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デアカルテ
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肉の日の喪女02「喪女の回想」

平日の、夕方。そろそろ、陽が沈み始める頃合い。


余り整えられていないボサボサの黒髪に、化粧っ気のない顔。

私も女である以上、着飾ればそこそこイケる自信はある・・・んだけど。


今、着ている男物のワイシャツは、ボロボロのズタズタ。

右袖は破けて二の腕回りがスカスカ、背中はガパァッと開いて丸見え。


見る人によっては、暴漢に襲われた後だと誤解されそう。


しかし、破けた袖の穴からは、砲丸と見紛うような大きな力瘤が盛り上がり。

大きく空いた背中は、隆起した広背筋がブラ紐を引き千切る寸前。


誰も、自らの筋肉で着ている服を破った、なんて思わないだろう。


「いつから、“こうなった”んだろ・・・」

ワンルーム六畳の狭い部屋の真ん中で、私はヘタリ込むように座っていた。


「正座すら、満足に出来ないし・・・」

上半身の逞しさに比例するかのように、我ながら下半身も凄かった。


競輪やスケート選手ばりの丸太みたいな太腿に、モゴッと盛り上がる下腿の後ろ。

正座をすると脚がピタッとくっ付かず、斜め四十五度になってしまう。


「・・・・・」

目の前の木製のテーブルには、煎餅状に圧縮されたビール缶が放置。

お酒が入ったせいもあってか、つい昔の事を思い返してしまう。


自分が、“そう”だと気付いた切っ掛けは、いつだったか。



――小学校にて。


「小学校の頃、だったっけ・・・」

確か、高学年になった時の『体力測定』。


「せんせー、これでいーの?」

慣れない『握力計』を握るとギュンッ、と一瞬で針が振り切ってしまう。

何度やっても、同じだった。右手でも左手でも、変わらず。


「何だ、故障か?」

体育教師は、『何やってんだ』と訝しんだ視線を向ける。

今となっては、“小学生が握力計を振り切る”なんて変だ、と思うのは理解出来る。


「どれどれ」

体育教師は、自分自身で握って見せる。

何度か試すと、針は『60』前後を繰り返し指していた。


「何だ、壊れてないぞ。もう一回、やってみなさい」

どーだ、『60kg』だぞ。凄いだろ?と何処か誇らしげ。


「・・・はい」

私は仕方なく、体育教師の目の前で『握力計』を握って見せる。


ギュンッ!


「・・・っ!?」

やっぱり、私が握ると針は『100』まで走ってしまう。


「ん-、じゃあ。試しに、私の手を握ってみなさい」

体育教師は、握手を促すように右手を差し出した。


「いーの?」

子供心に、“いろんな意味”を含めた確認だった。


「ああ、構わんさ」

体育教師からすれば小学生の、しかも女子の握力なんて高が知れている。

何かの間違いだろうし、大人の男の強さを知らしめてやろう。


――そう、思ったに違いない。


「・・・じゃあ」

「・・・ん!?」

・・・ミリ。


「んぅっ!」

「んぎ! い・・・痛い痛いっ!!」

普段は怖い印象しかない強面の体育教師が突然、子供のように泣き叫ぶ。


メキ・・・、メギィッ。


「はっ、放せっ! い、いや、放し・・・てっ」

自分の力では引き剥がす事が出来ず、体育教師は涙ながらに懇願した。


「あれって、結局は『圧迫骨折』してたんだっけ」

体育教師は、その場では体面を取り繕って居たものの。

体力測定を終えた後、直ぐに病院に駆け込んだらしい。


「この頃はまだ、力が強かっただけな気がする」

小学生の頃はまだ、男子たちより力が強い程度だった。



――中学校にて。


中学生になり、夏服へと衣替えになった頃。

腕を曲げる度に、袖がピンッと張る感覚があった。


「・・・ねぇ。それ、“力瘤”じゃない?」

「え、うそ・・・」

腕を曲げて力を籠めるとモコッ、とテニスボールぐらいの力瘤が。


「何、これ」

同級生に指摘されて、生まれて初めて筋肉なるモノを認識。


「・・・え、いや。これって、脂肪じゃ・・・」

往生際が悪いのか、私は確かめるように指で押してみる。


てっきり、プニプニってなって。

『何だ、脂肪じゃん』って、笑って誤魔化す筈だった。


「・・・硬、った」

私はつい、そう呟いてしまう。


押せども、圧せども。何度やっても、同じ。

グニ、グニ・・・という硬いゴムのような感触しかしなかった。


「・・・そうだ! 食べて、太ろう」

何を思ったか、私は極端な手段を思い付く。

若気の至り、というか。子供ならではの短絡的思考、というか。


もし仮に、人より少し筋肉が付き易い体質なら。

それ以上に、脂肪を付けてしまえば良い。そう、思ったのだ。



――高校にて。


高校生になって、初めての水泳の授業。


「・・・“脱いだら凄い”人って、本当に居るんだね」

「え、えぇ!? それ、私の事? そ、そっかなぁ・・・はは」

同級生の指摘に対し、苦笑いするしかなかった。


人の倍、いや三倍は食べて、食べて。ひたすら、食べ続けた結果。

私は確かに、脂肪を搭載することに成功した。


「おっぱいなんて、只の脂肪だよ?」

「いや、まあ・・・そうだけどさ」

私の返答に対し、同級生の冷ややかな視線。


この頃、身長は『160cm』あって、同年代では高い方だった。

平均値で言えば、既に成人女性と何ら、差はない。


そんな肢体で、バストサイズは『Eカップ』


Cカップ:リンゴ

Dカップ:グレープフルーツ

Eカップ:梨


という大きさの序列らしいんだけど、も。

学校指定の競泳水着の胸元にはドンッ、と【梨】が乗ったような膨らみ。


話し相手の同級生女子は、お世辞にも胸は大きくなくて。

この言い方だと、巨乳を自慢していると捉えられても仕方なかった。


誤魔化すとしても、もっと上手いやり方があっただろう。


「何か、“広く”ない?」

それはおよそ、高校生女子へ向けた感想ではなかったように思う。

今思えば、バスト自慢への“やっかみ”の意味合いもあったのかな。


「広い、って・・・」

問題なのはトップバストが『101cm』という、メートル越えだということ。

それだけ、肩幅や胸元の大胸筋、上半身そのものが大きいという事だった。


「それに、“大きい”よね」

だけど、同級生女子は“別の部分”を見て、そう付け加えた。


「これ? これは、まあ・・・はは」

私の二の腕には、ソフトボールぐらいの力瘤が盛り上がるようになっていた。


「ねぇ。それ、盛り上げて見せてよ」

「・・・え、うん。良いけど・・・」

『おっぱい発言』の事もあってか。

私は渋々、請われるがまま、右腕を折り曲げる。


ググ・・・モリ、モゴォッ!


「す、っご!」

「そ、そっかな」

その時既に『40cm』近くあった私の力瘤は、あっという間に観衆を集めてしまう。


「すげー」「何これ」「うへぇー」

「いや、はは・・・はは」

高校生女子としては、盛り上げた筋肉に群がられるのは余り良い気はしなかった。


それから、色んな運動部に誘われるも。


バレーボールをやれば、ボールを破裂させ。

バスケットボールをやれば、ゴールのリングを圧し折り

砲丸投げに至っては、地面に向かって投げてしまい、クレーターを作る始末。


筋力があるだけで運動神経が無く、男子からは敬遠され。

無駄に大きい『おっぱい』のせいで、女子からは影口を叩かれた。



『【恵体】の持ち腐れ』

私は、いつの頃からか、そう揶揄されるようになった。


「“【恵体】の持ち腐れ”って、今思うと凄い悪口だよね」

宝の持ち腐れ、ならぬ“【恵体】の持ち腐れ”。


恵まれた身体、略して【恵体】。


「これで『筋トレ』未経験なんて、嘘みたいな話だよね」

これだけの筋肉ボディを持っているにも関わらず、私は身体を鍛えた事がなかった。

小学校から大学までの間、体育授業を受けたこと以外、全くの経験なし。


だからこその、憂鬱。


鍛えて“こう”なったのであれば、鍛えるのを辞めれば済む話。

そうじゃないからこそ、実家を追い出され、会社も“クビ”になったのだ。



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Comments

感想、ありがとうございます。 運動神経があれば喪女じゃない道もあったのに、という残念なキャラなのです。

デアカルテ

更新お疲れ様です。 筋肉や力は凄いのに、運動神経が無いギャップが良いです。 筋トレ未経験なのも、生まれついての恵体感を感じて好きです。 今後の展開も楽しみです。

okita


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