「おっはようございまー・・・」
署員用の通用口がガチャッ、と開く。
すると、その向こう側から、ぬぅっと大きな影が現れる。
「・・・?」
2m以上もある高さのドア枠には、シャツと思しき胸元より下しか収まり切っていない。
“それ”が『人影』だとわかるまで、周囲の誰しもが時間を要した。
「ん、っ・・・」
その巨大な人影がグッと屈むと、巨躯に見合った太い頸が現れる。
しかし、その上に載っているのは、太首に似つかわしくないソバカス童顔の美少女。
「・・・っと」
ポニーテールに纏めた金髪が入り口を潜った、瞬間。
ガンッ!
と、何かがぶつかったような大きな音がした。
「・・・っ? ま、いっか」
「いや、良くねーよ」
一部始終を見ていた署員は、見るに見兼ねて突っ込みを入れた。
「“ドア枠”、曲がってんじゃねーか」
鉄製のドア枠が、『Ω』型に湾曲して歪んでいる。
「あ、あれ・・・?」
鉄枠が拉(ひしゃ)げるぐらい頭部を強打したにも関わらず、当の本人はケロッとしている。
【視点1】クラークの場合
「・・・・・」
『ABCトリオ』の一角、“BeanPole(ノッポ)”のクラークは改めてマギーを見上げる。
『Mシティ警察署』の中で、今まで自分(195cm)より高い者は居なかった。
自慢のアフロヘアがドア枠に当たって困っちまうぜ、なんて得意気に語る程だ。
上背だけならプロバスケットボール選手顔負けな自分が、目の前の巨女の胸元にすら及ばない。
ストリートバスケに興じていた頃の、バスケットゴールをすら思い起こさせる。
【視点2】ブライアンの場合
「・・・・・」
署の中で最も“Fat(フトッチョ)”なブライアンは、つい豊満な下半身に目が行ってしまう。
体重153kgを誇り、“スモウレスラー”と揶揄されることもある巨漢。
胸、腰、尻周り全て123cmという典型的なドラム缶ボディも、マギーと比べると一般体型。
【視点3】アレックスの場合
「・・・・・」
そして、“Macho(マッチョ)”で力自慢なアレックスは、マギーの体格に着目していた。
球体が二個詰め込まれたかのような豊満なバストに、肉付きの良い大きなヒップ。
それでいてキュッと縊れたウェストは、“Thicc(ボンッキュッボンッ)”なボディバランス。
雑誌でいつも“お世話”になっている『プレイメイト』顔負けの、ダイナマイトボディ。
ただ、プレイメイトの巨乳が『砲丸』なら、マギーのそれは『バスケットボール』だった。
トップバスト160cmの『Mカップ』、という異次元レベルの爆乳。
ヒップもそれに負けず劣らず、146cmという巨尻。
アレックスは自身の胸板と背筋に、かなりの自信を持っていた。
それは、胸周り140cmというトップクラスのボディビルダー並の数値にも表れている。
しかし、自身の逆三角形ボディの一番大きい部分でさえ、マギーの胸や尻に劣るのだ。
「先輩方、どうしました? 朝から元気ないですよぉ」
マギーが胸を張ると、バスケットボールそのままな胸元がドムンッと揺れる。
「お前、平気なのか?」
「えっ? 何がです?」
“昨日の事件”が何事も無かったかのような、マギーの返事。
昨日はあの後、ボロボロの全身を真っ赤に染めた状態でマギーは署に戻り。
報告書などの事務処理を済ませて、新人ということもあり赴任初日はお役御免となった。
「いや、何って・・・」
マフィア同士の抗争を、たった一人で収めた。
・・・という、生温い話ではない。
銃撃戦に生身で飛び込み、何発も銃弾を浴びながら。
素手で、抗争の両陣営を丸ごと屠ってみせたのだ。
「何処も、怪我とかしてないのか?」
「あー、はい。ちょっと、痣になっちゃいましたぁ」
マギーはシャツを捲り、お腹を周囲に晒した。
「痣って、何処に・・・」
プレイメイト張りに、キュッと縊れた艶めかしいウェスト。
薄く腹筋は割れているが、アレックスのような“シックスパック”とまでは行かない。
「えー、わかんないです? 触っても良いですよ」
アレックスはそう促され、自分の顔と同じ高さに位置するマギーのお腹に触れる。
さわ・・・さわ・・・。
「きゃっ、くすぐったいです」
実際、良く見ると内出血と思しき赤い痣が幾つか見付かった。
「“感触”は有る、のか?」
「ええ、勿論ですよぉ」
何でそんなことを聞かれているのか良くわからない、とキョトンとした表情。
“感触が有る”ということはつまり、『無痛症』などの痛みを感じない体質ではないということ。
そして、“内出血する”ということは、皮膚下の毛細血管が破れたことの証明。
「未来から来たロボットなんてことは、ないか」
『ABCトリオ』は、往年のアクション映画を思い描いていた。
一見、人間らしい見た目だが、中身は硬い材質のロボット暗殺者。
もしくは、瀕死の重傷を負った刑事がサイボーグで復活する刑事モノ。
「分厚っ・・・」
アレックスが手で触れた感じは、“肉厚のあるゴム”だった。
大型車が穿くタイヤのような、弾力がある分厚く硬いゴムの質感。
力一杯押し込んでも、皮膚の薄皮一枚を凹ませるのがやっとだった。
「お前さんが頑丈なのはわかったが、武器が禁止ってのはどうしてだ?」
この国においては、『撃たれる前に撃て』が常識と言っても過言ではない。
「えーっと、それはですね・・・。要らない銃とか、ありますか?」
「・・・? 武器庫に、作動しなくなった旧式なら幾つかあるが・・・」
マギーは、説明するより実践した方が早いとばかりに、錆び付いた銃を持って来た。
グロック系の拳銃だが、型番としてはかなり古い。
作動不良のまま放置されていたので、弾倉は空っぽ。
「“こんな風”に・・・」
マギーが引き鉄に人差し指を掛けた、瞬間。
グニャリ。
「「「・・・っ!?」」」
「・・・なっちゃうんです」
マギーの太い指は引き鉄穴に入らず、そのまま引き鉄部分を圧し潰してしまった。
マギーの手は特別、大きいようには見えない。
しかし、それはあくまでマギー自身の巨体を比較しての話。
グギャッ・・・。
「警察学校の時、教官から・・・」
「「「・・・っ」」」
グギョ・・・ゴリ、メリッ。
「『お前は銃を持つな』って、言われちゃって」
マギーは話しながら、右手を“開け締め”して行く。
ギギュッ。
手を閉じる度に、弾倉が潰れ。
ギュギギィッ!
銃身が折れ曲がり、拉げる。
軋む音を立てながら、拳銃がマギーの“手の中”に吸い込まれて行く。
「・・・はい」
完成したと言わんばかりに、ゴトッと“それ”をテーブルに置いた。
「何だ、これ・・・」
アレックスは、砲丸大の物体を手に取ってみる。
銃身や弾倉がマーブル模様を形成した、丸い鉄の球体。
「んぐっ・・・がぁっ!」
銃身や弾倉と思われる部分を引き剥がそうと、力を込める。
筋肉隆々なアレックスがどれだけ力んでも、それは“鉄球”のまま変わらず。
「お前さん、握力はどのぐらいあるんだ?」
「・・・さぁ?」
「さぁ、って。測ったことないのか?」
「測ろうとしたことはあるんですけど・・・」
人体の比率として、特段大きい訳ではなくても。
相対値として見てみれば、一般的に体格の良いアレックスより二回りは大きい手。
引き鉄に指が入らなかったのと同様に、握力計を握ることすら出来なかったのだろう。
――と、その時。
「緊急通報!」
午前中の早い時間にも関わらず、オペレータが緊急通報をキャッチしていた。
「「「・・・っ!!?」」」
『ABCトリオ』は、昨日の事件を思い起こしていた。
「『○×通り』で喧嘩が発生している模様」
「・・・ふぅ。だと、さ」
通報内容を知り、アレックスが両手を挙げて“やれやれ”のポーズ。
「昨日の今日、だからな」
「幾ら治安の悪い『Mシティ』とはいえ、そう毎日は・・・な」
ブライアンやクラークも、何事も無かったかのように胸を撫で下ろす。
「ちょっと、先輩方。急行しないんですか?」
「あー、大丈夫だろ」
不良な悪徳警官三人組は通報が入ったにも関わらず、平然としている。
「あのなぁ、ここら界隈じゃ喧嘩なんて日常茶飯事なんだよ」
「イチイチ駆け付けてちゃあ、ガソリン代が無駄、だ」
挙句、デスクに腰を掛けて、タバコを吹かし始める始末。
「じゃあ、私は向かいます」
「あー、構わなねぇぜ。勝手に・・・」
アレックスはそう言いながら、署長の目線に気付く。
基本的に昼行灯で、『ABCトリオ』が何をやろうと我関せずな署長だが。
その目は確実に、“昨日みたいな事態はゴメンだ”と言っていた。
「上司命令だ。新人のお嬢ちゃんは、座ってな」
「じゃあ、先輩方の誰かが行くんですか?」
『ABCトリオ』はお互いの顔を見合わせて、肩をすくめた。
「誰も行かないのなら、やっぱり私が行きます」
「おい。だから、上司命令だと・・・」
アレックスは、チラッと署長を伺い見る。勿論、署長は“止めろ”のサイン。
「“職務放棄しろ”なんて命令は聞けません」
ズンズン、ではなく。マギーは巨体を揺らし、ズゥンズゥンッと歩いて行く。
「くそっ。行くなっつってんだろ・・・っ」
アレックスは、マギーのお腹に抱き付く。
普通の相手なら、肩を抑えて止める所なのだが。
一般的には巨漢の部類のアレックスでさえ、頭の位置はマギーの胸元より下。
「ぬ、ぐ、おぉぉ・・・っ」
アレックスは渾身の力を込め、アメフト選手のように全身で止めに掛かる。
「何、してるんです?」
当のマギー本人は歩みを止めるどころか、全く意に介していない。
「おい! お前らも手伝えっ」
「え、俺らもかよ」
仕方なく、ブライアンとクラークも加勢。
「・・・っ! マジ、かよ」
ズズ、ズズズッと『ABCトリオ』三人が後ろに押されて行く。
因みに、『ABCトリオ』三人分の合計体重は、404kg。
三人掛かりで尚、マギーの方が重い。
「・・・なら、これでどうだっ」
アレックスは三人掛かりでもマギー一人を制止出来ない、と見るや。
警棒を取り出し、マギーの左脚が前に出た瞬間に差し込んだ。
バキャッ。
「う、っそだろ・・・」
主に、犯罪者を殴り付ける為の強固な武器である筈の、警棒が。
女性警官の太腿に挟み込まれただけで、真っ二つに折れてしまった。
「・・・?」
相変わらず、マギー本人は全く気にも留めない。
身体バランス的に肉付きが良い程度とはいえ、1m近い極太の太腿なのだ。
警棒如きで止まる筈が無い、と言えば確かにそうではある。
「“このまま”バイクに乗りますけど、大丈夫です?」
「・・・え」
ブライアンとクラークはマギーにしがみ付いたまま、署員用の駐車場まで運ばれていた。
マギーの体格、剛脚なら大の男が何人しがみ付いていようが、そのままバイクに乗ってしまえる。
「わ、わかった」
お手上げ、降参とばかりに二人はマギーから離れる。
「じゃ、行って来ますね」
そう言って、マギーの愛車の超大型バイクに跨り、颯爽とエンジンを吹かして走り去った。