SamSuka
デアカルテ
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還って来た女

「う~んっ。十数年振り・・・ってことになるのかな」

夜の街。路地の裏で女が“伸び”をした。


セミロングの髪。何処となく、稚(あどけな)い相貌。


“女”というよりは、どちらかというと少女然とした風貌だった。

ライダースーツのようなボディにピッタリした出で立ちだからか、発展途上の体型が露わになっている。


「よぉ、お嬢ちゃん。こんな時間にどうしたんだぃ」

数人の男たちが、いつの間にか少女の後ろに立っていた。


「ふぅん。“今”って、そんな恰好が流行ってるんだ」

「そうだぜ。これがダウンタウンの最先端ファッションさ」

派手なシャツに、着崩してるせいか露わになった身体のあちこちには無数の刺青。


「ここに家があったと思うんだけど、知らない?」

「家? あー、あったかもなぁ。どうだっけなぁ・・・」

少女が視線を送った先は、更地があるだけだった。


「わからないなら良いわ。他を当たるから」

「おーっと、思い出した。そこにあった家のこと、わかる奴なら知ってるぜ」

男はワザとらしく、何かを思い出したかのような仕草をした。


「何なら、連れてってやるぜ」

「・・・そう。お願いしようかしら」

明らかに胡散臭い雰囲気を醸し出す男たちに、少女は警戒もせず付いて行った。


「“こんな所”に、知ってる人が居るの?」

少女が案内されたのは、街外れにある大きな倉庫だった。


「へへへっ、そうだぜ・・・っと」

ガシャーンッ、と男たちは倉庫の入り口の大扉を閉じてしまった。


「一応聞くけど、どういうつもりかしら?」

少女は至って冷静に、そう問い掛けた。


「へぇ、意外と肝が据わってんじゃねーか」

「騒がれるよりは、愉しめて良いんじゃねーですかぃ」

男たちはグヘヘ、と如何にもな下卑た笑いを浮かべている。


「俺たちを愉しませてくれたら、教えてやるって言ってんだよ」

「ふぅん・・・私、加減下手なんだけど、良いかな?」

そう言いながら、少女は自ら男たちに近付いて行く。


「加減だぁ? 何言ってんだ。加減するのは俺らの・・・ぐぇっ!」

スタスタと歩いていた筈の少女は、いつの間にか男の正面に居た。


「う、が・・・っ、はな・・・せっ」

少女はおもむろに右手で男の首を掴むと、一気に持ち上げた。

何と、目線一つ分は小柄な少女が、男を片手でリフトアップしている。


「お、おぃっ、お前らっ! こいつを何とかしろっ」

男は抵抗を試みるも、少女の手は外れる気配が無い。堪らず、仲間に助けを求める。


「くそっ・・・は、外れねぇっ!」

「何だ、これ。万力かよっ!?」

大の男たちがたった一人の少女の、しかも片腕に寄って集(たか)って取り付いているにも関わらず、少女は微動だにしない。


「馬鹿野郎っ! 殴ってでも引き剥がせっ!!」

「このぉっ!」

吊り上げられ、両脚をバタバタしている男に促され、仲間の一人が少女目掛けて拳を放った。


ドガ。


「痛ぇっ!」

悲鳴を上げたのは、殴った男の方、だった。


「・・・ん? 何か、した?」

少女はキョトン、としていた。


「こいつの顔、鉄みてぇに硬ぇ・・・」

「もしかして、ターミネーターなんじゃ・・・」

まさか、と周りの男たちは鼻で笑った。


「失礼ね。私は正真正銘、“人間”よ。ただ・・・」

今まで、感情どころか表情を変えることすらしなかった少女が、初めて笑った。


「その“ターミネーター”ってのが何かは知らないけど。でも多分、私の方が強いんじゃないかな」

それは、明らかな嘲笑だった。


ボギィッ!!!


「「「っ!!?」」」

仲間たちの目の前で、男の首はポキリと二つ折りになっていた。


「手前ぇっ!!」

激高した男が、鉄パイプを少女の頭に振り下ろした。


ガン。


「・・・・・?」

「なぁっ・・・!?」

軽い打撃音がしただけで、少女は相変わらずケロッとしている。


「“今の時代”でも、こんな棒を武器にしてるの?」

少女は、首の折れた男をその辺に放り投げると、男から鉄パイプを奪う。


「えーっと、こういうの何て言うんだっけか・・・そうだ! 粘土。粘土と変わらないわよ」

少女は鉄パイプの両端を両手で持つと、グググッと胸元で鉄パイプを“縮めて圧縮”してしまった。


「くそっ、お前ら離れろっ! “コイツ”でハチの巣にしてやるっ!」

男が構えていたのは、機関銃だった。いわゆる、マシンガン。


ドガガガガガガガッ!!


「こいつは20口径、秒間30発の優れモノだ。人の身体に喰らわせれば跡形も残らねぇ。機械だってボロボロに・・・」

数百発の弾丸が放たれたことによる土煙が、周辺一帯に充満している。


しかし、その煙が晴れる頃には、肉片だけになった少女だったモノ、が在る筈だった。

もし仮に、誰かが言ったように未来から来たロボットだったしても、無事では済まない・・・筈だった。


「ちょっと、服が破けちゃったじゃない・・・。この服、耐衝撃性能はそんなに高くないのに」

秘所や身体の一部以外、大半の生地が弾け飛んではいるものの、少女の身体は無傷だった。

いや、所々、赤痣になっては居た。だが、その程度だった。


「嘘、だろ・・・」

赤痣、つまり内出血しているということは。それは、少女が機械ではなく人間であることの証明だった。


「あーっ! “装置”が壊れちゃってるっ」

少女が初めて、感情を荒げた。


「へっ、装置って・・・?」

「“重力制御装置”が、壊れちゃってる・・・」

少女は、ベルトの位置に付いていた機械のような物を手に取って、床にペタンと座り込んだ。


「“重力制御装置”だって? へっ、中二病かよっ」

既に仲間が一人、死んでいる状況では煽り文句も大した効果はなかった。


・・・というか、少女はそれ所では無かった。


「うっ・・・う、う、ぐぅ・・・っ!」

少女は突然、蹲り、全身を抱き抱えるようにして苦しみ始めた。


「何だ? 悶え始めたぞ」

「やっぱり、あれだけ銃弾を浴びたんだ。効いてない訳が無かったんだ」

男たちは畳み掛けるのは今だ、と言わんばかりにナイフや銃、さっきは効果が無かったにも関わらず鉄パイプを構えた者も居る。


「おい! 合図したら一気に襲い掛かるぞっ!!」

「せーのっ・・・」


「う、うあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

男たちが襲い掛かる前に、少女が立ち上がり、全身を広げた。


「なっ!!?」

男たちの目の前で、少女が少女で“無くなって行った”。


いや、正確に書くなら、少女の身体が大人のそれになるかのように大きく、成長して行った。


背丈が徐々に伸び、肩幅は真横に広がり。

胸は、一般的な大人の女性と比べても、明らかに大きく膨らみ。

二の腕や太腿は、身体の隆起に合わせて“瘤”が盛り上がり、“彫り”が深くなって行った。


「はぁっ・・・はぁ・・・っ」

全裸に近い半裸で、艶めかしいボディの美女がそこには立っていた。


「で、でけぇ・・・」

それまで、男たちより目線分は小柄だった少女が、いつの間にか男たちより頭一つ分は大きくなっていた。


ボディビルダーというよりは、野生の虎を思わせるように荒々しく、逞しく盛り上がる全身の筋肉。

その風貌は、却って“ターミネーター”を想起させた。


「“こっち”だと、“こう”なっちゃうのね・・・」

唯一変わっていないセミロングの髪を、少女・・・いや、美女はファサッと後ろに流した。

髪を梳いた腕にはモリッと大きな力瘤が盛り上がり、その所作で胸元のメロン大の爆乳はプルンッと揺れた。


「ど、どういうことだ・・・」

「な、何が起こった・・・」

機先を制された形になった男たちは、武器を手にしたまま、女を取り囲んだ状態で固まっている。


もう紛れもなく、目の前の女は機械ではない。それは、間違いない。

だが、じゃあ自分たちと同じ人間かというと、それも怪しくなった。


ものの数秒で、小柄な少女から大柄な美女に身体が成長するなんて話、聞いたことが無い。

科学技術が飛躍的に進歩したと言われる、『2100年』台であっても、だ。


「私。かなり前の話なんだけど、異星人に連れてかれちゃったのよね」

美女は突然、突拍子も無い話を言い出した。


「・・・ちゅ、中二病の次は、宇宙人かよっ」

男たちは目の前の異様な光景に頭が付いて行かず、毒づくのが精一杯だった。


「それじゃあ、やっぱり改造されてるんじゃ・・・」

いわゆる、改造人間。それなら、あの驚異的なパワーと頑丈さも理解出来る。


「改造なんてされてないわよ。言っとくけど、私は生身だから。ただ・・・」

美女は倉庫の端っこに置いてあった、重機にスタスタと歩み寄った。


「こんなのが軽く感じるぐらい・・・」

「・・・っ!?」

「1トン近い重機が・・・」

ズァッと、いとも簡単に重機が持ち上がる。


「・・・連れてかれた先が重かったのよ」

彼女が言うには、地球と比べて重力が十倍はある惑星だったらしい。


それは、“アブダクション(誘拐)”というよりは、不慮の事故だった。

内密に調査目的で訪れた地球外生命体の小型船が、故障で不時着した際、運悪く少女は巻き込まれた。


『惑星間法』に基づき、現地民を死傷させるのは重大な罪であり、放置すれば極刑も免れない。

仕方なく、少女の身体が回復するまで、少女はその異星人の母星に連れて行かれた、という訳だ。


「有機的な処置はされたけど、機械的な処置は一切、施されていないわ」

美女は、自分自身の爪で掌をピッと切り裂いた。ジワッと赤い鮮血が流れ出る。


「向こうの重力に耐えられるように食事、リハビリを受けさせられた。だからか、身体が凄く重くなっちゃった」

地球換算で言うと、1トンを超えるという。


「その“ナリ”で、体重が1トンだとぉ!? 有り得ねぇ」

身長は男たちより大きいとはいえ、2メートルを超える程度。筋肉隆々とはいえ、普通に見積もれば体重は150キロ前後だろう。


「身体はヒトだけど後天的環境が違うって意味では、アナタたちひ弱な人間とは別物かもね」

ヒトとしての組成がどうか、は一先ず置いておくとして。


十倍の重力で生きて行く為には、身体にどれだけの重さが必要だったかは想像に難くない。

食生活、気候。恐らくは地球より進んでいるであろう、科学技術によるリハビリトレーニング。


「重力制御した服を着ていたのは、十分の一の重力環境に戻ってどんな副作用があるかわからなかったからよ」

結果、こうなっちゃったけど、と女は独り言ちた。


「じゃあ、家っていうのは・・・」

「そうよ、私の生家よ。もう無くなっちゃったみたいだけど」

彼女にとっては十数年程度だが、地球での経過時間だけを見れば、数十年どころの話ではなかった。


いわゆる、『ウラシマ効果』だ。


光速を伴う移動は、そうでない側と比較して時間の流れが遅くなる、のだ。

ましてや、彼女が居た惑星と地球の時間の流れが同じとは限らない。重力が異なれば、自転速度も異なる。


「そんな十年以上も前の話なんて、俺らが知る訳ねぇじゃねーかっ!」

「だったら、最初からそう言えば良かったのよ」

彼女の正論に、男たちは何も反論出来ない。


「私が居た星では、『詐欺』『強姦』は重罪なの。即、極刑」

「ひぃっ・・・」

彼女が一歩、男たちに近付く。


「許し・・・・」

「ダーメ♪」

彼女が連れ去られたのは、少女の頃。物心付く前だった。


しかし、連れられた先で、地球以上の科学水準の惑星にて、情操教育を受けた。社会通念なども申し分ない。

だが・・・。


「・・・ぶげ」

彼女は、近くに居た男に拳を振り下ろす。ドグチャ、と男は一瞬で縦に圧し潰された。


セミロングの巨乳筋肉美女が拳を振るう度に、男たちが文字通り、紙切れのように飛んで行く。

体重が十分の一以下の男など、彼女からすれば小石以下の存在なのだ。


十倍以上の差と言っても、体重比の話。筋力差は、十倍どころでは無かった。


「ほぃっ」

軽く小突いただけで、男は数十メートルは吹っ飛んだ。勿論、頭部は無事で済む筈はなく、柘榴のように潰れていた。


1トンオーバーの体重だと、片腕だけでも単純な重さで成人男性の体重より重い。

そこに、十倍の重力下で行動し得る筋力が上乗せされるのだ。只の人間では、喰らえば一溜まりも無い。


「うぐぇ」

人差し指を突き立てるだけで、男の身体に風穴が空く。


「ぶびゃ」

平手を放つだけで男の首は寸断され、その頭部は物凄い速度で射出され、周囲の男たち数人の胴体を貫通した。


美女の一挙手一投足で、一人二人と男たちが屠られて行く。

しかも、当の彼女自身は全くの無傷だった。


何も、一撃すら貰っていないという訳ではない。


勿論、その気になれば全ての攻撃を躱(かわ)し切ることも可能だろう。

だが、機関銃でやっと赤痣が付くという頑丈さを鑑みれば、躱(かわ)すという行動自体が無意味だ。


現に、ナイフだろうが、拳銃だろうが、鉄パイプだろうが。

その場にある何を用いても、彼女の筋肉ボディには傷一つ付かなかった。


「ば、化け物・・・」

残る男たちは、一目散に倉庫の大扉へと駆け出した。敵わないと見るや、逃げの一手を打つしか無いのだ。


「こぉんな可愛い、うら若き乙女のことを“化け物”呼ばわりなんて失礼しちゃう・・・わっ!」

彼女は、その辺に転がっている男たちの死体を無造作に掴むと、大扉目掛けて一気に投げ始めた。


突如始まる、一方的なドッジボール。


「ぐげぇっ!」

ドガァッ!


「うぎゃ!」

ボッガアーン!


ボールは、元は人間だった大人サイズの肉塊。その肉塊ボールが、超高速で男たちを襲った。

男たちが逃げ惑うよりも、美女が投げる肉塊ボールの方が速く、また回転も早かった。


「あら、無くなっちゃった・・・」

美女は、手近に有った死体を全て投げ尽くした頃に、ようやく倉庫の大扉が真っ赤に染まっていることに気付いた。

勿論、その場で動く者など、もう居なかった。


「何だ、もう終わり?」

「死ねぇーーーっ!!」

ギャギャギャギャギャッ!!!


重機が置いてあるのとは逆側の片隅、そこに置かれていたキャデラックが一気に加速し、美女を襲った。


ドガァッ!


「どうだっ! これ、で・・・えっ?」

ギャギャギャッ、と走り出す時と同じようなタイヤの摩耗音が、周囲に響き渡る。


「何、で・・・」

「ハァイ♪」

彼女はヒラヒラと、運転席の男に向かって手を振った。


キャデラックのフロントバンパーは、確かに美女の向こう脛あたりを捉えている。

しかし、キャデラックの巨体は美女一人、轢き殺すどころか、押し返すことすら出来なかった。


「お兄サンで最後、かな?」

「ひぃっ!」

男は、運転席から逃げ出そうにも、既に降りられる状況では無くなっていた。


彼女の両手はフロントバンパーの下に添えられ、キャデラックは宙空高く持ち上げられていた。

重機すら持ち上げる彼女の超筋力をもってすれば当然、この程度は造作もない。


「折角のクラシックカーだし、潰すのは忍びないけど・・・」

そう言いつつも、キャデラックを抱き抱える彼女の両腕が徐々に閉じて行く。


メギッ、メギャッ・・・


フロント部分から徐々に、車体が圧縮されて行く。文字通りの、人間プレス機。


「や、やめ・・・」

男は縦に傾けられた車内を、重力に逆らうように後部座席へと移動する。


「くそっ、開かねぇっ!」

しかし、既に車体全体が拉(ひしゃ)げたせいで、フロントもリアも、ドアは開かなくなっていた。

それはまるで、釘で打ち付けられた棺桶のようでもあった。


「あ、足が・・・うぎゃ」

程なくして、“男ごと”キャデラックはスクラップと化した。


「あーあ、あっちこっちベトベトぉ・・・」

美女の全身は、男たちの返り血で真っ赤に染まっていた。


「どっかでシャワー浴びなきゃ・・・」

そう言って、彼女は施錠された大扉を鍵ごとブチ破ると、夜の街に消えて行った。


社会情勢が悪化した『2100年』台、貧富格差は拡大化し、各地でスラムが発生するに至っていた。

ギャングやマフィアが増加し、凶悪犯罪も激増。毎日のように抗争が発生し、多くの人間が死んでいた。


彼女のようなある意味、異邦人と現地民の衝突など、気に留める者も気付く者も居ないのだった。

Comments

感想ありがとうございます。 地球とは異なる環境でヒトが成長していたら、というIF要素を盛り込んでいます。そこを際立たせる為に敢えて生身に拘りました。

デアカルテ

感想ありがとうございます。 スパガ+筋肉は以前から書きたかったので、書けて良かったです。

デアカルテ

人間重機と言ってもいいレベルの怪力描写が素敵です!

名無しです

異星人の力も有ったとはいえ生身でこの成長っぷりは彼女に素質が有ったのでしょうね… 更新お疲れ様でした。

okita


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