ギガル07「ハグ」
Added 2024-04-23 08:52:50 +0000 UTC「じゃあ、今度はぁ・・・」
小夜子は両腕を大きく広げ、開いた手を剛一郎に向ける。
「なっ、何を・・・」
筋肉隆々の腕が自分に向けられる様は、まるで熊に襲い掛かられんとするかのようで。
剛一郎は条件反射的に、つい身構えてしまう。
「“だっこ”して」
「・・・え」
小夜子の口から漏れたのは、いつもの甘える台詞だった。
「だからぁ。今度は、パパの番」
「いや、しかし・・・」
どう見ても、今の小夜子の体重は自分と同等かそれ以上。
「・・・っ!?」
しかし一旦、距離を取ろうとするも、身動きが取れない。
いつの間にか、小夜子の剛腕が首に回されている。
「小夜子。ちょ、っと・・・」
自分の首に回された小夜子の両腕が、ビクともしない。
首を振ろうが身を捩ろうが、全く動く気配がない。
「・・・どったの? 早くぅ」
当の小夜子は、アタフタする剛一郎の挙動に気付かない始末。
小夜子は一度、甘え出すと云う事を聞かなくなる節がある。
この時ばかりは、甘やかし過ぎる教育方針を少しばかり、後悔。
「・・・わ、わかった」
ホンの少しでも持ち上げれてやれば、納得もするだろう。
そう思い、剛一郎は小夜子の脇に両手を入れる。
「・・・っ」
小夜子の脇は、広背筋と思われる筋肉の塊で容易に通らなくなっていた。
これまでなら、前腕だけで小夜子の背中に手が届いたのに・・・。
「ぐ、くっ・・・ぐぅっ!」
仕方なく、両腕全体で抱えるように持ち上げようと力む。
「はぁ、はぁ・・・っ」
しかし、挙がらない。
「パパぁ、どうしたの?」
一呼吸で、しかも“手持ち”で持ち上げた小夜子は、飄々としていて。
一方の剛一郎は、“両腕持ち”で未だに挙げられずに居る。
「小夜子、ギュッと抱き付いて」
剛一郎としては、身体の隙間を無くすぐらい抱き付かせれば。
この場合、剛一郎の身体、もしくは背中辺りが支点になり。
小夜子の背中で両手を組む事で、作用点が小夜子の背中になって。
『テコの原理』を使えば、腕の力が伝わり易くなり。
そうすることで、持ち上がるのではないかと考えた。
「え、っと。うん」
物理作用など、まだ習っていない小夜子はキョトンとしつつも。
剛一郎の首に回していた手を外し、両腕全体で剛一郎の身体に抱き付く。
「よぅし、これな・・・」
剛一郎の考えは、確かに力学的には“正しかった”かも知れない。
しかし、現状の認識としては“誤り”、としか言えないものだった。
「パパ、わかった」
小夜子は、“両手だけ”で剛一郎をホールド出来ていた。
しかも、その両手共に、力を入れてはいなかった。
ギュウゥッ!!
「・・・らっ!? が・・・ぁっ」
小夜子の太い腕・・・正確には、上腕二頭筋が剛一郎の両肩を圧迫。
ガゴォッ!
「っ!!?」
“何かが外れる”音と共に、剛一郎の右肩に激痛が走る。
「あれ、パパ?」
肩幅が“狭まり”、脚に力が入らなくなった事もあり。
剛一郎は、ズルッと小夜子の剛腕ホールドからずり落ちた。
「ぐっ・・・がぁっ!」
剛一郎は外れた右肩を器用に、左手で強引に嵌め直した。
「痛っつつ。こりゃ、暫く右腕は上がらんな・・・」
右腕を動かす度に痛みが走り、肩も上がらない。
「パパ、どうしたの?」
「いや、肩を少し捻っただけさ」
なし崩し的ではあるが、抱っこは強制終了。
剛一郎としては、九死に一生を得た感覚。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫・・・さ」
心配そうに見詰める愛娘に向け、気丈にそう答える。
剛一郎は若い頃、投げ技の受け身を失敗して肩関節を外した事があり。
それ以来、右肩に脱臼癖が付いてしまっていた。
とはいえ、人間の関節はそう簡単に外れるものではない。
それを、小夜子は力瘤の圧力だけでやってしまったのだ。
しかも、これはまだ不幸中の幸いだった。
剛一郎の肩は小夜子の締め付けによって、かなりの圧力的負荷を受けていた。
もし肩関節が外れて力が逃げていなかったら肩の骨自体、どうなっていたか・・・。
「あなた。こんな朝早くから、どうしたの」
騒ぎを聞き付け、妙子も寝室から起きて来た。
「・・・っ!? もしかして・・・小夜ちゃん?」
「もうっ、ママまで・・・。そうだよ?」
剛一郎よりは幾分早く状況を察したものの、妙子も驚きを隠せない。
「身体は・・・その、何ともないの? 寝間着もボロボロだし・・・」
「全然、ヘーキだよ。むんっ」
妙子の心配に対し、小夜子は力瘤で答える。
「あなた、これは一体・・・」
「・・・うぅむ。正直なところ、私にもわからんのだ」
たった、一晩で。剛一郎並の巨躯に成長した、愛娘。
それも、背が伸びただけではない。
剛一郎と比較しても、充分に逞しい筋肉。
妙子と比較しても、十二分に豊満な乳房。
剛一郎の肉体と妙子の恵体、二人の遺伝子を引き継いだと言えば聞こえは良いが。
それでも、愛娘の成長としては些か度合いが過ぎる。
「取り敢えず、病院に行かないとな・・・」
「そうね」
剛一郎は、妙子にそう呟く。
「え、パパ。さっきは大丈夫って・・・」
「行くのは小夜子、お前だよ。私も勿論、付き添うが」
剛一郎の言葉に、妙子は無言で頷く。
妻としても母親としても、同意ということ。
「・・・え、私? 何処も悪くないのに・・・」
小夜子は、全身を確認するように身を捩る。
一晩でボロボロに引き裂いた寝間着は、特に気にならないようだ。
「学校は行かなくて、良いの?」
今日は普通に平日なのである。
「病院に関係なく、行けないわよ」
剛一郎に、妙子が助け舟を出す。
不満気な小夜子にとっては、更なる追い打ち。
「えー、何でぇ」
「だって。服、入らないでしょ」
妙子の指摘は、尤もだった。
半年ほど前の時点で既に、小夜子の身長は『150cm』に達していた。
着る服は、妙子と同じ『Mサイズ』の女性服。
素人目に見ても、剛一郎とタメを張る今の小夜子は『190cm』近い。
体操服も含め、学校に着て行く服が無いのだ。
「き、着られるもんっ」
小夜子は踵を返して、ドタドタと自室に走って行き。
「ほ、ほらっ」
『Mサイズ』の体操服を無理矢理、強引に着て来た。
ミチ、ミチチッ。
「小夜子・・・」「小夜ちゃん、それ・・・」
清神夫婦は相手が愛娘であることを忘れる程に、呆れた眼差しを向けた。
背丈に対して小さい衣服を指して、『珍竹林(ちんちくりん)』と云う言葉がある。
だが、そんなレベルではなかった。
丸々と盛り上がる肩(三角筋)だけで袖が足りなくなり、タンクトップ状態。
下着を着けて来なかったのか、胸元がクッキリ。
縦方向も逞しくなった大胸筋と広背筋で丈が足りず、お腹が完全に露出。
露わになったお腹には、愛娘のモノとは思えないような見事な腹筋。
短パンは、大きくなったお尻と太腿のせいで、幾つもスリットが出来ている。
上も下も、体操服に同情したくなるぐらいに、パツパツだった。
「それだと、お外・・・出られないでしょ」
「そんな、こと・・・」
ピリッ。
「ない・・・っもん」
ビリリッ、バリィッ!
「・・・あ」
小夜子が身体を動かせば動かすほど、体操服は破れ、裂けて行った。
「あぁ~、あ・・・ぁ」
短パンがと一枚の布切れになってハラリ、と床に落ちる。
お尻部分が裂け、そのまま縦に分断されてしまったようだった。
「上は、私の男物を着せるしかないな・・・」
「下は、腰回りに余裕がありそうなスカートを探して来ますね」
剛一郎と妙子は、それぞれ自身の衣服を探しに衣裳部屋に向かった。
勿論、愛娘に着せる為、である。