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デアカルテ
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肉の日の喪女03「喪女の上腕」

物思いに耽(ふけ)りながら。私は、テーブルに片肘を付く。

頬杖を付こうと、左手を顔に近付けると・・・。


ミチ、ミチチィ。


「あ、やば」

無事だった左袖の生地から悲鳴が聞こえ、慌てて腕を伸ばす。

ただ曲げただけでも、私の腕は袖をパンパンに張るぐらい肥大化する。


「学生の頃は、まだ袖を捲れたんだけどな」

中学、高校と二の腕が目立つようになり。

良く、面白半分で腕相撲を申し込まれた。


男子どころか体育教師すら薙ぎ倒し、無敗を誇った。

勝ち名乗りがわりに良く、袖を捲って力瘤を誇示したものだ。


「今はもう、無理だよねぇ・・・」

男物のオーバーサイズな筈のワイシャツなのに、私は袖を捲ることが出来ない。


試しに、片肘を付いたまま左袖を捲って行くと直ぐに、ギチ・・・と止まる。

上腕どころか、徳利のように太くなる前腕すら超えられず、肘まで到達しない。



「あれって、大学の時だっけ」

あれは確か、合同コンパに無理やり連れて行かれた時だっけ、か。


「君ぃ、楽しんでるかい?」

只の人数合わせだったこともあり、隅っこでチビチビ呑んでいたら。

突然、殆ど面識のない運動系サークルの先輩に声を掛けられた。


「君も、“コレ”を賭けて一勝負どうだい?」

先輩がヒラヒラさせているのは、有名カフェの無料チケットだった。

プラチナって程ではないが、学食数回分ぐらいの価値はある代物だ。


「ひとしょうぶぅ? 何です、それぇ?」

「ははっ、酔ってるねぇ。勝負ってのは簡単、只の腕相撲だよ」

後から知った話だけど、サークルの先輩連中の恒例行事だったらしく。

どうやら、合法?的に女の子と手を握り合うのが目的。


「君が勝ったら、“コレ”はタダであげよう。もし負けたら・・・」

「・・・はぁ」

要は、負けたらお茶に付き合え、ってことらしい。

女子の立場からすれば、勝っても負けてもタダで有名カフェに行けるって寸法。


「かてば、タダ券だけもらえるってことれすよねぇ?」

「はっはっはっ、勝てたらだけどな! どうだ、凄いだろぉ」

先輩はこれ見よがしに、袖を捲って力瘤を見せ付ける。


「・・・ふぅん。いいですよぉ」

「おーし、そう来なくちゃな!」

先輩がテーブルに肘を付いて、さぁ来いと言わんばかりに構える。


「・・・・・」

「どうしたんだい?」

手を合わせた瞬間。私は少しの間、固まってしまう。


「・・・え、っとぉ。その、やるならてかげん・・・」

「んー、手加減かぁ。そうだね、少しぐらいは手心を加えてあげよう」

私は、言いたかった台詞を全部言わせて貰えず。


「え、いや。その・・・」

「行くよ。レディ、ゴー」

無理矢理、腕相撲が始まってしまう。


「・・・・・」

「ぐぅっ、・・・ん」

両者の腕は、開始位置から動いていない。


「・・・ん?」

「ぬぐぅ・・・、んぅっ!」

手心を加える、って話は何処へやら。先輩は気合の表情。


「・・・ひょっとして、もうはじまってますぅ?」

「ぐぬぬ・・・。・・・って、え?」

数秒経っても、微動だにせず。


酔いが回ってボケッとしていた、とは言え。

私は漸く、“先輩が力を入れていた事に気付いた”


「じゃ、あ」

バンッ。と、一瞬で勝負が付いていた。


「ぐあっ!」

先輩の右手が勢い良く、テーブルに叩き付けられていた。

勿論、私の勝ち。


「あ痛たた・・・た。あれ、おかしいな」

負けるなんて、これっぽっちも思っていなかった先輩。

俺も酔いが回ってるのかな、なんて呟いている。


「ちょっと、手加減し過ぎたかな」

「いや、あの・・・」

油断して負けた、と思ってる模様。


「今度は、本気でやるよ」

勝負は付いた筈なのに、有無を言わさず二戦目。

先輩にとって、どうやら先刻の勝負は無かった事になっているらしい。


「あのぉ。“もっと、てかげんした方がいい”ですかぁ?」

酔いが回っていても、私は何だかんだで手加減していた。

だって、本気でやったら、腕相撲以前に先輩の手を握り潰している。


高校の時、簡単に秒殺し過ぎて、何度も再戦を申し込まれた。


テコの原理がどうとか、手首の力を使ったからどうとか。

圧倒的に決め過ぎると、却って相手は負けを認めなくなるのだ。


「え? 何を言っ・・・うぉあっ!?」

ドガンッ、と。今度は少し強めに腕を倒した。


「わたしのうでって、こんな感じでぇ・・・。って、ん?」

腕相撲の体勢のまま、左手で右袖を捲ろうとするも。


ギチ、ギチチ。


「あ、あれ」

“二の腕の山”に引っ掛かって、袖が上がらない。


「・・・“それ”。ずっと、“そういうデザイン”だと思ってたんだけど・・・」

袖をピンッピンに張っている、私の上腕を指して先輩はそう言った。


この頃はまだ、頑張って女物のトップスを着ていて。

そのせいか、いつも袖がパンパンに膨らんでいたのだ。


「ち、ちがいますよぉ」

先輩が指摘したのは、女性服に良くある『特殊袖』の事を言っていた。

『パフスリーブ』や『提灯袖』とも呼ばれる、上腕部分が膨らんだ袖。


つまり、端から見て『某ホウレン草水夫』みたいに思われていた訳で・・・。


「わたしぃ、太ってるんじゃないですからねぇ?」

酔いで回らない頭のせいか、肥満と指摘されたと思い。

誤解を解こうと、私は左腕を折り曲げ・・・。


「んぅっ!」

よせば良いのに、窮屈な二の腕に思い切り力を籠めた。


モリモリッ、ミチ・・・ビリッ!


「・・・っ!?」

「・・・あ」

この頃、私の力瘤囲は『48cm』にもサイズアップしていて。

上腕二頭筋の隆起に、女性服の袖が耐え切れる筈もなく。


「・・・・・」

先輩は目を丸くして、自分の右腕と私の二の腕を何度も往復した。


「わたしってぇ、こう見えれ・・・」

既に料理のなくなった大皿に乗っている、鉄製のスプーンを手に取り。

両手で挟み込むようにグニャリ、と握り込んだ。


「・・・チカラモチなんれすよ」

種も仕掛けもない事の証明に、先輩の目の前に“鉄の玉”をゴトッ、と置いた。


「何だ、・・・これ」

どう見ても、ピンポン玉サイズの鉄球にしか見えない。

『スプーン曲げ』なんてレベルじゃない、純粋な筋力によるスプーン潰し


「センパイよわすぎるんでぇ。もっかいやるなら、両手でやってもいいですよぉ」

「何、を・・・っ」

煽る意図はなかったんだけど、酔った勢いでつい、本音が出てしまい。


「ん~~♪」

「ぬ、ぐ、ぬぐぐ・・・っ」

両手どころか先輩の全体重を掛けても、私の右腕は一ミリも動かなかった。


「・・・じゃあ、“コレ”はありがたくもらっちゃいまーす」

「・・・・・」

疲れて息も絶え絶えの先輩をよそに、有名カフェの無料券をゲット。

・・・したまでは、良かったんだけど。


―次の日。


大学で講義を受講していても、何処かチラチラと見られている視線を感じる。


「ねぇ。みんな、何か私を見てないかな・・・」

「・・・え。昨日の事、覚えてないの?」

同じ科目を選択している友達から、昨日の合同コンパの顛末を聞かされ。


「うぇえっ!?」

「ちょ・・・」

私はつい、講義中であることも忘れて、声を上げてしまい。


「うぉっほん!」

案の定、講師から大きな咳払いでお叱りを頂いてしまう。


(ねぇ、全然覚えてないんだけど・・・)

(うっそ。あんだけやっといて、マジ?)

小声で事情を確認するも、全く記憶になかった。


問題なのは、昨日の一件がその場だけで終わらず。

件の先輩が遣り込められた腹いせに、有る事無い事言い触らしたらしい。


“それ”、本物なの?」

「本物、って・・・」

友達は、私のトップスの“袖の膨らみ”を見て、そう言った。


講義が終わって即、学食のカフェテラスに移動。

・・・移動した筈なんだけど、私への視線は相変わらず。


「触ってみても・・・」

周囲の視線以前に、講義中からずっと興味の視線を向けられていて。


「・・・ん、良いよ」

根負けして、仕方なく友達に右腕を差し出す。


「す、っご。硬、った・・・!」

「ちょ、くすぐったい」

友達がどれだけ力を入れても擽(くすぐ)ったいだけで、決して凹む事のない二の腕。


「みんな、ずっと気になってたんよ」

「何を?」


「何か、膨らんでるなぁ・・・って」

「えぇ・・・ホントに?」

元々、女子にしては身長が高めで、体格が良い事もあって。

太った印象を持たれてたらしいんだけど。


春先から気温が高くなり、トップスの生地が薄くなるに連れ。

脂肪だと有り得ない、ゴリッゴリッと動く力瘤が密かに注目されてたらしい。


「それ、腕・・・曲がるの?」

「え、っと。その、曲げらんない・・・」

今着ているのは、【2XL】という身長『175cm』想定のトップス。

伸ばした状態でないと袖が通らず、もし曲げようものなら・・・。


「いっそ、ノースリーブにしちゃったら?」

「えぇ? でも・・・」

実は、前々から考えていない訳では無かった。


昨日も酔って帰って、寝て。

朝起きたら、お気に入りのトップスの袖がビリビリに破けていた。


こういった事が今回だけかというと、そうでもなくて。

好みのデザインだからと無理に着て、だいたい破くのは袖だった。


「う、ん。そうだね、そうしてみる」

二の腕に合わせて大き過ぎるサイズを着ると、かなりダボッとなって似合わないし。

それなら、『袖のない服(ノースリーブ)』を着れば良いじゃない、という考え。


―更に、次の日。


「ねぇ」

「・・・・・」

昨日と同じ轍を踏まないよう、講義が終わってカフェテラスへ移動。


「ねぇ、ちょっとぉ。何か、言ってよ」

「・・・えぇ、と。その、何て言うか・・・」

友達は、私の顔と二の腕に視線を往復させ。


「カッコイイヨ?」

と、明らかに片仮名とわかる褒め方をしてくれた。


「何か。格闘漫画のキャラが、重り付きの服を脱いだ後みたい」

「何、それ。褒め言葉になってなーいっ」

興奮して力が入ろうものなら、モゴォッと砲丸のような力瘤が隆起して。

カフェテラスに居る他の学生たちがギョッ、と視線をこちらに向ける。


「トータルファッションとしては、カッコ良いと思うよ」

友達は、上半身だけでなく、私の下半身にも視線を向けた。


ノースリーブのベスト風のシャツに合わせるように、下はパンツルック。

私的に、『カッコ良い系』で整えたつもり・・・なんだけど。


それまで、大学ではスカートしか穿いたことがなく。

下手をすれば、小学校以来のズボンの着用。


「まさか、脚の方がもっと凄いなんて・・・」

「う、それは・・・まあ」

私も正直、自覚はあった。


力瘤囲が『48cm』も有るのであれば。太腿がそれより細い筈がなく。

大腿囲は何と、『65cm』。自身のウェストが『61cm』なのに、だ。


「女子のウェストが、入る訳ないよねぇ」

友達の指摘も、尤もで。


明らかに大腿四頭筋と思われる、一般女子の腕ぐらいありそうな筋が盛り上がり。

丈夫な筈のボトムス(ズボン)の生地は、パッツパツに張っていた。


「そんな事は・・・あ」

ピリッ、とボトムスから生地の裂ける音が聞こえた。


少し意識しただけで大腿四頭筋がグリッ、と動き。

限界まで張っていた生地を、その隆起だけで引き裂いてしまった。


「それ、帰るまで保(も)つの?」

「が、がんばる・・・」

帰宅する頃には、ボトムスの生地がズタボロだったのは、言う迄も無い。



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