X型女子01「T型JK」
Added 2020-12-08 08:59:28 +0000 UTC「それでは、両チーム前へ」
「「「はい」」」
体育教師に呼ばれた両チームが、本塁を挟んで両サイドのバッターボックス付近で整列した。
私立巨王学園(男子校)。
100m×200mの大きなグラウンドの隅の角には、野球のダイアモンドが白線で引かれていた。
一塁側(ホーム)には、野球帽にユニフォームを着た如何にもな高校球児たち。
一方の三塁側(ビジター)には、体操着に身を包んだ高校生と思しき女子たちが並んで居る。
「おい、何だこれ・・・」
「マジで同じ高校生なのか」
「信じらんねぇ」
規則正しく9人並んだ男子球児たちが声々に漏らした。
「これが野球部の皆さん・・・」
「ふぅん、こんな感じなんだぁ」
女子たちは女子たちで、思い思いの感想を話し合っていた。
「おい、お前ら。私語は慎め。これでも列記とした、学校公認の試合なんだ」
体育教師は、女子たちにはチラッと一瞥しただけで、男子たちに向かって注意した。
「・・・んんっ。き、君たちは“それ”で良いのかな? 人数も足りないようだが・・・」
体育教師は気圧されそうになるのを何とか堪えながら、女子たちに話し掛けた。
「えー、何か問題ありますぅ?」
女子の列の内の一人が、ギャルっぽい口調で返す。
「あ、いや・・・」
結局、体育教師は気圧されてしまった。男子たち相手とは、明らかに対応が違う。
「・・・き、君たちが良いならそれで良いんだ。ははっ」
体育教師は、女子たちを“見上げた”。
「因みになんだが・・・、君って何センチあるんだい?」
「え、私ですか? えぇと、143cmです」
男子一同、皆揃って『え?』という反応。
「ちょっと、浩子! それ、アンタのバストサイズでしょ」
「あ、そだった・・・てへ。身長ですよね。この前測った時で、256cmです」
三塁側バッターボックスの本塁側、体育教師に一番近い、浩子と呼ばれた女子がそう答えた。
「うっそだろ・・・」
「256cmとか、マジかよ」
ざわ・・・ざわ・・・と男子たちがざわめく。
「えー、そんな驚くことですか? 美樹ちゃんだって、233cmあるのに」
「浩子。アンタは、“アタシらの中”でも別格。色々とあちこちデカ過ぎんのよ」
そういう君も充分デカいだろ・・・と、体育教師・多村(38歳)は内心思った。
【X女ファイル】
<T組>
下原浩子 前畑美樹 ・・・
身長 256cm 233cm ・・・
体重 231kg 201kg ・・・
胸囲 143cm 121cm ・・・
多村は手元の資料と女子勢を何度も見比べた。最初、何かの間違いか、何の冗談かと思った。
おかっぱ頭で色白、眼鏡がキュートな浩子。茶髪で日焼け気味の小麦色肌なギャル系の美樹。
残りの“4人”も、清楚風だったりギャル風だったり、統一感は全く無かった。
しかし、共通しているのはどの女子も背が異様に高く、また身体付きもガッシリしている。
資料には、『平均身長、239cm』と記載されていた。
因みに、プロバスケットボールの最高峰、NBAの平均身長は200cm前後、最高身長でも231cm。
女子たちの中でも“比較的小柄”な美樹でさえ、NBA選手より高身長だった。
21XX年。
少子化が加速するのと反比例的に、こういった“特殊体型”女子が出現するようになった。
幼少期はそうでも無いのだが、第二次性徴辺りから急速に身体が発達し始めて、大きく成長してしまう。
過去にも、世界記録レベルの身長など、特異な成長を遂げた人間は居た。
だがそれは大抵、何らかの疾患による影響で、短命なのが宿命だった。
しかし、目の前の女子たちは、有り得ないぐらいの高身長であるにも関わらず、体型は一般人の“それ”だった。
いや、むしろボディバランスが良い、均整の取れた身体付きをしていた。
個人差はあれど、出る所は出て、引っ込む所は引っ込む。腕や脚も、身長比からするとやや太いが、それも健康的な体型の範疇だった。
【X型女子】と総称される内、彼女たちは『T型女子』と呼ばれ、分類されていた。
例えば、学校で一人、もしくはクラスで一人、彼女たちのような成長をした者が居たとして。
そのまま“普通”の学校では、いずれ軋轢を生み。彼女たちの更なる成長を阻害し兼ねない。
【新人類】とも呼べる彼女たちの出現に、政府は保護しようと動き始めた。
少子化により経営が立ち行かなくなった学校法人に目星を付け、買収し、半ば強引な合併措置に出たのだ。
「“正規”の面子は後から来るので、今はウチらだけで大丈夫でぇす」
「・・・ぅ、わかった。じゃあ、女子チームの捕手は私がやろう」
男子野球部9人に対し、体操着女子6人。変則マッチにも程があるが、美樹の迫力に多村は圧し切られてしまった。
「私たち、『T組』なのでそう呼んで下さい」
「ああ、わかった。じゃあ、『男子野球部』対『T組女子』の試合を始めるっ」
浩子の提案で呼称も決まり、先ずは男子が守備に付く。
体育教師多村は、表回の『T組女子』攻撃時は審判。裏回の『男子野球部』攻撃時は捕手兼審判、となる。
一回表。
「おい、女子! 折角だから後攻でも良かったんだぜ?」
「あ、いえ。お構いなく」
男子部の投手が、一番打者としてバッターボックスに入った浩子に毒づいた。
「おい、ヘルメット無しだが、良いのか?」
「あ、はい。私、“こんな体格”なんで頭もちょっと大きくて・・・」
一般男子の頭サイズより浩子の頭は大きく、ヘルメットが入らなかったのだ。
「・・・・・っ」
“体格”と言われて多村は改めて、浩子の全身を見る。そして、生唾を飲み込んだ。
256cmの超長身も然ることながら、ストライクゾーンに覆い被さるような特大のビッグバストに目を奪われたのだ。
胸囲が143cmなのは浩子の自爆でこの場全員に知れ渡ることになったのだが、腰は細く、お尻はドンと出ていた。
いわゆる、豊満な体型。
背が高過ぎる、イコール寸胴な体型だ、と多村は想像していた。今日、目の前で6人を見るまでは、そうだった。
しかし、自分の眼線より高い位置にドドンッと迫り出す爆乳は、特大のメロンを思わせた。
「へへっ。あんだけデカけりゃ、何処投げてもストライク取れそうだぜ」
一方の投手からすると、審判役で中腰な多村の頭より遥かに高い位置に浩子のバストがある。
丁度、ストライクゾーンの屋根になっていて、右側にある浩子のお腹と相まって、ボックスがわかり易くなっていた。
「先ずは・・・小手調べっと」
投手はビュッと、“それなり”の速度の直球を放った。
「ストライーック」
ど真ん中。
「ストライーク、ツー」
また、ど真ん中。
「ストライーック、バッタアウト!」
「おいおい、棒立ちかよ」
その図体は飾りか、と守備の男子陣は捲し立てた。
「おなっしゃーっす」
二番は、美樹。
「ストライーック、バッタアウト!」
「おいよぉ、やる気ねぇのか」
美樹もまた、棒立ちだった。
「あら、これで終わりなんですね」
「ああ、ストライク三つでワンアウト。アウト三つでスリーアウトチェンジだ」
結局、続く三番バッターも三球三振。一回表はたった九球でチェンジになってしまった。
一回裏。
『T組女子』の守備は、投手に浩子。一塁手に美樹。
二塁手が二塁ベース寄りに守り、三塁手が三塁ベースと遊撃手の守備位置の中間辺り。
残り二人は、右中間と左中間に位置取った。
「多村先生、“コールド”もアリですよね?」
「ああ。一応、どの回でも10点以上の点差が開けばコールドゲームにして良い、との学長の指示だ」
早めに決着が付くならそうして良い、とのことだ。
「じゃあ、一回裏でコールドだな」
一番打者が多村に確認を取りながら、右打席に入る。
『T組女子』は守備位置を見る限り、どう見ても穴だらけ。点の取り放題。
そう思いつつ、一番打者がマウンドに立つ浩子を見る。
「・・・っ」
マウンドに居るのは、本当に女子・・・いや、“人間”なのだろうか。明らかにシルエットがおかしい。
盛り土で高くなっているとはいえ、人間の表現出来る高さではなかった。
因みに、マウンドの高さは25.4cm。合算した高さは、280cmオーバー。
「えーっと、こう・・・かな?」
浩子はボールを握ってみた。浩子の手が大き過ぎて、ボールが完全に手の中に納まってしまう。
「えいっ」
浩子はぎこちない投球動作で、ボールを上手投げで放った。
ギュオォッ!
ズドムッ。
「え」
「・・・え」
一番打者の男子部員も、捕手兼審判の多村も、両者とも何が起きたかわからなかった。
「せんせー、それってストライクじゃないのー?」
「あ、ああ。ス、ストライーック」
美樹に促され、多村は捕球してから数秒後にストライクのコールをした。
「んっと、えぃっ」
ヒュゴォッ、ドムッ!
「ス、ストライクツーッ!」
「う、っそだろ・・・」
二球目も、浩子のボールは多村の構えた所に収まった。
「な、何て速さだ・・・」
「あれ、150km/h近く出てんじゃねーの」
最初、野次る者、退屈そうにスマホを見る者、様々だった野球部員たちの目の色が変わった。
それも、たったの二球で、だ。
6人ポッキリの『T組女子』とは違い、男子部員はベンチ入りも含めればかなりの大所帯だ。
実際、県大会上位の常連校なのだが、その熟練した部員たちでさえ見たことがないような剛球。
野球の本場、メジャーリーグだと200cm超えの投手は何人も居る。
そういった投手が上手投げをすると、良く“二階から投げ下ろす”と表現する。
ただ、それもあくまで比喩表現であり、実際の二階よりは高さとしては低い。
しかし、浩子は万歳しただけで手の高さは320cmにも及ぶ。マウンドの高さを合わせれば、350cm近い。
一般的な家屋の二階の床の高さは3m、と言われている。正真正銘、“二階からの投げ下ろし”なのだ。
スバッ・・・スカッ。
「バッターアウッ!」
「くそっ」
一番打者は三球目にようやくバットを振ったが、掠りもしなかった。
「浩子ーっ、サマになってんじゃーん」
「えへへ♪ “さっき見て覚えた”通りに投げたら、上手く行ったみたい」
美樹が一塁から声を掛けると、浩子はマウンド上ではにかんだ。所作だけを見れば、間違いなく花の女子高生。
「さっき、覚えた・・・だって?」
「いや・・・まさか、そんな」
部員たちはざわつく。
「馬っ鹿野郎、あの投球が素人な訳ねーだろ」
一回表を三者三振で切り抜けた投手が、周りにそう言い放った。
「取り敢えず、振ってけ! 振らねーと当たんねーぞっ」
おうっ、と意気込み良く、二番打者が打席に入る。
「くっそ、マジでデケェ・・・」
この二番打者は勿論、他の野球部員たちも決して、小柄ではない。
毎日、厳しい部活トレーニングに励み、競争を勝ち抜いたレギュラー。ガタイは申し分ない。
「ットラックアウーッ」
しかし。二階どころか、山の上から投げ下ろされるかのような剛速球にバットは三度、空を切った。
「何てボールだ・・・」
結局、一回裏も表と同様に三者三振で終わった。
「浩子、ナイピッチ」
「美樹、ありがと」
浩子と美樹のハイタッチ。ハイどころか、3m近い高さで交わされる超高高度タッチ。
「野球のボールなんて“今日初めて投げた”けど、コツ掴めて来たかも」
「「・・・っ!!?」」
守備に付こうとしていた野球部員たちが一斉に、浩子を見る。
「今日が初めて・・・だって!?」
「あ、はい。だって私たち、只の人数合わせなので・・・」
確かに、浩子の投球動作は素人同然の所作だった。
「まさか、そんな・・・」
部員たちは最初、油断させる作戦だと思った。投げたボールそのものは明らかにプロ並みだったからだ。
二回表。
「くそ、そういうことか・・・」
二回表のマウンドに上がった投手は、マウンド上でそう独り言ちた。
つまりは、そういうことだ。
何故かはわからないが、『T組女子』の正規の野球部員は到着していない。
その代わり、陸上部員なり他の運動部から助っ人を頼んだ、という筋書きだろう。
でなければ、ただデカいというだけであれだけの剛速球を放れる訳がない。運動部の下地があってこそ。
「だとしても、野球素人には変わりねぇ」
1点も取らせなければ、少なくとも負けは無い。俺が完封してやる、そう決意した。
「こう、かな?」
二塁手の女子がぎこちない手付きで、バットを振った。
カキーンッ。
「なっ!?」
小気味良い音と共にボールが右中間に飛んで行く。ボールは右中間の深いところを転々と転がる。
「先生、この後どうすれば良いんですか?」
「・・・え?」
二塁手の女子は、打った体勢そのまま棒立ちしていた。
「いや、一塁ベースに向かって走るんだよ」
「あ、はい。わかりました」
そう多村に促され、女子は一塁に向かって走り出した。
ズドッ、ズドッ、ズドッ、という重量感ある音とは裏腹に、あっという間に一塁に到達。
そして、そのまま一塁ベースを踏んで止まった。
「まさか、走塁すら知らないとは・・・」
本来なら余裕で二塁打なところが、シングルヒットになってしまった。
男子部員たちはラッキーと思う以前に、走塁すら知らない女子に長打された衝撃の方が大きかった。
カキーン。カキーン。
「うそ、だろ・・・」
四番から六番打者まで、3人ともシングルヒット。
通常、いわゆるクリーンナップと呼ばれる強打者が並ぶ打順なのだが勿論、女子たちにそういう意図はなく。
出席番号順でも、背の順でもなく。本当に適当に決めた打順で、女子たちは打席に入っていた。
「何で、俺の速球が・・・」
浩子ほどではないにしろ、男子投手の投げるボールは確かに速かった。
しかし、女子たちのスイングスピードは速く、バットの根本だろうが先っぽだろうが、当たるとボールは飛んで行った。
「次は私、ですね」
女子たちは6人なので、一巡して次打者は浩子、ということになる。
「打つ方も覚えました。もう、みんな大丈夫だと思います」
走塁も含め、簡単な野球ルールのレクチャーを受けた浩子が、多村に礼を言った。
「・・・っ」
男子投手は異様な雰囲気を感じ取った。明らかに、浩子のフォームが様になっているのだ。
一打席目の適当な立ち方ではなく、バットを構え、投手に相対している。
だからこそ感じる、異様さ。
審判で中腰の多村の、二倍ぐらいの高さに掲げられたバット。
巨大な体躯に太い腕、大きな手。自分たちと同じ金属バットは、まるで子供用の玩具のバットに見える。
「・・・・・」
男子投手は自分を落ち着かせようと、周りを見回した。
二回表、無死満塁。
各塁上には、巨女たちが立っている。浩子ほどではないにしろ、男子守備陣と並んで立つと、大人と子供。
「四の五の言ってられねぇ・・・」
男子投手はサインを出した。捕手は、一度だけ頷く。
「これで・・・どうだっ」
男子投手、渾身の一球。
「えい・・・っ?」
浩子が照準を定め、バットを振り下ろすとボールが手元でクイッと曲がった。
『シュート』ボール。いや、どちらかというと『ツーシーム』かも知れない。
右投手が投げ、右打者の内角に曲がる変化球・・・いや、動く直球。
ゴッ。
「よしっ!」
浩子のバットからは鈍い打撃音。明らかに、詰まった打球。
男子投手としては、本当は引っ掛けさせてホームゲッツーを取りたかったが、結果オーライ。
「・・・っ!?」
・・・の、筈だった。
遊撃手方向に上がったポップフライ・・・だと思われた打球はグングン伸びて行く。
遊撃手がボールを追う足を止め、次にレフト手も足を止めてしまった。
「うっそ、だろ・・・」
ポスッとグラウンドを覆い囲む保護ネットの最上段にボールが当たって、そのまま下にポトリと落ちた。
因みに、学校などの長方形グラウンドを野球用に整備する場合、レフトを長辺に宛がうことが多い。
それは単に、左打者よりも右打者の方が多く、左方向に打球が飛び易いからだ。
つまり、“200m先のレフト後方”までボールが飛んだ計算になる。
「そんな、まさか・・・」
男子投手はマウンド上でガクッと項垂れた。
今まで対戦相手に凡打の山を築かせた、伝家の宝刀。自慢の『ツーシーム』は確かに、バットの根元を食った。
大抵の打者は内野ゴロか、内野へのポップフライで凡退する。その、筈だった。
「あの先生、これってどうなるんでしょうか」
「あ、いや。これが、さっき説明した『ホームラン』だよ」
巨王学園の運動グラウンド、野球部のローカルルールで保護ネットへのダイレクト打球はホームラン扱いとなっている。
100m先のライト方向のホームランは今まで何度かあったものの、レフト方向は学校史上初めて、であった。
推定、230m級の超特大ホームラン。
勿論、実際のプロ野球場でも、間違いなく場外ホームランだ。この場の誰も、異を唱える者は居なかった。
「すっごーい。やるじゃん、浩子」
「いえーい」
ダイヤモンドを一周して、次打者の美樹とハイタッチ。
「アタシも続かないと、ね」
美樹は袖を捲り、体操着から伸びる太い腕を露わにしながら打席に入った。
「くそ、絶対にマグレだ」
男子投手は、打席に入った美樹を見遣る。
233cmと女子陣の中では“比較的小柄”。浩子ほど胸が大きい訳でもなく、どちらかというとスラッとした体型。
浩子と比べれば幾分、組みし易いように見える。
「このぉっ!」
女子相手に小細工に頼ったからダメなんだ、と今度は目一杯渾身の直球を投げ放った。
もしスピードガンで計測していれば、自身最速を記録したであろう140km/h台後半のストレート。
「てやっ」
浩子同様、サマになった構えから美樹はバットを振り抜いた。
「うおっ!?」
チッ!と帽子を掠める音。
「あちゃー、上がんなかったか」
美樹は慌てて、一塁へ走り出す。
「センターッ!」
ピッチャ返しの打球は男子投手の頭を掠め、そのままセンターへライナーで飛んで行く。
ヒュゴォッ!
「オーラ・・・いぃっ!?」
ライナー性の打球は、“跳び上がった”センターのグローブに入った・・・かに見えた。
「痛ぇっ!?」
バシィッ!!という音と共にセンターのグローブが手から外れ、下にボトッと落ちる。
ビュオオォッ!
強烈なラインドライブが掛かった打球は、センターのグローブを弾き飛ばしたにも関わらず勢いが全く落ちない。
ホップしながら打球は飛び続け、ホームベースと逆側のグラウンドの隅っこにポトリと落ちた。
「ちぇっ、浩子みたいにネットまで行くと思ったのに」
そう言いながら、美樹は既に三塁を回っていた。
「ライト、カバー・・・って、え?」
捕手が転々とするボールを追わせようとライトに指示を出したと同時ぐらい。
「いぇーい」
ドンッ、と美樹のフットスタンプがホームベースに押された。
「は、速ぇ・・・」
「今の塁間、何秒だ・・・?」
超高速の打球でセンターオーバーのヒットの時点で、長打は確定。・・・ではあるが。
美樹は、あっという間にダイヤモンドを一周してしまった。
「へっへーん♪ アンタらとは足の長さが違うのよ」
美樹の股下は100cmを超え、歩幅については110cmもある。因みに、成人も含めた一般的な男子の股下及び歩幅は、70~80cm程度。
「・・・くっ」
足が長ければ、本当に足が速いのか? そんな疑問も、美樹のランニングホームランの前には無意味だった。
そこからは、一方的な展開だった。
バットに当たり、打球が上がりさえすればホームラン。
内野にライナーで飛べば、余りの打球速度に野手が反応出来ず、身体に喰らって骨折。
打者四巡の猛攻で、二回表にして20点もの点差が付いた。野球部員三名の負傷退場のおまけ付き。
「お前ら、騙してやがったなっ!」
「え、何のことですか?」
チェンジで三塁ベンチからマウンドに向かう浩子に、男子投手が話し掛けた。
「いかにも、“野球出来ません”みたいな演技しやがって」
幾ら身体が大きくてパワーがあったところで、あんなに自慢の速球が打たれる訳がない。
「いえ、本当に今日、初めてですよ。だから、最初の守備が一回裏で良かったです」
「・・・?」
「だって、野球部員の皆さんのやり方を見るまで、どうやれば良いかわからなかったので」
「何、だって・・・?」
一回表、浩子や美樹の打者三人は棒立ちだった。一度も、バットを振ることは無かった。
それは振らなかったのではなく、振り方を知らなかったのだ。振って良いかどうかもわからなかった。
一回裏の投球は、一回表の野球部員たちの所作を見て、最初から動けた。そういうことだった。
「運動自体、“体育の授業以来”なんですよね。私、文芸部なので」
「・・・!?」
運動部ですら無い、というのだろうか。
「私、と言うか“私たち”は他の人よりちょっとだけ、色々と“やれる”みたいなんですよね」
前はそんなことなかったんですけど、と浩子は付け加えた。
「何も運動してないのに“こんなの”、やんなっちゃいますよ」
そう言って、浩子は右腕を軽く折り曲げた。
「っ!!?」
太いとはいえ、特に筋肉質でもない腕にモコッと、丸々とした力瘤が盛り上がる。
腕の太さに対する大きさで言えば、可愛い部類の力瘤だ。男子部員の中でも、このぐらいの鍛え方をしてる者は居る。
しかし、そもそもの体幹、身体の大きさが違い過ぎる。実際のサイズとして、浩子の力瘤は50cmを超える。
彼女たち、『T型女子』は別に、超能力者でも特殊な異能力者でも無い。ただ、身体が大きいだけの女子高生だ。
しかし、その身体の発達具合、こと身体能力に関しては、常軌を逸したレベルで常人と差があった。
決して、“『スーパーガールでは無い』とは言えない”のだ。
浩子も美樹も200kgを優に超える体重ながら、体脂肪率は10~12%ぐらい。
豊満な体型を考えれば、身体の中身はアスリート以上の質の筋肉が詰まっているということになる。
巨体イコール動けない、であったり。運動能力が無い、という過去の常識は一切当て嵌まらないのだ。
加えて、「動体視力」や「瞬間視」「周辺視」などの眼の能力も、良かった。
相手の所作を見ただけで同じように動けて、速球にも反応出来た。ということだ。
Comments
感想ありがとうございます。 GTS好きな方々の期待に何処まで添えることが出来るかという不安もあるのですが、何とか投稿して行きたいと思っています。
デアカルテ
2020-12-10 05:20:51 +0000 UTCプレビュー版に釣られて支援させていただきました。 全くの初心者なのに鍛えていたはずの男子を圧倒する女子…素晴らしいです…。 これでまだ"正規"メンバーじゃないとか…末恐ろしいですね!
2020-12-09 12:16:29 +0000 UTC感想ありがとうございます。 個人的には書きたいけど二の足を踏んでたジャンルでした。これを機に、こちらも攻めて行きたいと思っています。
デアカルテ
2020-12-08 12:34:35 +0000 UTC更新お疲れ様です。 pixivの投稿の時からずっと楽しみにしてました。 X型女子…素敵なワードに心躍ります。 全てにおいて男を圧倒する女性達最高です。
okita
2020-12-08 12:22:41 +0000 UTC