SamSuka
デアカルテ
デアカルテ

fanbox


MGガール21「高1:⑩夏休」

「「おはようございます」」

「あら、おはよう。そっか、夏休みですものね」

僕たちは、早朝から『プラチナジム』に顔を出していた。

相変わらずジム内で一番逞しい、保志さんが出迎えてくれる。


夏休みに入って、早々。

僕は、真理奈に強引に連れ出され、ジムに行く羽目になった。


結局、正式会員になって月謝を払うことになり。

僕たち二人は、ジム通いを継続することになった。


『健太君、真理奈を宜しく頼むよ』

真理奈の両親から、そう頼み込まれてしまった。

恐らく、真理奈は僕をダシに使ったんだろう。


とは言え、僕の分の月謝も出すから、と言われてしまい。

断るのも忍びなかったので今に至る、という訳だ。


「ふわぁ、まだ眠いよ」

「朝イチの方が空いてるんだから、仕方ないじゃん」

学生としては夏休みだけど、曜日としてはド平日。

なので、営業開始したばかりの早朝のジム内は閑散としていた。


「じゃあ、僕はこっちで・・・」

初心者コーナーに向かおうと、僕は真理奈に背を向ける。


「だーめ」

「うぉっ!?」

僕の左脇腹辺りから、ニュッと腕が生えて来る。

勿論、それは真理奈の極太の剛腕だった。


「健ちゃん、今日はこっち」

真理奈の左腕が僕の胸元を渡り、手で僕の右脇腹をガッチリとキャッチ。


「なんっ・・・で」

「折角二人で来てるんだし、別々にやることないじゃん」

ふよん・・・むにゅっ、という柔らかな感触。

僕の背中に、タンクトップ越しの真理奈の『Hカップ』爆乳が。


「ちょ、背中に当たっ・・・」

「当ててんのよ」

一度は言ってみたかったとばかりに、真理奈は決め台詞を吐いた。


「ふふっ、仲が良いですね♪」

「保志さん、見てないで助けて下さいよぉ」

僕はふふっ、と微笑みつつ離れた位置で作業している保志さんに助けを求めた。


「ちょ、真理奈。放し・・・っ」

「抜け出せるなら抜け出しても良いよぉ? ふふっ♪」

絶妙な力加減が効いているのか、僕は全く身体を動かせなかった。

両腕が自由であるにも関わらず、だ。


真理奈の腕力は、片腕だけで『500kg』を超える。

一方で、僕の体重は高校生男子の全国平均を下回る『50kg』程度。


真理奈は、その超筋力の内、たったの一割も発揮していない。

僕がどう抵抗したところで、抜け出せる筈がなかった。


「でも、トレーナーのサポートなしで『Hルーム』はダメなんじゃ」

ハイクラス専用ルーム・・・だと長ったらしいので、略して『Hルーム』。

常連さんの中には『H部屋』って言う人も居るけど、それだと卑猥過ぎる。


「ふふーん♪」

真理奈は僕の目の前に、『☆☆☆☆☆』という印の付いた名札を見せ付けた。

顔そのものは見えないけど、間違いなくドヤ顔をしている筈。


「それ、って・・・」

「ええ。紅世さんはもう、熟練トレーニーの仲間入りですよ」

『Hルーム』使用に辺り、ジム内でのローカルルールがある。

『プラチナジム』は経験者を細かく、次のようにランク分けしていて。


ブロンズ:☆

シルバー:☆☆

ゴールド:☆☆☆

プラチナ:☆☆☆☆

Hクラス:☆☆☆☆☆


『プラチナ』以下の場合、必ずジムトレーナーのサポートが必要となる。

五つ星になって初めて、トレーニー単独で『Hルーム』使用が許されるのだ。


「真理奈、いつの間に」

「どう、凄いでしょっ」

ジム通いを始めてからも、僕はせいぜい月に二、三回程度だったのが。

真理奈はひょっとして、僕の倍以上は通ったんじゃないだろうか。


「後で手が空いたら、様子を見に行きますよ」

「お待ちしてま・・・うぉっ!?」

保志さんに挨拶し終わらない内に、僕は強引に『Hルーム』に連行された。


「やったぁ♪ 貸し切りだ」

平日早朝の『Hルーム』は、見事に誰も居なかった。


「僕は、何をすれば良いの?」

初心者トレーニーも良い所な僕に、『Hルーム』でやれる事なんてあるんだろうか。


「健ちゃんなりのウェイトで良いから、一緒にやろ」

真理奈曰く、僕と一緒にトレすれば身が入る、とのこと。

更に、僕の補助をすることで勉強になるし、とも。


「うん、わかった」

確かに、今なら周りに誰も居ないので、多少の事でも迷惑にならない。

折角一緒に来たんだし、二人揃ってトレするのも悪くないのかも。


「じゃあ・・・」

僕は、手近にある『5kg』のダンベルを手に取った。

本当は『2kg』ぐらいのが欲しかったけど、『Hルーム』には置かれていないのだ。


「・・・すぅっ」

僕は、息を吸いながらダンベルを挙げ。


「・・・はぁっ」

今度は、下げながら息を吐いた。


「ん~。健ちゃん、逆かも」

「・・・へ。逆、って?」

見ててね、と真理奈は自分用のバーベルを手に取って。


「・・・はあぁっ」

僕にわかるように、少し大袈裟に息を吐きながらバーベルを挙げ。


「・・・・・」

「・・・?」

腕を曲げてバーベルが頂点に達した辺りで、真理奈はピタッと腕を停止。


「・・・すうぅっ」

そして、数秒経った辺りで再び息を大きく吸って。

空になった肺に空気を詰めながら、バーベルを下げた。


「これが、ダンベルカールの1セットだよ」

「なる、ほど・・・?」

正直、筋トレ素人の僕には、違いが良くわからなかった。


【1】筋肉を収縮させる時に、息を吐く。

【2】筋肉を収縮させた状態で2秒ほど、体勢を維持する。

【3】筋肉を伸長させる時に、息を吸う。


真理奈が言うには、この三つが筋トレにおける基本らしく。

僕は【1】で息を吸って、【3】で息を吐いていたらしい。


「そう、だったんだ」

「だから、ね。一緒に、やろ?」

真理奈は思ってた以上に、真剣に筋トレに取り組んでいたようで。

僕と一緒にやりたい、というのも真面目な理由からだった。


「はぁっ」「はあっ」

「すぅっ」「すうっ」

僕は真理奈に倣って、同じタイミングでダンベルを挙げ下げ。

慣れない呼吸法が覚束(おぼつか)ないのは、ご愛嬌。


「どう、良い感じでしょ?」

「うん。何か、“効いて”来た感覚・・・」

何だろう。筋肉に正しく、負荷が掛かった感触がある。


「十回ぐらいやったら、休憩入れてね」

「あ、うん」

【1】~【3】を1セットとして、それを十回ほど反復させたら。

一分間ほどのインターバルを入れるのがセオリー、とのこと。


「あれ? 真理奈は休憩入れないの?」

「うん、私のはウォーミングアップだから」

そう言いながら、リズミカルにバーベルが上下する。


「ウォーミング、アップ・・・」

直訳すれば、『暖機運転』。いわゆる、身体を暖める行為。


「それ・・・何キロ、あるの?」

バーベルのウェイトには『50』と書かれている。

恐らく、一枚辺りのウェイトプレートとしては、最大重量なのだろう。


「ん~。『200kg』、かな?」

ひぃふぅみぃ、と数えてみたら確かに、左右に二枚ずつ。

合計で四枚のウェイトプレートが、バーベルには搭載されている。


「にひゃく、って・・・」

僕が扱っているダンベルの、実に百倍のウェイト。

そんな高重量のバーベルを、真理奈は事も無げに“片手”で挙げている。


「辛く、ないの?」

確かに、体験入会の時も挙げてはいたけれども。

改めて、自分と比較して見てしまうと、筋力差をまざまざと感じる。


「保志さんも、このぐらいはサクッと挙げちゃうよ」

「そう、なんだ・・・」

このジムでは、それが普通なんだろうか。

それとも、真理奈と保志さんの二人だけが【特別】・・・なんだろうか?


「ひょっとして・・・」

実は、ウェイトプレートは見た目ほどの重さは無くて。

数百キロなんて重さは嘘なんじゃないか、なんて思ってみたり。


「・・・ん?」

真理奈がバーベルを挙げる度にグワン、グワンとシャフトが撓(たわ)んでいた。

真理奈には余裕の重さでも、鉄のシャフトバーにとってはそうでもないらしい。


「・・・あ、いや。ウェイト、増やしたんだ?」

「うん。今は『300』、かな」

それは勿論、『300kg』って意味で。


「ほんとは、ねぇ。『100』のプレートとか、あると良いんだけど」

それって、一枚のウェイトプレートが『100kg』ってことなんだろうか。


「そんな重いの、真理奈と保志さんしか扱えないよ」

「えー、そうかなぁ」

これだけは面倒なんだよねぇ、と真理奈は更にウェイトを足していた。


「ちょ、それ・・・」

「うん、『400』」

よ、よんひゃく・・・。『50kg』のプレートが左右の合計で、八枚。


何度も、同じようにしか例えようがないんだけど。

大型トラックのタイヤと見紛う大きく太いウェイトが載った、特大バーベルが。


「ん、っしょ」

高一女子の、真理奈の右腕一本でリズミカルに上下する。


グモモッ。


「ん、しょ」

モゴゴォッ、と上下動に合わせて、上腕二頭筋がこれでもかと盛り上がる。


「いつも、そんな重いのでやってるの?」

「そ、だね。限界攻めるなら『500』だけど・・・」

真理奈にとっての適正重量が、『400kg』ということらしい。


【腕輪】の計測値は、片腕一本で『532kg』だった。

今となっては、その数値はかなり正確なんじゃないかと思えて来る。


「ふふ、ん♪」

「・・・ん?」

何だろう。真理奈が含み笑いをしながら、バーベルをラックに置いて。


「んぅっ」

暖まった、とばかりに右腕を肩の高さで折り曲げた。


モリモリ・・・モリィッ、モゴォッ!!


「す、っご・・・」

「どう?」

身長差のある真理奈が、僕を見下ろすようにドヤ顔。


「まさか・・・」

「そ、だよ♪ 大っきくなった」

少し前の体育授業で、何度か真理奈の上腕とバレーボールを比べて見ていた。

その時は確か、バレーボールと同じぐらいだった・・・筈。


「『70cm』になったよ」

「な、ななじゅう!?」

真理奈の自己申告は恐らく、【腕輪】に確認した数値だろう。

今はパンプアップしているので、『70cm』を大きく超えていると思う。


バレーボールの大きさを飛び越え、遂には『ボウリング球(69cm)』大にまで到達。

因みに、僕のウェストは身体測定時で『68cm』だった事を付け加えておく。


「筋トレの効果、ちゃんと出てるみたい」

【腕輪】の計測値である所の最大筋力も、『561kg』まで更新されたらしい。


「太腿も、凄いんだよ?」

そう言って、真理奈はレッグプレスマシンに寝そべり。

両脚で何と、『1500kg』という途方もない重量を繰り返し挙げた。


「どう、触ってみる?」

「良い、の?」

女の子から、『太腿に触って良い』なんて言って貰えるシチュエーション。

そんな状況への興奮を感じる以前に、僕は真理奈の太腿の太さに圧倒されていた。


「す、っご・・・って。今日、これしか言ってない気がする」

「『90cm』になっちゃった」

僕の太腿が『48cm』なので、ほぼ両脚分といって過言ではない。

真理奈の片脚一本で、僕の両脚の筋量が賄えてしまうのだ。


「二人とも、どうですか?」

手仕事を終えたのか、保志さんが『Hルーム』に入って来た。


「いや、もう。圧倒されるばかりで・・・」

「ふふっ。紅世さん、凄いでしょう」

真理奈の超絶筋力に、何故か保志さんも得意気だった。


「本来なら、この重量はベンチプレスで挙げるレベルなので」

上半身全体の筋肉を使って、両腕でやっと挙がるかどうか。

『400kg』という超重量は、それだけのウェイトなのだ。


「このジムって、他には居るんですか?」

真理奈以外で。これだけの超重量を扱える人は、他に居るんだろうか。


「・・・うーん。居ない、ですね」

保志さんは、そう断言した。


「ただ、そう・・・ですね」

保志さんは何処か思案顔で、ラックに置かれた“バーベル”に手を置く。


「私を除けば、ですが」

「「っ!?」」

保志さんは、“そのバーベル”を右手で掴み上げ。


「んっ、ふぅ。んっ、ふぅ」

右腕一本で何度も、何度も反復して挙げ下げした。

真理奈が扱ったウェイトそのままの『400kg』の超重量バーベルを、だ。


何処か、“予感”めいたモノはあった。


真理奈の高重量トレを補助していて、全く息を切らさない。

真理奈より大きな、筋肉隆々の女性。


「保志さん。貴女、何者なんですか」

「私、ですか? 街のジムのトレーナー兼、インストラクターですよ」

この『プラチナジム』で、トレーニー相手の指導や補助が仕事。


「・・・なんですが。実は、こういう“片書き”も持っています」

保志さんは、ウェストポーチから『ICカード』を取り出した。


社員証、もしくは入館証のようなモノ、だろうか。


「研究調査員・・・」

高校生の僕たちには、聞き慣れない単語ばかり。

体験入会の時に、真理奈について問い掛けた時の事を思い出していた。


『私は医者ではないので、大したことは言えない』

『人間の身体は、まだまだ解明されてないことも多い』

こうして思い返すと、一般論としての回答としては“理解が良過ぎる”気がする。


他の筋トレ経験者に、真理奈について同じ質問をしたとして。

果たして、同じ回答が得られるだろうか。


「近い内に、“こちら”にお越し頂いても良いかも知れませんね」

そう言って、保志さんは意味あり気に微笑んだ。

MGガール21「高1:⑩夏休」

More Creators