体験入部シリーズ、その3。
ウェイトリフティング部では、410kgのバーベルを“片手”で持ち上げ。
バレーボール部では、スパイクでボールを破砕し、サーブではネットをブチ抜いてしまった。
純粋なパワー種目だと超怪力で軽く世界記録、球技だとその力加減が上手く行かず。
でも、私の身体目当て・・・って、こう書くと卑猥に聞こえるけど、まだ他にも勧誘があった部活はある。
ここまで来たら毒を食らわば皿まで、ってことで。
今回は、陸上部。
陸上競技においても、筋力は重要な要素。
倫理的にもルール的にもアウトだが、ドーピングする者は後を絶たないぐらいで。
球技と比較しても、身体能力ありきな種目だからこそ、私に白羽の矢が立った・・・のかな。
「改めて見るけど、何て言うか・・・」
「ホント・・・凄いね」
クラスメイト以外の同級生だったり先輩とかは、私の超絶筋肉ボディを間近で見ると皆、驚く。
いわゆる、『噂には聞くけど、どうせ誇張でしょ?』という先入観の遥か上を行ってしまう。
「あ、はは・・・」
これでも、今日の私は比較的目立たない格好をしている・・・つもり。
バレー部の時に、筋肉の隆起で丈夫なユニフォームを破いてしまった反省を踏まえ。
特注して漸く届いた、【9XL】という超ビッグサイズの体操服を着ているのだ。
一般人の体型に、アメフトのプロテクターを装着したかのような上半身の筋肉群。
その前面の厚みのある大胸筋に載っかる形でドンッと出張った、メロンサイズのMカップ爆乳。
女バレ主将(身長184cm)よりも大きな胸回りを納めるには、【9XL】というトンデモサイズが必要だった。
【9XL】の想定胸回りは何と、191cm。3cmも余裕あるから大丈夫、なんて思ってたんだけど・・・。
「腹筋、触って良い?」
「あ、はい」
半ば、初対面の人の恒例行事になりつつある、腹筋のお触り会。
余裕を持って買った筈の体操服は、バレー部ユニフォームと同様に腹筋を納めるには至らなかった。
【9XL】という特大サイズは、私の身体の厚みを納めるには何とか足りていた。
だけど、“丈”が足りなかったのだ。【9XL】の推奨身長は残念ながら、220cmまでだった。
「その脚も凄いけど、タイムはどのぐらいなの?」
「まだ、測ったことないです」
実際、高校に入学してから体力測定はまだ実施されていない。
どの時期に実施するかは学校によってマチマチだけど、ウチの学校はまだ。
「中学の時はどうだったの?」
「えーっと、確か・・・10秒ぐらいです」
勿論、50m走の話。今、先輩が私に試走させようとしてるのは、100m走。
「ふぅん・・・ま、何事もお試しってことで。もし、体力的に辛かったら途中で止まっても良いから」
「はい」
私自身、生まれてこの方、100mを全力で走った経験は皆無。当然、この身体になってからも。
「用意、ドンッ」
「んッ!」
クラウチングではなく、徒競走の立った構えから私は一気にスタートを切った。
「すごっ・・・」
私の右足が、ズガァッ!とスタート付近のグラウンドの土を大きく削り取る。
ダッダッダッダッダ・・・
「・・・はぁっ!」
「嘘・・・はやっ」
私は真面目に、全力で100mを走り切った。
「はぁ、はぁっ・・・」
慣れない距離を全力疾走で、私はヘトヘト。
「え、ちょ、これ・・・」
「どうだった・・・え!?」
ストップウォッチでタイム計測をしていた部員に、部長が確認に寄って来た。
「12秒49・・・」
「「「・・・っ!!?」」」
呟かれたタイムに、部員全員が騒然となる。
「そんなに、凄いタイムなんですか・・・?」
陸上競技の記録にトンと興味も知識も無い私は、そんな質問をしてしまう。
「ウチの部のベスト記録が、12秒台って言えばわかる?」
「・・・え、嘘」
100m走って確か、世界記録は9秒台とかだった筈。それと比べれば・・・。
「もしかして、世界記録と比べて遅いから“そんなもの”・・・程度に思ってる?」
「あ、はい・・・」
そもそも、運動音痴で帰宅部になった人種の私。高校生の記録とかは、全く予備知識なし。
「言っとくけど・・・」
私は部長から、訥々(とつとつ)と説明を受けた。
そもそも、私が頭に思い浮かべる世界記録9秒台は、男子のモノだ。
<カテゴリ別最高記録>
世界記録 男子:09秒58 女子:10秒49
日本記録 男子:09秒95 女子:11秒21
高校記録 男子:10秒01 女子:11秒43
クラウチングスタートすら出来ない短距離走の素人が、女子の記録に肉薄するタイムを叩き出したのだ。
「マグレじゃ・・・」
「アナタの筋肉にマグレなんて、あるの?」
部長は、モリモリッと大きく膨れ上がった私の太腿を指して言った。
いつの間にかパンプアップしちゃったようで、歩く度にギュギュッと筋肉の擦れる音がする。
火事に追われている訳でも、車に轢かれそうになった訳でもない。
いわゆる、火事場の馬鹿力とか言ったような、突発的なモノでは無かった。
現に、何度かタイムを採り直したが、1秒も誤差は無かった。
ただ、疲れと太腿のパンプアップによる走り難さで、走る度にタイム自体は落ちてはいる。
「でも、そんなに凄いんですか?」
私からすると、高校生レベル。バーベルを挙げれば世界記録な私の筋力も、走れば普通、と思ってしまう。
「こう言っちゃ何だけど、アナタの体重がもし普通だったらどうなるか、って思ってしまうわ」
「・・・あ」
暗に重い、って言われたことは脇に置いておいて。
男子の世界記録保持者の体重は、90kg少し。同クラスで軽い者だと、70kg後半。
女子の世界記録保持者だと、60kg前後。
自動車レースのマシンに例えれば。エンジンパワーが同じなら、車体が軽い方が速い理屈。
逆に言えば、タイムが同じなら重量が重いほど、パワーは凄いってことになる。
247kgの超重量ボディを、100m12秒で走らせることが出来る超脚力。
尤も、瞬発力の源になる速筋(白筋)は筋肥大の影響を受けるので、体重が減ればその分、出力は落ちる。
でも、『DQ』の仕様上、“そうはならない”ことは私自身が良くわかっている。
幸か不幸か、走る競技においては私が世界記録を出すことは無さそう。
「その筋肉、見た目通りどころか、見た目以上ね。・・・となると」
部長が、今度は私の腕にロックオンしたのが視線でわかった。
【9XL】の体操服の袖から伸びる、62cmの上腕。袖回りは70cmとかなり大きく、太腿と比べて袖は余裕ある。
138cmの超極太腿と比べると、二の腕は半分ぐらいの太さ。ただ、それも“素の太さ”での話。
「力瘤、どのぐらいあるの?」
見せてみて、という視線。
「え、っと・・・」
私は慌てて、体操服の袖を肩まで腕捲り。某サッカー漫画のストライカーみたいに、両肩に袖の団子が出来る。
「腕、凄いね・・・」
私としては、まだ腕を捲って肩口から腕全体が露わになっただけ。
それでも、バレーボールのように大きく盛り上がる三角筋、そこから更に大きくバスケットボールのように膨らむ上腕。
感覚がおかしくなっちゃってるけど、62cmの上腕は充分、太い。一流のボディビルダー並。
「・・・んっ」
私はゆっくりと、袖をはち切れさせないよう注意しながら、力を籠めながら腕を折り曲げる。
グググッ・・・モリモリ、モゴォッ!
「うぇっ!?」
傍で見ていた先輩が、素っ頓狂な声を上げた。
ダランと伸ばしていただけでバスケットボールぐらいあった上腕は今、二倍以上に膨れ上がっていた。
上腕二頭筋が、それだけでバレーボールサイズの盛り上がりを見せ。
更に、上腕三頭筋は腕の後ろに元々のバスケットボールそのままの隆起を見せていた。
「嘘、ナニコレ」
「ちょ、硬っ」
さわさわ、と陸上部員たちが私の腕を触り捲っている。
「二頭筋も凄いけど、それ以上に三頭筋がヤバい」
先輩いわく、大事なのは主に大胸筋、三角筋、上腕三頭筋、大腿四頭筋らしい。
「“これ”、投げてみて欲しいんだよね。手本見せるから」
そう言って、先輩は白線で引かれた円の中に入って、鉄球を肩に載せるようにして構えた。
「えいっ」
と先輩は、肩に構えた鉄球を一気に放り投げた。
いわゆる、砲丸投げ。ドスンッ、と『15』と書かれたラインの手前に砲丸は着地した。
走るより、投げ。投擲競技なら、私のパワーなら凄いことになる、との判断。
「一応、気を付けてね」
「はい」
私は先輩から、砲丸を受け取った。高校女子の砲丸は、直径10cm弱で重さは4kg。
陸上部の先輩が持つと、手の平一杯で何とか持てる感じ。テニスボールより二回りぐらい大きい。
だけど、今の私の手の大きさだと、それこそテニスボールみたくスッポリと手に収まった。
先輩が“一応”と付け加えたのは、私の腕の太さや手の大きさを見てのことだろう。
勿論、自動車を持ち上げる私の腕力だと、4kgの鉄球なんて紙風船同然。
「確かに、気を付けないと・・・」
私は、“握り潰さない”よう恐る恐る手に取った。
「どんなフォームで投げても良いけど、肩を外さないようにね」
普通の人にとっては、4kgの砲丸はかなりの重さ。肩に、変に力が掛かると関節が外れる恐れがある。
「わ、わかりました」
私にとっては、そんな心配は全く無いんだけど、敢えて先輩に合わせる形で構える。
肩の上に、砲丸を持った手を持って来て、後は一気にグラウンド目掛けて・・・
「・・・あ」
私は、先輩のフォームを真似出来ていないポイントに気付いた。
手、だ。
先輩は砲丸に対して、手の平に載せる形で持っていた。
だけど、私にとってはテニスボールなので、軽くとは言え野球ボールみたいに握り込んでしまっていたのだ。
「やべ・・・えぃやっ!」
私は慌てて、“渾身の力”を籠めて砲丸を突き放した。
スガガガッッ!! ズゴォッ!!!
「「「・・・え」」」
陸上部員たちは、“有り得ない”光景に一瞬、手が止まってしまう。
砲丸は、5mあたりに引かれた白線の“中”に埋まっていた。
「・・・あれ?」
砲丸を持った私の右手は、開くのが遅過ぎたのだ。
前方斜め下に向けて射出された砲丸は、グラウンドを削りながら地面に埋まってしまったのだ。
例えるなら、地上に堕ちた隕石のように。もしくは、地上を走っていた地下鉄が地下に潜るように。
「ちょ、これ・・・抜けないんだけど」
砲丸は完全に地面に埋まってしまい、取り出せなくなってしまっていた。
「あ、私やります」
私はおもむろに、砲丸が埋まっている辺りの地面に広げた手の平を当て。
グラウンドの土ごと、ズボォッと砲丸を引き抜いた。
「・・・あ」
「どうしたの? ・・・え」
私の手の平の砲丸を見て、先輩はまたしても驚きに声を上げた。
「え、嘘」
「これ・・・どうやったら“こう”なるの」
先輩たちが、“砲丸だったモノ”を見てざわ付いている。
「あ、はは・・・」
砲丸は二回りぐらい小さくなり、テニスボール大に圧縮されていた。
勿論、手形付き。投げる前までは普通の砲丸だったので、私が握り潰したのは間違いない。
問題なのは、“いつ握り潰したか、わからない”ということ。
投げた瞬間なのか、埋まっていたのを引き抜いた瞬間なのか。全く、“その感覚”が無い。
「握力、幾つあるの?」
「わ、わかりません」
私は敢えて、惚(とぼ)けてお茶を濁した。
203cm159kgの頃、『No.4』のハンドグリップを握り潰して以来、握力は測っていない。
今の私は、228cm247kg。その頃と比較して身長で25cm、体重は90kg近くもサイズアップしてる。
握力が今、何kgあるのか。正確な数値がわからないのは確かなのだ。
その後、下手投げで恐る恐る投げたら、35mの記録を叩き出した。
因みに、男子砲丸投げの世界記録が23mちょい。
「変に手首(スナップ)が利いちゃった、のかな・・・はは」
実際の男子砲丸投げは16ポンド(7.26kg)の砲丸を使うので、女子より重い。
・・・が、そんなレベルの話じゃないのは、陸上部の全員が肌で感じ取っていた。
多分、高校生レベルでの好記録を期待してたんだと、思う。
でも、蓋を開けて出て来たのは、高校生どころか人間を超越したかのような結果の数々。
「アナタのパワーを、陸上競技っていう枠に嵌めるのは無理みたい」
何処かで聞いた台詞を、私はまた貰うハメになってしまった。
デアカルテ
2021-10-06 06:56:53 +0000 UTCokita
2021-10-05 05:03:47 +0000 UTC