肉の日の育子さん
Added 2019-12-28 15:31:48 +0000 UTC俺は、いわゆる『婚活』というイベントに来ていた。
と言っても、ただの婚活ではない。数ヶ月に一度、“肉の日”に開催される通称『肉活』。
趣味であれ仕事であれ何であれ、“筋肉”に関する者のみが参加を許される、特殊な婚活。
トレーニングジムやボクシングジムのトレーナー。ボディビルダーや、ただのトレーニー。
(※筋トレ業界では、トレーニングする人のことを『トレーニー』と呼ぶ。)
しかも、それだけではなく。格闘家やプロレスラーなど、素人ではないプロまで居る。
それもそのはず。登録料やら参加料やら、掛かる費用が半端ではないのだ。
“筋肉”というニッチなジャンルで婚活する以上、仕方ないとも言えるが・・・。
【男性】登録料、有料。参加費、有料。
【女性】登録料、有料。参加費、無料。※ただし、カップル不成立時は違約金。
高い会費を払わされている男性同様。女性も、カップル不成立だと違約金が発生するシステム。
つまり、男女共に冷やかしが居ない、かなり真剣な婚活なのだ。
ざわ・・・ざわ・・・
ざわ・・・ざわ・・・
「・・・?」
会場に入るなり、参加者のざわめきが聞こえて来た。
「っ!?」
その理由は、直ぐにわかった。
「(29)」のエントリーナンバーを付けた女性。『育子』さん。
カップル不成立時のトラブル防止の為、苗字は伏せられているが、名前は本名がルール。
名札の下には顔写真と、簡単な幾つかのプロフィール。
身長:192cm
B:W:H=192:71:129
基本的に、プロフィールで鯖を読むことは禁止されている。バレれば、こちらも違約金案件。
従って、数値は全て本物ということになる訳だが・・・。
衆目を集めるその“容姿”は、プロフィール通りであることを如実に語っていた。
プロレスラーや格闘家と並んでも遜色の無い長身と体格。
信じられないことに、身長と同じ数値が書かれたバストは、確かに今まで見たこともないような爆乳。
体格は良いものの、全体としては美しい女性的なフォルムをしていた。
特大スイカ並みの爆乳からキュッと括れたウェスト。そこから更にドカンと飛び出すヒップ。
「職業は何を? ボディビルダーですか?」
「いえ」
育子さんは男性陣から質問攻めに遭っていた。
「まさか、プロレスラーとか?」
「・・・いえ」
まるで、こういった質問攻めには慣れていると言わんばかりに、言葉少なに答えて行く。
目の前の皿には、エアーズロックのような分厚いステーキが盛られている。
育子さんはそれを、綺麗な所作でとんどん平らげて行く。
もぎゅもぎゅ。
「では、ご職業は・・・」
ボディビルダーに、プロレスラー。
育子さんの身体を見て男性陣が挙げた職業は、どれも女性には似つかわしくないモノだった。
「プロテインメーカーの社長をしてます」
もぎゅもぎゅ、と肉を咀嚼しながら育子さんはそう答えた。
ミチッ・・・ミチ・・・
「じゃあ、その“身体”は・・・」
「自社製品のテストをしていたら、いつの間にか・・・」
プロテインメーカー社長。勿論、肩書きの時点で『肉活』の参加条件は満たしている。
しかし、むしろ相応しいと言えるのは、その“肉体”の方だった。
大柄な体格を補って余りある、モリモリに盛り上がった筋肉。
白地の綺麗なドレスが今にもはち切れそうなぐらい、全身に溢れんばかりの筋肉が搭載されていた。
もぎゅもぎゅ。
育子さんがナイフやフォークを動かす度にモリッ、モリッと力瘤が盛り上がる。
「・・・・・」
筋肉に一家言ある専門家たちが、“身体そのもの”については素人である筈の育子さんに気圧されていた。
身体の“太さ”が売りのプロレスラーや、筋肉の“鋭さ”が売りの格闘家。
その誰もが、“太さ”と“鋭さ”で明らかに育子さんより劣っているのだ。
育子さんは長い髪をドレスに合わせてトップに纏めていて、項(うなじ)が露(あらわ)になっている。
普通だったら、ドレスの首筋から覗くうなじはセックスアピールとなっていただろう。
しかし、髪の生え際から見えるのは首ではなく、僧帽筋の驚異的な隆起だった。
いや、正確には余りに発達し過ぎて、何処までが首で、何処からが僧帽筋なのか、わからないのだ。
英語名は、“台形”を語源に持つ『トラピジアス』。その語源通りの、見事な台形の僧帽筋だった。
ミチ・・・ミチチッ・・・
“台形”の終わり際は深い谷となり、そこから肩に掛けて三角筋による大きな丸い山が盛り上がっていた。
肩の三角筋も充分に大きいのだが、二の腕は更に極太だった。筋肉の塊が二つの、上腕二頭筋。
その塊が更に三つになる上腕三頭筋。爆乳に負けず劣らず、スイカのように巨大な上腕だった。
もぎゅ・・・ミチィッ・・・
そう、“今にもはち切れそう”なぐらい・・・。
「育子さん、ドレスが・・・」
食器を使い、肉を口に運び、咀嚼する。
そんな誰しもが当たり前に行う日常的な所作で、彼女のドレスは“悲鳴”を上げた。
ピリッ、ピリリッ!
首回り、肩口、袖。生地の緊張が限界に達した部分から、あちこち裂け目が生じていた。
「あぁっ・・・また、やってしまった」
「へ? また・・・?」
“また”、とは一体・・・。
「私、食べたら直ぐに“成長”しちゃうみたいなんです」
今食べたばかりの肉が・・・カロリーが反映されて筋肉が大きくなった、とでも言うのだろうか?
そんな、馬鹿な。そんな話、トレーニーの間でも聞いたことがない。
「このドレスも、仕立てたばかりだったのに・・・」
強いて挙げるなら、“パンプアップ”により筋肉が肥大化した、のが原因と言った所だろう。
しかし、男女問わずこの会場に居る人間の中で、誰が食事によるパンプアップで服を破けるだろうか。
「私、“こんな”なんで、受け止めてくれる男性を探してるんです」
超絶筋肉ボディはともかくとしても、胸は大きく顔も美人。肩書きも、申し分なし。
下世話だが『婚活』である以上、経済力も十二分に判断材料となるのだ。
「具体的には・・・?」
「私より“力が強い”男の人が良いです」
俺は、そう話す彼女の二の腕を見た。極太の上腕が、グリグリと動く度にドレスの袖を引き裂いていた。
「・・・だって。もし夫婦喧嘩になったら、私より弱いと怪我させちゃうかもですし」
女性として、自分より力強い男を求める。理由としては、至極真っ当。
――そして、食事後のフリータイム。
フリータイム以降は、カップル成立した者からどんどん退出して行くシステム。
つまり、ここからは“早い者勝ち”。
育子さんの周りには、かなりの人数の男たちが集まっていた。
世間一般の成人男性からすれば、育子さんの身体はそれこそ“引く”対象だろう。
しかし、『肉活』に集まる男たちからすれば、むしろ“ドンと来い”なのだ。
「育子さん、俺と勝負しませんか」
一番槍に名乗りを上げたのは、テレビでも観たことがあるような有名なプロ格闘家だった。
ヘビー級の海外勢相手に互角に渡り合った猛者。若くして引退したとはいえ、身体の厚みは申し分ない。
「何で勝負しますか? 私は何でも構いませんよ」
「へー、凄い自信ですね。じゃあ、わかり易く腕相撲でどうですか」
格闘家に対し、育子さんは全く物怖じしていない。むしろ、余裕があるように見える。
有志によりテーブルが設置された。二人は向かい合うようにテーブルに肘を置き、手を組み合う。
改めて見ると、“格闘家の身体は、育子さんの身体に引けを取っていなかった”。
ざわ・・・ざわ・・・
プロの男子格闘家と素人の女子が、対面で向かい合っているにも関わらず。
テーブルに肘を着いただけで盛り上がる力瘤。左手をテーブルに添えるだけで広がる広背筋。
どちらが肉体的に上かと問われれば、この場に居る全員が“育子さんが上”と答えるだろう。
「レディー、ゴー!」
審判を買って出た俺が、勢い良く開始の合図を掛ける。
「ぬぅんっ・・・!」
格闘家の全身の筋肉が盛り上がり、渾身の力が篭められているのが周りにもわかる。しかし。
「・・・・・」
育子さんは、涼しい顔をしていた。組み合った手は、開始位置から一ミリも動いていない。
「もしかして・・・、相手が女だと思って手加減してますか?」
「なっ・・・!」
どう見ても、格闘家は全力を出している。傍目にはそう見える。
「・・・は! ご、ごめんなさい」
育子さんは、何かに気付いたようだった。
「男性の方と本気で腕相撲するなんて、初めての事で・・・。“これ”で、全力なんですね」
「何、だ・・・と!?」
恐らく、育子さんに悪気は無いのだろう。しかし、悪気が無いだけに、タチが悪いとも言える。
「“少し”力を入れますね」
育子さんはわざわざ、断りを入れた。
宣言通り、育子さんの力瘤が少しだけモリッと盛り上がった。
すると、グググ・・・と徐々に格闘家の腕がテーブルに向けて倒されて行く。
トンッ、と優しく、男の手がテーブルに倒された。明らかに、男の手を傷付けないよう気を遣った決着。
「くそっ!」
格闘家は悔しさの余り、如何にも敗者らしい捨て台詞を吐いた。
自身の全力が育子さんにとって取るに足らなかったという“事実”は、格闘家の神経を確実に逆撫でした。
「お、俺の利き腕は“左”なんだ。左でもう一回、勝負だ!」
「あら、奇遇ですね♪」
恥も外聞も無く、再戦を申し込んだ格闘家に対し、育子さんの意外な返答。
「私も、利き腕は“左”なんです」
「っ!?」
正直な所、この格闘家が左メインで闘っている試合を観たことは無い。
利き腕宣言自体、本当か嘘か怪しい。もしかしたら、再戦をしたいだけの出任せの可能性もある。しかし。
「別に、一人一回みたいに制限するつもりもありませんし、何度でも良いですよ」
思う存分やりましょう、と育子さんは微笑んだ。
「ぬ・・・ぐ、あぁぁっ!」
男がどんなにイキっても、力んでも、気合を入れても、結果は変わらなかった。
右腕だろうと、左腕だろうと。勝負の度に、男の腕は“スローモーション”でゆっくりと倒された。
「はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・。う、そ・・・だろ」
一試合を闘い切ったかのように、格闘家は肩で息をしていた。
「勝負、ありがとうございました」
何と、育子さんはそう言って頭を下げた。勿論、育子さんは汗一つ掻いていない。
「私、“こんな”なんで、こうやって向かって来てくれる男の人って今まで居なかったんです」
育子さんは、肩の高さで右腕を折り曲げた。
「『肉活』に居らっしゃる皆さんは、やっぱり凄いです♪」
大して力を篭めたように見えなかったのに、二の腕には超特大の力瘤が盛り上がっていた。
モゴゴォッ! ビリッ、ビリリッ!
「「「・・・っ!!?」」」
“仕立てたばかり”というドレスの袖は、上腕部分の生地が完全に吹き飛んでしまった。
「なら、俺は“これ”で勝負だ」
次の男は、格闘家より上背は無いものの、筋骨隆々と逞しかった。ボディビルダーだろうか。
男は、『10円玉』を取り出していた。いわゆる、“コイン曲げ”だった。
「ぐぬぅぅぅんっ!!」
男は親指と人差し指で『10円玉』を持ち、渾身の力を篭める。
ぐぐぐ・・・ぐにゃ。
「「おおぉっ!」」
周囲の男たちの歓声。『10円玉』は見事な『U字型』に折れ曲がっていた。
「ごめんなさい、硬貨の持ち合わせが・・・あ。じゃあ、私は“これ”で」
育子さんが取り出したのは、何と『500円玉』だった。
「え?」
男は驚いた。厚みも大きさも、『500円玉』は『10円玉』の比ではない。それを曲げようというのだ。
「えい」
グニャリ。
「「「・・・っ!!?」」」
「・・・あれ? 意外と簡単なんですね」
育子さんの親指と人差し指は完全に閉じている。『500円玉』は、“二つ折り”になっていた。
男が曲げた『10円玉』の『U字型』のように隙間は無い。
完全完璧な、“二つ折り”。“半円”で厚さが二倍の『500円玉』が完成していた。
「じゃあ、もうちょっと・・・えい」
「うえぇっ!??」
“それ”を目の前で見ていた男から、まるで呻き声のような驚きの声が漏れた。
そのぐらい、有り得ない光景が起きていた。『500円玉』が、“四つ折り”になっていたのだ。
角が九十度の扇型。半円の更に半分、“四分の一”円。
「普段は電子マネーばっかりで、硬貨に触ったのもかなり久し振りで・・・」
育子さんは、四分の一になった『500円玉』の“両辺”を更に指で摘む。
「こんなに“軟らかい”物だって知りませんでした」
「「「・・・ッッッ!!!??」」」
グニャッ!と更に八分の一にまで縮小してしまった。
果たして、万力を使わずに“これ”が出来る者がこの会場に居るだろうか。
いや、むしろ世界中で何人居るか、というレベルだろう。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
育子さん狙いで彼女の傍に集まった男たちが、互いに顔を見合わせている。
一人目の格闘家が腕力で負け。二人目のボディビルダーが握力で負けた。
肉体のプロフェッショナルの男たちの全力を、素人の女性が軽く“捻じ伏せた”。
如何にルックスや経済面が申し分なくても、条件が厳し過ぎることに気付いたのだ。
「誰も行かないなら、俺が行こうかな」
周囲の『お前が?』という視線が痛い。
勿論、それは俺の体格を見て、そう思ったんだろう。俺は実際、単なるトレーニーだった。
満を持して出張る程、勿体振った何ががある訳ではない。
そう、“肉体に関しては”だ。
折角、高い金を払って参加した『肉活』。何も試さずに終わるのも忍びない。
「手押し相撲なんてのは、どうでしょう」
「“手押し相撲”?」
『手押し相撲』は力比べというよりは、どちらかというと子供の遊びの面が強い。
【手押し相撲ルール】
・両手の平を相手に向かい合わせて立つ
・相手に触れて良いのは手の平だけ
・両足を立った位置から動かしてはいけない
ルールはこのぐらい。手の平以外の相手の身体に触れるか、足が立っている位置から動けば負け。
俺はそれを簡単に、育子さんに説明した。あくまで、“力勝負だ”と。
「こんな感じ、ですか?」
「そう、ですね。そんな感じで良いと思います」
俺と育子さんは向かい合って立った。胸の前辺りで両手の平を合わせる。
上背では一回り、肉の厚みでは二回りぐらい育子さんの方が大きい。
対面すると改めて、育子さんの身体の凄さがアリアリと伝わって来る。
しかし、『手押し相撲』は子供の遊びなだけあって、必ずしも力の強い者が勝つとは限らないのだ。
「レディー、ゴー!」
開始の合図と共に、俺は一気に両手を手前に“引いた”。
「えっ」
育子さんが虚を突かれた形で前のめりになる。
力勝負とは言ったものの、何も自分の力以外を使ってはいけない、なんて事はない筈だ。
『手押し相撲』なら、彼女の力を利用して勝てる。俺は、そう思った。
俺の引いた手には“まだ”、彼女の指が何本か掛かっていた。
彼女の上背、腕の長さ的には、まだもう少し、俺が腕を引く必要がある。
しかし、これ以上俺が腕を後ろに引けば、俺自身のバランスも危うくなる。
だから、これで充分。このまま彼女がバランスを崩すのを待てば良い。
俺はそう、彼女の怪力、筋肉の力を侮っていた。
グググ・・・。
「えっ?」
途中から、俺は“腕を引かされていた”。正確には、圧されていた。
どーんっ。
「うぉぁっ」
俺の手の平には、彼女の数本の指が掛かっていただけにも関わらず、俺は宙を舞った。
数メートルは飛ばされ、ズザザッと床を滑ってようやく止まった。
素人トレーニーな俺はあるが、体重はそこまで軽くない。80kgぐらいはある。
しかし、その体重は、たった数本の指の力だけで吹っ飛ばされた。
「大丈夫ですか? でも、これって私の勝ち・・・なんでしょうか」
「え、ええ・・・」
異を唱える者など居ない。
周りの男たちは皆、俺が小手先の技に頼った事に気付いている。
気付いてないのは、初めての競技でルールを良く知らない育子さんぐらい。
「他に、私と勝負してくれる方、居ませんか」
男たちは顔を見合わせるだけで、誰一人として彼女に挑まなかったのは言うまでもない。
Comments
コメントありがとうございます。取り敢えず思い付くキャラをどんどん書いて行って、しっくり来たのから続きを書ければと思っています。
デアカルテ
2020-01-10 20:46:01 +0000 UTC成長する筋肉娘良いですね。
okita
2020-01-10 10:22:07 +0000 UTC