「やっと、ここまで来た・・・」
ラストダンジョンの最奥。目の前にある【階段】を下れば、恐らく。
・・・いや。間違いなく、ラスボスが居る。
体重を確認するのは取り敢えず、一時保留。
“全て”が終わってから、麻隈さんに測定して貰えば良い。
「・・・大丈夫、だよね」
恐らく、最後となるであろう、パラメータ確認。
ヒットポイント(体力値)も満タン、状態異常も無し。
勿論、武器とかの装備も揃えられる範囲で最強のモノ。
一抹の不安・・・というか、懸念事項があった。
もし、このゲームが【Lv.99】であっても、クリア出来ないバランスだったら。
ステータスはミッションクリアで増えるのもあってか、カンストはしていない。
ゲーム内でアバターが死ぬと、現実世界でも本人が同じ死に方をするという、デスゲーム。
糞ゲーと言いたいところだけど、そうとも言い切れない部分がある。
パラメータそのものが現実に【はんえい】されるという、特殊さ。
何も、筋力や筋肉だけではない。視力や、おっぱい。プラスマイナス関係なく、何でもな印象。
「こんなもん、なのかな・・・」
そんな、この『DQ』のラストダンジョンの印象は正直なところ、“消化試合”だった。
攻略推奨レベルを大幅に超えてしまった、『RPG』あるある。
楽勝過ぎて、緊張感が緩んでしまうのを何とか抑えなきゃいけないぐらいだった。
この辺は、良くも悪くも他ゲーと同じか。
少なくとも、どうやってもクリア出来ない、なんてバランスじゃないことは確かだった。
「・・・・・ふぅ」
意を決し。私はゲーム内のキャラ、私自身のアバターを【階段】に進めた。
ダッダッダッ。
という、【階段】で階層を移動する効果音。
ボッ、ボッ、ボッ・・・。
真っ暗闇の空間に、一つ一つ、松明が灯って行く。
何処かで見たような演出だけど、魔王がわざわざ出迎えに来たりはしていなかった。
「・・・・・」
仕方なく、歩みを進めると。
「“これ”が・・・」
“そう”と思しきキャラシンボルが、最下層フロアの奥にある玉座に鎮座していた。
「・・・ラスボス」
街に居る『NPC』の子供キャラのシンボルそのままだった。
【よく、ここまできたね。ここまできたのは、きみがはじめてだ】
「・・・・・」
子供キャラ、らしい口調。
【おめでとう。ぼくこそが、このせかいのあるじだ】
だけど、台詞の中身は、ラスボスそのものだった。
「・・・ん? “おめでとう”って・・・」
これから始まるであろう、ラスボス戦。その前口上としては、似つかわしくない言葉チョイス。
【げーむくりあ、おめでとう】
「・・・え。ええぇっ!?」
今、確かに“ゲームクリア”って・・・。
慌てて、台詞を読み飛ばしてしまった。残念なことに、『DQ』にログ表示機能は無い。
【きみには、げーむくりあのとくてんをえらぶけんりがあるよ】
「【とくてん】って、特典のことだよね。ホントに、クリアなの・・・?」
当然ながら、会話のキャッチボールが出来る筈も無く。
続く台詞は、ゲームとして事前に用意されていたらしいものだった。
【1.このげーむからかいほうされる】
【2.かいはつしゃにはなしをきく】
「何、この二択・・・」
【1】と【2】が全く、釣り合っていない。
「こんなの。どっち選ぶかなんて、決まって・・・」
・・・・・・・。
―――数日後。
私は、“いつもの”スポーツ医学研究所を訪れていた。
「“良く、ここまで来たね。”“ここまで来たのは、君が初めてだ”」
「・・・・・」
数日前に“何処かで聞いた”台詞で、私は迎えられた。
「麻隈さん・・・じゃ、ないですよね?」
「この身体のことなら、そうだよ。今話している言葉を考えているのは、“ボク”だけど」
見た目は間違いなく、今まで何度も対応して貰った、白髪交じりの中年の先生。
白衣を着た、良くも悪くも本当に普通な先生。
「藤 仁美。キミも、【ヒトミ】ってアバターを操作していただろ? それと同じだよ」
「アバター・・・」
“ボク口調の何者か”にとって、麻隈先生が【アバター】だとでも言うのだろうか。
「これまで通り、麻隈先生で良いよ。それか、いっそのこと【悪魔】とでも呼ぶかい?」
「悪魔・・・」
デビル、デーモン。デビルズ・・・クエスト。
「ボクにも名前はあるけど、キミたちには発音出来ないしね」
呼び易い方で良い、と【悪魔】と名乗った麻隈先生は告げた。
「じゃあ、悪魔さん」
「はははっ! キミ、面白いね」
【悪魔】とは種族・・・というより、どちらかと言えば存在を指す言葉。言ってみれば、【人間さん】と呼ぶようなものだ。
私が【悪魔さん】と呼んだ存在は、そこがツボったのか大声を上げて笑った。
因みに、麻隈先生はちゃんと実在する人物、とのことだった。
如何にもな名前も実のところ、全くの偶然らしい。
人間世界で波長の合う人物の内の一人、らしく。
“日本で”たまに身体を使わせて貰う、とのこと。スマホやドローンを遠隔操作するような感覚なんだろうか。
「良く、【2】を選んだね。偶然、じゃなさそうだけど」
そう。あの、今わの際の選択肢。
究極の二択、とすら言えない選択肢。
「【1】を選んでいたら、死んでいたんでしょ」
「その通り」
私と『DQ』。藤仁美と『ヒトミ』。
この二つは、魂とかそういったオカルト的な部分で、深く繋がっていた。
晴井さんの死の一件からも、明らか。
「元に戻る、とか。死ななくなる、とか。そういう保証が全くない台詞だったから」
死を以ってしての解放・・・なんて、本末転倒も良いところ。
「うーん、惜しかったなぁ。ここまで育った極上の魂を取りそびれちゃった」
「・・・魂。じゃあ、やっぱり・・・」
悪魔、と来て。死、と来れば。必然的に、導き出される結論は。
「そうさ。ボクらの目的は、魂の蒐集さ」
悪魔が求めるのは、人間の魂。
古来より、数多くの創作で書かれて来た定番。
「でも、何でこんな面倒臭い方法で・・・」
悪魔が人間と契約して魂を取る、なんて話はそれこそゴマンとあるけど。
わざわざ、『RPG』を作ってやるなんて、手が込み過ぎている。
「ランプに潜んで願いを叶えたり。七日七晩なんて条件付けたり。そんなの、ボクからすれば楽しくないのさ」
あ、わかった。
この【悪魔さん】、手段を愉しむタイプだ。きっと、そうに違いない。
「その通り、さ。キミ、良くわかってるね」
「ちょっと、心の中を読まないでよ・・・」
「ま、ミスも含めて楽しまないとね」
「ミス・・・?」
【悪魔さん】が言うミスとは、ラスボス戦が無かった件について、だった。
【Lv.99】は、いわゆる『デバッグモード』だったのだ。
どうやっても負けることはなく、ボス戦もスキップされる。
「最高潮となるべきボス戦をせずに、クリア後メッセージが流れるとは不覚だったよ」
「ってか、悪魔もデバッグするんだ・・・」
むしろ、私的にはそっちが驚きなんだけど。
「そこで、だ」
「・・・?」
【悪魔さん】は、何か思い付いたかのように真剣な眼差しで私に正対した。
「お詫び次いでに。キミに、更なるクリア特典をあげよう」
【悪魔さん】は、大仰な動作で指をパチンッと鳴らした。
ドクン。
この、感覚は・・・。
「う、そ・・・」
前回で最後だと思ってた。もう、味わうことは無いと思っていた。
「何、で・・・っ」
私は今、身体計測用に『術着』を身に着けている。
身長274cm、体重500kg超(推定)。
そんな超体格な私がダボッとゆったり着られるぐらい、超大型サイズの『術着』。
それが徐々に、キツくなって・・・。
グググッ・・・ミチ。ミチチッ
「う、あ・・・」
迸(ほとばし)る快感と、力の漲り。
腕の形がわからないぐらい余裕のあった袖が、徐々に力瘤の形を象(かたど)り始め。
普通の女性なら片脚分の穴でスカートになるぐらいのズボンに、大腿四頭筋の筋が浮き始め。
「ぁ、あ・・・ん、っく」
嬌声を上げそうになるのを、何とか堪える。
筋肉が成長する様は、今まで明子にしか見せていない。それも、限られた回数。
【悪魔さん】も当事者とはいえ、赤の他人。いや、他存在か。
どちらにしても、身内じゃない存在に醜態は晒したくない。
「我慢しなくて良いのに。ボクは人間じゃないんだし」
「そうは言っ・・・うぅん、あぁ♪」
口を開くと、言葉より先に喘ぎ声が漏れてしまう。
ムク、ムクムク。モゴ、モゴゴッ
「・・・っ」
声を出す出さないに関係なく、快感が漲る度に全身の筋肉が肥大化して行く。
バリッ、バリバリィッ!!
「っ!?」
特に曲げてもいないのに、上腕二頭筋と三頭筋の隆起が、袖を完全に引き裂いてしまう。
「!!?」
ブバァッンッッ!!!
今度は、太腿がドカンッと爆発的に広がったと思うと、ズボンを弾き飛ばした。
「うわあぁぁぁぁっ・・・んっ!!!」
ビリビリビリッ、ビリリィ~~ッ!!!
結局。
我慢し切れず、私は【悪魔さん】の目の前で大嬌声を上げてしまった。
「はぁ、はぁっ・・・」
肥大化は止まったものの、未だに全身の筋肉の躍動が収まらない。
「う、っそ・・・」
肥大化が終わった直後で、胸元か腕しか見えない状態なのに。
感覚でわかるぐらい、私の身体は今迄にないレベルで大きくなっていた。
「丁度良い。この後、直ぐに測定してあげよう」
「そんなことより、何で・・・っ」
『術着』を弾き飛ばした今、私は完全な真っ裸になっていた。
元々、『術着』の下はノーブラで、ショーツのみ穿いていた。
尤も、ブラを着けていたとしても、一緒に弾き飛ばしてたろうけど・・・。
「だから、特典って言ったでしょ」
「特典・・・?」
さっき。確かに、そう言ってたけど・・・。
「レベル上限を開放してあげたんだよ」
「レベル上限・・・。って、え?」
私は慌てて、スマホを仕舞っているロッカーに駆け寄る。
「・・・あ」
ロッカーに手を置いた瞬間、鉄製のロッカーはグニャリと拉(ひしゃ)げた。
「仕方ないな。これぐらい、サービスしてあげるよ」
そう言って、【悪魔さん】はロッカーに入っていた筈の私の荷物を、テーブルの上に広げた。
「いつの間に・・・ってか、どうやって」
「そんなことより。ほら」
【悪魔さん】は勝手に私のスマホを起動して、『DQ』の画面を見せてくれた。
「え、嘘。え、え・・・?」
そこに並んでいたのは、信じられないパラメータ。
レベルは何と、まさかの【Lv.110】。
「レベルは【99】でカンストだったんじゃ・・・」
「これまでは、ね。キミらで言う、バージョンアップって奴かな」
「そんな・・・」
いわゆる、上限キャップの開放、って奴だ。
ソシャゲなんかだと、ゲームそのもののバージョンアップで稀に行われる。
主にインフレ対応がメインなので、ゲームの寿命と引き換えな面があるが・・・。
「まさか、【Lv.99】まで上げる人間が居るなんて。想定外だったよ」
「でも、経験値が・・・・・あ」
自分で言ってて、自分で気付いた。
カンストしたのは、あくまでレベルだけだった。
【Lv.99】になった後も、経験値はずっと蓄積され続けていたのだ。
「バグを解消しつつ、追加のクリア特典。一石二鳥の施策だ」
多分、だけど。
●一度上がったレベルは下げられない
●“【Lv.99】が”『デバッグモード』なのも変更不可
この二つが、バグを修正する上で縛りになっていたんだろう。
「キミ、中々賢いじゃないか。まあ、これも【かしこさ】のお陰か」
『DQ』で上げたパラメータが、現実の自分に【はんえい】される恩恵。
『視力』や『おっぱい』だけじゃなく、頭の良さもアップしたってことなのかな。
「どうせ修正するなら、“次”に繋がる方が良いでしょ」
「次って・・・・。え、次?」
『DQ』というゲームは、確かにクリアした筈。
バグの恩恵でラスボス戦がスキップされたとはいえ、こうして“クリア特典”を受け取っている。
「まあ、色々と説明するのは良いけど・・・その前に」
「え? あ・・・」
新たな事実と気付きで頭がゴッチャになって、自分が一糸纏わぬ姿なのを忘れていた。
「先に、測定することをお勧めするよ。スマホを握り潰して終了、はボクも望んでいない」
さっき、慌てていたとはいえ、鉄のロッカーを触っただけで潰してしまった。
もし、【悪魔さん】が退避してくれなかったら、荷物ごとスマホを潰していただろう。
「先ずは、身長だね」
「あ、はい」
中年で白衣な先生の見た目に、子供口調。何か、調子が狂う。
「ん・・・」
何とか気持ちを切り替えて、私は鉄の柱に沿って立った。
どれだけ技術が進歩して、最先端になっても。身長の測り方は変わらない。
「・・・っと」
一応、毎回なるべく“気を付け”の姿勢を取ろうとするんだけど、ギュギュッと音が鳴るだけ。
大胸筋と上腕二頭筋がぶつかり合い、擦れ合うだけで腕は『ハの字』が限界だった。
「凄いね。【293】だよ」
「・・・・・・・」
私は、絶句した。
計器として、小数点まで計測可能なんだけど。ジャスト、293.0cm。
肩の高さが、249cm。股下は、138cm。
因みに、一般的な電車の天井の高さは、230cmぐらい。なお、ドアの高さが185cm程。
「私、もう一生・・・電車乗れないの・・・?」
電車に乗ったとしたら、中腰で入って。そのまま降りるまでずっと中腰で居なきゃいけない。
3m間近の身長って、自室でも普通に立つだけで天井に頭が届くんじゃ・・・。
●一度上がったレベルは下げられない
この条件がある以上、身長が縮む可能性に期待は出来ない。
「次は、お待ちかねの体重だね」
「・・・・・」
別に、待ってはいない。
単に、家の体重計で計測出来なかったから気になってただけで・・・。
「うははっ、凄いね。【719.9】だってさ」
「・・・うぇ? へ、え・・・?」
数値が青天井過ぎて、実感が沸かない。
「【Lv.99】の頃は、500kgちょっとだったんじゃないかな」
いや、そんなの何の気休めにもなってないんだけど・・・。
女子高生の・・・いや、人間一人分の体重が、719.9kg!?
「キミたちの世界で言うところの、ヒグマ並だね」
熊の中でも最大級のヒグマ。その体重は、実に600kgを超えるという。
今、私がそのヒグマより大きく、重くなっちゃった訳なんだけど・・・。
「胸周りと下胸周りは、こんなものか」
「“こんなもの”って・・・」
ついに、トップバストが『3m』の大台を突破した。
胸周り、329.8cm。下胸周りが、268.2cm。
アンダー差が、61.6cm。カップサイズは、異次元の『Uカップ』。
私の場合、胸周りは大胸筋だけでなく、広背筋の影響も大きい。
それでも、アンダーバストが268cmって、どんだけ鳩胸なのよ・・・。
「・・・・・」
鏡を見る必要も無く、目線を落とすと自分の胸の谷間が視認出来る。
『Uカップ』の超特大爆乳の谷間だけではなく。
その下の土台の大胸筋の谷間も、簡単に視界に入れることが出来た。
「こういうの、“ボンッキュッボン”って言うのかい?」
「あ、はは・・・」
曖昧に相槌を打つぐらいしか出来なかった。
B:W:H=329:130:223
某ネコ型ロボットのウェストを遂に、突破した。
だけど、超々高身長なことと、人間一人分はあろうかという超特大爆乳バスト。
2mを超えるヒップは、確かに女性らしい凹凸のあるボディバランスを形成していた。
実際、ウェストは私の肉体の中で、上腕の次に細い部位だったりする。
でも、その上腕も・・・
「ん、っく・・・」
ギュギュギュゥゥ・・・、っと前腕と力瘤がせめぎ合い、擦れ合う音。
遂に私は、直角にすら腕を曲げられなくなってしまった。
上腕で目立たないが、私の前腕は徳利(とっくり)のように肘に向かってドンッと太くなる。
大きくなり過ぎる力瘤が、角度として80度ぐらいになった辺りでぶつかってしまうのだ。
手首を返して前腕筋を逃がしてあげて、やっと直角まで曲げられる感じ。
筋肉が付き過ぎて『バイセップスポーズ』が出来なくなるなんて、何て皮肉。
「伸ばしてないと、【112.9】。曲げると・・・、【256】だね」
多分、明子の二の腕の上と下に、それぞれ一つずつ。合計二個の大玉スイカをくっ付けたとして。
それでもきっと、私の上腕の方が太いだろう。
「この後、測定が終わったら服を用意してあげるつもりだったけど・・・」
「スカートなら・・・」
腕はまだ、力を抜いてダランとすれば、113cmぐらい。
いや、インフレしておかしくなってるけど、それでも充分太いことは太い。
だけど、腕に比べれば余り太さの変わらない太腿。
その太腿が、250cmという有り得ない太さだったのだ。
多分、この先。私は一生、ズボンを穿けないだろう。
「ここからは本当に、お待ちかね、かな?」
「・・・う。まあ、確かにそうだけど・・・」
残るは、筋力測定。
密かに目指していた、『ヘラクレス』の1088kg。
身体のサイズや体重から考えれば、現実的な数字だ。
「んぅっ。く・・・う、うぁっ」
握力測定用のグリップを、壊れても構わないといった覚悟で、目一杯握る。
「ふぅ、む。“惜しい”ってところかな」
「・・・え、あ」
数値は、【812.5】を示していた。
「尤も、機材の耐久値は『1t』までだから、それを超えたら壊れるんだけど」
世界最強の握力グリップを閉じるのに必要な、1088kgという途方もない数値。
それに届くには後、260kgぐらいの上乗せが必要だった。
「人類最強なのは、間違いないだろうね」
「・・・・・」
誰かと戦うとして。
対戦相手と組み合っただけで、ロッカーみたいに一瞬でグシャッ、な未来が容易に想像出来る。
筋力の数値は片腕、片脚での測定値。
相手を抱き締めれば、片腕だけで1.5t近い圧力が掛かり。
地団駄を踏めば、床に1.5tの加重が掛かる。
「これから、どうやって生活していけば・・・」
「身体の大きさは兎も角、力加減は上手くやれば良いじゃないか」
・・・え? 上手く、やる?
「出来るの?」
「何の為の【かしこさ】なんだろうね」
・・・あ。え、でも。そうなの?
「キミたちの言葉で言えば、地頭とか。感覚、直感もそうだね」
【かしこさ】は何も、知識があるとかそういった観点のものだけではなく。
言ってしまえば、脳が身体をどう動かすか、という部分も含まれる。
「もっと【かしこさ】を上げれば、1kg単位で調整も利く筈さ」
「・・・・・」
“上げれば”、ね・・・。
「クリア特典として、話しているんだ。嘘は言っていないよ」
レベルを上げて、更に【かしこさ】を上げれば。
あるいは、確かに【悪魔さん】の言う通りなのかも知れない。
「ボクはちゃんと、“システム化”しているからね」
システム。システム、ね・・・。
【悪魔】は、個体差があり。多種多様、様々な手段で人間から魂を蒐集している。
契約という形で縛り、規約に則って魂を徴収する。
私は最初、何て面倒な手段を、と思った。実際、享楽的な面はあるだろう。
でも、もし。ちゃんと効率を考えた、“システム”だったら・・・?
「キミ、本当に賢いね」
【悪魔さん】の視線に、私は薄ら寒いものを背筋に感じた。
人間どころか、ゴリラやヒグマになら勝てるフィジカルな今の私ですら恐怖する、得体の知れない何か。
「そんな怖がらなくても、大丈夫だよ。『DQ』を始めた時点で、既に契約済なんだ」
契約内容は至極、単純。
『DQ』内で死ねば、現実世界でも死に。
その魂は、【悪魔さん】に蒐集される。
裏を返せば、現実世界で私に手を出しても、魂は蒐集出来ないと言う事。
「『DQ』内で死ぬ、っていう条件。戦闘で負ける以外にもあるの?」
「良い質問だね」
フレンドレンタルで負けて死ぬのは、戦闘での負けだから良いとして。
『30日ログインしない』
約一ヶ月間、ログインせずに過ごしたら自動的にキャラが死亡して、現実でも死ぬ。
「端末を無くしたり、壊れてプレイ出来なくなるのは今後、改善しよう」
自殺したり、敢えてプレイせずに放置するのは、問答無用で魂を頂く、とのこと。
「そう、なのね」
「“そういう”ことさ」
やっと、わかった。
『DQ』は【悪魔さん】にとって、面倒なのを補って余りあるぐらい、効率が良い“システム”なのだ。
ランプの魔人みたいに、一対一で処理するよりも。
システム化した上で、一対多でやった方が遥かに良い。
「ゲーマーのキミなら、“喜んで”くれると思ったよ」
「・・・え」
私は、測定室に設置された壁一面の鏡を見る。
そこに映し出されるのは、身長150cmの小さな私などでは絶対に無く。
身長は、ほぼ倍の293cm。体重は、実に十四倍の719kg。
『Uカップ』の爆乳に、256cmの力瘤。250cmの太腿。
そんな、ヒトとしての限界を超えた私の顔は、笑っていた。
それも、明るい笑顔などではなく、妖しい微笑み。
「あれ、あれ・・・?」
“ここまで”になってすら、叶わない心残り。
握力グリップ『ヘラクレス』の、クローズ。
握力1t超えという人類未踏の、人外領域への道筋が見えてしまった。
「次のアップデートに乞うご期待、ってところかな」
私は既に、『DQ』というゲームそのものに魅入られてしまったのかも知れない。
デアカルテ
2022-08-02 08:00:15 +0000 UTCsunagimo7
2022-08-02 07:41:14 +0000 UTC