『健ちゃん。学校終わったら、ウチに来て』
僕は放課後、真理奈から呼び出された。
「何だろ・・・」
ジムに行ってから、何日か経ち。
次にまた行くなら予約を入れないと、思った矢先。
この呼び出し方は、という既視感。
そして、ここ数日の真理奈の違和感。
「ジム用に新しいウェア買ったんだけど、どう・・・かな?」
保志さんを真似たのか、真理奈はタンクトップと短パンに身を包んでいた。
新品ウェアのお披露目をやりたかったんだろうか。
「・・・それ、サイズは幾つ?」
ノースリーブのせいもあってか、かなりダボッとした印象。
「・・・・・『7XL』」
「・・・え? ナナ・・・え?」
僕は二度、聞き返してしまった。
つい最近まで着ていたのは確か、『5XL』だった筈。
「ちょっと、思ったんだけど・・・」
「な、何・・・?」
真理奈は目線を伏せ、視線を合わそうとしない。
いたずらを叱られる子供のように、全身をくねらせながらモジモジしている。
「ひょっとして、大きくなった・・・?」
「そ、そうかな? ど、どうだろ・・・」
可愛らしい仕草とは裏腹に、肩や二の腕にモリッ、モリッと筋肉が膨らむ。
その全身は、筋トレしてパンプアップした時よりも大きく見える。
「『5XL』のTシャツって、まだ着られる?」
「き、着られるよ?」
直ぐに着替えるから待ってて、と僕は部屋を追い出される。
「もーいーよ」
「入る、よ?」
ものの数分で着替えは終わった模様。
僕は一応、入る前に声を掛けつつ、再び真理奈の部屋にイン。
「う、っわ・・・」
少し前まで“普通にしていれば”着られた筈のTシャツは、ピッチピチだった。
「ど、どう?」
「・・・どう、って」
いや、もう・・・何ていうか、無理あるでしょ。
胸元のポッチどころか、砲丸のように大きな乳房の形がクッキリ。
恐らく、無理にでも着ようとして、ブラジャーを外したんだろう。
巨乳にシャツの生地がピッタリと張り付き、ボディスーツの様相を呈している。
「袖も、それ良く入ったね・・・」
いや、良く見ると袖には既に、幾つか裂け目が出来ていた。
腕を曲げるまでもなく、自然なサイズの上腕筋が袖を通らなくなっていた。
本来であれば、身長190cmクラスの男性用『5XL』の特大Tシャツなのに。
真理奈の上半身は、筋肉美をこれでもかと主張していた。
「あ、もう・・・だ、め・・・ぷはぁっ」
「・・・え」
ピリッ・・・ビリビリッ、ビリリィッ!
いつの間にか呼吸を止めていたようで、我慢し切れずに真理奈は息を吸って。
その呼吸による上半身の蠕動(ぜんどう)で、Tシャツはビリビリに破けてしまった。
「やっぱ、大っきく・・・なったよね?」
「・・・・・ぅ」
真理奈はシュンとして、肩を落としてしまう。
流石の真理奈も、こうなると小さく見え・・・たりは残念ながら、しない。
猫背になって俯いていても、それでも真理奈は僕より遥かに大きかった。
「あ、いや。別に、責めてる訳じゃないんだけど・・・」
正直な感想として、真理奈の身体はカッコイイと思う。
そして、青少年としては、どうしても胸元に目が行ってしまう。
胸の大きな女の子が嫌いな男は、居ない。
いや、むしろ女の子の大きな胸は、大好きだ。
もし、これが成人男子なら、社会的に終わってもおかしくない様な台詞。
尤も、高校生男子であっても外で発言すれば、変態学生のレッテルは免れない。
「【腕輪】に、聞いても良い?」
「・・・ぁ、うん」
真理奈の態度に違和感はあるものの、【腕輪】に今の真理奈のサイズを問い掛ける。
「・・・え? 身長が・・・『180cm』?」
ここに来て、身長が・・・伸びてる?
僕は慌てて、数ヶ月前に記録した数値と比較してみる。
体重も、『10kg』増えてる・・・。
でも、何でまた急に身長が伸びたんだろう・・・。
ちょうど、一年前。中三の頃に『177cm』になってから。
筋肉が付いて幾ら体重が増えても、身長は1ミリも伸びなかったのに。
実際、第二次性徴で伸びた身長が、ほぼ成人体での身長なのは統計が示している。
縦に伸びて止まった後は、肉付きの方にカロリーが消費されるのがセオリー。
以前、【腕輪】から聞いた遺伝子云々は一先ず、置いておくとしても。
真理奈が人間であることが変わらないなら、その成長過程も変わらない。
そう、思っていた・・・んだけど。
「どうして、真理奈の身長は伸びたの?」
「ちょ、健ちゃんっ」
僕はつい、ストレートに聞いてしまう。
幼馴染とは言え、年頃の女の子の個人情報なのに・・・という一般常識は何処へやら。
『肉体へ、【高負荷】が掛かった為です』
「それって、筋力トレーニングのこと?」
確かに、『プラチナジム』で真理奈はかなりの高重量を挙げていた。
そうは言っても、一般トレーニーから見て、高重量であっても。
真理奈自身は軽々と挙げていたし、限界重量には程遠かった印象。
そもそも、そのたった一回の筋トレも、つい先週の話。
幾らなんでも、身長に影響が出るには早過ぎる。
『【筋力鍛錬】の効果は、“まだ出ていません”」
え、“まだ”ってことは、これから・・・。いや、今はそれよりも。
「・・・あ、そうだ。ジョギングの効果が出たとか?」
真理奈はジムに行く前、ジョギングを日課にしていた。
何故、ジョギングを辞めてしまったのかは気になる所なんだけど。
『【運動軽走】の効果は、心肺機能の強化として現れています』
肺活量の多さとか、筋肉の疲れ難さとか。そういった方面の話・・・なのかな。
「じゃあ、別の理由があるとして。それって、時期はいつ頃?」
『およそ、一ヶ月前です』
一ヶ月前? 一ヶ月前って確か、ジョギングを辞めた頃なんじゃ・・・。
「け、健ちゃん。もう、その辺で・・・」
「真理奈。ジョギング、何で辞めちゃったの?」
真理奈は、バツが悪そうに僕から目を逸らす。
実際、胸が大きくなったり、筋肉が付く事は。
僕が褒めることもあってか、真理奈は嫌がっていない。
だけど、背が高くなる事についてだけは、やや嫌がる節を見せていた。
てっきり、身長が伸びた事への拒否感からだと思っていた。
バレーやバスケの選手、もしくはファッションモデルとか。
高身長が有利な職業を目指すのではないなら、高過ぎる身長はデメリットだ。
「・・・・・」
真理奈の態度への、違和感。
隠し事をバレまいとする、子供の態度のような・・・。
「高負荷って、具体的にはどんなの?」
『車両による衝突、高圧電撃、銃弾などです』
・・・え。え?
最初の二つもアレだけど、流石に『銃弾』という単語は聞き流せなかった。
「・・・えぇっ!? 銃弾って・・・」
「ぁ、あ~」
真理奈は諦めからか、大きな溜め息を付いた。
「真理奈、何があったの? いや、“何をした”の?」
「いや、その・・・。あのね・・・」
真理奈は観念したと言わんばかりにポツリ、ポツリと話し始めた。
轢き逃げ犯を追い掛けた事。
後日、その轢き逃げ犯に拉致され、廃工場で一悶着。
「・・・真理奈。ほんっと、良かったぁ・・・」
僕は大きく、安堵の声を上げた。
「え、健ちゃん? てっきり、怒られると思ったのに・・・」
「そりゃ、怒りたい気持ちはあるけど・・・」
【腕輪】の話を全て信じないにしても、真理奈は確実に“強い”。
それ自体は確かに、間違いようのない事実。
ただ、【腕輪】は無敵ではない、とも指摘していた。
焼死や窒息死なら有り得る、と。高所からの落下も、あくまで将来的に大丈夫って話。
「やっちゃった事は仕方ない。でも、真理奈が無事で良かった」
そして、今回。実際に、スタンガンで失神している。
拳銃で撃たれて無事だったのは、結果論でしかない。
「健ちゃん、ぅ・・・。ごめぇえん~っ!」
真理奈は感極まったのか、ガバァッと僕に抱き付いて来た。
「ちょ、真理・・・ぐぇっ!」
ミシ、ミシッと僕の身体が軋む。
「あ、ごめん・・・」
真理奈は直ぐに、僕の身体を解放。
僕は、一瞬で潰されそうになるも、何とか事無きを得た。
「加減、したんだけど・・・じゃあ」
「・・・え。うっ、ぷぉ」
今度は優しく、真理奈は僕の顔を自分の胸元に引き寄せた。
砲丸大の『Hカップ』という巨乳、ならぬ爆乳の柔らかな感触。
「私のおっぱい、どう? キモチイイ?」
「あ、うん」
僕はつい、正直にそう答えてしまった。
「あはは。健ちゃん、ヤラしぃ~♪」
「・・・う」
真理奈はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべていたが、余りに嫌な印象は受けない。
それは、真理奈の目尻に涙らしきモノが浮かんでいたせい、だろうか。
「これからは、無茶はやっちゃダメだよ」
「う、ん」
真理奈はおっぱい抱擁から僕を解放すると、右手で目尻を擦った。
「でも、急に胸が大っきくなってビックリしちゃった」
トップバストが『10cm』も増え、『125cm』という想像も付かないサイズに。
アンダー差が『2.5cm』もアップした結果、その差は今や『30cm』。
それまで『Gカップ』だったのが、たった数ヶ月前で『Hカップ』爆乳に。
『Hカップ』は、乳房一つが砲丸と同じぐらいで、片手に余る大きさ。
「体脂肪率が上がってるけど、もしかして・・・」
『電撃に対応し得る脂肪を搭載した結果です』
まさかの、ズバリだった。
いや、でも電撃に耐える為に脂肪を増やすって、短絡的過ぎないだろうか。
「後、“こっち”はどうしよ」
『5XL』シャツの袖を通らなくなった、『45cm』の剛腕。
真理奈はそれを、目一杯に力を籠めて盛り上げて見せる。
「・・・っん」
モゴゴゴォッ!
「す、っご・・・」
脂肪が増えたとは到底思えない、ガッチガチに血管の走り捲った特大の力瘤。
『66cm』というサイズは既に、バレーボールと同じ大きさになる。
「触って、みる?」
「う、ん」
高一女子の二の腕とは思えない、バレーボール大の筋肉の塊。
「・・・か、硬っ!」
山のように盛り上がる上腕二頭筋を、左手で掴んでみる。
それはまるで岩のようで、僕如きの握力でどうにかなるように思えない。
「・・・じゃあ」
左手で二頭筋を掴んだまま、反対側の上腕三頭筋に右手を宛がう。
「んぅ、ぐぉっ!」
両手で挟み込むように、全身の力で押し込んでみる。
しかし、真理奈の腕は微動だにしなかった。
「・・・? 何、してるの」
真理奈は、涼しい顔をしていた。
僕は真理奈の腕を1ミリも動かせないどころか、負荷を与える事すら出来なかった。
【腕輪】の計測値通りだとすれば、この腕一本で『532kg』もの出力を秘めている。
僕程度にどうにか出来る訳がないのだ。
「力の方は・・・その、大丈夫なの?」
「ジムに行ったから、かな」
真理奈はそう言うと、冷蔵庫から生卵を持って来た。
「調節が効くようになって来たみたい。注意すれば、だけど・・・」
そして、それを指で摘まんで見せた。
「すご。ほんと、だ」
女の子がただ単に、生卵を手で摘まんで持っただけ、である。
しかし、握力『321kg』という怪力女子となると、話は違う。
「だから逆に、力が強くなった実感が凄くわかるようになったかも」
真理奈は、部屋に常備するようになった鉄アレイを持ち出して。
肘の反対側の窪み、『肘窩(ちゅうか)』に鉄アレイを無造作に置くと。
「行くよ。見てて、ね」
鉄アレイを前腕と上腕二頭筋で挟み込むように、徐々に腕を曲げて行く。
グググ・・・グギャ、グゴギャッ!
「・・・え、え?」
真理奈の腕は、綺麗に『45度』で折り曲げられていた。
『66cm』のバレーボール力瘤と、握力『321kg』を生み出す前腕筋群に隙間は皆無。
「ほら、凄いでしょ」
真理奈の右腕には、極限まで薄く引き伸ばされた鉄アレイだったモノが載っていた。
「“こっち”でも、出来るよ」
真理奈は少しだけ股を開き、両方の太腿で鉄アレイを挟み込んだ。
僕の胸周り(84cm)より太い、『87cm』の極太の太腿。
真理奈の両足の腿周りを合わせれば、僕の身長とほぼ同じ。
ググググ・・・メギョッ!
「・・・ね?」
「・・・・・」
一瞬で、鉄アレイは煎餅に早変わりした。
「後は、ちょっと“端(はした)ない”んだけど・・・」
真理奈は、財布から『十円玉』を取り出した。
「それ、どうす・・・」
真理奈は少し背伸びをして腹筋を広げると、その隙間に『十円玉』を縦に挟んだ。
「・・・えぇぇ?」
レンガと言っても過言ではない、綺麗に六分割された真理奈の腹筋。
割れたというよりは、盛り上がって溝がある。そんな、イメージ。
その溝に、『十円玉』がギッチリと挟まって固定されてしまった。
「それ、どうす・・・っ!?」
メギョッ、と一呼吸で『十円玉』は真っ二つに折れてしまった。
まさかの、腹筋によるコイン曲げ。
「ね、凄くない♪」
「あ、あぁ。うん」
そう誇らし気に話しながら、真理奈はグイッと『十円玉』を元通りに戻してしまう。
真理奈にとって、コイン曲げレベルだと片手間でやれてしまうのだ。
「あれ? ちょ、健ちゃん。何か、引いてない?」
「ひ、引いてないよっ」
全身の筋肉全てが凶器となり得る、なんて思ってはいない。
「あー、『人間凶器』とか思ってんでしょっ」
「お、思ってないよ」
もし、真理奈の筋肉にホールドされ、捕まってしまったら。
僕に逃れる術は、存在しない。
「じゃあ、何を考えてたの」
「大きくなったのって、ここ一ヶ月の話だよね」
僕が、真理奈に感じていた違和感の正体は、それだった。
「う、ん。そう、だけど・・・」
「制服、入るの?」
一ヶ月ほどの短い期間で、急に身体が大きくなったせいか。
日々、真理奈の制服のシルエットが変わって行っていたのだ。
「・・・あ、うん」
今の『うん』は、いわゆる『YES』ではなく。
状況を理解している、と言う意味の『うん』だった。
『5XL』の長袖の制服は、完全に通らなくなっていたのだった。