ではない。中肉中背よりは、やや筋肉が付いている方。

だが、少々の筋肉では『289kg』という超握力を防げる筈も無く。


メギョッ、バキャッ!


「お、ぃ、がぁっ! や、やめ・・・ぎゃあっ!!」

左右十二対、両方で二十四本ある肋骨が一本、また一本と折れて行く。


ゴキッ、ボキン。


「おね、が・・・ぃ。もう、勘弁・・・ぐがぁっ!!」

健ちゃんにやるような、愛のあるくすぐりとは異なり。

無慈悲で執拗な、上半身の破壊工作。


「・・・ふぅ」

これまで無言だった真理奈が、一仕事終えたと言わんばかりに息を吐いた。


「五分の力でヒビ、八分で折れちゃう感じ・・・かなぁ」

男の肋骨のほぼ大半を破壊しながら、真理奈はそう冷静に分析した。


真理奈が挙げた“二つ”は、中一の頃に健ちゃんにやったスキンシップゲームだった。

今の力でやればどうなるか、その実験だったのだ。


男がもし、『腕相撲』を選択していれば、腕一本で済んでいたかも知れない。

部を弁えずに欲を掻いた結果、男は生涯、ボルト入りの生活を余儀なくされるのだった。

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