MGガール24「高1:⑬研究」
Added 2024-08-14 15:00:00 +0000 UTC「まさか、こんな形で再会することになるなんてね」
立場、状況が違うからか。丁寧語ではない、砕けた口調。
「それは、その。こちらも同じと言いますか」
顔も声も、確かに『プラチナジム』でお世話になった保志さんだった。
以前、見せて貰った『ICカード』は名札として首から下げられている。
「やっぱり、偽名だったんですか」
『星 玲子』という名札を見て、そう問い掛ける。
ジムで『カード』を見せられた時から、気になっていた。
「ああ! 勘違いさせてしまったわね。“こっち”が別名なの」
「別・・・名?」
『プラチナジム』の『保志 玲子』が、戸籍上での氏名で。
『国立特殊生命科学研究所』の『星 玲子』が、別名。
「源氏名とか、コードネームって感じかな?」
映画やドラマの、スパイとか刑事モノなイメージだろうか。
「違和感あるけど、そういう“規約”なの」
“規約”、か。何処かで聞いた単語、だ。
「今回の件は、そうね。先ずは、ごめんなさい」
星さんは椅子から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「完全に、こちらの不手際よ」
台風による停電で、施設の機能が一時的にシャットダウンしてしまい。
“保護”していた『薬物中毒患者』が、その隙に脱走してしまった。
甚平や作務衣に見えた服装は、いわゆる『病院服』だったのだ。
「あの男は、どうなったんですか」
「今は収容して、厳重に拘束しているわ」
しかし、拘束するまでもなく。
真理奈によって、再起不能に近い状態だったらしい。
「貴方が目を覚ますまで、大変だったのよ」
「あ、はは・・・すみません」
今度は、真理奈が頭を下げる。
事の顛末は、目が覚めてから聞かされた。
目潰しが功を奏したのか、男の拳は僕の顎を掠めたに留めたものの。
それでも、脳を揺らすには充分な威力で、脳震盪で昏倒したのだった。
それにキレた真理奈が男をボコボコにした、までは良かった。
「だって、健ちゃんが目を覚まさなくて・・・」
真理奈は、大きな身体を極限まで小さくして、シュンとしている。
“ここ”に連れて来られた後、僕が目を覚まさないことに気付き。
再び我を失い、男をブン殴る為に探して回ろうと、大騒ぎ。
「隔壁をこじ開けたり、扉をぶち抜いたり。凄かったわ」
一メートルはある分厚い防火・耐衝撃の隔壁を、腕力だけでこじ開け。
厚みのある鉄製の扉をこれまた、腕力だけでブチ抜いてしまった。
「でも、それなら星さんだって・・・」
星さんはスーツ用のブラウスの上に、白衣を纏っていた。
丈だけ見れば、かなり大きな寸法なのが見て取れるんだけど。
その大きな白衣の肩口や袖は、明らかな筋肉の隆起でパンパンに張っていた。
「そう、かしら?」
星さんは嬉しそうに、右腕を折り曲げると。
モゴゴ!と凄まじく大きな、スイカ並の特大の力瘤が盛り上がる。
「まだまだ、若い子には負けてないかしらね♪」
身体を褒められて嬉しいのは、トレーニーのサガだろうか。
『プラチナジム』勤務が本業だと頷ける、生粋のトレーニー。
ミチミチ・・・ピリッ!
「・・・あ、しまった」
目算で、『1m』超えと思われる力瘤が白衣の袖を引き裂いた。
「あぁ~、あ。忘れてたわ・・・」
星さんは慌てて、白衣を脱ぐ。
中のブラウスは袖だけでなく、肩口の布地も裂け目が出来ていた。
「緊急事態だったから、“元サイズ”に戻ってたんだった」
「元、サイズ・・・?」
そう言えば、ずっと気になってたんだけど。
“今の星さん”って何処か、以前と比べて大きく見える。
最初は、気のせいかとも思ったんだけど・・・。
「【腕輪】の機能で、普段は筋肉に負荷を掛けているの」
「・・・っ!?」
突然、僕と真理奈の間でしか出ないような、単語が出て来た。
単語そのものは一般名詞で、特別なものではないんだけど。
今、この場で出る単語としては、文脈としておかしい。
「だって、あなた達も付けてるでしょ? “これ”」
星さんはリストバンドを外し、手首に嵌っている【腕輪】を見せてくれた。
「それ・・・」
「多分だけど、紅世さんが着けている物と“同じモノ”よ」
全く同じデザインではないが、見た目の方向性というか、意匠というか。
例えるなら、同じデザイナーが作成したアクセサリーのような感じだろうか。
「紅世さん。貴女は昔、【何か】に“あった”んじゃない?」
“会った”なのか。それとも、“遭った”なのか。
「我々はそれを、【アンノウン】と呼んでいるわ」
そのままの直訳だと、不明・未知。もしくは、知られていない。
「【アンノウン】は、生命かどうかすら不明なの」
地球外に起源を持つと想定される、【何か】。
能動的に活動しているが、生物どころか生命かどうかも不明。
ただし、知的な存在であることは確定的、だという。
「限定的かつ一方的ではあるけど、我々に接触した【痕跡】があるの」
その【痕跡】を頼りに、こちら側から接触を試みるも、成功例は皆無。
気まぐれなのか、何らかの意図ないし規則があるのか。
もしくは、一連の接触は全て自動機械によるもの、という見方もある。
「自動機械・・・」
極限まで発達した人工知能があって。それを、宇宙船に搭載すれば。
宇宙規模のドローンの出来上がり、って訳だ。
「私。12歳ぐらいの頃から三年ぐらい、記憶がないの」
星さんはポツポツと、自分語りを始める。
「それって、つまり・・・」
「テレビショー風に言えば、【アブダクション】されたって所かしら」
『アブダクション』という単語は本来、逆行推論を指す言葉。
しかし、大昔のテレビ番組では、【UFOによる誘拐】を指してそう言った。
今、この場に居るということは。
【アンノウン】に誘拐されたが、無事に解放されたということなのかな。
「その【アンノウン】を調査するのが、星さんの仕事なんですか?」
「うーん。“そういうの”は、【エリア51】とかに任せれば良いかなぁ」
星さんとしては心底、興味がないのか。普段喋りのゆるーい回答。
【エリア51】って、某合衆国の空軍施設だったっけか。
「まさ、か・・・」
ここまで色々と散らばった、点のような情報が。
やっと、線になって繋がって来そうな感じがする。
「紅世さんに“起きた事”と同じか、近い事をされたんだと思うわ」
記憶に明らかな、三年間の空白があるのに。
【アンノウン】としての痕跡は殆ど、残っておらず。
「身体の何処かが機械化でもされていれば、実感も沸くんだろうけど」
遺伝子に、何かを施した【痕跡】らしきモノがあるものの。
研究者や専門機関でどれだけ検査しても、“人間”であることは否定出来ず。
「僕たちの場合は・・・」
僕は状況が状況なので、掻い摘んで説明した。
「・・・なるほど。私とは違うパターンね」
遺伝子に多少の【痕跡】は残るものの、身体そのものに『傷跡』は一切ない。
『誘拐【アブダクション】』は、されたが。
『身体切断【キャトルミューティレーション】』は、されていない。
・・・という保証も、確証もなく。
「貴方と一緒に、紅世さんにも精密検査は受けて貰ったわ」
その結果は、やはりというか。紛うことなく、“人間”という判定。
因みに、僕は脳震盪で昏倒していたので、病人的な意味での精密検査。
「だって、おかしいでしょ?」
星さんはブラウスのまま、再び力瘤を盛り上げる。
モゴ・・・ビリッ、ビリリィッ!!
破け次いでとばかりに、ブラウスの袖が完全に吹き飛んでしまった。
「アラサー女子の二の腕が、『104cm』よ?」
そう言って、『星さん(27)』は苦笑した。
直径30cm級の大玉スイカが、だいたい外周95cm程。
それより一回り以上も大きい、超極太な上腕。
「研究者としては、有り得ないの」
星さんはズバリ、そう言い切った。
力瘤の世界記録は、『65cm』らしい。勿論、男性だ。
女性については、記録がない。尤も、もしあれば話題になる筈。
「トレーニーとしては、夢がある数値だと思うけれど」
『力瘤』という言葉がある通り、昔から人間は筋肉を力の象徴として来た。
それが発展して、『ボディビル』という競技が生まれた。
「もし、私が“コンテスト”に出場したら薬物を疑われるでしょうね」
ボディビルコンテストにおいて、薬物の使用は黙認されていることが多い。
筋力を競う、パワーリフティングやストロングマンなども容認傾向にある。
「まあ、誰もが【チート】だと思うわね」
ステロイド剤などでドーピングを行った競技者を、遥かに上回る筋量。
星さんの圧倒的な筋肉は、参加者全ての度肝を抜くだろう。
そして、それはきっと、真理奈でも同様。
『超絶筋肉ボディの弱冠、16歳の女子高生!』
『バスケットボール大の、73cmの力瘤!』
みたいなニュース記事が、ネットに出回るのが目に見える。
「まあ、実際に出場することは出来ないんだけど」
揶揄されることを嫌って出場しない、ではなく。
“規約”で出場することを許されない、という意味で。
「でも、その代わり。ネットで晒される心配もない」
それは恐らく、報道管制や情報規制での、意味合い。
『筋肉モリモリ過ぎる、美人トレーニー!』
『スイカ大の、104cmの力瘤!』
今ままで、こんなネット記事は目にしたことがない。
星さん程の筋肉ボディなら、話題になっていてもおかしくない。
でも、そうはなっていない。
「そう、か。“国立”・・・」
「ふふ♪ そういうこと」
星さんは、妖しく笑う。
『人間』を、肉体的な意味で進化させようという研究は昔からあるそうで。
オリンピック等の、国家間の威信を賭けた世界規模な催しだけではなく。
最強の兵隊を動員した、最強の軍隊。要人の警護、もしくは暗殺。
国家間のパワーバランスを優位に操作する為の、手札。
「【アンノウン】からすれば、我々なんて対話するに値しないのでしょうね」
人類が誕生して、二十万年。未だに、同類で小競り合いを繰り返す種族。
そんな種は、宇宙全体で見て辺境の未開惑星の原生物、程度。
“それ”を、興味本位で採取して持ち帰ったり。
“それ”相手に事故を起こしたので、チョチョイと後始末したり。
遺伝子を弄ることなんて、土弄りをするぐらいの感覚なのかな。
「でも、こうも考えられるの」
真理奈も星さんも、“人間”であることは変わりない。
「私や紅世さんは、“時計の針が少し進んだ”だけなんじゃないかって」
現在の地球上の科学技術では到達出来ていないだけで、まだまだ先があり。
【アンノウン】の気まぐれで、その【先への扉】が開いてしまった。
「ベンチプレスも、昔は『500kg』が限界だと言われてたのよね」
長年、人間の限界重量は、『500kg』とされて来た。
しかし、その記録は近年、『508kg』に更新された。
人間は日々、進化している。
しかし、その速度を上げたいと思う者が世の中には大勢、居る。
「私がやっているのは、“そういう研究”よ」
【アンノウン】が気まぐれで残した【痕跡】を辿り、解析して。
人間が肉体的に進化出来る方法を模索する、研究。
「内々では、【超人計画】と呼んでるわ」
中二病みたいで恥ずかしい、と自虐の笑みを浮かべた。
正式名称は、『人類を超越した種族への発展および進化を促進する計画』。
長ったらしいので、そう呼ぶ人は誰も居ないらしい。
スーパーマンやスーパーガールに代表される、超人ヒーロー。
そういった超越的な存在に、人類を近付けることが出来るかも知れないのだ。
「私個人としては、【アンノウン】は知的生命体だと思ってるの」
そうでなければ今、私はここに居ない。とまで言い切った。
星さんを、地球に還したり。真理奈を、治療したり。
“倫理観”のようなものが無ければ、取らない行動。
“規約”という単語も、【意思】によって決定されたもの。
「この【腕輪】も単に既製品を渡しただけ、みたいな感じがするのよね」
事後処理およびアフターフォロー、の目的はあったかも知れないが。
明らかな物品としての、【痕跡】。隠す気すら、無い。
「どうせ、解析出来ないでしょ。もしくは、解析出来るかお手並み拝見」
星さんは、誰かの口調を真似て言った。
そういう風に煽られている、と捉える人が居るらしい。
恐らく、【痕跡】を“一切残さない”ように事を進める【超技術】はあるが。
敢えて、【痕跡】を残しているのは、それを使う必要性が無いから。
「そこまで話したということは・・・」
「あら。察しが良い子は、お姉さん嫌いじゃないわ」
アラサー女子と自虐しつつも、自身を『お姉さん』と称した星さん。
何処か、年齢に対する“抵抗”を感じる。
「是非、協力をお願いしたいと思っているの」
要請ではなく、お願い。そう言って、再び星さんは頭を下げた。
「私はもう、“頭打ち”なのよ」
25歳を超えた辺りから、発育的な意味での成長が止まり。
筋力トレーニングの効果も如実に落ちた、とのこと。
しかし、それが加齢による年齢的な限界なのか。
人間としての肉体的な限界なのか、判断が付かず。
藁にも縋る思いで、色々な所に網を張り。
やっと見付けた、新たな被験対象。
「半分ぐらい趣味で、ウェブサイトを運営したりもしてるのよ」
口コミや、ネット記事。オカルト的な噂ですら調査して。
情報収集する為に、ウェブサイトまで立ち上げたらしい。
「ウェブサイト・・・」
「ん、どしたの?」
真理奈は、何でもないと首を振った。心当たりでも、あるのかな。
「真理奈は、どうしたい?」
「星さんみたいな、カッコイイ女性になれるならやりたい」
ありがと、と星さんは照れ臭そうに微笑む。
「特典も、あるわ。特に、“これ”の使い方とか」
星さんは、手首に嵌る【腕輪】を示した。
「そうね。先ずは・・・」
そう言って、何故か星さんはボロボロの白衣を着込む。
「『活動服』を【展開】してちょうだい」
『わかりました』
聞き慣れた機械音声が、【腕輪】から聞こえて来たと思った瞬間。
バシュッという、人体に布を打ち付けるような音がして。
「どう、かしら」
一瞬の内。一秒も経っていないのに、星さんは競泳水着になっていた。
「あ、あれ?」
「いつの間に・・・」
真理奈も僕も、面食らった。
スーパーマンみたいに、早着替えした・・・ようには見えなかった。
「・・・あ」
僕は、海での事を思い出していた。
「貴重品の【圧縮】・・・」
「何だ。知ってたの」
星さんは詰まんなーい、と口を尖らせる。
「【腕輪】所有者の物品を予め登録しておくと、【圧縮】と【展開】が出来るの」
【腕輪】所有者には、所有者が認めた関係者も含んで良くて。
容量も限定的とは言うものの、かなりの余裕があるらしかった。
「更に、というか。むしろ、こっちの方が凄いんだけど・・・」
星さんは再び、【腕輪】に着替える前の服装を指定。
「「・・・っ!?」」
ブラウスとタイトスカートに、上から白衣を纏った姿は変わらない。
しかし、破れた筈の袖の生地が何事も無かったかのように、【復元】していた。
「ほんとに、謎技術なのよねぇ」
この【自動修復】機能は、解析して活用しようと試みるも。
未だに、一切の解析が進んでいないらしい。
「この【圧縮機能】を所有者に使うと、“こうなる”の」
見る見る内に、星さんの全身が少しだけ。しかし、確かに“縮んだ”。
「元の身長は『189cm』なんだけど、今は『180cm』ぐらいかな」
星さんの身体は、身長だけでなく筋肉のボリュームも抑えられていた。
『プラチナジム』で何度も見た、星さんと出会った時の体形そのものだった。
「“これ”、全身への負荷が凄くて。筋トレに活用してるの」
いわゆる、筋力養成ギプスといったところだろうか。
ということは、『プラチナジム』では普段、縛りがある状態で作業していたことになる。
「何か、凄い・・・ですね」
身体を縮める程の負荷を受けた状態で、真理奈用のウェイトを軽々と扱う星女史。
“頭打ち”という表現は、相応しくないように思える。
「折角だから・・・」
星さんは再度、元の『189cm』になって。
更に、一度だけ着て見せた競泳水着の姿になった。
「もっと凄い所、お姉さん見せちゃう♪」
そう言って、星さんは不敵に笑った。