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デアカルテ
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筋肉戦隊01「バルクレンジャー」

「ぐへへっ、こんなダンベルも持てねぇのかよ」

「うぅ、やめてくれぇ」

昼間なのに、何故か誰も居ないトレーニングジム。


黒いタイツスーツを着た男たちが、一般人と思しきトレー二ーに絡んでいた。

レオタードのようにピッチリとフィットしているせいか、男たちの全身が筋肉質なのが覗える。


「おい、貴様ら! 狼藉はそこまでだっ」

何処からか、今度は赤いタイツスーツに身を包んだ男が現れた。


目の部分はバイザーに覆われ、表情は窺い知れない。

シンプルなデザインのタイツスーツに、腰には意匠の施された豪奢なベルト。


一見すると、往年の戦隊ヒーローを思わせる。


一つ注視する点を挙げるとすれば、赤いスーツの長袖に楕円形の“穴”が空いてる事だろう。


これは、“空いている”のではなく、“開いている”という表現が正しい。

衣服の“破れ”ではなく、スーツの袖の空白は上腕二頭筋と三頭筋の部位に合わせて開けているのだ。


「俺たち、『筋肉戦隊バルクレンジャー』が来たからには、悪事もこれまでだ」

赤い男の歌舞伎ばりの“見得を切る”ポーズと共に、後ろから四人の男たちが現れた。


「バルクブルー! 俺の大胸筋に恐れ戦(おのの)け」

青いタイツスーツの大きく開いた胸元で、鍛えられた大胸筋がピクッピクッと動いた。


「バルクイエロー! 僕の腹筋の美しさに平伏(ひれふ)しな」

黄色のスーツはお腹が全開になっており、細身の男の絞られた腹筋が露わになっている。


「バルクグリーン! 俺の太腿はバットを折るぜ」

緑色のスーツは、太腿の前面に布が無く、大腿四頭筋がゴリッゴリッと躍動した。


「バルクピンク! 私のお尻に潰されなさい」

ピンク色のスーツを着た最後の一人は、クルッと回ってハート形に開いたお尻を見せた。


「俺はレッド! お前たち、『ブラックトレーニー』の好きにはさせんっ」

「我が名は、『ブラックマスキュラー』。『ブラックトレーニー』の四天王の一人だ」

豪華な仮面に黒いマントを羽織った、男。黒スーツの戦闘員とは、明らかに立ち居振る舞いが違う。


「ふんっ。お前らみたいな、スーツに穴を開けないと筋肉を誇張出来ないような奴らに何が出来・・・」

悪の組織『ブラックトレーニー』の幹部と思しき男は、五人揃った『バルクレンジャー』を見遣った。


「・・・ん? お前ら。一人一人、得意な筋肉の部位があるんだよな?」

何か違和感があるのか、口上を途中で止めた。


「そうだが? レッドの俺は、力瘤っ」

ぬんっ、とレッドは肩の高さで腕を折り曲げる。スーツの袖の穴から、モコッと力瘤が盛り上がる。


バルクレッドを名乗った男は、体操選手のような均整の取れた身体付き。部位は、力瘤。

バルクブルーは、プロレスラーのような脂肪メインの筋肉体型。部位は、大胸筋。

バルクイエローは、陸上選手のような細マッチョ。部位は、腹筋。

バルクグリーンは、太腿の太さからして競輪かスピードスケートか。部位は、太腿。


「おい、そこのピンク。お前、少なくとも“腕じゃない”んだよな?」

「・・・え? ええ、そうよ」

『ブラックマスキュラー』と名乗った幹部男は、明らかに違和感のあるピンクで目が留まった。

幹部男は、レッドの力瘤とピンクの上腕を見比べる。


「・・・・・」

どう見ても、力瘤を盛り上げた状態のレッドの腕より、ダランと伸ばしたピンクの二の腕の方が、太い。


「じゃあ、ピンク。試しに、レッドの真似して力瘤を盛り上げて見せてくれよ」

「・・・え。あ、いや。その、それは・・・」

幹部男の突然の提案に、ピンクは途端に口籠る。


「筋肉に携わる者として、“筋肉を求められれば筋肉で応える”というのが善玉(ヒーロー)というものではないのか」

「・・・う。わ、わかったわ・・・じゃあ、んっ」

幹部男の良くわからない追及が効いたのか。ピンクは渋々、肩の高さで腕を折り曲げる。


モモッ・・・モリモリッ、ビッ! ビリリィッ!!


「・・・あ」

只でさえ、レッドより遥かに太かった上腕が、倍近くに膨れ上がった。

頑丈な筈のスーツの袖は弾け飛び、岩のような力瘤が盛り上がっている。


「ピンク・・・君(きみ)、もしかして“また増えた”・・・?」

レッドは心なしか、声が震えているようだった。バイザー越しなので、窺い知れないのだが。


それも、無理はなかった。


ピンクは渋々、やっただけだった。実際、大して力を籠めたようには見えない。

それにも関わらず、スーツをいとも簡単に引き裂く程の上腕二頭筋。


「上半身の厚み、太腿の太さ。スーツの上からもハッキリとわかる腹筋」

「な、何よ」

残りの四人を全く意に介さず、幹部男はピンクに続けた。


「お前こそ、我ら『ブラックトレーニー』に相応しい。どうだ、幹部としてウチに来ないか?」

「「「「なっ!!?」」」」

何と、幹部男は出遭って直ぐの善玉(ヒーロー)に対し、組織への勧誘を掛けたのだ。


「そこの四人のような紛いモノとは違う。ピンク、お前の筋肉は本物だ」

「な、何だとっ!?」

レッドが激高するが、幹部男は変わらず意に介さない。


「その“胸”はクッションでも詰めてるんだろうが、我ら組織に入れば大胸筋もバルクアップ間違いなし」

「“クッション”、ですって・・・?」

幹部男の言葉に、ピンクの声のトーンが一段下がる。


「胸に、そんな“余計なモノ”を詰め込みおって・・・。“男の癖に”大胸筋を誇らんでどうする?」

「なっ!? お前、やめろ」


「“男の魅力”こそ、大胸筋に詰まっていると言っても過言ではないっ!」

「お、おい。もう、その辺で・・・」

今まで馬鹿にされていた筈のレッドやイエローが、何故か、幹部男の言葉を止めようとしている。


「な、何ですってぇ・・・」

ピンクの全身が、ワナワナと震えている。

それは、明らかに“怒り”に依るものだった。


「お、俺は止めたからなっ」

何と、リーダーである筈のレッドが一歩、二歩と後ろに後退(ずさ)る。


ピッ、ピリリッ。


「ん? 今のは・・・何の音だ」

ピンクが身体を震わせるとほぼ同時に、“布が裂ける音”が周りに聞こえ出した。


「・・・う。んぅっ」

ピンクは、身体の内側に拳を握り込むように、全身に力を籠めていた。


「それは、マスキュラーポーズか・・・? いや、しかし、その身体は・・・」

幹部男の、違和感。それは、明らかに大き過ぎるピンクの身体だった。


登場してからずっと、ピンクは四人とは少し離れた位置に立っていた。


最初は、バルクピンクとしての部位が『大臀筋』という特殊さから、だと思った。

実際、スーツのお尻部分が“ハート型”にパックリと開いていたら、誰でも恥ずかしいだろう。


しかし、見ていて気が付いた。


バルクピンクは、『バルクレンジャー』の五人の中でも一際、大柄なのだ。

レッドと並んで立つと、頭一つ分はピンクの方が背が高い。


更に、単に背が高くて体格が良い、という言葉だけでは説明し切れない全身の筋肉。

一瞬、“肉襦袢”かと見紛う程、だ。


だが、その可能性は直ぐに消えた。


登場時にクルッと回った際、チラリと見えた大臀筋の驚異的な隆起。

そして、スーツの袖をいとも簡単に引き裂く特大の力瘤。


イエローが子供騙しに見える、スーツ越しでもわかるぐらいボコボコッと出っ張る腹筋。

グリーンの分厚い太腿が、その両脚分を足し合わせても、ピンクの片脚の方が大きく太い。


「まさ、か・・・」

最後の、違和感。


悪の組織『ブラックトレーニー』の幹部、『ブラックマスキュラー』として。

少なくとも、筋肉のバルクやカットで、レッドたち四人など敵として恐るるに足らない。


しかし、ピンクだけは違う。


自分と同等か、それ以上の筋肉。

貧弱な『バルクレンジャー』ではなく、頑強な『ブラックトレーニー』にこそ、相応しい人材。


『ブラックマスキュラー』の名を冠する自分ですら圧倒される、“モストマスキュラーポーズ”。

“最も力強い”という言葉通りの、バルクピンクの全身の筋肉群。


僧帽筋から三角筋へと続く山のような筋肉。

“胸のクッション”を圧し潰すかのように身体の前面で楕円に広がる上腕二頭筋と三頭筋。


それで居て絞られ、キュッと縊れたウェストが、逆三角形の素晴らしい上半身を形成している。

大臀筋の隆起と極太の太腿が織り成す、下半身の広がり。


「ふーっ、ふーっ!」

ピンクの興奮した呼吸と共に、只でさえ大きな全身が更に、ドンドンと膨れ上がって行く。


モリ、モリリッ、モゴォッ!


首と肩の間、僧帽筋が扇型に盛り上がり、首との境目が無くなり。

その僧帽筋に呼応するかのように厚みを増し、膨らむ広背筋は背中部分のスーツを引き裂き。


全力を籠められた腕は、上腕二頭筋だけでなく三頭筋の隆起で元の倍近くまで太く。

“一筋”だけでレッドの腕一本分はあろうかという大腿四頭筋が、太腿も倍近く膨らませた。


「何故、だ・・・」

何故、胸元に“スイカのようなクッションを二つ”も装備しているのだ?

惚れ惚れするような、理想的なボンッキュッボンな体型。その筈、なのに。


「いや、そんな・・・」

有り得ない。少なくとも、幹部男の常識では絶対に起こり得ない事態。


こんな圧倒的な量と質の筋肉が、“女のモノ”である筈がない。


「わ、私は女よっ!!」

興奮しながら、全身ビリビリになったスーツ姿のまま、ピンクは幹部男に襲い掛かった。


「良いだろう、掛かって来い。実力・・・いや、我が筋力で軍門に降(くだ)してや・・・ぐわぁ!」

人間の頭部の二倍はあろうかというピンクの二の腕が、幹部男の顔面に炸裂した。


ドッガァンッ!


筋肉隆々で体格も良い筈の幹部男は、たった一撃で吹っ飛び、ベンチプレス台に突っ込んだ。


「あ、あれは俺の必殺技、『力瘤ラリアット』・・・」

筋肉の花形とも言える力瘤を冠した必殺技は、レッドの持ち技だった。


「キーッ」

それまで“モブ”に徹していた戦闘員たちが、幹部男の仇と一斉に襲い掛かる。


「ふんっ」

ドガッ、バキィッ!


「あれは、俺の『太腿キック』・・・」

『太腿キック』は、グリーンの持ち技である。勿論、只の蹴りでしか無いのだが。

しかし、只の蹴りであっても、戦闘員の胴回り程もある太腿に蹴られては、一溜まりも無い。


「ぐ、あ、あぁ・・・あ・・・」

死屍累々となったトレーニングジムの真ん中で、幹部男が宙に浮いていた。

正確には、幹部男よりも更に一回り大きい、ピンクスーツの筋肉大女が、抱き上げているのだ。


「どう? 私のおっぱいの感触は? これでもまだ、“男”なんて言うのかしら」

「ぐ、う、あ、あぁ・・・」

ピンクの剛腕が幹部男の背中に回り、締め上げている。


ピンクが“キレた”時に繰り出される、『圧壊プレス』。


鯖折りやベアハッグは、自分ないし相手の自重であったり、梃子の原理を用いる。

それにより、効果的に相手の背骨を締め上げるのだが。


「さぁ、謝って。“可愛い女の子に、男なんて言ってゴメンナサイ”って、謝って!」

『圧壊プレス』がそれらと似て非なるのは、背骨を締め上げるのではなく。

相手の腕ごと、上半身そのものを圧し潰して行くのだ。


「く、くく・・・。我は、四天王の中でも最弱。我を倒しても、組織には更なる・・・」

幹部男の腕は既に折れ、変な方向に曲がっている。

それどころか、胸元が圧迫されることにより肺から空気が抜け、息も絶え絶え。


にも関わらず、悪の幹部は悪らしく、善玉(ヒーロー)に阿(おもね)ることは無かった。


メキメキメキ・・・メギィッ! バギャァァッ!!


「ぐわあぁぁぁっぁぁっ!!」

幹部男は、断末魔の悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。


『ブラックマスキュラー』の敗因、それは“女性への敬意の無さ”だった。


バルクピンクは、筋肉山盛りではあるものの、女性らしいフォルムを保っている。

筋肉の要素を除けば、爆乳なのに腰は細く縊れ、お尻は大きい。


実際、『ブラックマスキュラー』はピンクを“ボンッキュッボン”と評している。

しかし、無意識下で、男である自分より筋量で勝るピンクが、女であると認められなかったのだ。


その結果、ピンクのスイカ大の爆乳をおっぱいと認識出来ず、揶揄してしまい。

ピンクのコンプレックスに、土足で踏み込んでしまったのだ。


「うわぁ、酷ぇ・・・」

レッドは、やっと場が収まったとばかりに出て来た。


「上半身が完全に潰れてやがる・・・」

グリーンは、“悪の幹部だったモノ”を見て、つい目を背けた。



2XXX年。


いつしか、世界には幾つもの悪の組織が蔓延(はびこ)るようになっていた。

『ブラックトレーニー』も、その一つ。


『パ●ーレンジャー』『マッ●ルレンジャー』『ニ●レンジャー』・・・等々。

数ある組織が立ち上がり、悪の組織に敗れ、壊滅した。


それに対抗すべく、政府は新たに『筋肉戦隊バルクレンジャー』を立ち上げたのだ。



「あ、あれ・・・?」

ピンクは正気に戻ったのか、周りを見渡しアタフタしている。


桃尻小百合(モモジリサユリ)、25歳。


幼少の頃からグングン伸びる身長と、ドンドンと膨らむ爆乳がコンプレックスだった。


身体を鍛えれば、背も伸びなくなるし、おっぱいも小さくなる。

そんな、科学考証も定かでは無いような与太話を信じ、今まで一心不乱に身体を鍛えて来た。


体質なのか、神から賜った天賦の才能なのか。それは、誰にもわからない。


ただ一つ、言えるのは。

長い年月、弛まず鍛え続けた結果は、“成果”となって現れた。


成人男性より遥かに高い身長。彼女一人でボディビルダー数人分は有ろうかという筋肉量。

それらが、彼女には備わった。いや、彼女からすると“備わってしまった”、が正しいか。


しかも、スイカ大の爆乳は据え置き、というオマケ付き。


筋トレだけではダメだと思い、肉体労働の仕事に就いたりもした。

格闘技をやったり、ショープロレスで見世物にもなった。

しかし、何処に行っても、“男より強過ぎる”と揶揄され、陰口を叩かれた。


そんな小百合が、やっと見付けた居場所。それが、『バルクレンジャー』だったのだ。


「ピンクは、“禁句”さえ言わなきゃ、普通の良い子なんだけどな・・・」

惨状を見ながら、イエローはそう呟いた。


『バルクレンジャー』結成以後。

敵味方問わず、ピンクに筋力で勝った者は未だ、居ない。


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