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X型女子02「M型JK」

「うぅむ、やはりこうなってしまったか・・・」

三塁側後方にあるグラウンド脇の入り口から、初老と思しき紳士が現れた。


「学長!」

多村が慌てて、対応に飛び出した。


「ああ、そのままで良い。まだ“勝負”の途中なんだろう?」

「それはまあ、ええ・・・」

スコアボードの黒板には、二回表に「20」と書かれている。


「浩子ーっ。遅れてごめーん」

「あ、和美」

学長の後ろには、3人の女子が付いて来ていた。


「・・・っ!?」

「何だ、あの身体・・・」

巨王学園は男子校なので、女子イコール部外者ということになる。


「まさか、あの3人が“正規メンバー”だってのか?」

「あれ、女の身体か」

「いや、人間の身体かよ」

男子部員たちは、学長の前だと言うのに悪態とも呼べる台詞を吐き捲った。


「酷い言われようね・・・失礼しちゃうわ」

浩子に和美と呼ばれた女子は、男子たちに睨みを効かせた。


「「「ひぃっ!!?」」」

浩子たちを前にして、驚きはしても慄くことは無かった部員たちが、明らかにビビッている。


「君は体育教師だったね。これを追加で渡しておこう」

「はぁ」

そう言って、多村は学長から『ファイル』を受け取った。


【X女ファイル】   

<M組>

    内藤和美  ・・・

身長   197cm  ・・・

体重   234kg  ・・・

バスト  128cm  ・・・

ウェスト 70cm  ・・・

ヒップ  106cm  ・・・

上腕   68cm  ・・・

太腿   88cm  ・・・


握力  測定不能 ・・・

背筋力 測定不能 ・・・

50m走   4秒  ・・・

垂直跳び 152cm  ・・・

懸垂  測定不能 ・・・


「何だ、これ・・・」

最初に貰っていた浩子や美樹のモノとは異なる、2ページにも及ぶ資料。


「ん? 何ですか、先生」

「・・・・・あっ、いや」

多村はつい、何度も資料と和美の身体を目で往復してしまった。


和美は、浩子たちのような体操着ではなく、ハイレグタイプの陸上競技用のスーツを着ていた。

水着、というよりはどちらかというと、レオタードに近い材質と形状だろうか。


しかし、気になったのはそんな“些細な事”ではない。


和美の身体は一言で言い表せば、『虎』と形容出来るモノだった。大型の、肉食獣。


胴体のバランス的には浩子同様に、ボンッキュッボンッという豊満な体型。

推定Hカップのバストがスーツの布をビヨーン、と押し広げている。


だが胸以外の部分、肩も腕もお腹も、そして脚も。全身には、これでもかと言わんばかりの筋肉が盛り上がっていた。

ボディビルダーのように脂肪が削られている訳ではなく、またプロレスラーのように脂肪が付き過ぎている訳でもなく。


アスリート型格闘家のような、無駄のない実用的な筋肉。

実際、関節などの要所要所はそこまで太くなく。しかし、それでいて2m近い身長に見合った、大きな筋肉。


「君は・・・野球経験者ってことで良いのかな?」

多村は、初対面であるにも関わらず和美にビビり捲っている。

だが、それも無理はなかった。


事実、浩子たち最初の6人も込みで、和美の肉体がこの場で一番凄まじかった。

和美より浩子の方が59cmも身長が高いのに、和美の方が3kgも体重が重いのだ。

もし、何かの間違いで殴られれでもすれば一撃で殺されそうな、そんな迫力があった。


残りの2人も逞しい筋肉質な身体付きなのだが、身長の数値より体重の数値の方が大きいのは和美だけだった。

スポーツ界において、身体データで身長<体重となるのは精々、相撲界ぐらいだ。

にも関わらず、大柄ながら均整の取れたアスリートプロポーション。異様という他、無い。


「それなら、さっき練習して来たんで大丈夫ですよ」

「・・・さっき?」

遅れての到着の理由は、野球の練習をしていた為だったようだ。


「はい。私は陸上部なので、野球やるのは今日初めてなんです」

「・・・へ、初めて?」

下原浩子は確かに、“正規”メンバーと言っていた筈だ。


「野球部、じゃないの・・・?」

「陸上部だから学園編入後はグラウンドを“頂く”ことになりますし、そういう意味では“正規”関係者ですね」

私立巨王学園に【X型女子】が編入されることになり、問題となったのは学校施設の利用だった。


勉学に励む教室を分けることは容易だが、こと運動グラウンドに関してはそうは行かなかった。

男子野球部は平均身長、175cm。高校生ということを鑑みれば充分な体格だ。

しかし、それも【X型女子】たちと比較すると霞む。大人と子供、巨人と小人。


「政府から補助金を受けている手前、“双方合意の元に取り決めた”という事実が必要なのだよ」

学長はそう、皆に話した。


政府から、事故を未然に防ぐ為に運動に於ける活動範囲は分けるべく、指示通達が下りていた。

それを受けての、男子対女子の変則勝負だったのだ。グラウンド使用権を賭けての、ガチ勝負。


「君は、野球部じゃないのに“野球で勝負を受けた”のか・・・?」

「ええ。遺恨を残さない為には、相手が望む勝負方法が一番良いかな、と」

多村同様にビビッてばかりだった男子部員たちの表情が、一気に変わった。


「おい。それはつまり、専門外の野球で、俺たち本職の野球部相手に勝つ自信があったってぇ事か?」

「・・・ぷ。あ、いや、ごめんなさい。つい・・・」

和美の、明らかな嘲笑。


「手前ぇっ、何笑ってやがる!?」

「おい、学長の前だぞ!」

多村が、いきり立つ男子部員を制した。


「ああ。構わん、構わん。君らぐらいの年頃は、そのぐらい熱くなくてはな」

「学長・・・」

学長も、野球部が実績に比例するぐらいには粗野な事は知っていた。


「野球に限らず、勝負の世界は結果が全て、だ。結果さえ出せば、全て問題ない」

野球部が、最初は舐めて掛かっていたであろうこともわかっていた。


「校長・・・じゃないや。学長先生、私たちが勝てばグラウンドは・・・」

「“学長”で構わんよ。この野球勝負で勝てば、グラウンドは君たちの自由にして良い」

和美は、改めて学長の野球勝負の是非を確認した。


「ありがとうございます」

和美は学長に礼をすると、マウンドに向かおうとしていた浩子に歩み寄った。


「ホント、遅くなってごめん。練習してたら楽しくなっちゃって・・・」

直ぐに向かうつもりだったのに、と和美は浩子に謝った。


「うぅん、初めてピッチャーやったけど面白かった。ただ・・・」

「ただ?」

浩子は手に持ったボールを何度かニギニギと握った。


「いつボールを握り潰しちゃうか、冷や冷やだった。こんな柔らかいと思わなくて・・・」

「へぇ・・・」

と和美は、浩子からボールを受け取る。


「どれどれ・・・」

グッと大きな手でボールを握り締めた。


「・・・あ、ホントだ」

グシャッと、和美の手の中でボールが潰れて、中身のコルクが皮の外に飛び出した。


「・・・っ!?」

「“硬球”を・・・」

「・・・握り潰した」

『硬球』。いわゆる、公式野球ボール。


コルクの芯をゴムで囲み、更に周りに毛糸や木綿糸を敷き詰め、皮で覆った野球用のボール。

軟式野球の軟球と違い、打球を身体で受ければ怪我をするし、当たり所が悪ければ死に至る可能性もある。

現に、既に野球部員が3名ほど、『T組女子』の打撃を受け、負傷退場している。


つまりは、それだけ硬いボールなのだ。

プレス機でようやく圧し潰せるような硬球を、和美は一呼吸で、しかも片手で握り潰してしまった。


「先生、すみません。このボール、ボロくなってたみたいです」

そう言って、グシャグシャになった硬球を多村に手渡した。


「・・・・・」

体育教師多村は、野球部の監督でもある。自身も高校時代、野球部で鳴らした猛者だ。

そんな数十年に及ぶ野球人生の中でさえ、硬球の中身をこんな間近で見ることは無かった。


どんなに使い古した硬球でも大抵は、外皮や縫い目の糸が解(ほつ)れて交換、となる。

潰れて中身が出るまで使い込んだことはないし、球体を保てなくなるような潰れ方はしたことはなかった。


「次は、つ、潰さないように・・・な」

「はい、すみません」

学校の備品を潰した和美よりも、何故かそれを咎める側の多村の方が委縮していた。



二回裏。


『T組女子』チームもやっと9人が揃い、男子女子ともに9対9の野球試合の状態になった。

和美が投手に入り、残り2人の女子陸上部員が捕手と中堅手に。

浩子が一塁手に入り、美樹が遊撃手に入る。センターラインを運動部で固めた格好だ。


「握り潰さないように加減して、っと・・・えぃ」

浩子よりは幾分、サマになっている投球動作で和美はボールを投げた。


ピシュンッ・・・ズバァッ!!


「・・・・・え」

打席に入った男子部員も、捕手役から解放され審判に就いた多村も、両者ともボールの行方を見失った。


「ちょっと和美ーっ。何処投げてんのよぉ」

「あーはは、ごめんごめん」

ポカンと呆けている男たちとは対照的に、投げた本人と捕手はボールの行方がわかっているようだった。


「ボールは、“あそこ通って”どっか行っちゃいました」

和美は、多村の後方のバックネットを指差した。


「・・・っ!?」

バックネットに、穴が空いていた。硬球一個分、と思われる穴が。

かなり後になってからではあるが、ボールは数十メートル先の校舎の壁に突き刺さっていたのを発見された。


「今度は角度を調整して、っと・・・」

シュバァッ・・・ドガッ!


「うっそ、だろ・・・」

ボールは、打者の頭の後ろを物凄い球速で駆け抜けた挙句、バックネット下のコンクリートに“突き刺さった”。


「良し、段々わかって来た。先生、これでツーボールなんでしたっけ?」

「あ、ああ。ボーツツーッ」

多村は最初の『ボール』のコールをしていなかったことも気付かず、ボールツーをコールした。


「これ、で・・・どぉだっ?」

シュゴォッ、バシッ!


凄まじい勢いの直球が、キャッチャーミットに収まっていた。


「ス、ストライークッ!」

「おい、振れよッ!」

男子ベンチから野次が飛ぶ。


「む、無茶言うなっ」

打者の男子部員は、反論。


体感だが、150km/hどころか160km/hでも足りない。メジャーリーガーでも前人未到の170km/h超え。

投げた瞬間どころか、投げる前にスイングを始動させないと間に合わないような、超剛速球。


ヒュゴゥッ、バシッ!

シュバァッ、バシィッ!


「ストライク、バッターアウッ!」

四番から六番打者までのクリーンナップが、あっという間に三者三振で終わってしまった。

男子の打順は打力をちゃんと考慮したもので、女子たちの適当な打順とは違う。

しかし、打者6人で一度もバットにボールを当てることが出来なかった。


「これで終わりなんでしたっけ?」

「・・・ぐっ」

遊撃手の美樹が、そう多村に詰め寄った。


「ん? どゆこと?」

浩子から完封リレーを引き継いだ和美に、美樹が説明した。


「えー、もう終わり? まだ来たばっかなのに」

和美は、ヤり足りないとマウンドで地団駄を踏んだ。


「ねぇ、もうちょっとだけやろうよ。学長、良いでしょ?」

そう言って、和美を品を作って学長におねだりした。


黒髪ポニーテールのスポーティ美人な和美だが、品を作る仕草で全身に筋肉が盛り上がってしまう。

モリッ、モリッと筋骨隆々な野性味溢れる虎女が作る品は、お世辞にも可愛いとは言えなかった。


「いや、しかしだな。これ以上やっても・・・」

学長としては、既に結果は出ていた。というか、これ以上、“被害”を出したくなかった。

3人の負傷者に備品の破損。彼女たちがちょっと力加減を誤るだけで、何かが壊れる。


「私ぃ、暴力は嫌いなんですけどぉ・・・」

和美は、バッターボックス近くに置かれたバットを、おもむろに手に取った。


「モノには、つい・・・」

バットのヘッド部分を左手、グリップエンドを右手で持った。

両腕の力瘤がモリッと盛り上がると、徐々にバットがその身を短くして行った。


グググ・・・メゴゴッ、メギョッ。


「・・・あたっちゃうんですよね」

真横に持っていた筈のバットが、あっという間に和美の両手の中に収まってしまった。


「バットが・・・」

「・・・縦に」

ついさっきまで“バットだった”鉄球が、ゴロンとグラウンドに無造作に放り出された。


「わ、わかった、わかった」

「え、ホントですか? やったー」

そう言いながら、和美は両手で挟んだヘルメットを放そうとはしなかった。


「遺恨を残さないよう。消化不良がないよう、徹底的にやりましょ」

ヘルメットもバット同様にメキ、メキッとあっという間に圧し潰してしまった。


「あーあ、和美に火が点いちゃった」

美樹が呆れたように、いや諦めたように両手を裏返すポーズをした。


「和美って昔から、“あの体型”で色々あったからねぇ」

内藤和美は、小学六年生の頃から“変化”が起き始めた。


【X型女子】は、“変化の起こり”が早ければ早いほど、身体が大きくなり易いと言われている。

身長256cmの浩子ですら、大きくなり始めたのは中学一年生の頃。

和美はその一年早く、身体に異変とも言うべき変化が起こり始めた。


当時、まだ『T型』しか確認されておらず、和美も同じかと思われた。

しかし、上背の変化よりも“厚み”の変化が凄まじかったのだ。


元々、“駆けっこ”が好きだった和美が中学入学と同時に陸上部入るのは極自然なことだったのだが。

中学入学時には175cm、120kg。中学二年時には183cm、153kg。

しかも、その増えた体重の殆どが筋肉で且つ、筋出力も常軌を逸していた。

非公式ながら、100m走で9秒台を叩き出したのは中学二年生の夏だった。


その時既に、【X型女子】のスポーツ界での記録は参考扱いで、公式認定されることは無かった。

筋トレ経験の全くない和美が、砲丸投げで50mを軽く超す記録を叩き出したことからも、その判断は間違いではないのだが・・・。


「“アタシらの中”で別格なのは浩子もそうだけど、パワーは和美が飛び抜けてるからね」

金属バットを縦に圧し潰し、ヘルメットを砕く怪力。それらは、生来の超筋力によって齎されるというのだ。


「和美を揶揄(からか)って、同じクラスの男子は良く怪力ショーを見せられてたらしいよ」

バットやヘルメットを破壊して見せたのは、和美なりの警告なのだった。


“次、揶揄(からか)ったら只じゃ済まない”と。




「徹底的とは言っても、ダラダラやってもしょうがないから・・・こんなのでどう」

和美が出した条件は以下の通り。


・点差そのままで、試合は五回裏まで継続。

・男子チームは、“得点十倍”。つまり、1点取れば、その時点で10点取得。

・女子チームは、1点取っても1点のまま。


「何だ、この条件・・・」

「完全に、舐めてやがる」

余りにも、男子に有利過ぎる条件。


「手前ぇ、俺らが3点取ったらその時点で10点差なんだぞ!?」

「ふふっ、この条件なら納得行くでしょ?」

現在、二回裏終わって、『男子0対20女子』な状態。

ここからもし、男子が2点取れば20対20で同点。3点取れば、30対20で大差を付けて逆転ということになる。


「そうね。もし本当にそうなったら、大変♪」

「ぐっ、この・・・」

和美だけでなく、他の女子メンバーもこの提案に特に異議を唱えなかった。

それはつまり、裏を返せばこの条件でも負けるとは微塵も思っていない、ということ。


「や、やってやろうじゃねーか」

「そう来なくちゃ」

三回表。


女子チームは七番打者の和美から。和美が、バットを持って打席に入る。


「・・・・・っ」

野生の虎のような筋肉隆々な、ほぼ半裸と言っても過言ではない陸上用スーツの女子が打席に立つ姿は異様だった。

肩口のレオタードの袖からは逞しい二の腕、ハイレグの下からは競輪選手のような太腿。

胸元は砲丸大の形の良い美乳が膨らみを作っているのに対し、お腹は厚手の生地でもわかるような腹筋が浮かび上がる。


「何処に投げれば・・・」

ボディビルダーとは違う、明らかに使う為に形成された筋肉群。

何処に投げても打たれる、そんな錯覚に陥ってしまう。


「・・・っ!? くそ、仕方ねぇ」

一球目。


「ボールッ」

外角低め、投げた瞬間ハッキリとわかるぐらいのボール球。


「ボールツー」

「・・・・・」

またしても、外角に遠いところに外れてツーボールノーストライク。


「ボールスリー」

「・・・ふぅん」

バッテリーとして勝負を避けよう、という意図が流石の和美にも伝わった。


「歩かせても次で抑えりゃ良いの、さっ」

四球目。


「馬鹿ッ! 外し方が甘・・・」

“バッターボックスの後ろ端”に立っていた和美は、一気に内角に踏み込み、片手でバットを振るった。


ガキーンッ!!!


「な・・・」

外角の、ボール数個分外れた球は、和美の片手打法であっという間にセンター方向に運ばれた。


「ホ、ホームランッ」

100m×200mの長方形のグラウンド、その対角線の先にあるネットをボールは一瞬で飛び越えて行った。


「そん、な・・・」

「男の癖に逃げようとするからよ」

和美の捨て台詞も、男子投手には届かなかった。


和美はワザとバッターボックスの後ろ端に立ち、少しでも近いところに投げさせようと画策した。

捕手もそれに気付いたが、肝心の投手が気付かず、バッターボックスから届く範囲に投げてしまった。


あわよくば四球、という投球においては失投と言える。

実際、プロ野球でも敬遠球をホームランする、なんて場面はある。


しかし、だ。


投手が油断して投げた“緩い球”。それを和美は片手でいとも簡単にホームランにしてしまったのだ。

快速球に事故当たりしてマグレで大飛球になった、なんて訳ではない。


パワーのみで持って行った、推定250m級の超特大ホームラン。

ネットを超えたのだから、ローカルルールとかそういったことは関係なく正真正銘の本塁打。


「く、そっ・・・」

和美ほどではないとはいえ、残り2人の女子陸上部員も野球部男子より二回りは大きく、迫力は充分。

結局、消極的なピッチングで八番、九番打者は四球で歩かされた。


「おい、次はどうするんだ」

次の打者は、一番に戻って浩子。早三回表にして、五打数四安打4ホーマーでの六打席目。

無死一二塁だが、三塁はまだ空いている。浩子の次、二番打者は美樹。


256cm231kgの浩子と勝負するか、233cm201kgの美樹と勝負するか。


「ボール、フォアッ」

「へぇ、アタシと勝負するんだ」

浩子に対しては、絶対に手が届かないであろう遠い場所に捕手が立っての敬遠。無死満塁。

美樹からすれば、陸上部や浩子よりも組みし易しと判断されたことになる。


「ま、何か“取って置き”があるんだろうし、楽しみってことにしといたげる」

ギャル風の美樹だが、構えは9人の中で一番サマになっている。


「これで、どうだっ」

投手は振り被って、渾身の一球目。


「・・・!?」

パスッ。


「何、今の」

美樹はバットを振ることなく、ボールを見送った。


「ス、ストライーック」

80km/h前後の、超スローボール。

正確には、山なりながらも変化が掛かった、『サークルチェンジ』。


「うっそ、マジ?」

「へへっ、今のがチェンジアップだ」

緩急で言うところの“緩”。


元々、140km/h台後半の速球に、ツーシーム。更には、60km/h以上の球速差のサークルチェンジ。

これらを駆使して県大会を勝ち抜いて来たのだ。


「ストライーック」

美樹は、二球目の内角高めの直球も見送った。


「俺らのマジの“組み立て”なら、本当ならお前らぐらい手玉に取るのは訳ねぇんだ」

得意気になったバッテリーが要求した三球目。


ピシュッ。


投手から放たれたのは、外角低めにコントロールされた『サークルチェンジ』。


「これで三球三し・・・」

「“こんなの”が“取って置き”だなんて、ガッカリ」

そう呟いて、美樹はバットを思いっ切り振り抜いた。


グワキーンッ!!


「「っ!!?」」

センター方向への大飛球。


対角線上、反対隅のネット直撃の満塁ホームランだった。


「そんな、タイミングが合わなくなってたんじゃ・・・」

「ん? 何で、そんな話になってんの」

ダイヤモンドを一周して来た美樹が、捕手に返した。


「タイミングも何も・・・。アンタらの投げるボールなんて、区別付かないんだけど」

「なっ!?」

それは、つまり。

直球とか変化球とか、速いとか遅いとか。そういった、球種に関することが全く無意味だったというのだ。


「野球って、来たボールを打つだけなんじゃないの」

手元に来たボールをバットで打つ。

単純明快だが、当然ながら誰しもそれが上手く出来ないからこそ、競技が成立しているのだ。


例えるなら。絵が描ける人が絵心が無い人に向かって、『何で絵が描けないの?』と聞いてるのと同じ。


140km/hだろうが80km/hだろうが、目で“捉えられる程度”だったということだ。

見えてさえいれば、後は持ち前のパワーによる超高速スイングで当てるだけ。

当たれば勿論、そのパワーでボールがどうなるかは自明の理、という訳だ。


二時間後。未だ、三回表。


打者、四巡。6人でなく9人揃っているので、のべ打者36人。

56点目が入ったところで、投手がマウンドで膝を折った。


「どうしたの。まだ試合は終わってないよ?」

「もう、勘弁してくれ・・・」

男子投手はもう、涙目になっていた。


高校野球であれば、一日に二百球投げる投手も少なくない。

しかし、投げる球全てを完膚なきまでに打ち返され、完全に心が折れてしまったのだ。


「じゃあ、“条件”があるわ」

「ど、土下座でも何でもする!」

そう言って、男子投手はマウンド上で跪いた。


「土下座なんてヤメてよ、学長先生も見てるし。そんな、形だけの謝罪なんて要らないの」

和美はチラッと学長を見遣ると、余りの惨状に“我関せず”と言った感じで向こうを向いてしまった。


「グラウンド使用権は当然として、そうね。アナタが女子陸上部のマネージャをやりなさい」

「えっ、俺・・・が?」

その程度で良いのか、という表情。


「道具出しに、競技用具の回収。タイム計測を“私たちのペース”に合わせてやるのよ」

「そうそう。言っとくけど、和美は砲丸投げで70m超えるからね」

マネージャとは言いつつも、体の良い奴隷だった。


「シャトルランとかは、アンタにも付き合って貰うから」

「ひぃっ!」

しかも、明らかに“しごく”気が満々だった。


「それじゃ、学長先生。“次”も宜しくお願いしますね」

「あ、ああ。わかった・・・」

学長は渋々、和美の問い掛けに了承した。


「次って・・・」

多村は聞いてない、という仕草。


「先生。グラウンドの次は、体育館でしょ」

「まさ、か・・・」

そのまさか、である。


運動グラウンドの次は、体育館を賭けての試合。

彼女たち【X型女子】は、男子たちから全ての学校施設を奪うつもりだったのだ。


男子運動部の間で直ぐ様、対策会議が開かれたのは言うまでも無い。

Comments

体育館編のラストで、黒幕の男子の元に最大最強の女子がいきなり現れ、頭脳の差を見せ付けるだけでなく、彼が男性の将来を絶望して自殺しないよう説得するシーンとか妄想してました。

アド・マイヤー

感想ありがとうございます。 体育館については、男のプライドを優先するかわざわざ外に行く辛さを取るかの二択でしょうか。お話としては何らかの形で書こうと思っています。 頭脳とかの身体面以外の部分での優位を書くのも頭にはあるんですが、ジャンル的な趣旨とも外れてしまうので、今後の状況次第でしょうか・・・。

デアカルテ

X型女子が卓越しているのは、身体能力だけでなく、頭脳も・・・となると、次は・・・

アド・マイヤー

体育館を使う男子運動部も一枚岩じゃないだろうから、頭の良いやつが、自分の部を無条件降伏させるように、仲の悪い部をけしかけて自滅させて、その様子を見せて自分の部の首脳陣を説得するけど、それをX型女子に見抜かれて、彼本人は一本釣り(以下略)

アド・マイヤー

男子運動部に頭の良いやつがいれば、体育館の方は無条件降伏して、外部の体育館を使うという方向に行くのでしょうが、それでは「つまらない」ですよね?

アド・マイヤー

感想ありがとうございます。 極力、お話が一辺倒にならないよう変化を付けて行きたいと思っています。

デアカルテ

X型女子の中でも筋肉質、たまりません。 大型肉食獣の様な野性味溢れる体型… 変化が起こり始めた頃の話も大変気になります。 更新お疲れ様でした。

okita


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