「私の筋肉は良いから、そろそろ“これ”運ぼうよ」
「“それ”、錆ついてて動かすのしんどいのよね・・・」
私たちは、バレーボールが入った『ボール籠』を見遣った。
1m四方ぐらいの鉄製の籠で、中には所狭しとバレーボールが満載。
バレーボールって確か、1個あたり260gぐらいって聞いたことある。多分、籠込みでトータル50kg近い。
一応、四隅に車輪が付いてるんだけど、錆び付いててまともに動きゃしない。
「ほら、そっち持ってよ」
私は籠の片側を持って、明子を促した。
「わかったわよ・・・って、あれ?」
「どしたの」
ブツブツとずっと不満気だった明子の表情が変わった。
「何か、今日は軽くない?」
「ん、そういや」
いつもはギィギィ鳴らしながら無理矢理にでも車輪で転がすか、気合い入れて持ち上げて運ぶかの二択。
どっちにしても、女子高生にとってはキツい重労働。
「確かに、軽いかも・・・」
重労働・・・な筈が、スイスイ進む。
「・・・ねぇ。もしかして、“それ”」
「ん?」
明子は、私の腕を“指差した”。
「ちょっと、明子。手を放したら危な・・・・・あれ」
明子は確かに、両手を籠から放している。なのに、籠は“浮いた”まま。
私は何時の間にか、バレーボールが満載したボール籠を“持ち上げていた”のだ。
「通りで・・・腕、凄いわよ」
「・・・え、腕?」
私は明子に指摘され、自分の腕を見た。
「うぇっ!?」
制服より厚手の生地の体操服。その袖が、パンッパンに張っていた。
「体操服なら目立たない、とか思ったけど、そうでも無さそうね」
明子は、私の力瘤の隆起を布越しに見ながら、そう言った。
――ガヤガヤ、ガヤガヤ。
そうこうしてる内に、他のクラスメイト達もやって来た。
「大人しくしてれば、きっと目立たないよ」
「・・・まあ、そうね」
明子も、体育館に入って来た晴井さんを見て、納得した。
2クラス合同のバレーボールだけど、ことバレーに関しては、間違い無く目立つ“人”が居る。
バレーボール部のエース、晴井(はれい)さん。当然というか当たり前なんだけど、私達ど同い歳ながら175cmの見事な体躯。
彼女は半袖短パンのやる気満々のスタイルなんだけど、腕も脚も太い。私と違って、バレー部らしいムチムチッとした感じだけど。
その剛腕から放たれるスパイクは、“殺人スパイク”なんて凄くおっかない呼び名があるぐらい。
「そーれっ」
バシィッ・・・ドゴォッ!
バレーボールの授業が始まると、もう晴井さんの独壇場だった。晴井さん一人だけ、“音”が違う。
ボールをスパイクする音や、放ったスパイクが床を打ち付ける音。床を踏み込む『ギュッ』って音までみんなと違った。
「よ、よろしくね」
お手柔らかに、という意味も込めて、私は晴井さんに軽く挨拶した。
バレーボールの授業は全員が全ポジションをこなすように、全員で2チーム分、ローテーションしている。
Aチームで前衛から始めて、Bチームの後衛で終わる、みたいな感じ。
前衛スタートの人も居れば後衛スタートの人も居るんだけど、私はその『後衛スタート』組。
んで、初めて私が前衛に入ったタイミングで、相手チームの前衛に晴井さんが居た、という訳。
「・・・ねぇ、バレー部とか興味ない?」
「え、私? 何で・・・。う、運動部はちょっと・・・バレーやったことないし」
合同の体育授業以外では全く接点の無かった私を、晴井さんはいきなりバレー部に勧誘して来た。
「・・・なかなか良いカラダしてると思って。勿体ない」
晴井さんは中々に鋭かった。運動部ならではの着眼点、なんだろうか。
長袖長ズボンの体操服をチョイスしたお陰もあってか、クラスメイトが私の身体について何か言って来ることは無かった。
胸や腕、脚周りのボリュームは明らかにおかしいんだけど、それも今までの私を知っていれば、こそ。
“絶対値”で言えば、私よりも目の前の晴井さんの方が上背も体格も良いんだけど。
「それっ」
バンッと、また晴井さんのスパイクが決まった。
前衛同士、身近で見てると、確かに晴井さんは凄かった。身体の使い方が上手いというか。
踏み込みとか、膝の曲げ方とか。筋肉の力を上手く、無駄なく発揮している、そんな感じ。
「そーれ」
相手コートで、また晴井さんにトスが上がる。
「“こう”かな」
私は“つい”、晴井さんのジャンプの所作を“真似してしまった”。
深く膝を落とし、床を踏み込み。溜めた力を一気に上方向に開放させる。
ドギュォッツ!
体育館用シューズから、今まで聞いたことのないようなグリップ音がした。
「「っ!?」」
晴井さんのスパイクに対して、私はブロックに跳んだ形になった。
バゴォッ!
「あ痛」
晴井さんの“殺人スパイク”は、私の顔面にクリーンヒットしていた。いわゆる、顔面ブロック。
「大丈夫!?」
晴井さんが慌てて、私を心配してネット越しに声を掛ける。
「あ痛つ・・・大丈夫、大丈夫」
特に吹っ飛ぶでも、倒れ込むでもなく、私は普通に足から床に着地した。
「仁美、大丈夫?」
明子も心配になったのか、掛け寄って来てくれた。
「おい、大丈夫か? 念の為、保健室に行きなさい」
「じゃあ、私が連れて行きます」
先生は頼んだぞ、と明子に私を保健室に連れて行くよう指示した。
「ねぇ、ホントに大丈夫?」
「うん。ホント、全然」
たまたまか、保健室には先生が居なかった。なので、明子が私の手当てをしてくれている。
「でもホント、あの“晴井さんのスパイク”をまともに喰らって“この程度”・・・ってのも凄いわね」
まあ、手当といってもこれといった傷もなく、鼻の頭がホンのちょっぴり赤くなった程度。冷すぐらいしか出来ないんだけども。
「ってかさ、スパイクを顔面で受けてたけどさ、“凄い跳んでた”よね」
「あー、うん・・・」
正直なところ、“自覚”はあった。
それまで体育はヘナチョコだった私が、晴井さんの真似をしてジャンプしただけで、“ネットから顔が出る”ぐらい跳んでしまったのだ。
バレーボールのネットって確か、2mちょい高さあった気がする。今の私の身長が154cmだから・・・。
・・・・・ん?
“今の私”の身長って、ホントに154cmなのかな・・・。
胸や腕が脚が“こんなに”成長してて、身長だけ前のまま、なんてことがあるんだろうか。
「ん? 仁美、どったの?」
「いや、ちょっと・・・」
折角の保健室。ちょっと前の放課後にもコッソリ測ったけど。今日は、保健室に居る大義名分がある。
カチャ、カチャ。ガシャンッ。
身長と体重。堂々と、二測定。
「・・・160cm」
「66kg・・・」
私が身長に驚き、明子が体重に驚いていた。いや、まあ、二人ともどちらの数値にも驚いては居たんだけど。
前回測った154cmから、6cmもアップしている。“ゲーム始める前”まで遡るなら、10cm伸びた計算。
体重に関しては何と、16kg近く増えてる。
「成長期にしては、ちょっと育ち過ぎじゃない?」
「うーん、ははっ・・」
私は、笑って誤魔化すしか出来なかった。
私の頭を過ぎる“荒唐無稽な考え”。それを明子に話したところで、冗談で流されるに決まってる。
因みに、高校生の平均値は次の通り。
高1女子:身長156cm、体重51kg。握力26kg、垂直跳び43cm。
高1男子:身長168cm、体重59kg。握力39kg、垂直跳び57cm。
今 の 私:身長160cm、体重66kg。握力65kg、垂直跳び70cm?