「あれ、仁美? もう、大丈・・・」
「あ、おはよ」
何日か振りの、明子との朝の挨拶。
「・・・・・・・っ!?」
「あー・・・、うん」
驚き過ぎて声にならない明子に、私は『わかった、わかった』とジェスチャーした。
「今、幾つあるの・・・?」
「身長、体重? それとも、バスト?」
私は、スマホにメモっておいた数値を明子に見せた。
「す、っご・・・」
明子は、スマホのメモアプリに表示されてる数値と、私の身体を何度も見比べていた。
「何かもう、数値がバグってるようにしか見えないんだけど・・・」
それに関しては、私も同意見。既に何度も通り過ぎた道だけども。
「でも“それ”、良く入ったね」
「うん、まあ・・・ね」
流石は『6XL』の制服、と言ったところだろうか。
190cm近かった明子の親戚と、今の私の身長は多分、かなり近い状態。
明子の親戚の身体のボリュームはわからないけど、少なくとも細くは無かった筈。
今の私の見た目も、身長が高くてちょっとガタイが良くなった程度、のシルエットに見えなくもない。
そのお陰か、クラスメイトもそんなに追及して来なかった。
因みに、面倒だったから明子には詳しく説明しなかったけど、二の腕にはサポーターを巻いている。
あの『研究所』はスポーツ用品も取り扱っていて、念の為買っておいたのだ。結構、値が張ったけど・・・。
軽く曲げただけで、50cmを超える極太の上腕。腕に関してだけは、無策じゃ袖が耐えられない。
『6XL』の制服と言えど、袖の猶予は50cmぐらいまで。借り物とか以前に、女の子として外で制服破りなんてしたくない。
「今日の体育、どうするの?」
「うーん、当分は見学かな・・・」
一応、体調不良を理由に数日休んでいたこともあって、先生も何も言わないだろう。
とてもじゃないけど、今の身体に慣れるまでは体育は休まざるを得ない。
バレーボールの時、跳び過ぎて顔面に晴井さんの『殺人スパイク』を喰らったのは記憶に新しい。
今日の体育は合同でバスケットボール。しかも、午後の日差しのキツい時間帯に、場所はグラウンド。
こんな身体でも、変わらずインドア派な私にとって、見学は素直に嬉しい。
「行ったよー」
「えいっ」
男子がサッカー、女子がバスケットボールでグラウンドのあちこちで声が響き渡る。
楽しそう、と思わなくもないけど、今は大人しくグラウンドの隅っこで我慢。
「ここなら涼しいかも」
私は、“涼”を求めてグラウンド端に放置されてる、今は使われていないバスケットゴールにもたれ掛かっていた。
今、みんながグラウンドで使っているのは最新式のバスケットゴール。丈夫で軽く、移動も楽チン。
一方の私の傍にある“旧式”は鉄製で錆び易く、重くて移動も大変。打ち捨てられるのも止む無し、な感じ。
「あー、暑くなって来たかも・・・」
ゴール板が陰になり、バスケットゴールの左側は日差しが射していない。逆に、右側は完全に日向。
最初は、この左側の陰に居るだけで涼しかったんだけど、気温そのものが上がって来ちゃった。
「あ、冷たくて気持ち良い」
私は、鉄製の骨組みを右手で掴んだ。陰側に入っている鉄の棒は、丁度良い感じでヒンヤリとしてる。
「・・・・・」
“これ”、どのぐらい重いんだろ・・・。私はふと、そんな突拍子もないことを思った。
以前の私なら、“そんなこと”絶対に思わないだろう。しかし、今の私は・・・。
「ん・・・っ」
思うより早く、右腕を動かしていた。
グアァッ。
「ぅわぁっ」
ドンッ、と慌てて、私はバスケットゴールを元に戻した。
思いの外、簡単に持ち上がってしまい、自分自身でビックリしてしまった。
勿論、持ち上がったのはバスケットゴールの左側だけ。決して、一気に全体が持ち上がった訳ではない。
昔ながらの、武骨な鉄の棒による骨組みが張り巡らされたバスケットゴール。
推定数百kg。多分だけど、少なくとも100kg程度じゃ効かないぐらい重い・・・筈。
それが、片輪状態とはいえ、片腕でヒョイッと持ち上がってしまったのだ。
もし、クラスメイトの誰かに見られでもしたら、大変。
「うーん」
・・・大変、なのかな。
周りに知られて困るとすれば、運動部へ勧誘されたり、とかだろうか。
「ねぇ、もう授業終わったよ」
「・・・え、あ」
気付いたら、いつの間にかみんな後片付けに入っていた。
脳内で思考を巡らせていたら、いつの間にか結構な時間が経っていたらしい。
「・・・ねぇ、さっき」
「・・・何?」
「“それ”、持ち上げてなかった?」
「それ、って・・・?」
相手が明子だったら、惚けたりはしない。
「バスケットゴール、持ち上げてたよね・・・?」
「え、私が? そんな、まさか・・・はは」
しかし、今目の前に居るのは、晴井さんだった。
「貴女って、そんなに力持ちだったっけ?」
「え、いや・・・そんなことは」
「・・・ねぇ。もしかして、“あれ”をやってるんじゃ・・・」
「・・・あれ?」
“あれ”って、何だろう・・・。・・・あれ。・・・アレ。・・・・・。
「いや、ごめんなさい。忘れて」
“私だとここまでは”とか、“リスクが高過ぎる”やら、何やら。
普段ハキハキしてる晴井さんらしくない、ブツブツとした呟き。
「前も言ったけど、もしバレーボールに興味あったら言ってね」
「気が向いたら、かな・・・」
私は曖昧に返事して、晴井さんを見送った。
「もうちょっと、ちゃんと話した方が良かったかな・・・」
私は文字通り“後から”、この時のことを後悔することになる。
――帰り道。
「・・・で、どうしてこうなったの」
「う、ん」
今度は、明子からの問い詰め。
「嘘、そんなことってあるの?」
「だよ、ね」
私は、プレイを封印していた筈の『DQ』で、自キャラがレベルアップしてたことを話した。
「我慢出来なくなって、無意識にプレイしてたなんてことは・・・」
「さすがに、それはないよ」
流石の私も、そこまでゲーム中毒じゃない。
「じゃあ、システム面で何かあるんじゃないの? 何か、見落としてない?」
「システム・・・・・あっ」
『フレンド』システム・・・。
ソシャゲでは有り触れてるので、特に疑問に思わなかった『フレンド』システム。
フレンドに私のキャラが借りられまくって、レベルが上がった。っていうのなら、確かにこの状態もわかる。
だけど、冷静に考えれば買切型RPGなのに他プレーヤーとデータが共有されるのだろうか。
「・・・ん、どしたの?」
「・・・いや、もしかして」
そもそも、何処にも『買切型』なんて書かれてない。私が、勝手にそう思ってただけ。
単純な買切型なら、最悪はアンインストールすれば・・・なんて最終手段もあった。
だけど、もし一般のソシャゲ同様、データが運営のサーバー上にあるのだとすると・・・。
「普通のソシャゲだと・・・そういや、どうなんだっけ」
一般的なソシャゲの場合、スマホ側にあるのはあくまでゲーム側のデータ。
プレーヤーに関するデータはサーバーにあるので、スマホ側で消しても反映されない。
実際どうなっているかはそれこそ、ゲームとか運営次第なので、ブラックボックス過ぎる。
一定期間ログインが無ければ削除、も考え難い。一年振りにログインしたらゲームが初期化された、なんて話は聞いたことない。
「プレーヤーデータを消す方法、何か無いのかな・・・」
「キャラって、死んだらどうなるの?」
・・・・・っ!
プレイ初期にフレンドで連れて歩いた、『トシオ』。後にも先にも、“殺しちゃった”キャラは『トシオ』だけ。
死んじゃった以降、『トシオ』はフレンド一覧で一度も見ていない。
「確かに、キャラを殺せばリセットされるかも・・・」
あくまで、の話。『トシオ』の件も、単に私のフレンド一覧から消えただけ、の可能性もある。
でも、試す価値は大いにあると思う。
善は急げ、と全速力で走ったら、あっという間に家に着いてしまった。
「ふぅ・・・っ」
取り敢えず、帰宅して直ぐに制服を脱ぐ。一日ずっと、窮屈なのを我慢してた。
特に腕は、特製サポーターを巻いてるとはいえ、腕を曲げずに一日過ごすのはもう疲れ・・・
ミチッ。
「・・・あ」
つい、腕を曲げた状態で力が入っちゃった。着替え中なので、仕方ないんだけど。
制服自体は完全に脱いだ後だったので、最悪の自体だけは免れた。
「・・・・・」
サポーターの端っこに、裂け目が出来てる。買ったばっかなのに・・・。
ホンのちょっと、少し力を入れただけで、私の上腕二頭筋はすーぐに盛り上がろうとする悪い子。
「・・・ん」
恐る恐るサポーターを外し、コリを解(ほぐ)すかのように肩の高さで二の腕を折り曲げた。
モリッ、モリリッ! モゴォッ!
両腕にこれでもか、と山盛りの『ダブルバイセップス』が盛り上がった。
極太な力瘤(精密値62.9cm)は実際、ハンドボールよりも大きい。因みに、ハンドボールの外周は約59cm。
「胸も、本物だよねぇ」
こちらも同じく、ハンドボール張りに大きな、Jカップバスト。ここまで来るともう、巨乳と言うより爆乳。
このサイズになると、武骨な機能重視のブラジャーしか無く、しかも値段もかなりお高め。
私の場合、広背筋が盛り上がり過ぎて、フロントホックのブラでは胸回りが足りず、更に選択肢が限定された。
脹(ふく)よかな胸と、超肉体派な背中。その両方を持った女性なんて今まで見たことない、とは下着店員談。
「やっぱ、女子高生の身体じゃないよね」
立て鏡で改めて、マイ筋肉ボディを確認。
胸元にハンドボールがドン、ドンッと二つくっ付いた感じ。足元なんて全く見えない。
両腕にも、Jカップ爆乳と同じ、ハンドボール大の力瘤。ドン、ドン、ドドン。
スカートのお陰か外では目立たなかったけど、ハンドボールな力瘤よりも更に太い、太腿(精密値82.8cm)。
家(ウチ)にあったメロンと比べても、私の太腿の方が明らかに太かった。因みに、メロンの外周は約80cmだった。
「う~ん・・・」
久々に、帰宅直後の『DQ』起動。いつの間にやら、八頭身化したモリモリマッチョな私のアバター。
『みりょく』の数値が高いからか、おっぱいも大っきくて、筋肉モリモリな割にスタイルは良い。
「やっぱり、“イコール”だよね・・・」
八頭身アバターの為か、現実との比較は容易だった。
状況証拠だけなら間違いなく、アバターと私自身の身体の変化・成長は連動してる。
「うーん、どうしよっかな・・・」
取り敢えず、私は周辺を探索しつつ、戦闘をこなしてみた。
と言っても、無抵抗。こちらからは、一切抵抗しない。
【ゴロツキの攻撃! ミスッ!ダメージを受けない】
【ノライヌの攻撃! 1ポイントのダメージ!】
「ダメ、か・・・」
単純に、その辺の敵にヤラれてみよう、と思ったんだけど・・・。
このゲーム、地味に武器込みで、ステータスが下がる行動が取れないようになっている。
なので、身に着けている装備を外したり、弱い装備に切り替えたり出来ない仕様なのだ。
ひょっとしたら、ステータスを下げる何かがあるかも、と思ったけど、そういうのも無さ気。
「こりゃ、ダメだ」
周辺の敵が雑魚過ぎて、とてもじゃないけど、死にそうにない。やるだけ、時間の無駄だった。
【あたらしいばしょにいきたいのかい? なら、たいりくボスをたおさないとね】
「大陸ボス、か」
いわゆる、エリアボスって奴なのかな。
こういったRPGだと、エリアが進むごとに敵が段階を踏んで強くなるのが定例。
その例に漏れず、『DQ』もその辺の仕様は同じらしい。
【かみなりまじんはかなりつよいよ。なかまもそうびもちゃんとじゅんびしないとね】
「『かみなりまじん』ってのが、大陸ボスなのかな」
今まで、中ボス的なのは何度か戦ったけど、準備すれば勝てるレベルばっかりだった。
まあ、私が『DEF型』育成したせいか、死に難いキャラに育っちゃったってのも原因なんだろうけど。
「・・・行って、みるか」
エリアボスならぬ、大陸ボスなら相手としては充分だろう。
ハンデ、じゃないけど、仲間は『メイコ』一人だけ連れて行くことにした。
『メイコ』のレベルは、24。『AGI型』だけど、ステータスは先ず先ず。
「ふぅ・・・やっと、着いた」
『かみなりまじん』の居るダンジョンまで、かなりの時間を要した。
幾つかレベルも上がっちゃったけど、“キャラ殺し”作戦が上手く行けば、それも帳消し。
【よくぞ、ここまできた。つぎのたいりくにすすみたくば、われをたおしてみよ】
おどろおどろしいダンジョンBGM、いわゆる“雷神”を思わせるボス然とした風体。
「ま、最初わね」
モノは試しと、【にげる】を選択。
【にげるとはなにごとか。われからのがれられるとおもうな】
「ですよねー」
でも。
【まだ、にげるきとは。われからのがれられるとおもうな】
「まだまだ」
【おのれ、まだわからぬか。われからのがれられるとおもうな】
「まだ台詞変わるんだ・・・」
どうせ負ける勝負と、私は引き続き、【にげる】を選択。
【いいかげんにせよ。ぜんりょくでむかってこぬか】
「・・・あれ?」
【にげる】が、無い。そればかりか、【たたかう】以外の選択肢がみんな、選択出来なくなってる。
ピッ♪
「・・・あ」
どうしようか迷ってる内に、間違って選択肢を押しちゃった。
【ヒトミのかいしんのいちげき! かみなりまじんに573のダメージ!】
【かみなりまじんのらいげき! ヒトミに89のダメージ! メイコに268のダメージ!】
「次からは気を付け・・・あれ?」
選択肢が、出ない。
【ヒトミのこうげき! かみなりまじんに289のダメージ!】
【かみなりまじんのこうげき! メイコに335のダメージ!】
「・・・また。もしかして」
選択肢が【たたかう】だけなので、さっきのターンで選択した状態のまま戦闘が進んじゃってる・・・!?
何その仕様。そんな、無駄な気遣い要らないんだけど・・・。
【ヒトミのこうげき! かみなりまじんに312のダメージ!】
【かみなりまじんのらいげき! ヒトミに75のダメージ! メイコに420のダメージ!】
【メイコはしんでしまった!】
「・・・あ」
私のパーティ史上、二人目の“死者”。
【ヒトミのかいしんのいちげき! かみなりまじんに691のダメージ!】
【かみなりまじんのつうこんのいちげき! ヒトミはひらりとかわした!】
「う、っそ。『DEF型』なのに躱(かわ)した・・・」
【ヒトミのちょうかいしんのいちげき!! かみなりまじんに1235のダメージ!】
「何、“ちょうかいしん”って・・・」
初めて、見た。何か、元の四倍ぐらいダメージ出てるんだけど・・・。
ティラリン♪
【かみなりまじんをたおした!!】
「・・・あ」
倒し、ちゃった・・・。
ティラリラリタッタッターン♪
「やば・・・」
【ヒトミはレベルが1あがった!】
【つながりが1あがった!】
【みりょくが5あがった!】
【あくりょくが7あがった!】
・・・・・
「ちょ・・・」
【ヒトミはレベルが1あがった!】
【つながりが1あがった!】
【みりょくが3あがった!】
【あくりょくが10あがった!】
・・・・・
「もうヤメ・・・」
多分だけど、『メイコ』が死んだことにより、貰える経験値が全て『ヒトミ』に入っちゃったみたい。
どんだけ上がるの、ってぐらいレベルアップが続いた。
「やばい、やばい」
めっちゃ、レベル上がった。レベル53って、どんだけ・・・。
「しかも、【255】ってカンストじゃなかったんだ」
【ちから】関連と【みのまもり】が軒並み、【300】オーバーしてる・・・。
「“これ”、何日かしたら“来る”ってことだよね・・・」
今でさえ、ハンドボールとかメロンと比較するような体型なのに、これ以上になっちゃったら・・・。
今まで四回も続いたんだ。五回目も来る・・・よね。
今日この後寝たら、とか。明日の夜とか、そんな直ぐには来ないけど。
今までの経験則だと、一週間は掛からない感じ。
「実験は“失敗”か・・・。明日、明子に報告しないと」
次の作戦を練らないと、そう思いながら私は床に就いた。
果たして、“実験”は“失敗”だったのか、否か。
私はそれこそ後から、“それ”を知ることになる。
デアカルテ
2020-09-18 13:35:19 +0000 UTCokita
2020-09-17 23:42:30 +0000 UTCデアカルテ
2020-09-16 13:39:09 +0000 UTCデアカルテ
2020-09-16 13:38:00 +0000 UTC名無しです
2020-09-15 20:37:34 +0000 UTC