ギガル06「急成長」
Added 2024-04-23 08:51:51 +0000 UTC「本当に、小夜子・・・なのか」
半ば、自身を納得させるように、剛一郎は低く呟いた。
「だからぁ。私、小夜子だよ」
小夜子は、何度も同じ事を聞く剛一郎に不満気。
「まだ寝惚けてるの? お寝坊さんだなぁ」
しかし、直ぐに機嫌を直し、揶揄(からか)う。
「いや、しかしだな・・・」
声色や話し方は、確かに小夜子のそれ。
顔は面影があるが、少し大人びている。
「“それ”、どうしたんだ・・・」
「え、これ?」
小夜子は、右手で抱えたドアだったモノを見せる。
「これは、そのぉ・・・」
取れて壊れちゃった、と廊下の壁に立て掛ける。
「いや、そうではなく・・・」
何でドア板を手に持っていたのか、は気になる。
・・・が今、気にするのはそこではなく。
「“その身体”、一体どうしたんだ」
視覚に入って来る情報が、未だに愛娘であることを否定する。
小夜子の首から下が、昨日までとは全くの別人なのだ。
「え、身体?」
当の本人は、キョトンとした反応。
「・・・そうだ!」
剛一郎の指摘に何を思ったか、小夜子は肩の高さで両腕を折り曲げる。
モリ、モリモリ。
上腕二頭筋が屈曲する事により、行き場を求めて縦方向に隆起。
「っ!」
只でさえ分厚い腕が、一回り大きくなる。
「むんっ」
モゴォ・・・モリ、モリリィッ!
「っ!?」
まだ、本気ではなかったかのように。
力を籠められたそれは、更に一回りほど肥大化。
「ねぇ、パパ。見て見てー」
ドッジボール級な、特大の力瘤。
「・・・っ!?」
「これ、凄いでしょー。パパみたい」
小夜子の顔と声をした、自分と同じ背丈の巨女。
自身の全盛期ですら、これだけの筋肉を保持出来ていただろうか。
「触って、みてみてー」
「あ・・・ああ」
筋肉の迫力に気圧され、小夜子の二の腕に触れる。
さわ、さわ・・・。
「きゃ、くすぐったい」
可愛く身を捩る様(さま)とは裏腹に、およそ人体とは思えない岩石のような感触。
「男子とお相撲したのって、いつの事だった?」
「なに、突然。う~んとぉ、半年ぐらい前?」
つい、本人確認みたいな事をしてしまった。
名前とか生年月日とか、ともすれば他人でも取得出来る情報ではなく。
非常にローカルで、本人でないとわからない情報。
「はぁ・・・」
剛一郎は、深い溜め息を付いた。
「いつから・・・その身体になったか、覚えているかい?」
「・・・わかんない。朝、目が覚めたら腕とか脚が膨らんでたの」
長袖長ズボンだった寝間着は、見るも無惨な状態。
「ベッドは何か、縮んじゃうし」
「・・・え?」
小夜子は突然、明後日の方向の話を始める。
勿論、小夜子にとっては実際の遭った事を話したに過ぎないのだが。
「何を、言って・・・」
ベッドは、肌に触れる部分に頑丈な木材を使用している。
しかし、骨組みは鉄製なので、ベッド全体として縮むことは有り得ない。
「・・・まさか。“大きくなってる”事に気付いてない、のか・・・?」
「え、大っきく・・・?」
小夜子は、可愛らしい仕草で首を傾げる。
しかし、その頸は可愛らしさとは無縁で、太く逞しい。
「あー、そっか! 背ぇ、伸びてたのかぁ」
小夜子は暢気に、そう言い放った。
「本当に、気付いてなかったのか・・・」
ここまで劇的に変化しているのに、当の本人は至って平静。
「へへっ、パパとおんなじだ」
小夜子は右手を頭の高さでヒラヒラさせて、剛一郎の背と比較している。
「同じ・・・」
剛一郎は、右手が前後する度にモリ、モリッと盛り上がる力瘤に目が行く。
若い頃より体力が落ちたとはいえ、未だに身体の鍛錬は怠っておらず。
肉体年齢は三十代、と医者からお墨付きを貰う程の体型を維持。
そんな自慢の身体と比べて、小夜子は果たして同じと言えるだろうか。
ダランと伸ばした腕でさえ、力瘤を盛り上げた己の腕より太く見える。
「おんなじ、ってことはぁ・・・」
小夜子はまた何か思い付いたのか、ニンマリと妖しい笑みを浮かべる。
ガシィッ。
「おい、小夜子。何を・・・っ」
突然、剛一郎は小夜子に脇腹を掴まれ・・・。
「うっ、おわぁっ!?」
グアァッ!と一気に持ち上げられてしまう。
「やっぱり、“だっこ”できちゃうね♪」
何と、小夜子はその剛腕で、大柄な剛一郎を“高い高い”してしまった。
「た、高いっ・・・」
2m近い自分と同じ上背の小夜子に抱き上げられているのだ。
剛一郎の目線は、3m近い高さにまで上がっている。
「お、下ろし・・・」
剛一郎はこの歳になって、“だっこ”されるとは思っておらず。
つい、ジタバタと暴れてしまい・・・。
「あ、パパ。暴れちゃ・・・」
小夜子は、つい力が入り。剛一郎の脇腹に、指を食い込ませてしまう。
メキメキ・・・ミリッ。
「ぐあぁっ!?」
「あ、ごめんなさいっ」
慌てて、小夜子は剛一郎の身体を床に下ろした。
「ぐ、痛ってて・・・」
あのまま掴まれていれば、間違いなく肋骨が潰れていた。
剛一郎には、その確信があった。
そう思わせるに足る、万力のように強力な握力。
「パパぁ、暴れたらダメだよー」
小夜子は、腰に手を当てプンプンッと怒った仕草。
「重く、なかった・・・のか?」
「うん! パパって軽かったんだね」
サラッと言い放つ小夜子に、愕然とする。
身長190cm、体重108kg。
これが齢、五十を超えて尚、現役と自負する剛一郎の肉体である。
付け加えるなら、体脂肪率は15%前後を維持。
女性どころか、男・・・いや重量挙げの選手ですら、容易に挙がる重さではない。
それを、愛娘が軽々と抱き上げてしまった。