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悪魔のアプリLv20「記録:35m」

体験入部シリーズ、その3。


ウェイトリフティング部では、410kgのバーベルを“片手”で持ち上げ。

バレーボール部では、スパイクでボールを破砕し、サーブではネットをブチ抜いてしまった。


純粋なパワー種目だと超怪力で軽く世界記録、球技だとその力加減が上手く行かず。

でも、私の身体目当て・・・って、こう書くと卑猥に聞こえるけど、まだ他にも勧誘があった部活はある。


ここまで来たら毒を食らわば皿まで、ってことで。


今回は、陸上部。


陸上競技においても、筋力は重要な要素。

倫理的にもルール的にもアウトだが、ドーピングする者は後を絶たないぐらいで。


球技と比較しても、身体能力ありきな種目だからこそ、私に白羽の矢が立った・・・のかな。


「改めて見るけど、何て言うか・・・」

「ホント・・・凄いね」

クラスメイト以外の同級生だったり先輩とかは、私の超絶筋肉ボディを間近で見ると皆、驚く。

いわゆる、『噂には聞くけど、どうせ誇張でしょ?』という先入観の遥か上を行ってしまう。


「あ、はは・・・」

これでも、今日の私は比較的目立たない格好をしている・・・つもり。


バレー部の時に、筋肉の隆起で丈夫なユニフォームを破いてしまった反省を踏まえ。

特注して漸く届いた、【9XL】という超ビッグサイズの体操服を着ているのだ。



一般人の体型に、アメフトのプロテクターを装着したかのような上半身の筋肉群。

その前面の厚みのある大胸筋に載っかる形でドンッと出張った、メロンサイズのMカップ爆乳。


女バレ主将(身長184cm)よりも大きな胸回りを納めるには、【9XL】というトンデモサイズが必要だった。

【9XL】の想定胸回りは何と、191cm。3cmも余裕あるから大丈夫、なんて思ってたんだけど・・・。


「腹筋、触って良い?」

「あ、はい」

半ば、初対面の人の恒例行事になりつつある、腹筋のお触り会。


余裕を持って買った筈の体操服は、バレー部ユニフォームと同様に腹筋を納めるには至らなかった。

【9XL】という特大サイズは、私の身体の厚みを納めるには何とか足りていた。

だけど、“丈”が足りなかったのだ。【9XL】の推奨身長は残念ながら、220cmまでだった。


「その脚も凄いけど、タイムはどのぐらいなの?」

「まだ、測ったことないです」

実際、高校に入学してから体力測定はまだ実施されていない。

どの時期に実施するかは学校によってマチマチだけど、ウチの学校はまだ。


「中学の時はどうだったの?」

「えーっと、確か・・・10秒ぐらいです」

勿論、50m走の話。今、先輩が私に試走させようとしてるのは、100m走。


「ふぅん・・・ま、何事もお試しってことで。もし、体力的に辛かったら途中で止まっても良いから」

「はい」

私自身、生まれてこの方、100mを全力で走った経験は皆無。当然、この身体になってからも。


「用意、ドンッ」

「んッ!」

クラウチングではなく、徒競走の立った構えから私は一気にスタートを切った。


「すごっ・・・」

私の右足が、ズガァッ!とスタート付近のグラウンドの土を大きく削り取る。


ダッダッダッダッダ・・・


「・・・はぁっ!」

「嘘・・・はやっ」

私は真面目に、全力で100mを走り切った。


「はぁ、はぁっ・・・」

慣れない距離を全力疾走で、私はヘトヘト。


「え、ちょ、これ・・・」

「どうだった・・・え!?」

ストップウォッチでタイム計測をしていた部員に、部長が確認に寄って来た。


「12秒49・・・」

「「「・・・っ!!?」」」

呟かれたタイムに、部員全員が騒然となる。


「そんなに、凄いタイムなんですか・・・?」

陸上競技の記録にトンと興味も知識も無い私は、そんな質問をしてしまう。


「ウチの部のベスト記録が、12秒台って言えばわかる?」

「・・・え、嘘」

100m走って確か、世界記録は9秒台とかだった筈。それと比べれば・・・。


「もしかして、世界記録と比べて遅いから“そんなもの”・・・程度に思ってる?」

「あ、はい・・・」

そもそも、運動音痴で帰宅部になった人種の私。高校生の記録とかは、全く予備知識なし。


「言っとくけど・・・」

私は部長から、訥々(とつとつ)と説明を受けた。

そもそも、私が頭に思い浮かべる世界記録9秒台は、男子のモノだ。


<カテゴリ別最高記録>

世界記録 男子:09秒58 女子:10秒49

日本記録 男子:09秒95 女子:11秒21

高校記録 男子:10秒01 女子:11秒43


クラウチングスタートすら出来ない短距離走の素人が、女子の記録に肉薄するタイムを叩き出したのだ。


「マグレじゃ・・・」

「アナタの筋肉にマグレなんて、あるの?」

部長は、モリモリッと大きく膨れ上がった私の太腿を指して言った。

いつの間にかパンプアップしちゃったようで、歩く度にギュギュッと筋肉の擦れる音がする。


火事に追われている訳でも、車に轢かれそうになった訳でもない。

いわゆる、火事場の馬鹿力とか言ったような、突発的なモノでは無かった。


現に、何度かタイムを採り直したが、1秒も誤差は無かった。

ただ、疲れと太腿のパンプアップによる走り難さで、走る度にタイム自体は落ちてはいる。


「でも、そんなに凄いんですか?」

私からすると、高校生レベル。バーベルを挙げれば世界記録な私の筋力も、走れば普通、と思ってしまう。


「こう言っちゃ何だけど、アナタの体重がもし普通だったらどうなるか、って思ってしまうわ」

「・・・あ」

暗に重い、って言われたことは脇に置いておいて。


男子の世界記録保持者の体重は、90kg少し。同クラスで軽い者だと、70kg後半。

女子の世界記録保持者だと、60kg前後。


自動車レースのマシンに例えれば。エンジンパワーが同じなら、車体が軽い方が速い理屈。

逆に言えば、タイムが同じなら重量が重いほど、パワーは凄いってことになる。


247kgの超重量ボディを、100m12秒で走らせることが出来る超脚力。

尤も、瞬発力の源になる速筋(白筋)は筋肥大の影響を受けるので、体重が減ればその分、出力は落ちる。


でも、『DQ』の仕様上、“そうはならない”ことは私自身が良くわかっている。

幸か不幸か、走る競技においては私が世界記録を出すことは無さそう。


「その筋肉、見た目通りどころか、見た目以上ね。・・・となると」

部長が、今度は私の腕にロックオンしたのが視線でわかった。


【9XL】の体操服の袖から伸びる、62cmの上腕。袖回りは70cmとかなり大きく、太腿と比べて袖は余裕ある。

138cmの超極太腿と比べると、二の腕は半分ぐらいの太さ。ただ、それも“素の太さ”での話。


「力瘤、どのぐらいあるの?」

見せてみて、という視線。


「え、っと・・・」

私は慌てて、体操服の袖を肩まで腕捲り。某サッカー漫画のストライカーみたいに、両肩に袖の団子が出来る。


「腕、凄いね・・・」

私としては、まだ腕を捲って肩口から腕全体が露わになっただけ。


それでも、バレーボールのように大きく盛り上がる三角筋、そこから更に大きくバスケットボールのように膨らむ上腕。

感覚がおかしくなっちゃってるけど、62cmの上腕は充分、太い。一流のボディビルダー並。


「・・・んっ」

私はゆっくりと、袖をはち切れさせないよう注意しながら、力を籠めながら腕を折り曲げる。


グググッ・・・モリモリ、モゴォッ!


「うぇっ!?」

傍で見ていた先輩が、素っ頓狂な声を上げた。

ダランと伸ばしていただけでバスケットボールぐらいあった上腕は今、二倍以上に膨れ上がっていた。


上腕二頭筋が、それだけでバレーボールサイズの盛り上がりを見せ。

更に、上腕三頭筋は腕の後ろに元々のバスケットボールそのままの隆起を見せていた。


「嘘、ナニコレ」

「ちょ、硬っ」

さわさわ、と陸上部員たちが私の腕を触り捲っている。


「二頭筋も凄いけど、それ以上に三頭筋がヤバい」

先輩いわく、大事なのは主に大胸筋、三角筋、上腕三頭筋、大腿四頭筋らしい。


「“これ”、投げてみて欲しいんだよね。手本見せるから」

そう言って、先輩は白線で引かれた円の中に入って、鉄球を肩に載せるようにして構えた。


「えいっ」

と先輩は、肩に構えた鉄球を一気に放り投げた。


いわゆる、砲丸投げ。ドスンッ、と『15』と書かれたラインの手前に砲丸は着地した。

走るより、投げ。投擲競技なら、私のパワーなら凄いことになる、との判断。


「一応、気を付けてね」

「はい」

私は先輩から、砲丸を受け取った。高校女子の砲丸は、直径10cm弱で重さは4kg。


陸上部の先輩が持つと、手の平一杯で何とか持てる感じ。テニスボールより二回りぐらい大きい。

だけど、今の私の手の大きさだと、それこそテニスボールみたくスッポリと手に収まった。


先輩が“一応”と付け加えたのは、私の腕の太さや手の大きさを見てのことだろう。

勿論、自動車を持ち上げる私の腕力だと、4kgの鉄球なんて紙風船同然。


「確かに、気を付けないと・・・」

私は、“握り潰さない”よう恐る恐る手に取った。


「どんなフォームで投げても良いけど、肩を外さないようにね」

普通の人にとっては、4kgの砲丸はかなりの重さ。肩に、変に力が掛かると関節が外れる恐れがある。


「わ、わかりました」

私にとっては、そんな心配は全く無いんだけど、敢えて先輩に合わせる形で構える。


肩の上に、砲丸を持った手を持って来て、後は一気にグラウンド目掛けて・・・


「・・・あ」

私は、先輩のフォームを真似出来ていないポイントに気付いた。


手、だ。


先輩は砲丸に対して、手の平に載せる形で持っていた。

だけど、私にとってはテニスボールなので、軽くとは言え野球ボールみたいに握り込んでしまっていたのだ。


「やべ・・・えぃやっ!」

私は慌てて、“渾身の力”を籠めて砲丸を突き放した。


スガガガッッ!! ズゴォッ!!!


「「「・・・え」」」

陸上部員たちは、“有り得ない”光景に一瞬、手が止まってしまう。

砲丸は、5mあたりに引かれた白線の“中”に埋まっていた。


「・・・あれ?」

砲丸を持った私の右手は、開くのが遅過ぎたのだ。


前方斜め下に向けて射出された砲丸は、グラウンドを削りながら地面に埋まってしまったのだ。

例えるなら、地上に堕ちた隕石のように。もしくは、地上を走っていた地下鉄が地下に潜るように。


「ちょ、これ・・・抜けないんだけど」

砲丸は完全に地面に埋まってしまい、取り出せなくなってしまっていた。


「あ、私やります」

私はおもむろに、砲丸が埋まっている辺りの地面に広げた手の平を当て。

グラウンドの土ごと、ズボォッと砲丸を引き抜いた。


「・・・あ」

「どうしたの? ・・・え」

私の手の平の砲丸を見て、先輩はまたしても驚きに声を上げた。


「え、嘘」

「これ・・・どうやったら“こう”なるの」

先輩たちが、“砲丸だったモノ”を見てざわ付いている。


「あ、はは・・・」

砲丸は二回りぐらい小さくなり、テニスボール大に圧縮されていた。

勿論、手形付き。投げる前までは普通の砲丸だったので、私が握り潰したのは間違いない。


問題なのは、“いつ握り潰したか、わからない”ということ。

投げた瞬間なのか、埋まっていたのを引き抜いた瞬間なのか。全く、“その感覚”が無い。


「握力、幾つあるの?」

「わ、わかりません」

私は敢えて、惚(とぼ)けてお茶を濁した。


203cm159kgの頃、『No.4』のハンドグリップを握り潰して以来、握力は測っていない。

今の私は、228cm247kg。その頃と比較して身長で25cm、体重は90kg近くもサイズアップしてる。

握力が今、何kgあるのか。正確な数値がわからないのは確かなのだ。


その後、下手投げで恐る恐る投げたら、35mの記録を叩き出した。

因みに、男子砲丸投げの世界記録が23mちょい。


「変に手首(スナップ)が利いちゃった、のかな・・・はは」

実際の男子砲丸投げは16ポンド(7.26kg)の砲丸を使うので、女子より重い。

・・・が、そんなレベルの話じゃないのは、陸上部の全員が肌で感じ取っていた。


多分、高校生レベルでの好記録を期待してたんだと、思う。

でも、蓋を開けて出て来たのは、高校生どころか人間を超越したかのような結果の数々。


「アナタのパワーを、陸上競技っていう枠に嵌めるのは無理みたい」

何処かで聞いた台詞を、私はまた貰うハメになってしまった。

悪魔のアプリLv20「記録:35m」

Comments

感想ありがとうございます。 技術的には下手糞なのに記録は・・・なギャップが表現出来ていれば幸いです。

デアカルテ

更新お疲れ様です。 地面に砲丸がめり込むパワー、下手投げでも軽々飛距離を出してて凄く良いです。

okita


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