肉の日の喪女04「喪女の鍛錬」
Added 2024-07-28 15:00:00 +0000 UTC「昔の事考えてたら何か、気が滅入って来た・・・」
『賃貸マンション』の自室で一人、半裸な格好で晩酌。
ホロ酔いで思い起こされるのは、自分が喪女へと至る道程。
「何か、気分転換しないと・・・」
とは言え、直ぐに思い付くような趣味もなく。
「そうだ。『筋トレ』って、どうなんだろ」
『筋トレ』未経験なのに、筋肉隆々という特異点な私だけど。
敢えてやってみる事で何かわかるかも、と思ってみたり。
例えば、ダンベルやバーベルに代表されるウェイト。
普通、それらを扱う事で今の自身にどれだけ筋力があるか、わかる。
体力測定なんて、高校の時にやったのが最後。
そんな今の自分に、どれだけの筋力があるのか。
わかる範囲でも、確認しておくのは悪くない筈。
「とはいえ、ダンベルなんて無いしなぁ」
『筋トレ』器具なんて気の利いた物は、ウチには存在しない。
「腕立て伏せでも、良っか」
『筋トレ』で他に思い付くのは、『腕立て伏せ』か『腹筋』あたり。
「折角だし、無職次いでにやってみますか」
何が折角なのかは、私にも良くわからないけれども。
思い立ったが吉日、ということで。
「えー、っと」
狭い部屋に身体を動かすスペースを作るとなると、テーブルが邪魔。
部屋の隅に退けようと、テーブルの端を持ち。
「ん、っしょ・・・」
両手で持ち上げるべく、腰を上げると・・・。
ベギィッ!
「・・・あ」
・・・やっちゃった。ヤッてしまった。
食卓として使っている、木製のローテーブル。
かなり頑丈な造りで、重さも『15kg』ぐらいはあった筈。
「あ~あ・・・」
お気に入りのテーブルが、『∧字型』に二つ折りになっている。
つい、油断してしまった。
テーブルは頑丈だ、という認識そのものは間違っていない。
だけど、それはあくまで一般的な腕力であればの話。
私の怪力の前では、分厚い木の板であっても、か細い小枝レベル。
“力を入れない”ように、意識しないとダメだった。
「ん、っと。こう、持って・・・と」
私は、中指と親指で摘み上げるように、テーブルを持ち上げ。
恐る恐る、部屋の壁にスッと立て掛けた。
『15kg』程度の重さであれば、私にとっては空き缶と大差ないのだ。
「気に付けないと、なぁ・・・」
このままだと、ドンドンと家具が無くなって行く。
――目覚まし時計の場合。
独り暮らしを始めたばかりの、社会人一年目の頃。
朝寝坊しないように、と目覚まし時計を買った。
次の日の、朝。
ピピピッ、ピピピッ。ピピピッ、ピピピッ!
指定した時間通りに、けたたましくアラームが鳴り響く。
「ん、んぅ~~、んっ!」
と、ボタンを押してアラームを止めた・・・つもりだった。
目が覚めた時。確かに、私の右手は目覚まし時計を置いてた所にあった。
「あ、あれ・・・?」
しかし、目覚まし時計は何処にも見当たらない。
「・・・あ」
いつの間にか握っていた右手を開くと、粉々になった機械部品がパラパラと・・・。
「え、うそ・・・」
どうやら私は、寝ぼけ眼(まなこ)で時計を掴み。
そのままグシャッ、と握り潰してしまった・・・らしい。
完全に寝惚けていたのか、ヤッた記憶は全くない。
――スマホの場合。
スマホについても、同様で。
寝惚けた状態で、『SNS』でもチェックしようと握って・・・バギャッ!
――大型ベッドの場合。
両親から就職祝いで買って貰った大型ベッドは、一年と持たなかった。
これまた、寝惚けていて。普通に『大の字』で寝ていれば良かったのに。
その時は偶々、寝返りを打って『俯せ』になってしまい。
「ふが、ぐが・・・」
顔が枕に埋まって、息苦しくなり。
布団の中で散々、藻掻いた挙句。
「んが・・・が?」
何を思ったか、事態の改善を試みようとベッドの両端を掴み。
メキ、メキキ・・・。
「ん、んぐ・・・ぐ」
自分の身体より二回りは大きなベッドを、私は思い切り抱き締めてしまって。
ベキベキ、ベギッ! バギャギャッ!! バゴォッ、ガガッ!!!
「ん、んぁ・・・?」
両腕が“ベッドの背面”に回り切ったところで、私は目を覚ました。
「うぇ? うぇぇっ!?」
平面だった筈のベッドが、起きたら『∧字型』の山なりになっていた。
私の超腕力は、ベッド全体を圧し折っただけでは収まらず。
強固な上腕二頭筋でベッドを左右から削り、砂時計のように変形させていた。
時計やスマホは、超握力で握り潰し。
大型ベッドは、超腕力で抱き潰した。
大型ベッドが無くなって、スペースが空いたから、と。
テーブルを置いたら、今度はそれすらも圧し折ってしまった。
「・・・ま、今は良いや」
ヤッちゃったものは、仕方ない。
「気を取り直して、と」
私は俯せになり、床に両手を付く。
「この体勢から、上げれば良いんだっけ?」
私自身の『筋トレ』知識なんて、この程度のレベル。
「ん、っしょ」
先ずは、一回。
「・・・。んっしょ」
続けて、速度を上げてもう一回。
「・・・・・。ん、っしょ。ん、っしょ」
今度は連続で二回、三回。
「・・・・・。こんなの、何の運動になるんだろ・・・」
筋肉隆々な体型をしている以上、体重が“それなり”な自覚はある。
乙女として細かい数値は把握したくないので、ここ数年測っていないんだけど。
「ん、っしょ。ん、っしょ」
何キロあるかは不明だけど、私の筋肉ボディを押し上げるのに力は要らなかった。
何度でも、上がる。どんだけ繰り返しても、一向に疲れる気配もない。
「じゃ、あ・・・っと」
調子に乗って、私は右手一本で身体を支え。
そのまま床に、自慢の『Gカップ』を圧し付けては離して、を繰り返した。
「これは、どうかな」
これ以上は無理かな、と思いつつ。
ついには、“右親指一本”で身体を支えてみた。
「あれ、行ける・・・」
“右親指一本”腕立て伏せ、という荒技にも関わらず。
私は何十回と、床と身体を往復させた。左親指に変えても、結果は変わらず。
「・・・ふぅ」
しかし、身体は反応しているのか、何処か上気していて。
汗がツゥッと額を伝って落ちて来たので、それを拭おうと左手を上げた瞬間。
ビリッ、ビリリッ!
「う、そ・・・」
私は、単に左腕を曲げただけ、である。
それなのに、無事だった筈のワイシャツの左袖は、ビリビリに破け。
隆起した上腕二頭筋の塊が、袖の中からコンニチワしていた。
「何だろ。身体全体が何か、火照ってる感じ」
後から知ったけど、いわゆる『パンプアップ』という状態だった・・・らしい。
筋力が強過ぎて、私自身の感覚として負荷を認識出来ていないだけで。
超筋力の源である筋繊維は、ちゃんと負荷を受け、体内物質を巡らせていたのだ。
「何か、お腹・・・空いた」
私の脳は、負荷を掛けた分、ちゃんと補給しろと仰せだった。
「そうだ。こんな時は、お肉を一杯食べよう」
今日は確か、【肉の日】。
ガッツリ、肉を食べたい。そんな気分。
体型が出ないダボッとしたブカブカのジャージ姿に着替え、私は街に繰り出した。