「ねぇ、仁美」
「ん?」
朝・・・ではなく、体育の授業。私は明子とペアを組んで準備運動をしていた。
「背ぇ、伸びた?」
「え、そうかな?」
“こんな私”でも、まだ成長期残ってたのかな。因みに、前測った時は150cmちょいぐらい。
「うん。最初、気のせいかなって思ったけど・・・」
「けど?」
「“それ”、丈が足りてないよね」
「・・・あ」
体操服の上着と短パンの間に、薄っすらと隙間が出来ていた。
「それに、何か運動でも始めた?」
「え、別に何もしてないけど。万年、帰宅部だよ」
もしくは、自宅ゲーム部。
「何か、逞しくなったっていうか。“それ”、腹筋割れてない?」
「え、嘘」
私は明子の指摘を受けて、丈の足りて無いお腹を擦(さす)った。
「・・・」
良い感じに硬い。力を入れると、薄っすらと腹筋が割れる感触。
「じゃあ、肉体労働のバイトでも始めた?」
「肉体労働って・・・」
私は明子の視線の先、二の腕をムニッと揉んでみた。やっぱり、何処となく硬い。
お腹と違い、腕の方は薄っすらと力瘤が出来ていた。
「何か、健康的な身体って感じ」
「そう、なのかな・・・」
最近、確かに身体の調子が良い。毎晩、寝不足なのにも関わらず、だ。
放課後、こっそり保健室へ。
「・・・154cm」
微妙と言えば、微妙な数字。
十代、もし成長期が今来ているのだとしたら。身長の数cmぐらい、伸びてもおかしくない。
おかしくはない、おかしくは・・・。腕やお腹の筋肉だって・・・。
不摂生が祟って体重が落ちた分、筋肉が目立った状態、って線も無くはない。
まさか、ね・・・。
むしろ、私は自身の変化より、アバターの変化の方が気になっていた。
「こんな画面、あったんだ・・・」
マップ画面に表示される二頭身のマイキャラとは違う、三頭身のキャラ詳細。
といっても、デフォルメされてることには違いないんだけど・・・。
「うーん、何となくマッチョというか、ガタイが良いというか・・・」
私の薄っすら筋肉とは違う、明らかにステータスに影響されたかのような見た目。
「腕力とか防御を上げたせい、なのかな」
ステータスがキャラの見た目で表現されるのは、別にこのゲームに限った話ではない。
むしろ、ソシャゲでは当たり前に実装されていて良い機能、なぐらい。
「それにしたって・・・見た目、何とか可愛く出来ないもんか」
カメラ撮影された私の顔のアバター。お世辞にも、あんまり可愛く見えない。しかも、マッチョ風味。
『かわいくなりたいなら、みりょくがないとね』
街のNPCも、こう言ってる。ま、そうだよね。
“みりょく”なんてパラメータ、他に使い道ないだろうし。だからこそ、私も特に上げて無かったんだけど。
だって、敵との戦闘に影響しなさそうだし・・・。でもまあ、そういった無駄パラメータを上げるのもまた、ゲームの醍醐味。
「よぅし、今日は“みりょく”を上げちゃる」
家でソロプレイ中に零れる独り言はご愛敬。そのぐらい、私はノッていた。
その日は無茶苦茶、“みりょく”を上げ捲ったのだった。
「“魅力的”といえばそうだけど・・・。可愛い・・・のかな、これ」
寝ずに頑張った結果、アバターの頭身が四頭身に上がっていた。
私の素材そのままに、確かに顔は可愛くはなっていた。顔は。
だけど、身体がマッチョなのはマッチョなままだった。寧ろ、モリモリに盛られてる。
女性的なフォルムで胸は大きく、腰は細く。そういう意味では魅力的ではあるんだけど・・・。
顔は可愛いのに、身体が女傑みたいになってる。
「――で、と」
私は、鏡で自分の姿を隅から隅まで細かくチェックしていた。
頭を過ぎった一抹の不安。荒唐無稽な、現実的には有り得ない――
“ゲームのアバターの変化が、現実の私に起きている”
――という、考え。
「だよ、ね」
一晩頑張った結果、アバターは変化した。だけど、私の身体は保健室で確認した時のまま。
ただの、思い過ごし。杞憂。
そう、私は自分に“言い聞かせ”て、遅い眠りに着いた。