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X型女子05「T型彼女」

「マコちゃん、学校行こー」

制服に身を包んだ女子高生が、一軒家の前でそう呼び掛けていた。


「あーら、浩子ちゃん。おはよう」

一軒家の扉が開くと、中からエプロンをした妙齢の女性が出て来た。


「おはようございます、おばさま」

「相変わらず、今日も大きいわねぇ」

おばさまと呼ばれた女性は、女子高生を“見上げて”そう言った。


「もうっ、“大きい”はヤメて下さいよぉ」

女子高生は、照れながらそう返した。


しかし、その“大きい”という表現が控え目なぐらい、女子高生は余りにも大き過ぎた。


下原浩子、16歳。高校一年生。

身長、256cm。ここ数年で新たに付いた肩書は、『T型女子』。


「ウチの子、まだ寝てるから起こしたげて」

「はいっ」

元気良く答えると、浩子は身を屈めて扉を潜り、二階に向かう。

規格外の巨体ではあるけれど、扉や階段、屋内の壁などに身体をぶつけることは無かった。慣れた所作。


「マコちゃん、いつまで寝てるのー・・・あれ?」

二階に上がり、一番奥の部屋の扉のノブを回そうとすると、抵抗があった。


「何か引っ掛かってんのかな・・・よぃっしょ、と」

バギャッ!!


「・・・あ」

部屋の扉がそのまま突き抜ける形で、外れた。


「うぅ、ん・・・げぇっ!?」

部屋の更に奥のベッドで寝ていた少年が、扉を手に持った巨体に驚く。


「お前、それ・・・っ」

「てへへ、取れちゃった♪」

室内用のドアは2mぐらいの高さがあるのだが、ドアを持ったままでも浩子の膝や顔はそのまま見えていた。

2mのドア程度では覆い隠せない巨体、隠れないぐらいの巨女。


「鍵掛けてたドアを蝶番ごとブチ破るとか・・・どんだけ馬鹿力なんだ」

「あー、馬鹿って言ったーっ」

浩子はプンプン、と怒った仕草をしつつ、少年が寝ているベッドに近付く。

手に持っていたドアをその辺に放り出すと、ベッドの下枠に両手を差し入れた。


「お、おいっ! やめっ・・・うぉぁっ!?」

浩子はスクッと立ち上がると、ベッドがブアッと宙空に浮き上がった。


かなり重量感のあるベッド。恐らく、重さは100kg近い。更に、少年が載ったまま。

下手をすれば150kgを優に超える重量が、いとも簡単に持ち上がった。


「“揺らす”よ? 良いの?」

浩子が持ち上げたベッドに載った状態なので、少年の頭は天井まで後僅かの位置にあった。


「ひぃっ! わ、悪かった。馬鹿力って言ったのは謝るよ」

「うふふ♪ わかればオッケー」

実際、何度か失言をして、“ベッドを揺らされる”ことがあった。


下方向に力が掛かるとフリーフォール。上方向だと天井とサンドイッチ。

浩子としては冗談交じりの折檻なのだが、喰らう方としては堪ったものではない。


「こんなんで、学校では“大人しい”で通ってるなんて、どんだけ猫被ってんだよ」

「何か言った?」

また、ベッドが持ち上がりそうになるのを、少年は何とか誤魔化した。


村田マコト、16歳。浩子と同じ、高校一年生。

浩子とは小中と同じ学校に通った腐れ縁。いわゆる、幼馴染だった。


「さ、学校行くよ。いつまで寝てるの」

浩子が私立巨王学園に通うことなって高校は分かれてしまったが、今でも一緒に登校しているのだ。


「行かない」

しかし、それはマコトがちゃんと学校に通うことが前提でもあった。


「何で? また、苛められたの?」

「・・・・・・・」

マコトは答えなかった。


マコトが通うのは地元の公立高校だった。偏差値的には、中の中。学区内でも、ちょうど真ん中。

その分、通う生徒は玉石混交だった。成績の良い者、運動の出来る者。性格の良い者、素行の悪い者。色々。


学業の成績は普通だが、運動は不得手。更に、人付き合いが苦手。


小学校高学年の時点で身長が190cmあった浩子が傍に居た為、中学卒業までは目立った苛めは無かった。

しかし、学校が完全に別になった今、浩子が目を光らせることが出来ない。


「マコちゃんも、私みたいに猫被れば良いのに」

「僕の方がクラスに合わないだけだから、良いんだ。僕が行かなきゃ済む話なんだから」

ふぅん、と浩子は相槌を打つだけだった。


「わかった。今日はもう行くけど、明日は学校行こうね」

「考えとくよ」

約束だからね、と浩子はマコトの部屋を出た。


「さて、と」

浩子はおもむろにスマホを取り出す。


いや、端末としては、正確に書くならタブレットと呼ぶべき代物だった。

一般的なスマホだと、浩子の手には小さ過ぎて細かいタッチが出来ないのだ。


「これで良し、っと」

メッセージアプリで幾つか入力した後、スマホにしか見えない大きさのタブレットを鞄に仕舞った。


「後は放課後、ね」

浩子は、クラスメイトの美樹どころか、幼馴染のマコトにすら見せたことが無いような表情をしていた。


「ここ、か?」

「また、変な場所で待ち合わせなんだな」

三人ほどの制服の男たちが、路地裏にある誰も使っていないバスケットボールのコートに立っていた。

着崩しては居るが、制服を着ていることからも、男子高校生のようだった。


「お待たせ」

「よぅ。俺らを“紹介”して欲しい、って子は君か・・・いぃっ!?」

またその反応?、と言わんばかりに、浩子は大きな溜め息を付いた。


「そうよ、私がアンタたちを呼んで欲しい、ってお願いしたの」

「で、っけぇ・・・」

「凄ぇ、何cmあるんだ」

男子たちの身長は、170~180cmぐらいだった。学年は不明だが、高校生と考えても体格は良い方だ。

しかし、それでも『T型女子』の浩子と比較すると、大人と子供以下。


「私のことは良いの。それより・・・」

浩子は、男たち三人の顔をそれぞれ確認した。


「アンタたちって山田、鈴木、佐藤、で合ってる?」

「そうだが、お前が呼んだんじゃねーのか」

「紹介して欲しい、って話だったが、顔も知らなかったのかよ」

まるで“点呼”と言わんばかりの浩子の呼び掛けに、男たち三人は怪訝な表情を浮かべる。


「単刀直入に訊くわ。“村田マコト”を苛めてる、ってホント?」

「あぁっ!? 誰がそんなこと言ったよ?」


「ソースは秘密よ。聞いたら直ぐにアンタたちの具体名が出て来たから・・・まあ、間違いないんでしょ?」

「何だ、手前ぇ。ひょっとして、村田の彼女か何か?」


「あら。そう見える?」

浩子は満更でも無い様子。


「こんなデカ女が彼女だなんて、あのチビに不釣り合い過ぎだろ」

ぎゃははは、と残りの二人も嘲笑で同意した。


「アンタたちが“そういう輩”で安心したわ。もし誤解とか間違いだったらどうしようかと思ったけど」

「何だぁ・・・うげ!」

浩子は、一番近くに居た男の顔面を右手で無造作に掴むと、そのまま片手で一気に持ち上げた。


「佐藤っ!」

「あ、コイツが佐藤なんだ」

浩子は三人の名前を知ってはいたものの、誰が誰かは区別が付いていない。


「この野郎! 放しやが・・・うぇ!?」

もう一人が、佐藤を助けようと浩子に襲い掛かろうとしたところ、左手で同じように吊るし上げられた。


「鈴木っ!」

「なるほど、コイツが鈴木なのね。ま、明日には顔忘れてそうだけど」

残る山田が叫ぶのを尻目に、浩子は二人の男子高校生を宙吊りにしてブラブラさせていた。


浩子は身長が256cmあるので、肩の高さがだいたい220cm近い。

両腕を肩の高さに持って行くだけで、男たちの足は地面から50cm近く浮き上がることになる。


「ぐ、くそ・・・・」

「はな、せ・・・」

鈴木も佐藤も、決して無抵抗という訳ではなかった。ただ、何をやっても、浩子に届かないのだ。

バタバタさせている足は地面から浮いているし、蹴りを放っても浩子の身体には到底届かない。


余りにも、リーチが違い過ぎるのだ。フリーになっている両腕も、同様だった。

せいぜい、掴まれている浩子の大きな手を、何とかして引き剥がそうとするのが関の山だった。


「きゃ。くすぐったい」

男たちが殴ろうが、両手で目一杯力を入れようが、浩子にとっては小動物がじゃれている程度にしか感じなかった。


しかし。


ガリッ。


「痛っ」

鈴木の“爪”が、たまたま浩子の手の甲の皮膚を引っ掻いた。


「ちょっと。乙女の柔肌に傷が付いたらどうしてくれるの!?」

努めて冷静だった浩子の表情に、青筋が浮かぶ。


ギリ、ギリギリッ。


浩子の両手の甲に、血管が浮かぶ。


今まで、“ただ持っているだけ”で男たちの抵抗を物ともしなかった浩子の両手。

それ程の握力を持つ両手に、“力が籠められている”のは明らかだった。


「ぎゃあ、あぁぁっ!」

「うがあぁぁっ!」

鈴木と佐藤の、苦悶の絶叫。


メキ、メキッと浩子の大きな手が、指が男二人の顔にどんどん食い込んで行く。


「この野郎っ! 二人を放しやがれっ」

山田が居ても立っても居られず、浩子に殴り掛かる。


・・・いや、殴り掛かろうとしたのだが、山田の拳は浩子に触れることすら出来なかった。


ドガァッ!


「ぐぇっ!!」

浩子の特大のローファーの靴底が、山田の顔面にヒットしていた。


浩子としては、単に足を上げただけ、でしか無いのだが。

巨躯による純粋な脚力のせいか、まるでラガーマンのタックルを喰らったかのように、山田は後ろに吹っ飛んだ。


「もうっ、顔は殴るつもり無かったのにぃ・・・。あ、殴ってないから良いのか」

もし、浩子の言わんとしている意図が“目立つ箇所に傷を付けない”という意味であれば、蹴ってもダメだろう。


「ねぇ、顔は殴らないからさ、お腹蹴って良い?」

「・・・へ? うごぉっ!?」

手始めに、と右手に持ったままの佐藤の土手っ腹に、器用に折り畳まれた浩子の膝蹴りがヒットした。


「次は・・・」

「ひぃっ・・・やめ、ごぉぁっ!?」

流れるように、今度は鈴木の腹に膝がヒット。


「何で、こんなこと・・・」

「え、何でって? そんなこと聞いちゃう?」

浩子は朝、寝間着の隙間から見えたマコトのお腹に“痣”があるのを見逃さなかった。

一つや二つどころではない、明らかに殴られ、蹴られたような、“痣”。


しかし、マコトの顔は綺麗なままで、傷一つ無かった。明確な意思で、苛められているという証拠。


「抵抗出来ない相手のお腹って、殴って良いんでしょ?」

「う・・・」

因果応報。浩子が言いたいのは、そういうことだった。


「まあ、もし仮に顔に傷が付いちゃったとしても・・・」

浩子は、両手の二人や、吹っ飛んでノビている山田を見遣る。


「女子一人に、大の男三人がボコられた、なんて言えないよねぇ・・・くすくす♪」

「・・・・・」

その“女子一人”に、身長差70cm以上、体重は男三人分はあろうかという巨女が含まれるのか、と男二人は内心思った。

しかし、口に出すことはしなかった。


交互に腹蹴りを喰らわされ、意識朦朧としているのもあるが、もし口を滑らせば、どうなるか。

万力のような浩子の大きな手に、もし渾身の力を籠められれば、自分たちの頭なんて柘榴のようにグシャッと潰れてしまう。

浩子にその気がなくとも、勢いで軽くそうヤれてしまう、ぐらいの力の差を男たちは感じ取っていた。


この後、数十分に渡り蹴られ続けた後、男たち泣きながら土下座をして何とか許しを請うた。


『T型女子』を敵に回してはいけない。


『T型女子』という単語と共に、この鉄則を犯すべからず、と心に刻んだのだった。

Comments

感想ありがとうございます。 学校以外の脇の描写もどんどん入れて行ければ良いと思っています。

デアカルテ

どんどん成長する浩子ちゃんの側で居られるマコト君が羨ましすぎます。 幼馴染には優しいのに、いじめた相手には残酷で最高です。 更新お疲れ様でした。

okita


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