SamSuka
デアカルテ
デアカルテ

fanbox


トレーニングルーム【天然彼女(1-4)】

「ねぇ、今日は一緒に筋トレ行って良い?」

「え、一緒に?」

奈緒は突然、そんなことを言い出した。


「普段通ってるジムが今月一杯、設備の改装でお休みなの」

「でも、奈緒は・・・」

奈緒は色々あって、『トレーニングルーム』を卒業した。

学校備え付けの『トレーニングルーム』では、ウェイト的に物足りなくなったのだ。


「たまには一緒にトレしたいな、って思って」

補助でも何でもするから、と奈緒は強請(せが)んだ。

奈緒的には、『筋トレデート』って感じなのかな。断る理由もないので、奈緒と一緒に行くことにした。


「いつも、何からやってるの?」

「最初は、これかな」

僕は、5kgのダンベルを取り出した。


「あ、じゃあ私も」

そう言って、奈緒も僕と同じウェイトのダンベルを持った。


「よい、しょ。よい、っしょ」

二人揃って、ダンベルカール。たまには、こういうデートも良いかも。


「ね、ね。次は?」

「次は・・・」

ダンベルのウェイトを10kg、20kgと徐々に重くして、そろそろキツくなって来た頃だった。


「“ベンチ”でもやろっか」

言わずと知れた、ベンチプレス。

台に寝そべり、ラックの置いたバーベルを持ち上げる運動。主に大胸筋のトレーニングになる。


「じゃあ、私が補助してあげるね」

「ぐ・・・うぅっ」

いつ間にか、僕は自分自身の限界重量の50kgを挙げるまでに至っていた。


「凄い、凄いよ!」

「いや、奈緒のお陰だよ」

奈緒の補助は流石、といった感じで慣れた作業だった。街のジム仕込みというか。


「僕に付きっ切りは有難いけど、奈緒はやらないの?」

「うーん、じゃあ・・・」

奈緒がそう言って、ウェイトを増やそうとした、その時。


「あれぇ? 何か、居るな」

「何だ、落ち目の水泳部じゃねぇか」

数人の運動部らしき男子生徒が入って来た。


「寄りにも依って、奈緒が居る時に・・・」

僕は、小声でそう呟いた。


『奈緒の一件』で水泳部の先輩たちが退部した。

それ自体は先輩たちの自業自得だから良いんだけど、部活間のパワーバランスが崩れてしまったのだ。

ウチは元々、柔道部、水泳部、サッカー部の三強だった。部員数、対外成績、何らかの面で残る他の部活よりも秀でている。結果、それは校内設備の使用状況にも自ずと反映される。

例えば、野球部がもしトレーニングルームを使用していても、柔道部員やサッカー部員が来れば、必要に応じてトレーニング器具を明け渡す、と言った形。

逆に言えば、三強同士であれば対等だったので、その必要は無かったのだが・・・。


「水泳部が一丁前にベンチプレスなんかやってやがるぜ」

「何だ、たった50kgしか挙げてねぇじゃん。ダッセー」

”こういった事態”にならないよう、遅めの時間を選んだんだけど・・・効果なかったか。


「奈緒、ごめん。もう行こうか」

「どうして?」

流石に他の部員に絡まれながらでは、トレーニングデートどころではない。


「多分だけど、奈緒。やっぱり、ここの重量だと物足りないよね?」

「ううん、そんなことないよ。ウォーミングアップぐらいなら充分だよ」


「ん? 何だって?」

しまった。只でさえ、こういった威張り散らすタイプの自己顕示欲の強いタイプに聞かれて良い台詞ではない。


「50kgしか挙げられない奴が、何か言ってるぜ」

「ううん、言ったのは私だよ」

「ちょ、奈緒・・・」

穏便に済まそうと思う僕を余所に、奈緒は“参戦”した。


「へー、君がねぇ・・・。君、何年?」

「水泳部二年、進藤奈緒です」


「俺は柔道部三年、高岡だ」

柔道部三年の高岡・・・! 確か、インターハイ常連の柔道部の猛者だ。


「おい、補助手伝ってくれ」

高岡は僕が退いたベンチプレス台に寝そべった。


「はい」

残りは後輩なのか、慌ててラックのバーベルをセットする。

20kgのウェイトプレートが左右に4枚づつ。シャフト込みで計、90kg。


「俺は、これでウォーミングアップするぜ」

多分、部活帰りだから身体は既に暖まってる筈・・・なのを差し引いても、高校生が挙げるウェイトとしてはかなりの重さだ。


「んっ、しょ! んっ!」

ガシャ、ガシャっと高重量のバーベルが上下する。


「さすが、高岡先輩!」

後輩のヨイショ、と言いたいところだけど、確かに凄い。


「ねぇ。ここって、一番ウェイト積んで何kgなんだっけ」

「確か・・・120kgぐらい?」

高校のトレーニング室なので、その程度と言えばその程度。

街ジムと比べると目劣りするかもだけど、それでも充分に高重量だと思う。


「どうだ、凄いだろ? お前にこれが持ち上げられるか?」

「くくく」

高岡先輩の物言いに、後輩たちが嘲笑を乗せる。


・・・だけど、奈緒はここでも空気を読まないのだった。


「んー。私、”それ”だと足りないのでぇ・・・」

奈緒はそう言うと、高岡先輩が横たわるベンチプレス台に取り付いた。

正確には、台の下に両手を入れた。


「ん、っしょ」

「んぅえぇっ!?」

奈緒はベンチプレス台を持ったまま、スクッと何事も無かったかのように立ち上がった。


「お、おいっ!」

「な、何を!?」

周囲もみんな、騒然としている。


90kgのバーベル。バーベルラック及びベンチプレス台、35kg。高岡先輩、推定75kg。

締めて、200kgの超絶ウェイト。奈緒はそれを悠然と持ち挙げたのだ。


「何を、って・・・ウォーミングアップですよぉ?」

柔道部の猛者ごと、ベンチプレス台を持ち上げた女子高生が、しれっとそう言い放った。


「ウォーミングアップ・・・?」

「はい。なので、上下させないと」


「・・・え? ここか・・・うぉっ!?」

「ん、しょ。んしょ」

奈緒は高岡先輩が言い終わるよりも早く、その“200kgのウェイト”を上下させ始めた。

僕が20kgで限界だったダンベルカール。奈緒はそれを、200kgのベンチプレス台で行っているのだ。


ミチ・・・ミチッ。


「ん、しょ。んっしょ」


ミチッ・・・ミチチッ。


「や、やめっ・・・」

「お、おい。先輩を下ろせ!」

「ん、しょ。んっ・・・しょ!」

後輩たちが奈緒を止めようとした刹那。


ビリビリビリィッ!


「っ!!?」

奈緒は、水着の上から体操服のジャージの上着を着ていた。

かなり丈夫な、伸縮性のあるジャージ。その上着が、破けていた。

体力測定の鉄棒懸垂の時と同じように、暴力的に盛り上がる奈緒の力瘤が、ジャージの袖を引き裂いてしまったのだ。


「あぁ~・・・」

奈緒はようやく、ウォーミングアップをやり過ぎたことに気付いたのか、両手を放した


「うおぉぁっ!?」

「あっ、奈緒!」

奈緒の支えを失ったベンチプレス台は、自由落下。そこまでは良かった。

1mの高さから落ちた反動で90kgのバーベルが弾んでラックから外れてしまったのだ。


ここままだと、高岡先輩の顔目掛けてバーベルが落ちてしまう。


「あ、ごめんなさい」

「「「っ!!?」」」

僕も含め、奈緒以外のその場全員が、その目を疑った。

奈緒は、ベーベルを片手でキャッチしていたのだ。


「奈緒! 流石に危ないよ・・・あんまり無茶しちゃダメ」

「ごめんなさい・・・」

危うく、大惨事になるところだった。そうなってもおかしくない状況だった。


シュン・・・としながらも、平然と90kgのベーベルを片手で持ったままの奈緒。

良くも悪くも、僕や柔道部連中とはウェイトに対する感覚が違うのだとようやく察知した。


結局、僕と奈緒はベンチプレスに高岡先輩を放置して、そのままトレーニングルームを後にした。自主的とはいえ、奈緒が出禁になったのは言うまでもない。

Comments

感想、ありがとうございます。他作品と比較して余り突き抜け過ぎないようにしようとは思っています。一般的には超怪力ですが、筋肉界隈からしたら現実レベル、と言いますか・・・

デアカルテ

お疲れ様です。 天然彼女の続きありがとうございます。 奈緒ちゃんの成長は留まるところを知りませんね。 僕もこんな彼女が欲しい…

okita


More Creators