「今日、来て頂いたのは他でもない。“この件”について、なんですが」
とある会議場の大型モニタにこれまた、とある資料が表示された。
『【X型女子】の男子競技への参加について』
文書ソフトで表示される資料と共に、とある動画が全員に共有される。
「これは、レスリング・・・かね?」
室内と思われる円形のマットに、二人の選手が相対して立っていた。
「どちらも大型の選手だな、スーパーヘビー級か」
どちらも大柄で、筋骨隆々としている。
「一人は海外の選手か・・・?」
「ええ。名前は伏せますが、かのカレリンの再来と言われる程の選手です」
身長191cm、体重130kg。史上最強のレスリング選手と言われた伝説の男、アレクサンドル・カレリン。
その再来と紹介されても違和感の無いぐらい、男の体格も佇まいも一流の選手然としていた。
「もう片方の黒髪の方は・・・?」
「これは、女性か・・・?」
大柄の筋肉男に相対するのは、まさかの女性だった。
レスリング用のタイツでは隠し切れないぐらい、の爆乳が胸元に搭載されていた。
驚くのも、無理は無かった。
男の身体データは身長192cm、体重135kgとカレリンを上回る大きさ。
・・・にも関わらず、女性の体格は更に一回りは確実に、その男を上回っていた。
胸や骨格そのものは確かに、女性の“それ”だった。
しかし、それ以外の部位は全て、極太の筋肉で覆われていた。
ただ大きいのではなく、明らかに筋肉の量や質で上回っているのだ。
「彼女のデータは動画の最後に出ますので、そこまでお待ち下さい」
先入観を持たせないように敢えて、とのことである。
レスリングはいわゆる、打撃技が一切禁止。
組むか掴むか投げるかして、相手をフォールすれば勝ち。
単純だからこそ、テクニック以上に身体能力がモノを言うスポーツ・・・なのだが。
試合が始まるや否や、大柄な筋肉男は一瞬で間を詰め、タックルを決める。
「「「・・・っ!?」」」
超高速かつ低空タックルは確かに、女の下半身にヒットした。
一気にテイクダウンかと思いきや、女は全く動いていない。微動だにせず。
男はバッ、と一気に離れ、距離を取る。
どうやら、女が上から抑え込もうとした所作を感じ取ったようだ。
「男はともかく、女の方は・・・何だ? 何か、違和感が」
それからも、攻めるのは男の方のみ。
タックルだけでなく、肩を掴み行ったり、組み付こうとしたり。
しかし、どの攻めも、女が動こうとすると一気に距離を取って振り出しに戻ってしまう。
「これは、良い試合・・・なのか?」
筋骨隆々の大男と、それを上回る筋肉大女のレスリング試合。
・・・なのだが、数分が経過しても特に決着が付く様子が無かった。
「何だ、この泥試合は・・・」
大男は既に、肩で息をしていた。
動画から音声は流れていないのだが、肩が上下し、汗が滴り落ちている。
「大丈夫です。まもなく、決まります」
何度目かのタックルが決まろうかとした瞬間、大男はカエルようにベチャッと潰れた。
正確には、マットにうつ伏せで叩き付けられた。
「・・・え、何が起こった」
何と、女は右手一本で男のタックルを切ったのだった。
135kgの巨漢のタックルを、片手だけで。
テクニックなどではなく。明らかに、純粋な腕力での叩き付けた。
「なっ!?」
更に驚くべきことに、そのまま右手でうつ伏せの男の脇腹を掴み、一気に持ち上げた。
宙空高く、大男の身体が浮き上がった。
それはまるで、重力を感じさせないような、フワッとしたリフトアップだった。
しかし、男がジタバタする様が却って、重力下であることを物語っていた。
グシャッ。
という擬音が聞こえて来そうな、フォール。
男はそのままマットに、肩から落とされた。
マットに垂直に立て付けられた男がジタバタしている。
しかし、女の右腕一本のフォールを、男が抜け出すことは無かった。
「これは、本当にレスリングなのか・・・」
会議場のお歴々も、ようやく事態が呑み込めて来た。
レスリング選手然とした大男と比較して、女は明らかに所作が素人なのだ。
しかし、その素人と思しき女に、男は全く歯が立たなかった。
「これが、“彼女”の資料です」
【私立巨王学園一年・内藤和美・陸上部】
「馬鹿なっ!?」
「これが、高校一年生だって・・・?」
筋肉美巨女がまさかの未成年と知って、一気にざわつく。
「陸上部ということは、まさか・・・」
「ええ。ご推察の通り、格闘技は未経験です」
レスリングの現役選手を、一介の女子高生が手玉に取っていたという事実。
「男と対等どころか、そんなレベルの話ではないな・・・」
「“そこ”、なんです」
会議の主催と思しき男が、怪訝な表情を浮かべる。
「この彼、今まで一度も競技で怪我を経験したことがなかったのですが・・・」
「・・・どういうことかね」
「この勝負で頸椎を損傷して、半年の入院を余儀なくされました」
「・・・・・」
成人男子の、レスリングの一流選手が。
女子高生の陸上部員に手玉に取られた挙句、病院送り。
会議の参加者全員を凍り付かせるには、充分な内容だった。
「・・・となると、“今回の議題”については一考の余地あり、ということですかな」
「残念ながら、そうなります」
実は、この会議には『裏テーマ』があった。
私立巨王学園での『体育祭』開催について、だ。
【X型女子】の受入に伴い、共学化した学園での『体育祭』をどうすべきか。
普通に考えれば、男女別もあれば男女混合の競技も、どちらもあるのだが。
そもそも、一般男子高校生と【X型女子】を同じ場で運動させて良いモノか、という結論になった。
巨王学園の関係者もこの場に居たのだが、既に野球勝負他、幾つか行われていたことは口に出ることは無かったのだった。
デアカルテ
2022-01-20 13:39:16 +0000 UTCokita
2022-01-19 12:12:41 +0000 UTC