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MGガール22「高1:⑪海辺」

「健ちゃん、行くよー」

始発が動き始めたばかりの時間に、真理奈が玄関前に立っていた。

麦わら帽子に、ノースリーブのワンピース(7XL)という出で立ち。


夏休み後半。


高校生になったこともあり、僕たち二人で遠出が許されるようになって。

宿題を片付けるのと引き換えに、海に行って良いことになった。


「ホントに、行くの?」

空を見上げると、どんよりと曇っている。

夜の遅い時間には台風が近付くとのことで、かなりの曇天。


「何も、こんな日に行かなくても」

「こんな日だからこそ、チャンスなんじゃん」

僕たちが行こうとしている海水浴場は、こんな日でも開いているらしく。

天気が悪い日だからこそ、海水浴客が少ないんじゃないかという見込み。


「それに、もう直ぐ海に入れなくなっちゃうし」

僕たちが行ける範囲の海水浴場は、大半が8月後半で終了してしまう。

クラゲが出たり、サーファーへの配慮などなど・・・があるらしい。


「さっき、“様子を見て来た”んだけどぉ・・・」

「・・・へ?」

ちょっとコンビニまで“一っ走り”、みたいな感じで言うけども。


「様子を見て来た・・・って?」

「走ったら、片道一時間も掛かんなかったよ」

海水浴場まで、電車を乗り継いで50分ぐらい掛かる。

直線距離でも、40km近くは離れている筈なのに・・・。


「人、全然居なかったよ」

海水浴が余りにも楽しみ過ぎて、夜中に目が覚めて。

居ても立っても居られずに二時間掛けて往復した、と言うのだ。


自動車に匹敵する速度で走り。尚且つ、何時間もそれを持続。

超人的な脚力に、超人的な心肺能力。


【特別】という単語が再び、僕の脳裏を過(よ)ぎる。


あれからも何度かジムに通ったけど、保志さんには会っていない。

シフト制なのか、今までも毎回居た訳ではなかったんだけど。


「健ちゃん、どしたの? 行くよ」

「あ、うん」

今考えても、答えは出ない。僕はそう思い、真理奈に付いて行った。



「うーみー」

「やっと、着いた」

早朝の空いている電車でも、乗り継ぎ込みで40分は疲れた。

真理奈は本当に、この距離を走破したんだろうか。


「海の家、何処だろ」

「あっちだよ」

真理奈は然も、さっき見たばかりと言わんばかりに指差した。

確かに、その方向に海の家と更衣室が在った。


「まだ、そんなに人居ないね」

「真理奈、先に着替えて来ちゃいなよ」

場所取りも兼ねて、鞄から大き目のレジャーシートを取り出す。


「“ここ”で良いよ。“中”に着て来たし」

「え? 中にって・・・あ」

言い終わる前に、真理奈は直ぐ傍でワンピースを脱ぎ出した。


「じゃーん」

真理奈は脱いだワンピースをその辺に放り出すと、クネックネッと身体をしならせた。


「それって・・・」

グラビア雑誌に載ってるような“扇情的”なポーズ、のつもりなんだろうか。


「どう?」

真っ赤な、ビキニの水着。プールの時より、布地面積が明らかに少ない。

脇腹や腰、首筋を通る布地は細く、ほぼ紐。


高一女子という観点で言えば、余りにも派手過ぎる水着。


「・・・っ!」

しかし、ポーズの上手い下手など関係なく。

どんな水着でも役者不足だったろう。


真理奈を見て、最初に水着に目が行く者は皆無。

それだけ、真理奈の肢体・・・いや、肉体は凄かった。


太い首によって紐が引っ張られて、水着が『Hカップ』爆乳に食い込み。

ハンドボール大の乳房が圧し潰された結果、胸元に深い谷間を作った。


そんな大きな爆乳の陰になってさえ、六つに隆起する腹筋は目立っていて。

ボトムスから伸びる太腿は大木・・・いや、大理石の柱のような剛健さを備えていた。


「背中も見てみて」

そう言って、真理奈はその場でクルッと半回転。


「凄っ!?」

真理奈は、あくまで水着の後方デザインを見て欲しかったんだろう。

だけど、それに気付くには、余りにも真理奈の“背面の情報量”が多過ぎた。


分度器のように扇形に盛り上がる僧帽筋は、首との境目が無くて。

その僧帽筋から立体的に隆起する、ゴツゴツとした岩肌のような広背筋。


その広背筋に負けず劣らず、小高い丘のように盛り上がる二つの大殿筋。

広背筋の山と大殿筋の丘の間でキュッと縊れたウェストは、盆地のようになっていた。


「あれ? ・・・え、何これ」

僕はようやく、真理奈が見て欲しかったポイントに気が付く。


「健ちゃん、気付くの遅ーい」

ビキニ水着のトップスって、後ろ側は紐で縛るような形状になっていることが多い。

だけど、真理奈が着ているビキニの後ろは、『鎖』になっていた。


「これ、本物?」

「そ、だよ。合金製らしいけど」

“鎖状”ではなく、本物の『鎖』が付いている。

布製の紐より切れ難く、長さが足りなくなったら自分で足せるらしかった。


「これなら、安心してポーズ取れるし」

真理奈は、見様見真似でボディビルのポーズを取った。


『モストマスキュラー』で全身に力を籠めると、ミシッと軋む音が。

『ラットスプレッド』で背中を広げると更に、ミシミシ・・・という音がした。


「どう? 何ともないでしょ」

「あー、うん・・・」

鎖は、切れたりしていない。今のところは、だけど。

海で筋トレなんてしないし、パンプアップしなければ大丈夫・・・だと思いたい。


「でも、また・・・大きくなった?」

「健ちゃん、鋭い。さっすがー♪」

これでラストとばかりに、『ダブルバイセップス』のポーズで締め。


「凄いでしょ。今、『73cm』あるよん」

「な、ななじゅう・・・さん」

前回、数値を聞いた時から一ヶ月も経っていないのに。

『3cm』もバルクアップした真理奈の力瘤は、遂にバスケットボール(75cm)が比較対象に。


「す、っご」「何、あれ」

「何か、やってる人?」

いつの間にか周りに人が増えて、ギャラリーになっていた。


「お姉さん、凄いね」

「ボディビルとか、レスリングでもやってる人?」

金髪に、ピアス。浅黒い肌に刺青。

“如何にも”な男たちに声を掛けられてしまった。


「・・・はぁ。趣味で、筋トレを少々」

真理奈は、露骨に面倒臭そうな顔をしている。

真理奈の筋トレ歴は経ったの二ヵ月だけど、嘘は言っていない。


「へぇ、そーなんだ」

自分から聞いておいて、真理奈の返答そのものには興味無さそうだった。


「ねぇねぇ。折角だからさ、俺たちと遊ばない?」

「えー、でもぉ」

真理奈はチラッと僕の方を見て、軽くウィンク。

『助けて』ではなく、『任せて』の意思表示。


「あー、そっかぁ。“お連れ君”が居るのな」

ナンパ男たちも、その視線の先に僕が居る事に気付いた。


「じゃあさ、その・・・『弟君?』も一緒で良いよ」

僕が年下と見られたのか、それとも真理奈が年上と見られたのか。


僕は165cm50kgなので、高一男子に平均値には届いていない。

身長だけ見ても、真理奈の『180cm』とは15cm差。


姉と弟、という見られ方をしてもおかしくはない。

体格なら、筋肉爆乳な真理奈とヒョロガリな僕は、大人と子供。


「『弟君』もさ、それで良いよね」

後で僕だけ撒いて、置いて行くつもりだろう。

そんな思惑を、全く隠す気がない。


「私ぃ。筋トレしてるような人じゃないとぉ、話合わないんですぅ」

真理奈は敢えて、煽るようにギャル口調で話す。


「えー。じゃあ、俺らバッチシじゃん」

「そーそー。俺なんてラグビーやってたから、筋トレが日課みたいなもんよ」

何処まで本当かはわからないが、男が盛り上げる力瘤は確かに大きい。

尤も、あくまで僕や一般人と比べて、のレベルではあるが。


「嘘ぉ。ほんとぉ?」

「あー、信じてねぇな?」「えー、心外だなぁ」

ナンパしたい男たちと、真理奈の間での腹の探り合い。

僕だけ蚊帳の外なのが、少し悔しい。


「じゃあ、証明して見せてよ」

真理奈はその場で俯せになって、上体を起こし。

肘を付いて、男たちを挑発するかのように右腕を立てた。


「腕相撲で勝負しよう、ってか。良いぜ」

何処に自信があるのか謎だけど、男は直ぐに乗って来た。


「サーファー魂、見せてやるぜ」

良くわからない台詞を吐きながら、真理奈に合わせるように寝そべる。


「う、っほ。すっげぇ」

男の目線は真っ直ぐ、真理奈の胸元に行っていた。


上体を起こしていても、『Hカップ』柔肉のボリュームが有り過ぎて。

真理奈の大胸筋と砂浜に圧し潰され、底が見えない程の深い谷間を形成。


「・・・・・」

真理奈は、冷徹に男を見下ろしていた。

上背で勝っている以上に、相手を見下すような視線。


「・・・行くよ」

「いつでも、良いぜ」

男は絶好の特等席と言わんばかりに爆乳鑑賞に夢中で、生返事。


「真理・・・」

やり過ぎないよう、釘を刺そうと思った瞬間。


「・・・じゃあ。ほぃ」

真理奈はクイッと、手首を返しただけだった。


グギ。


「・・・え」

たった、それだけで。男の身体は回転して、仰向けに引っ繰り返った。


【腕相撲】

真理奈 ○ 0分2秒(手首返し) × サーファー男


「い、痛ってぇぇぇ」

男の手首は、赤く腫れていた。

折れてはいないだろうけど、捻挫ぐらいはした模様。


「てめぇ、何やった!?」

「何、って? 腕相撲だけど」

真理奈は、シレッとそう言い放った。


男たちからすれば、合気道か何かの技を喰らったと思ったのかも。

そのぐらい、サーファー男の身体は綺麗に回転した。


勿論、真理奈にそんな技術が無いことは、僕が良く知っている。

ああ見えて冷静に、相手をあしらうだけの力加減をした結果、なのだ。


「くそっ! なら、今度は本物の相撲で勝負しろ」

「えー、何でぇ」

真理奈はブーッ、と口を尖らせた。


「ま、良いけど」

真理奈は立ち上がり。パッ、パッと身体に付いた砂を払い落とす。


「砂浜に転がして、砂塗れにしてやるぜ」

男たちの中で一番体格が良く、筋肉モリモリなラガーマンが相手。


「いーぞ、やれやれー」「でっかい姉ぇちゃん、頑張れー」

男たち以外にも、いつの間にかギャラリーが増えている。

空気を読んだのか、土俵分の空間を空けてくれた。


「俺の重戦車タックルで、一発だぜ」

中二病な台詞はともかく、その仕草には迫力を感じる。


180cm、110kg。


男は、現役時代から変わらず、この体型を維持している。

筋トレが日課だと言ったのも、決して嘘ではない。


真理奈と並んで立っていても身長では、全く遜色がなく。

その一際大きなラガーマンが、四股を踏んで構える。


「いつでも、良いよ」

一方の真理奈は直立不動で、両腕もダランと下げたまま。

リラックスポーズだけど、力瘤が大き過ぎて“気を付け”が出来ていないのはご愛嬌。


「舐めやがって。技なんて使う前に決めてやる」

男たちは、未だに真理奈の筋力を疑っているようだった。


「はっき、よーい」

中立性を保つ為とかで、ギャラリーの人が行事を買って出てくれて。


「のこった!」

「ふっ!」

行事の仕切りが離れると同時に、男はラグビー仕込みのタックルを仕掛ける。


ドムン。


「なっ・・・んだ、これ」

男は確かに、真理奈の土手っ腹に目掛けて、右肩をブチ当てた。


どれだけ見た目の筋量が凄くでも、所詮は女の腹筋。

自慢の三角筋を当てれば、女一人ぐらい簡単に吹っ飛ぶ・・・筈だった。


「それ、だけ?」

「く、くそっ!」

男は一旦、真理奈から離れて、距離を取る。

先程までよりも更に深く、腰を落とし。


「しねやぁっ」

素人・・・いや、女性相手とは思えない掛け声を発しながら。

男は、数多の敵を屠って来た必殺のタックルを放つ。


ドムッ、ン。


「う、っそだろ・・・」

ボールを持って、走って向かって来る相手でも。スクラムで密集していても。

重戦車と謳われ、相手を薙ぎ倒して来た必殺得意のタックルが通用しない。


「“これ”なら、技がどうとか言わないよね」

真理奈はお腹に男が取り付いたまま、“歩き出した”。


「・・・ぐ。く、っそ・・・」

ズッ、ズズッと男は徐々に、後ろに押されて行く。


「ぐ、がぁっ!」

どんなに気合いを入れてガップリ四つに組もうが、両手を付いて押そうが。

真理奈が歩いた分だけ、自分が後ろに下がって行く。


「え、嘘。どうなってんの」「す、すげぇ」

ギャラリーたちも只事じゃない空気を感じて。つい、道を開けてしまう。


「あ、あれ?」

真理奈はてっきり、ギャラリーの居る辺りまでが土俵だと思っていた。

なし崩し的に始まった相撲なので、俵がわりの線は引かれていないのだ。


「これ、何処まで行けば良いの」

真理奈は仕方なく、男をそのまま体幹の強さだけで押して行く。


「健ちゃん、どうしよ」

真理奈は初めて、困った表情で僕を見た。


「真理奈っ。相手の膝から上を土俵に付けても勝ちだよ」

「あ、そっか。ありがと♪」

真理奈はようやく“勝ち方”が決まったようで、その場で立ち止まった。


「押すよ。口は閉じた方が良いかも」

真理奈は、男の背中に右手を置くと、トンッと軽く押した。


「・・・え?」

ズドンッ!


「ぐぉあっ!?」

まるで背中にバーベルでも落ちて来たのか、という凄まじい勢いで。

男は一瞬で、ベチャッと砂浜に叩き付けられる。


「うがぁっ。ぺっ、ぺっ。す、砂が・・・」

男は顔面ごと砂浜に突っ伏したのか、モロに砂を食べてしまったらしい。


【相撲】

真理奈 ○ 2分25秒(上手投げ) × ラガーマン


「まだ、やる?」

「く、くそっ」

男たちの中には、まだ力が残っている者は居る。

・・・が、真理奈と勝負しようと思う者は最早居なかった。


「いいぞー、姉ちゃーん」「お姉さん、カッコイイー」

「い、いぇーい?」

真理奈は、大勢から褒め囃されるのに慣れていないのか。

ぎこちない仕草で、ギャラリーに応えていた。


「お兄さん。一つだけ、聞いても良いですか?」

僕は、真理奈がギャラリーの相手をしている間。

一言だけ交わそうと、ラガーマンに話し掛ける。


「あん、何だよ。恨み節でも言おうってか」

「そうではない、です。一つだけ教えて下さい」

煽りや恨み節に聞こえないよう、努めて冷静に敬語で話す。


「もし、お兄さんが真剣に身体を鍛えたとして・・・」

僕は、一瞬だけ真理奈を見る。


「“彼女レベル”になるには、何年掛かりますか?」

「・・・あん? 何だ、その質問は」

何で僕にそんな事を聞かれなきゃいけない、と言いたそうな表情。


「ま、良いけどよ。真面目に答えるなら、ハッキリ言って『不可能』だ」

「・・・え」

予想外の回答が返って来た。

てっきり、『十年』とか『二十年』とか、そういった答えになるとばかり・・・。


真理奈の事を全く知らない人間の。忖度しない、忌憚のない意見。

僕はどうしても、それを聞いておきたかった。


「あの子が“彼女”って、大変だな」

「え、いや・・・」

男は去り際、そんな捨て台詞を吐いて行った。


「さっき、何話してたの」

ナンパ男たちを撃退した後。満足したのか、ギャラリーも居なくなって。

やっと落ち着いたと思った矢先の、真理奈からの問い掛け。


「“カノジョ”がどうとか、聞こえたけど」

「き、聞こえてたんだ」

真理奈はギャラリーに囲まれてたし、離れた所で小声で話したのに。


「ねぇ、私の事? “カノジョ”って、私のコト?」

「あ、いや」

あれは、ナンパ男を納得させる意味で、敢えてチョイスした言葉。

特に、深い意味を持たせて言った訳じゃない。その、筈・・・。


「健ちゃんって、さ。“スタートを切らないと走り出せない”タイプ?」

「あ、いや。・・・うん、そうかも」

子供の頃から家が隣同士で、気心は知れていて。

言葉を全て交わさなくても、意思疎通ぐらい楽勝で。


「腕相撲、しよっか」

疑問形ではなく。断定形での、いきなりの提案。


「え、でも」

僕より遥かに逞しい年上の男でさえ、歯が立たなかったのに。


「いーから」

真理奈が右手で軽く、僕の右手を握る。いわゆる、握手の状態。

“軽く”だと思ったのは、真理奈に力を入れた感じが全くしないから。


だけど、それだけで僕は身体全体を拘束され、自由が効かなくなる。


「うぉ、っわ」

空いた左手を僕の下腹部辺りに当てると、フワリと持ち上げ。

そのまま左手一本で優しく、僕の身体をレジャーシートに着地させた。


「ふふっ♪」

有無を言わさず僕を俯せの体勢に寝かせた真理奈は、何処か嬉しそう。


「こーやるの。何か、久し振りだね」

「そういえば、そうかも」

前はいつ、だったっけ・・・。中学二年の頃だから、二年ちょっと前か。


「あの時は・・・」

僕の部屋のテーブルに載った真理奈の力瘤を見て、驚いたっけ。

中学二年にして、『39cm』という砲丸大の力瘤。


「・・・っ」

至近距離で見る、高校一年になった“今の真理奈”の力瘤は大迫力だった。


『39cm』から『73cm』と、たった二年でほぼ倍にバルクアップ。

『73cm』という申告サイズは、そのままバスケットボールを思わせる巨大さ。


上腕二頭筋と言う名の通り、長頭(背面)と短頭(前面)の二つの瘤が盛り上がり。

『上腕二頭筋短頭』の一つ分だけで、僕の二の腕より遥かに太い。


上腕三頭筋は、上腕の裏側にバスケットボールの半球がそのままくっ付いたかのような大きさで。

『V字』に肘を置いている筈なのに、『三頭部分』が地面に接地していた。


「やっぱ、“そっち”に目が行って欲しいよねぇ」

真理奈はどうやったのか、器用に上腕二頭筋にだけ力を籠めると。

モゴッ、モゴッと力瘤を大きくしたり、元に戻したりした。


「まだ、“足りない”のかなぁ」

真理奈としては、力瘤を見せ付ければ、それだけで相手は諦めると思ったらしい。

“自慢”の力瘤の大きさが相手に通じず、ショックだった模様。


「ま、でも。健ちゃんは、“こっち”見ても良いんだよ?」

空いた左手で、真理奈は乳房をモニュ、モニュッと揉みしだいた。


「ちょ、はしたないよっ」

大胸筋の土台のお陰で重力に負けておらず、誤解しそうになるけど。

真理奈の上半身で唯一と言って良い、柔肉の集合体。


「もう、やるなら早くやろうよ」

「えー。わかった」

一旦離れたギャラリーが、また戻って来そうな気配。

身内同士のじゃれ合いなので、スルーして欲しいんだけど。


「健ちゃん。力、入れて良いよ」

「うん。じゃ、行くよ」

真理奈相手の勝負なら、開始の合図は必要ない。

僕が全体重を掛けた所で、真理奈の腕は動かない。


・・・筈、だった。


「あ、あれぇ?」

「・・・え?」

真理奈の右腕は、徐々に。少しずつ、“左側”に倒れて行く。

勿論、それは僕から見て、の“左側”だ。


「お、おっかしぃなぁ」

真理奈は突如、“不調”を訴え出した。


「ちょ、真理奈。どういうつもり・・・」

幾らなんでも、ワザとらし過ぎる。


「・・・ぐ、ぐぅっ!」

僕は敢えて、逆の“右側”に力を籠めた。

しかし、当然ながら微動だにしない。


「ぐ、くそっ!」

「あれ、あれれぇ」

真理奈はそれに気付いていないのか、変わらず左側に倒れて行く。


「ぐあぁっ」

「あーあ。負けちゃったぁ」

お互いが、お互いの“負ける方向”に力を入れる訳のわからない腕相撲は。

真理奈の右手が地面に付く事で、決着したのだった。


【腕相撲】

健太 ○ 1分7秒(自爆) × 真理奈


「はぁ、はぁっ」

「健ちゃん。何で疲れてるの」

真理奈は最後まで、僕の悪戦苦闘には気付かず終いだった。


「何で、ワザと負けたの」

「“勝った方の言う事を聞く”だったよね」

腕相撲勝負の報酬、のことだろうか。特に取り決めたつもりは・・・。


「“何でも”、言う事聞くよ?」

「・・・それ、って」

勝負は終わったけど、変わらず僕と真理奈の右手は繋がった、まま。


「健ちゃんの言う事なら“何でも”、だよ」

真理奈の、真剣な眼差し。

ここで茶化す程、僕も馬鹿じゃない。


・・・だけど。


「“皆さん”。流石にちょっと、近いです・・・」

「あー、そう?」「邪魔しちゃった?」「あはは、ごめんねー」

悪い予感は当たるというか、いつの間にかギャラリーに取り囲まれていた。


周囲からは、“連れ同士”のじゃれ合いとは取られなかったようで。

また、怪力ショーが見られるのでは、とばかりに集まってしまったのだ。


「あー、もうっ」

真理奈は、プーッと膨れっ面。


「・・・真理奈」

「なに」

やや、不機嫌な真理奈。返答にも、棘がある。


「少し、時間が欲しい」

「・・・わかった」

真理奈は意外にも、すんなりと納得してくれた。


「今日は、“私の意図”を汲んでくれただけで嬉しいから」

「うん、ありがとう」

僕たちは、高校一年生になったばかり。

時間はまだ、タップリとある。


そう思う僕の思惑とは裏腹に、時間は思ったよりも早く進んで行く。


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