「でも何で、腕が太くなったんだろ・・・」
帰宅して直ぐ、先ずは上腕を測ってみる。
「・・・60cm」
昨日は確か、59cmだっけか。差は、たったの1cm。
これだと、誤差の範囲と言えなくもない。
「じゃあ、太腿は・・・え、135cm!?」
力瘤周りと同じく、4cmものサイズアップ。
「うそ、じゃあ・・・げ。じゃあ、こっちも・・・」
私は慌てて、測れるだけ身体サイズを測り捲った。何か最近、身体測定ばっかりしてる気がする。
「うそ、でしょ・・・」
誤差の範囲と思える個所もあったが。決定打は、体重だった。
体重、プラス7kg。
流石に、昨日から今日までの間に7kgもの食事はしていない。
“この身体”になってから、食事は増えたことは増えた。
でもそれは、あくまで常識の範囲内。世間一般的にも、大食い程にはなっていない。
「だとすれば・・・」
考えられる要因はもう、一つだけ。私は更に慌てて、『DQ』を起動する。
「何で、上がってるの・・・」
レベルが一つ、上がっていた。
昨日までは『レベル75』だったのが、いつの間にか『レベル76』になっている。
「いや、でも・・・」
フレンド枠で借りられて。その結果、私のアバターのレベルが上がっちゃった。
きっと、そうに違いない。むしろ、そう考える方が自然だ。
「・・・・・」
だけど、どうしても拭い切れない可能性。頭を過ぎる、嫌な予感。
「・・・試せば、良いだけだよね」
頭の中、理性的な判断としては、“やらない方が良い”。
このまま知らない振りをして、“そっとしておく”べき。
だけど、ゲーマーのサガなのか。昨日味わった“恍惚感”が忘れられないのか。
「・・・・・ふぅ」
頭の中には色んな考えが渦巻いているのに、身体はいつの間にか車庫の前に立っていた。
無意識の内に、タンクトップと短パンへの着替えまで済ませてしまっている。
グァンッ、グァンッ。ギュギュ。
「・・・ん、ぅっ」
昨日と同じように、既に慣れた手付きで私は車の下に潜り込んで行く。
「ふ、ぅんっ」
車体の重量が自分に掛かって来る度に、負荷を受けた筋肉が反応し、躍動する。
貧弱な頃には全くの未経験だった、限界に抗うかのような筋力の開放。
グァンッ、グァァンッ。ギュギュギュゥッ。
私の太腿が擦れ合う音と、揺らされる車体が撓む音が、絡み合う。
女子高生がほぼ半裸の状態で、自動車をリフトアップしている、という異様な光景。
もし誰かに目撃でもされれば、通報されてもおかしくない。
「んぅ、ん・・・」
私は今まで、自分を“慰めた”経験は無い。興味もなかった。
だけど、もしかしたら、これがその代替行為なのかも知れない、と思った。
――次の日。
昨日と同じタイミングでの、身体測定。
「やっぱり・・・っ」
増えてる。ってか、私の身体は一晩でまた、大きくなっていた。
因みに、前は出来なかったけど、今は自分一人で力瘤周りを測ることが出来る。
やり方は、簡単。
「んっ」
肩の高さで右腕を曲げ、思いっ切り力を籠める。
モリモリモゴゴォッ!!
と、スイカと見紛う超特大の力瘤が肩と前腕の隙間を埋めるぐらいに盛り上がり。
そうすると、曲げた右手が力瘤の山頂部に届くので、そこで巻尺の端を抑え。
後は、空いた左手で巻尺を一周させるって寸法。
128cmなんていう、訳のわからないサイズの力瘤だからこそ出来る芸当。
太腿なんて、ヒップ145cmに対して138cmもあるから、大腿四頭筋が隆起してると真っ直ぐ立てない。
自動車挙げをやった直後のパンプアップ状態だと、もうホントに凄い状態。
二の腕が太過ぎて気を付け姿勢が出来ずに『ハの字』に腕が広がるし。
太腿も、太っと過ぎてこれまた『ハの字』に両足を広げないと立てないのだ。
バストサイズも、『レベル75』の時は『Mカップ』だったのに、いつの間にか『Nカップ』になってる。
両乳房で4kgオーバーという超重量バストにも関わらず、肩凝りとは無縁なのは筋力の成せる技か。
ただ、カップサイズのアップは、単に筋力トレーニングで筋肉量が上がった、では説明が付かない。
「“これ”は・・・。そっか、そうなんだ・・・」
『レベル75』『レベル76』『レベル77』という、レベル一刻みでパラメータを見たからこそ、気付いた。
“現実の負荷が、経験値としてゲームのレベルの反映”されてるんだ・・・。
一度、『100』になってから長らく、微動だにしなかったパラメータがある。
【つながり】だ。今見たら、【つながり:102】ってなってる。
確か覚えてる限りだと、レベル50超えた辺りでつながりは【100】から上がらなくなった。
レベルが70を超えても【100】のままだったから、てっきり【100】で“カンスト”なんだと思ってた。
いや、ゲームでのパラメータが現実の身体に『100%』反映されるって意味では、【100】で“カンスト”は合ってる。
だけど、昨日と今日で私は今までやって来なかった、“身体に負荷を掛ける”って行為をした。
つまり、私は“現実の自分の身体に経験を積ませた”のだ。
今まではゲームから現実への一方向だけだったのが、私は現実からゲームへの逆方向も通じちゃった。
“力の扉が開いた”って表現は、あながち間違いじゃなかったってことになる。
「・・・なーんだ」
ふむ、と私は心の中で一人、納得した。
じゃあ、“やらなきゃ良いだけ”なんだ、と。
ゲーム内ではフレンド機能があるので、自分がプレイしなくても、勝手にレベルが上がってしまう。
だけど、現実世界の自分の身体である以上、何もしなければ経験値も糞も無い。
ましてや、“自動車挙げ”という、女子高生どころか人間技ですらないい所業なんて、やろうとする方がおかしい。
・・・そう、おかしい。その筈、なんだけど・・・。
「・・・・・」
万年帰宅部で、陰キャだったこれまでの私。
いわゆる、“エッチ”な事への興味も無かった訳じゃないし、そういった知識が全く無い訳でもない。
だけど、生きてく上での“欲”は、どっちかというとゲームとかで満たされていた。
「んぅっ・・・んっ」
ギシッ・・・ギシッ、と車体が撓(たわ)む。
考え事をしていた筈が、いつの間にかタンクトップと短パン姿になり、セダンの下に入り込んでいた。
三日連続の、“自動車スクワット”。
「でも、“こっち”の方が安全・・・っ、だしっ・・・」
私はそんな、“言い訳”を独り言ちながら、セダンの大きな車体を挙げ下げしている。
『DQ』の新大陸の敵は強く、恐る恐るだとなかなか先に進めない。
ソロ攻略縛りを始めたことからも、常に死の恐怖が付き纏う。
しかし、だ。
現実世界でレベルアップ出来るなら、安全な事この上ないのだ。
「ふぅっ・・・」
ヤバ・・・“イイ”かも。
何だかんだ、理由を付けても結局はこれが本音だった。
“自動車挙げ”自体、決して安全という訳ではない。1トンを超える超重量を、もし、誤って自分の身体に落としてしまったら。
殺されるという心配が無いだけで、片手で持てない物を持ち上げてる以上、どうしたって事故は起こり得る。
今の筋肉モリモリな体型ですら、車の下敷きになって無事で済む保証はない。
「・・・うんぅっ」
やっぱり、キモチイイ・・・かも。
今まで味わったことのなかった、運動の喜び。身体を苛める、悦び。
レベルを上げて敵を倒す。それを、現実世界で身体そのもので体験している実感。
端から見れば異様な、常軌を逸した危険なウェイトトレーニング。
しかし、私の全身の筋肉は、そこに快感を見出してしまった。
「運動って、こんなに“イイ”ものだったのね」
負荷に反応し、筋肉がそれに負けじとパンプアップする。ギュギュッと、筋肉同士が擦れ合う音すら、心地良い。
「バレーボール部のお誘いって、まだ大丈夫かな・・・」
私は生まれて初めて、自分からスポーツをしたいと思ったのだった。
デアカルテ
2021-08-14 01:00:47 +0000 UTCokita
2021-08-10 03:03:05 +0000 UTC