MGガール23「高1:⑫暴漢」
Added 2024-07-14 15:00:00 +0000 UTC「健ちゃん、遊ぶよ」
「それ、持って来てたんだ」
真理奈は鞄から、ビーチボールやゴムボートを取り出した。
「空気入れは?」
ボールもボートも、当然ながら空気が完全に抜けた布状態。
「そんなの、要らないよ」
そう言うと、真理奈はビーチボールの空気口を咥えて。
「ぷーっ」
と、一気に息を吹き込んだ。
パンッ!
「・・・え」
「あ、あれ・・・?」
ビーチボールは、一瞬でバスケットボールぐらいにまで膨らんで。
そのまま、勢い良く破裂してしまった。
「あれぇ・・・はは」
「うっ、そ・・・すご」
余りに一瞬で膨らんだので、止める間も無かった。
「元々、破けちゃってたのかな・・・」
古くて破け易くなっていた、とは思う。だけど・・・。
「じゃあ、こっち・・・」
「真理奈、ストップ」
僕は慌てて、ゴムボートに手を掛けた真理奈を止める。
「試しに、“これ”に力いっぱい空気を入れてみて」
「これ、って」
僕は、その辺に転がっていた貝殻を手渡した。
ヤドカリが居そうな大き目の貝殻だけど、中身は空だった。
「えー、何で。まあ、良いけど・・・」
真理奈は渋々、貝殻の口におちょぼ口を当てる。
「ぷーっ!」
ボールの時は加減していたのか、さっきよりも大きな呼気音。
嫌な予感がするので、僕は半歩だけ真理奈の斜め後ろに下がる。
バァンッ!
「きゃっ」
「うわっ」
硬い筈の貝殻が、爆発した。
「真理奈! 大丈夫?」
僕たち以外、周りに誰も居なかったのは幸い、だったけど。
「うへぇ・・・ペッ、ペッ」
口の中に破片が入ったのか、仕切りに吐き出そうとしている。
「何とも、ないの?」
「何が?」
結構な硬さの貝殻の破片を至近距離で喰らって、無傷・・・らしい。
「もうっ。そんなに強く吹いたつもりないのに」
真理奈は、口から吐き出した1cmぐらいの破片を手に載せると。
「ぷぅっ!」
と、海に向けて吹いた。
ピシュンッ!!
「・・・え」
僕の傍をまるで、弾丸が通過したかのような風切り音。
パシャ、パシャッ、パシャッ・・・パシャ・・・・・
貝殻の破片は、海を数十メートルは進んで。
何度か水面を跳ねた後、ポチャッと海の中に落ちた。
「あっれぇ。結構、飛んじゃった・・・はは」
40kmもの遠距離を走り、疲れすら残さない超人的な心肺能力。
それはつまり、肺活量も超人的なレベルってことで。
「もうっ、そんな目で見ないでぇ」
「あ、いや・・・」
真理奈の腕力や脚力は、数値としてわかり易い分、慣れつつあった。
だけど、肺活量の凄さをこんな形で見せられて、僕の頭が追い付いていないのだ。
「大丈夫。“こっち”はちゃんとやるから」
ゴムボートは言葉通り、細心の注意を払ったようで。
無事、破裂せずに本来の大きさにまで膨らんだ。
とは言え、僕一人が余裕で寝られる程の大きなゴムボートが。
たったの数秒で一気に膨れ上がったのは、圧巻だった。
「健ちゃん、沖に出ようよ」
「良いけど。でも、そうなると・・・」
僕たちは、二人っきりで来ている。
となれば、二人とも沖に出てしまうと荷物番が居なくなる。
「あー、そっか。貴重品・・・」
飲み物や着替えは最悪、もし盗難に遭っても取返しは付くけど。
財布や鍵類の貴重品は、そうはいかない。
「ねぇ、【腕輪】さん。何とか、なんない?」
真理奈は突然、腕に嵌めている【腕輪】に語り掛けた。
真理奈の怪力でさえ破壊出来ない、謎素材の【腕輪】。
それだけ頑丈なら、肌身離さず常備しようってなったのだ。
『限定的な容量であれば、圧縮して収納することが可能です』
「え。何、それ」
真理奈お気に入りの【腕輪】には、毎度驚かされるが。
今回もまた、予想外の回答が返って来た。
「健ちゃん、財布出して」
「え、大丈夫なの」
圧縮って言っても、食品とかのフリーズドライとは訳が違う。
財布や、ましてや鍵みたいな金属品なんて、どうやって圧縮するんだ。
「そういうの、良いから。早く」
「わ、わかったよ」
僕は言われるがままに、鞄から貴重品を取り出した。
「健ちゃんも良い加減、慣れなよ」
と、真理奈に窘められる始末。
僕なんかより、真理奈の方が何倍も【事故】の影響を受けているのだ。
真理奈が受け入れているのであれば、僕もそれに倣うべきだろう。
「何これ、凄い」
何度かテストしてみたけど、全く問題無く僕たちの貴重品は収納された。
謎技術というか超技術過ぎて、原理はサッパリわからないけど。
「健ちゃん、見ててね」
ゴムボートで沖合に繰り出すと、真理奈がいきなり潜水を始めた。
「そういや、真理奈って泳げたっけ・・・?」
去年、プールに同行した時、バタ足が精々だった筈。
全く上がって来る気配がない、と思った矢先。
「ばぁーん」
ドバァッ!!と、真理奈がいきなり海面に跳び出した。
いや、“飛び出した”という表現の方が正しいかも知れない。
「うえぇっ!? すごっ・・・」
トビウオを思い起こさせるが、トビウオの最高到達点は海面五メートルぐらい。
当の真理奈は、海面から十メートル以上は飛び上がっていた。
「どうやってるの?」
「え? バタ足だよ」
潜って飛び上がって、を何度か繰り返した後。真理奈は、そう答えた。
「・・・へ? バタ足?」
「そ、だよ」
真理奈は潜った後も、海中でバタ足しかしていないらしい。
助走代わりに深く潜り、一気にバタ足で海面に飛び出しているだけなのだ。
「だって。私、それしか出来ないもん」
真理奈の技量は、去年のプールから特に進化していなかった。
ただ、その技量を補って余りある程に筋力が進化した、って所だろうか。
「こんなのも、出来るよ」
「え、え・・・え?」
真理奈は、海面に“立っていた”。
正確には、太腿から上が海面に出ている、というだけなんだけど。
立ち泳ぎで海面に肩から上を出す、ならわかる。
バタ足するのは同じでも、腿から上を浮かせるのはどれだけの脚力なんだろうか。
「ふぅ、楽しかったぁ」
「そろそろ、戻ろっか」
一通り楽しんだ後、僕たちは陸に戻ろうってなった。
徐々に波が高くなって来て、海が荒れてもおかしくない雰囲気だった。
海岸に着いたのと、ほぼ同じ頃。
「キャーッ!」
遠くで、女性の悲鳴が聞こえた。
「何、だろ」
「誰か、居る」
ここからだと遠くて、僕では視認出来ない。
しかし、真理奈は“その何者”かを認識しているようだった。
「何か、おかしい」
「ちょ、真理奈」
真理奈はその方向に向かって、駆け出した。
「真理奈っ、待って」
小走りぐらいのつもりなんだろうけど、僕の全力疾走より速い。
「何、あの人」
そこには、フラフラとよろめきながら歩く、男が居た。
「甚平・・・?」
甚平、というか。作務衣、のような。ダボッとした服を身に着けていて。
だけど、そのゆったりとした服に似つかわしくない、部位の膨らみ。
「あれ・・・筋肉?」
袖や裾をパンパンに張らす、力瘤に太腿。
身体全体としては、僕と似た体型で逞しい感じは全くしない。
にも関わらず、二の腕と腿だけ異様に膨らんでいた。
「真理奈、離れよう。嫌な予感がする」
真理奈のように均整の取れた肉体美とは異なる、異常体型。
だけど、腕や腿の各パーツだけ見れば、真理奈に匹敵する大きさ。
「てめー、ナニモンだぁ?」
何と、例のナンパ男たちが、その甚平男にチョッカイを掛けていた。
後から知ったけど、男たちはこの砂浜が地元のサーファー仲間で。
自警と称して、この砂浜に良く出没し、練り歩いていたらしい。
サーファーと海水浴客って、相容れないらしく。
地元民の海水浴客からは嫌われているようだった。
「真理奈、あいつらに任せよう」
「あ、だめっ」
真理奈が、そう叫んだ瞬間。
ボギャッと甚平男がナンパ男に向けて、裏拳を放った。
いや、裏拳というよりは、単に邪魔なので右手で払っただけか。
「うぎゃあっ!」
体格では勝っている筈のナンパ男は、横方向に数メートル吹っ飛んだ。
「キャーッ!」「うわぁっ!」
周囲の人たちの、悲鳴。皆、散り散りに逃げ、離れて行く。
「てんめぇ、何しやがるっ!」
激怒して前に出たのは、あのラガーマン。
180cmの大柄な体格は伊達ではなく、甚平男が先程より小さく見える。
「ぶっ殺してやるっ」
相変わらず、激高すると出て来る言葉が荒れるものの。
その大きな身体から放たれるパンチは、迫力満点だった。
ドゴ。
「何で、倒れねぇ」
ラガーマンの渾身の右ストレートは、確かに甚平男の顔面を捉えた。
しかし、その甚平男は少しよろめいただけで、倒れることはなかった。
「オまえ、クスり持ってねぇカ?」
「あん? 何言ってやがる」
一発で効かないなら、二発。二発でダメなら、三発。
ラガーマンは倒れるまで、と何度も何度も打ち付けた。
「何で、倒れねぇんだよ・・・」
さっきと同じ台詞だけど泣き言というか、恨み節が混じったトーン。
「持ってネぇなら、用はねえんだヨッ」
「うごぼぁっ!」
甚平男の右アッパーが、炸裂。110kgの巨体が、遥か宙を舞った。
「私なら・・・」
「真理奈、ダメだよっ」
甚平男の膂力は、ハッキリ言って異常だ。
真理奈と同じか、下手をしたら・・・。
「ン? オまえのその、カらだ。サては、クスり持ってやがるナァっ?」
甚平男は突然、こちらに気付き。
真理奈に照準を合わせたのか、一気に向かって来る。
「くそっ」
「健ちゃん、だめっ」
僕は、足元の砂を片手一杯拾って、甚平男に向かって投げ付けた。
ズバァッ!
「グわぁっ!?」
甚平男はモロに顔面に砂を喰らい、顔を押さえてよろよろとフラ付く。
「真理奈、今の内に・・・」
狙い通りに甚平男の突進を止めた事で僕はつい、安心してしまい。
真理奈を連れて逃げようと、振り返る。甚平男から目線を切った、次の瞬間。
ドゴッ。
「健ちゃんっ!!」
「・・・え」
僕は顎に衝撃を受け、一気にブラックアウトしてしまう。
「・・・っ!」
「クスり、ヨこせぇッ」
甚平男が、真理奈に殴り掛かる。
ナンパ男たちを殴り飛ばした剛腕パンチが、何度も放たれる。
「何、そのパンチ」
しかし、男の剛腕が真理奈に触れることはなかった。
「ヨ、よけんじゃネェっ」
「そう。わかった」
真理奈は身を躱(かわ)すの辞め、左手で受け止める。
現時点で『342kg』という驚異的な数値にまで達した、超握力。
男の右手に、真理奈は持てる全力を籠めた。
ゴキゴキゴキッ、グシャッ!!
「う、ウぎゃああアぁっ!!」
男の右手は小石の大きさにまで小さく、圧縮された。
「これで、“正当防衛”やって良いんだよね」
特に誰に聞いた訳でもなく、真理奈はそう独り言ちた。
ドゴギャアッ!!
「ウげあぁッ!」
サンドバッグを貫通する超威力の右パンチが、男の顎を粉砕。
そのまま勢い余って、男は錐揉みしながらトリプルアクセルを決めた。
「あ、あれ」
真理奈は、右ストレートを放つつもりだった。
しかし、力が入り過ぎて、右フックになってしまったのだ。
もし、想定通りに右ストレートを打てていれば、男の顔面は無くなっていた。
そして、真理奈は“そうする”つもりで、パンチを打ったのだ。
「ア、あがガ・・・」
男は呻き声を上げ、ヨロヨロと地面を這っている。
「そのまま、踏み潰してあげる」
男の胴体をペシャンコにしてやろうと、『92cm』もの超極太の剛脚を振り上げる。
「そこまでよっ!」
何処かで聞いた、女性の声。
「あ、貴女は・・・」
「久し振りね。紅世さん」
そこには、スーツ姿の女性が立っていた。
ビジネス系の紺色のスーツの上着に、深いスリットの入ったタイトスカート。
ストレートに整えられた黒髪のロングヘアは、美しく後ろに流れていた。
一件、オフィスレディ風な出で立ちだが。
肩幅は広く、肩や二の腕はモコッ、モコッと大きく盛り上がっている。
タイトスカートから覗く太腿には、大腿四頭筋がクッキリと隆起していた。
「こんな所で会うなんて、奇遇ね」
「・・・保志さん」
およそ海岸に不釣り合いなスーツ女性を、真理奈はそう呼んだのだった。