新説・八尺様
Added 2021-07-21 07:32:47 +0000 UTC「これ面白そうじゃん、行ってみようぜ」
切っ掛けは、そんな単純な言葉だった。
暑さに負け、涼みに入ったコンビニでふと見掛けたゴシップ雑誌。
身体ではなく、精神から涼しくしようという特集。いわゆる、お化けやら妖怪やら、が載っていた。
“八尺様”。
身の丈、八尺。つまりは、240cmもある大女。巨女。
白い帽子に白いワンピースがトレードマークの女妖怪。人語は解さないのか「ぽ」としか発さず、魅入った人間を取り殺してしまうという伝承。
雑誌にはご丁寧に、各地の伝承とその土地まで載せてある。男数人、暇を持て余して宛も無く車でドライブしていたところ、降って湧いた目的地って訳だ。
「幾ら俺らが女日照りだからって、何も妖怪にまで女求めなくても」
「ばっか、ちっげーよ」
たまの休みに男同士でツルむぐらいだ。当然、ここには彼女持ちなんて裏切り者は居ない。
「ここからは競争な。誰が八尺様を見付けるか、勝負だ」
現地に着くなり、運転手をしていた佐藤がそう切り出した。
「じゃあ、見付けられなかった奴は“飯奢り”な」
男数人、仲間内の賭け事としては、飯を奢るぐらいは可愛いモノだ。
だが。
飯の替わりに賭けた“モノ”が、本当に釣り合っているのか。この時の俺たちは知る由も無かった。
「うわぁ・・・何だ、この草むら」
佐藤は、鬱蒼と生い茂る草むらを探索していた。
限界集落の果てに誰も居なくなった村らしく、人の手が入らず、草も木も生え放題。
「ぽ」
「・・・?」
草むらを掻き分ける音に紛れるように、音とも声とも判別が付かない何か、が佐藤の耳に入った。
「気のせい、か?」
佐藤は、辺りを見回す。元は一面、畑だったのか只ひたすらに続く草むら。
「ぽぽ」
「・・・っ!?」
佐藤は一瞬で、自身が置かれている異変に気付く。
辺りは一面の、草むら。建物や樹木は存在しない。なのに、何故。
俺は影の中に居るんだろうか。しかも、この影は・・・。
「まさ、かな・・・」
影はヒトの形を模していた。頭と思われる部分は、帽子のツバの影。
「・・・っ。何だ」
佐藤は、安堵した。
振り返るまで、背後に"噂の妖怪”が居るものだとばかり思った。
しかし、振り返った後ろに居たのは、見目麗しい若い美女だった。
長い黒髪に切れ長の瞳。薄く紅を塗った小さな唇。ただの女、ではない。端正に整った容姿の、絶世の美女。
身体も、白い布地をドンッと膨らませる巨乳。纏っているのがワンピースであるにも関わらず、キュッと縊れたウェストが艶めかしいボディラインを形成していた。
「お姉さん。この村の住人の方ですか?」
「・・・・・」
美女は、ニッコリと笑うだけで答えない。
「こんなこと言っちゃうと失礼かもですが、背が高いですね・・・」
白ワンピースの美女は、佐藤を覆う影を作り出すぐらいに、背が高かった。
ちょっと高身長な女子、レベルでは決して無い。
佐藤は一般的な成人男子ぐらいの身長はあるのだが、その佐藤の目線が美女の胸元の下あたりに来るのだ。
「でも、何ていうか・・・凄く綺麗、ですね。ホントに、お美しい・・・」
「ぽ」
「ぽ?」
佐藤は美女の発声を反芻した。
てっきり、自分の褒め言葉に対して、惚れた的な意味合いをワザと言葉に出した、なんて都合の良い解釈をしていた。
「俺・・・いや、俺らはこの辺を探索してまして、もし良かったら案内してくれると嬉しいなぁ、と」
あわよくば、お近付きになれれば、なんて下心があった。それが、佐藤の判断を鈍らせた。
「ぽぽ」
「オーケーってことですね」
美女は『はい』というニュアンスでそう答えた、かどうかはわからない。しかし、佐藤は、その『ぽぽ』という謎の言葉での返事を、了承と受け取った。
「ぽぽぽ」
「・・・? どうしました?」
美女はニッコリと笑うと、佐藤に手を伸ばして来た。
超高身長ゆえか、余りに長い美女の両腕は、佐藤が反応するより早く、佐藤の両脇を抱え込んでいた。
「え?」
佐藤は、ヒョイッと一瞬で宙空に持ち上げられた。
「お姉さん、力強いんですね」
佐藤は一般男子で特に痩せ型という訳でもなく、中肉中背。体重もそれなりにある。
勿論、成人してから誰かに身体ごと持ち上げられた経験なんてものは無い。
しかし今、佐藤は完全に持ち上げられていた。ちょっと浮いた、程度ではなく。
美女の顔と佐藤の顔が正対していた。佐藤の足は、地面から70cm近く浮いていることになる。
「ぽぽ・・・ぽっ」
「・・・んぐぅっ!?」
美女はおもむろに、佐藤の唇を奪った。
ギリ・・・ギリギリッ
「・・・ぐ」
メキッ、メキメキッ・・・
佐藤を抱き締める美女の腕に、力が籠る。既にゼロ距離である筈の佐藤と美女の間の空間が、更に狭まって行く。
佐藤の上半身全面は、美女の巨乳がクッションとなり、心地良い感触を味わっていた。
しかし、背中は女性の・・・いや、ヒトのモノとは思えないような強烈な力が掛かっていた。
「やめ、ぐぼ!?」
佐藤の口に、美女の舌が挿入された。
二人の首から上だけを見ていれば、恋人同士の仲睦まじい様子に見えただろうか。
しかし、首から下は美女の両腕が佐藤の上半身を圧し潰し、拉げさせて行く異様な光景になっていた。
「;@。?<」
佐藤は、余りの激痛に叫び声を上げたいのだが、美女の舌技がそれをさせなかった。
メギ・・・メギギギィ、ボギャッ!!
「p@~pJ;@~~っ!!!」
断末魔と共に、佐藤の美女の両腕を支点にして、真っ二つに折れていた。
「あいつら、何処まで行ったんだ・・・」
佐藤や田中と別れてから、小一時間は経っただろうか。
俺は、廃屋を見付けたので、そこを起点に探索していた。
そこで気付いたのだが、人が居ない村だからか、電灯の類が無い。また、周りは森や山なので、昼間でも太陽が傾いて来ると既に薄暗くなっている箇所も多い。早めに切り上げて引き上げないと、暗くなってからでは遭難の恐れがあるのだ。
「・・・・・?」
今、何か見えた気がした。気のせい、だろうか。
「・・・っ!?」
いや、気のせいじゃない。
潰れた廃屋。人が居なくなった、家。田舎だからか、平屋なので二階は無いとはいえ、一端の家。
にも関わらず、屋根の上に人の顔が見えるのだ。
空を飛んでいる? いや、そんなフワフワした感じには見えない。
俺はここが、人生の岐路だったと、後から気付いた。ここで選択肢を誤らなければ、助かったかも知れない。
しかし、俺は恐怖心と好奇心を天秤に掛け、好奇心を選び取ってしまった。
確か、『好奇心は猫を殺す』という諺があった筈。それを思い出していれば、或いは・・・。
「ぽぽぽ」
廃屋の反対側に回り込んだ俺を、美女はニッコリと笑いながら迎えてくれた。
「で、っけぇ・・・」
背が高い、なんてレベルではなく。最早、巨人と言っても差し支えないだろう。
「八尺なんてもんじゃない。九・・・いや、十尺はあるんじゃないのか」
300cm、3メートル。屋根より高い、八尺様。
何で、俺が一発で八尺様だと気付いたか、だって?
そりゃ、勿論。美女が両腕に佐藤と田中を抱えていたからだ。
大の男をそれぞれ、片手で抱え上げる膂力も然ることながら。
二人の男は、身体を真っ二つに折られ、既に事切れていたからだ。
「ははっ、噂より背が高過ぎだろ・・・」
俺は友人二人が死んだ事実や、恐怖なんてものを感じ余裕が無かった。
某漫画の主人公が巨人という圧倒的存在と相対した時の気持ち、それがこれなんだ、と俺は勝手に思っていた。
「ぽぽ・・・」
美女は、佐藤と田中の亡骸を地面にドサッと落とすと、おもむろに俺に近付いて来る。
伊達に、身長3メートルを有していない。歩幅が凄まじく大きく、あっという間に俺と美女の距離は詰められた。
逃げる気は、俺には無かった。もし逃げるのであれば、屋根越しに見付かった先刻のタイミングが最初で最後のチャンス。
しかし、俺は目の前の美女に、既に魅入られていた。
艶やかな黒髪、美しい相貌。胸は大きく、腰はキュッと縊れて。紛うことの無い、絶世の美女。
蛇に睨まれた蛙ではなく、巨美女に見詰められた小男。表現するなら、そんな感じだろう。
身長160cmの俺が小男にカテゴライズされるぐらい、巨美女と俺の体格差は激しかった。
抱き抱えられ、顔の高さが合うように持ち上げられ。そこから更に、抱き寄せられた。余りの体格差からか、俺の上半身は美女のたわわな巨乳に無理矢理ドッキング。
バランス的には細腕だが、明らかに俺の二倍はあろうかという太腕で、俺の身体はロック。
「んぅっ!?」
トロンとした目で、美女は俺に唇を合わせて来た。
恐らく、他の二人にも同じ手順を踏んだのだろう。いや、もしかしたら、俺ら以外にも同じ目に遭遇した者が居た、のかも知れない。
メキ、メギィッ・・・
背中に回された美女の両腕に、力が籠る。
そうか、そういうことだったのか。
俺は唇と美女の胸の快感、背中の激痛。その二つを同時に味わいながら、とある考えに至っていた。
もしかしたら、『八尺様』は元は普通の女妖怪だったのではないだろうか。普通の人間と変わらない風貌の美女で。
ただ、そこは妖怪なのか、栄養の摂取方法は男の生気であり、精気。生命力。
そうして、男たちの精気を過剰摂取したことで、七尺になり、八尺になり。
たまたま、八尺の時に人に見られ、且つ目撃者が生還したことで噂になった、のではないかと。
恐らく、佐藤か田中か、どちらかが最初に遭遇した時は八尺しか無かったのでは無かろうか。だが、それを確かめる術はもう、俺には無い。
佐藤や田中とは違い、上半身を完全に潰される形で、俺は意識を失ったのだった。
Comments
感想ありがとうございます。 元々がネット上の与太話なので、変化して行くのもアリだと思っています。
デアカルテ
2021-07-26 06:53:43 +0000 UTC更新お疲れ様です。 時代とともに妖怪もどんどん成長していくの最高です。
okita
2021-07-22 10:11:54 +0000 UTC