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デアカルテ
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MGガール23「高1:⑫暴漢」

「健ちゃん、遊ぶよ」

「それ、持って来てたんだ」

真理奈は鞄から、ビーチボールやゴムボートを取り出した。


「空気入れは?」

ボールもボートも、当然ながら空気が完全に抜けた布状態。


「そんなの、要らないよ」

そう言うと、真理奈はビーチボールの空気口を咥えて。


「ぷーっ」

と、一気に息を吹き込んだ。


パンッ!


「・・・え」

「あ、あれ・・・?」

ビーチボールは、一瞬でバスケットボールぐらいにまで膨らんで。

そのまま、勢い良く破裂してしまった。


「あれぇ・・・はは」

「うっ、そ・・・すご」

余りに一瞬で膨らんだので、止める間も無かった。


「元々、破けちゃってたのかな・・・」

古くて破け易くなっていた、とは思う。だけど・・・。


「じゃあ、こっち・・・」

「真理奈、ストップ」

僕は慌てて、ゴムボートに手を掛けた真理奈を止める。


「試しに、“これ”に力いっぱい空気を入れてみて」

「これ、って」

僕は、その辺に転がっていた貝殻を手渡した。

ヤドカリが居そうな大き目の貝殻だけど、中身は空だった。


「えー、何で。まあ、良いけど・・・」

真理奈は渋々、貝殻の口におちょぼ口を当てる。


「ぷーっ!」

ボールの時は加減していたのか、さっきよりも大きな呼気音。

嫌な予感がするので、僕は半歩だけ真理奈の斜め後ろに下がる。


バァンッ!


「きゃっ」

「うわっ」

硬い筈の貝殻が、爆発した。


「真理奈! 大丈夫?」

僕たち以外、周りに誰も居なかったのは幸い、だったけど。


「うへぇ・・・ペッ、ペッ」

口の中に破片が入ったのか、仕切りに吐き出そうとしている。


「何とも、ないの?」

「何が?」

結構な硬さの貝殻の破片を至近距離で喰らって、無傷・・・らしい。


「もうっ。そんなに強く吹いたつもりないのに」

真理奈は、口から吐き出した1cmぐらいの破片を手に載せると。


「ぷぅっ!」

と、海に向けて吹いた。


ピシュンッ!!


「・・・え」

僕の傍をまるで、弾丸が通過したかのような風切り音。


パシャ、パシャッ、パシャッ・・・パシャ・・・・・


貝殻の破片は、海を数十メートルは進んで。

何度か水面を跳ねた後、ポチャッと海の中に落ちた。


「あっれぇ。結構、飛んじゃった・・・はは」

40kmもの遠距離を走り、疲れすら残さない超人的な心肺能力。

それはつまり、肺活量も超人的なレベルってことで。


「もうっ、そんな目で見ないでぇ」

「あ、いや・・・」

真理奈の腕力や脚力は、数値としてわかり易い分、慣れつつあった。

だけど、肺活量の凄さをこんな形で見せられて、僕の頭が追い付いていないのだ。


「大丈夫。“こっち”はちゃんとやるから」

ゴムボートは言葉通り、細心の注意を払ったようで。

無事、破裂せずに本来の大きさにまで膨らんだ。


とは言え、僕一人が余裕で寝られる程の大きなゴムボートが。

たったの数秒で一気に膨れ上がったのは、圧巻だった。


「健ちゃん、沖に出ようよ」

「良いけど。でも、そうなると・・・」

僕たちは、二人っきりで来ている。

となれば、二人とも沖に出てしまうと荷物番が居なくなる。


「あー、そっか。貴重品・・・」

飲み物や着替えは最悪、もし盗難に遭っても取返しは付くけど。

財布や鍵類の貴重品は、そうはいかない。


「ねぇ、【腕輪】さん。何とか、なんない?」

真理奈は突然、腕に嵌めている【腕輪】に語り掛けた。


真理奈の怪力でさえ破壊出来ない、謎素材の【腕輪】。

それだけ頑丈なら、肌身離さず常備しようってなったのだ。


『限定的な容量であれば、圧縮して収納することが可能です』

「え。何、それ」

真理奈お気に入りの【腕輪】には、毎度驚かされるが。

今回もまた、予想外の回答が返って来た。


「健ちゃん、財布出して」

「え、大丈夫なの」

圧縮って言っても、食品とかのフリーズドライとは訳が違う。

財布や、ましてや鍵みたいな金属品なんて、どうやって圧縮するんだ。


「そういうの、良いから。早く」

「わ、わかったよ」

僕は言われるがままに、鞄から貴重品を取り出した。


「健ちゃんも良い加減、慣れなよ」

と、真理奈に窘められる始末。


僕なんかより、真理奈の方が何倍も【事故】の影響を受けているのだ。

真理奈が受け入れているのであれば、僕もそれに倣うべきだろう。


「何これ、凄い」

何度かテストしてみたけど、全く問題無く僕たちの貴重品は収納された。

謎技術というか超技術過ぎて、原理はサッパリわからないけど。


「健ちゃん、見ててね」

ゴムボートで沖合に繰り出すと、真理奈がいきなり潜水を始めた。


「そういや、真理奈って泳げたっけ・・・?」

去年、プールに同行した時、バタ足が精々だった筈。

全く上がって来る気配がない、と思った矢先。


「ばぁーん」

ドバァッ!!と、真理奈がいきなり海面に跳び出した。

いや、“飛び出した”という表現の方が正しいかも知れない。


「うえぇっ!? すごっ・・・」

トビウオを思い起こさせるが、トビウオの最高到達点は海面五メートルぐらい。

当の真理奈は、海面から十メートル以上は飛び上がっていた。


「どうやってるの?」

「え? バタ足だよ」

潜って飛び上がって、を何度か繰り返した後。真理奈は、そう答えた。


「・・・へ? バタ足?」

「そ、だよ」

真理奈は潜った後も、海中でバタ足しかしていないらしい。

助走代わりに深く潜り、一気にバタ足で海面に飛び出しているだけなのだ。


「だって。私、それしか出来ないもん」

真理奈の技量は、去年のプールから特に進化していなかった。

ただ、その技量を補って余りある程に筋力が進化した、って所だろうか。


「こんなのも、出来るよ」

「え、え・・・え?」

真理奈は、海面に“立っていた”。

正確には、太腿から上が海面に出ている、というだけなんだけど。


立ち泳ぎで海面に肩から上を出す、ならわかる。

バタ足するのは同じでも、腿から上を浮かせるのはどれだけの脚力なんだろうか。


「ふぅ、楽しかったぁ」

「そろそろ、戻ろっか」

一通り楽しんだ後、僕たちは陸に戻ろうってなった。

徐々に波が高くなって来て、海が荒れてもおかしくない雰囲気だった。


海岸に着いたのと、ほぼ同じ頃。


「キャーッ!」

遠くで、女性の悲鳴が聞こえた。


「何、だろ」

「誰か、居る」

ここからだと遠くて、僕では視認出来ない。

しかし、真理奈は“その何者”かを認識しているようだった。


「何か、おかしい」

「ちょ、真理奈」

真理奈はその方向に向かって、駆け出した。


「真理奈っ、待って」

小走りぐらいのつもりなんだろうけど、僕の全力疾走より速い。


「何、あの人」

そこには、フラフラとよろめきながら歩く、男が居た。


「甚平・・・?」

甚平、というか。作務衣、のような。ダボッとした服を身に着けていて。

だけど、そのゆったりとした服に似つかわしくない、部位の膨らみ。


「あれ・・・筋肉?」

袖や裾をパンパンに張らす、力瘤に太腿。


身体全体としては、僕と似た体型で逞しい感じは全くしない。

にも関わらず、二の腕と腿だけ異様に膨らんでいた。


「真理奈、離れよう。嫌な予感がする」

真理奈のように均整の取れた肉体美とは異なる、異常体型。

だけど、腕や腿の各パーツだけ見れば、真理奈に匹敵する大きさ。


「てめー、ナニモンだぁ?」

何と、例のナンパ男たちが、その甚平男にチョッカイを掛けていた。


後から知ったけど、男たちはこの砂浜が地元のサーファー仲間で。

自警と称して、この砂浜に良く出没し、練り歩いていたらしい。


サーファーと海水浴客って、相容れないらしく。

地元民の海水浴客からは嫌われているようだった。


「真理奈、あいつらに任せよう」

「あ、だめっ」

真理奈が、そう叫んだ瞬間。


ボギャッと甚平男がナンパ男に向けて、裏拳を放った。

いや、裏拳というよりは、単に邪魔なので右手で払っただけか。


「うぎゃあっ!」

体格では勝っている筈のナンパ男は、横方向に数メートル吹っ飛んだ。


「キャーッ!」「うわぁっ!」

周囲の人たちの、悲鳴。皆、散り散りに逃げ、離れて行く。


「てんめぇ、何しやがるっ!」

激怒して前に出たのは、あのラガーマン。

180cmの大柄な体格は伊達ではなく、甚平男が先程より小さく見える。


「ぶっ殺してやるっ」

相変わらず、激高すると出て来る言葉が荒れるものの。

その大きな身体から放たれるパンチは、迫力満点だった。


ドゴ。


「何で、倒れねぇ」

ラガーマンの渾身の右ストレートは、確かに甚平男の顔面を捉えた。

しかし、その甚平男は少しよろめいただけで、倒れることはなかった。


「オまえ、クスり持ってねぇカ?」

「あん? 何言ってやがる」

一発で効かないなら、二発。二発でダメなら、三発。

ラガーマンは倒れるまで、と何度も何度も打ち付けた。


「何で、倒れねぇんだよ・・・」

さっきと同じ台詞だけど泣き言というか、恨み節が混じったトーン。


「持ってネぇなら、用はねえんだヨッ」

「うごぼぁっ!」

甚平男の右アッパーが、炸裂。110kgの巨体が、遥か宙を舞った。


「私なら・・・」

「真理奈、ダメだよっ」

甚平男の膂力は、ハッキリ言って異常だ。

真理奈と同じか、下手をしたら・・・。


「ン? オまえのその、カらだ。サては、クスり持ってやがるナァっ?」

甚平男は突然、こちらに気付き。

真理奈に照準を合わせたのか、一気に向かって来る。


「くそっ」

「健ちゃん、だめっ」

僕は、足元の砂を片手一杯拾って、甚平男に向かって投げ付けた。


ズバァッ!


「グわぁっ!?」

甚平男はモロに顔面に砂を喰らい、顔を押さえてよろよろとフラ付く。


「真理奈、今の内に・・・」

狙い通りに甚平男の突進を止めた事で僕はつい、安心してしまい。

真理奈を連れて逃げようと、振り返る。甚平男から目線を切った、次の瞬間。


ドゴッ。


「健ちゃんっ!!」

「・・・え」

僕は顎に衝撃を受け、一気にブラックアウトしてしまう。


「・・・っ!」

「クスり、ヨこせぇッ」

甚平男が、真理奈に殴り掛かる。

ナンパ男たちを殴り飛ばした剛腕パンチが、何度も放たれる。


「何、そのパンチ」

しかし、男の剛腕が真理奈に触れることはなかった。


「ヨ、よけんじゃネェっ」

「そう。わかった」

真理奈は身を躱(かわ)すの辞め、左手で受け止める。


現時点で『342kg』という驚異的な数値にまで達した、超握力。

男の右手に、真理奈は持てる全力を籠めた。


ゴキゴキゴキッ、グシャッ!!


「う、ウぎゃああアぁっ!!」

男の右手は小石の大きさにまで小さく、圧縮された。


「これで、“正当防衛”やって良いんだよね」

特に誰に聞いた訳でもなく、真理奈はそう独り言ちた。


ドゴギャアッ!!


「ウげあぁッ!」

サンドバッグを貫通する超威力の右パンチが、男の顎を粉砕。

そのまま勢い余って、男は錐揉みしながらトリプルアクセルを決めた。


「あ、あれ」

真理奈は、右ストレートを放つつもりだった。

しかし、力が入り過ぎて、右フックになってしまったのだ。


もし、想定通りに右ストレートを打てていれば、男の顔面は無くなっていた。

そして、真理奈は“そうする”つもりで、パンチを打ったのだ。


「ア、あがガ・・・」

男は呻き声を上げ、ヨロヨロと地面を這っている。


「そのまま、踏み潰してあげる」

男の胴体をペシャンコにしてやろうと、『92cm』もの超極太の剛脚を振り上げる。


「そこまでよっ!」

何処かで聞いた、女性の声。


「あ、貴女は・・・」

「久し振りね。紅世さん」

そこには、スーツ姿の女性が立っていた。


ビジネス系の紺色のスーツの上着に、深いスリットの入ったタイトスカート。

ストレートに整えられた黒髪のロングヘアは、美しく後ろに流れていた。


一件、オフィスレディ風な出で立ちだが。


肩幅は広く、肩や二の腕はモコッ、モコッと大きく盛り上がっている。

タイトスカートから覗く太腿には、大腿四頭筋がクッキリと隆起していた。


「こんな所で会うなんて、奇遇ね」

「・・・保志さん」

およそ海岸に不釣り合いなスーツ女性を、真理奈はそう呼んだのだった。


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