「でもさ、今って実際、どのぐらいのサイズなの」
「・・・え、今? えーっと・・・」
明子には病院行く前に慌てて連絡取ったから、ちゃんと測ったサイズは伝えてなかった。
「このぐらい、かな」
私は紙に、“今の私”のサイズを書いて見せた。
「う、っそ。すっご・・・」
「あ、ははっ・・・はは」
まあ。そりゃ、驚くよね。
握力は、明子がこのぐらいじゃない?って描き加えたんだけど。それ以外は、病院で無理言って測って貰った実測値。
「身長は晴井さんって例もあるから驚かないけど、体重・・・」
「やっぱ、“そこ”気になっちゃうよね」
115cmのバストとか、100cmのヒップとか。他にも、おかしい数値は幾つもあるんだけど。
花の乙女な女子高生としては気になる、体重。
「こんだけ増えてるの、やっぱ変だよね・・・」
私は、『デビルズクエスト』をやる前の、自分自身の四測定の数値を比較してみた。勿論、腕とか脚は推定だけど。
「体重、ほとんど倍になってんじゃん。ってか、アンダー・・・」
「・・・だよね」
実は、私も地味に気になってたアンダーバスト。115cmもトップバストがあるのに、“Gカップしか無い”のだ。
アンダー88cmって、裏を返せば胸板が88cmある、ってことで。胸囲って括りだと、成人男子の平均並み。
「ウェストがキュッと縊れてるから体型そのものは凄いセクシーだけど、地味にウェストも太めだよね」
ウェストは、66cm。肥満とまでは行かずとも、ちょっと肉付きの良い女子高生なら有り得る範疇の数値、ではある。
アンダーバスト、ウェスト、ヒップ。上腕に、太腿。倍化した、体重。
「胸はちゃんと“おっぱい”みたいけど、他はその・・・ねぇ?」
「あー、うん。間違い無く、“筋肉”だよね・・・」
明子が言い淀んだ“筋肉”って単語を、私は敢えて口に出した。
「これって全身、筋肉の塊だよね。筋肉隆々」
何度か、自分を“そう形容した”けれども。改めて言われると、やっぱり“これ”は現実なんだ、と思わざるを得ない。
「でも、何か“違和感”あるのよね・・・何だろ」
「そりゃ、こんだけ筋肉付いてる女の子なんて、何処にも居ないだろうし」
そもそも、何の運動もしてない帰宅部ゲーマーな私が、“こんな体型”になってること自体、異常事態なのだ。
174cm、92kg。
こうして、身長と体重だけ抜き出してみると、すっごい肥満体か筋骨隆々かのどっちかにしか見えない。
女子柔道の世界クラスだと、同じぐらいの身長で体重100kg超なんて海外選手も居るには居るみたい。
「でも、何でここまで大きくなったんだろね」
「あー、うん・・・」
ある意味、“本題”な部分。
「もし、『ゲームアプリ』のせいで“こうなった”って言ったら、信じる?」
「・・・え? ゲーム?」
明子は、何言ってんの、的な反応。まあ、当然と言えば当然なんだけど。
「これ、見てみて」
私は『DQ』を起動して、アバターの画面を明子に見せた。
「何、これ。仁美・・・なの?」
スマホ画面には、いつの間にやら『六頭身』になった私のアバターが表示されていた。
「キャラの体型、今の私とソックリじゃない?」
「うーん、似てるっちゃ似てるけど・・・」
私は、今までの経緯を簡単に掻い摘んで説明した。
「『ゲーム』でレベルアップしたら、現実でも身体が成長した、ねぇ・・・」
俄かには信じ難い、そんな表情。
「それこそ、『ラノベ』とかでありそうな設定よね」
ラノベ。いわゆる、ライトノベル。今も昔も、流行るのは異世界転生モノ。
異世界に転生したついでに、何かしらかの能力をゲットして無双するのが主流のジャンル。
「リスクっていうか、デメリットは何も無いの?」
「デメリットは・・・」
寝てる間とかに突然、成長が始まって服を破いちゃうことぐらい、なのかな。
残念なのか、幸運なのか。体調面は本当に何も無い。
眼が良くなったり足が速くなったり、身体が頑丈になったり。良い事尽くめ、な感じ。
女の子なのに筋肉モリモリになっちゃうのに目を瞑れば、だけど。
ノーリスクで付加能力をゲット、って意味ではやっぱラノベちっくなのかな・・・。
・・・でも。本当に、ノーリスクなんだろうか?
「取り敢えずさ、当分はプレイするのを控えたら?」
「どゆこと?」
明子が言うには、数日から数週間を様子を見てみれば、とのこと。
その間にまた“成長”が有れば、『DQ』は無関係。只の単なる、成長期が原因。
もし、“成長”が無ければ『DQ』が影響してる可能性がある、ってことらしい。
「『ゲーム』の仁美と現実の仁美が今イコールなら、何もしなきゃ何も起きない筈よ」
「そ、っか。そう、よね」
もし、『DQ』が影響してると仮定すれば、間違いなく“タイムラグ”がある。
今回、たまたま数日プレイしなかったことで、一時的とはいえ、現時点でその差は無くなった・・・と思う。
Lv30 ≒ 174cm、92kg。
ここは敢えて、『イコール』ではなく『ニアリーイコール』としておく。
“このぐらい”で収まるのであれば・・・
「まあ、アリかな」
・・・なんて、私は高を括っていた。
バレー部ばりの長身で筋肉モリモリのマッチョだけど、身体能力高めの筋肉系女子と思えば、アリっちゃアリ。
“このままで済む”のであれば、全然アリ。有りよりのアリ。
――そして、それから二週間。
「今日は、どう?」
「うーん、特にいつも通り」
ここ数日、私と明子の朝の挨拶はこんな感じ。
『デビルズクエスト』を封印してから、それなりの時間が経ったと思う。
ハマりつつあったゲームを封印するのは地味に辛かったけど、何とか耐えた。
明子が家(ウチ)に来た日から、本当に一度も起動すらしていない。
明子の親戚に借りた『6XL』の制服は私に丁度フィットして、着慣れて来た感じ。
ワザワザ、『2m』の巻尺を買って、身長は毎日測ってる。でも、特に変化なし。
変わった事と言えば、晴井さんが顔面ブロックの件の謝罪ついでにバレー部に勧誘しに来たぐらい。
「あなたの身体能力をそのままにしとくなんて、勿体ない」
とか色々言われたけど、何とか躱(かわ)した。
「もし、“身体に関する部分で何か気になる事”があったら、気軽に聞いてね」
そう言い残して、晴井さんは去って行った。何が言いたいのか、良くわからなかったけど・・・。
「・・・うーん」
身体能力、って言ってもねぇ・・・。
ベギィッ。
「・・・あ」
私の手の中で、シャーペンが真っ二つに折れていた。
「“また”やっちゃった」
考え事をすると、つい力加減を間違えてしまう。
100kgオーバーの超絶握力は、ちょっと力加減をミスるとシャーペンぐらいなら直ぐに折っちゃう。
正直なところ、私自身も“今の私”を持て余してしまっているのだ。
『6XL』の制服越しに、二の腕や太腿、お腹を摩(さす)ってみる。
モリッ。モゴッ。モココッ。
と、明らかに筋肉の隆起による圧力が厚手の生地越しに伝わって来る。
制服のお陰で目立ってないけど、多分、クラスで一番逞しくなっちゃったと思う。
同じクラスには身長180cm、体重100kgの関口君(通称:関取君)が居るから、体格だけならまだ上が居るけど。
もし今、体力測定やったら、凄いことになりそう。
・・・なんだけど。不意に手にしたパワーで無双、みたいな『ラノベ』的な展開、私はお断り。
学校では、お気楽ヒッソリ帰宅部ライフを満喫したい。目立つなんて、以ての外。
――でも、それこそ『ラノベ』で無くても、現実はそんなに甘くないのだ。
自分自身の思う通りに、現実は都合良く行く訳が無い。この後、私はそれを否が応でも知ることになる。