「うーん、やっと着いた・・・」
眼鏡を掛けた女性が、とある空港に降り立っていた。
ボブカットの黒髪に眼鏡、そして小柄な体躯。
空港の他の客と比べると、かなり若く見える。
大きなキャリーケースを引いていて、国外からの旅行者だろうか。
ズン・・・ズンッ・・・
すると突如、床を揺らすかのような振動。
「・・・?」
日本と違い、“こちら”は地震は少ない筈。
ズンッ・・・ズンッ・・・
「・・・あ!」
女性は漸(ようや)く、“振動の主”に気付いて振り返った。
「仁美!」
「明子!」
二人の間にはかなりの距離があったのだが、明子は一瞬で“それ”が仁美とわかった。
・・・いや、むしろ。
仁美からすれば、“距離があった”からこそ、気付いたとも言える。
「・・・何て、言うか。その・・・」
「・・・うん?」
二人はお互い近付くも、抱き合うまでは行かず。
数メートルの距離を開けて、歩みを止めた。
「大っきくなった・・・ね。いや、ホントに・・・」
「そう、かな。あ、はは」
仁美は“ギュギュッ”と、“身体を鳴らし”ながら頭をポリポリと掻いた。
二人が近付き過ぎずに再会を果たしのは、単純な理由。
抱き合うぐらいの至近距離だと、お互いを認識出来ないから、だ。
あれから、数年が経ち。
お互い成人したこともあってか、成長していておかしくはない。
しかし、そんな見た目が変わる、等と言った理由ではなく。
近付き過ぎると、“お互いの顔が全く見えなくなる”、のだ。
「スカート穿いてるってことは、“この辺”が脚・・・なんだよね?」
「うん。今、触ってる所がそうだよ」
顔が見えなくなるのを承知で、明子は仁美の“胸の下”に入った。
既に何センチあるのか想像も付かないぐらい巨大なバスト。
それがドドンッと前に突き出し、日本家屋で言う“軒下”みたいになっている。
「すごっ、届か・・・ない」
明子は、仁美の胸の下で万歳してみたが、特大バストの下側に振れることすら出来ない。
因みに、明子の身長は高校一年生の時点で最大値だったのか、当時のままの150cm。
普通、150cmの身長でも万歳すれば、2m後半ぐらいの高さなら届く筈なのだが・・・。
「本当に“これ”、脚・・・?」
「うん、そうだよ」
明子は、スカートに隠れた仁美の下半身を確かめようと、布地に触れる。
すると、思いの外、直ぐに明子の肉体にぶち当たった。
「・・・え、嘘。ホントにこれ、脚・・・なの?」
「何なら、抱き付いても良いよ」
お言葉に甘えて、と明子はスカート越しに仁美の左脚に飛び付いた。
ゆったりとしたシルエットのスカート。しかし、その中は全く余裕が無かった。
現に、明子が取り付いた仁美の左脚。それだけで、両手が回り切らないのだ。
「すご、太っ! 大理石? 柱?」
「あははっ。そこまで、かなぁ」
仁美は、満更でもないようだった。
仁美は文字通り、“巨大”になっていた。
空港のロビーのように広い空間であれば、端と端に居てもわかるぐらい。
比喩では無く、周りの人間の倍はあろうかという身長。
そして、数倍はあろうかという、身体のボリューム。
片脚の高さだけで、明子の身長を優に超え。その太さも、明子数人分。
ロングのフレアスカートのゆったりなシルエットは見せ掛け、まやかし。
その中身は、巨大建造物を支える大黒柱のような太腿で埋まっている。
一方の上半身は、上着のシャツが立体縫製なのか、体型がハッキリとしている。
紛うことのない、超逆三角形のマッスルボディ。
何センチあるのか想像も出来ないぐらい巨大な、超バスト。
その下は、キュッと縊れて・・・は、いる。
しかし、それは飽くまで、超バストとか、前から見える広背筋とか。
そう言ったボリュームが有り過ぎる上半身と比較して、ってだけである。
縊れていても、腰回りの太さは、これまた明子数人分。
その腰回りの前面には、シャツ越しでもわかる程の、大きな腹筋群。
明子が何とか手を伸ばして当てるとゴツゴツ・・・どころでは無かった。
ゴンッゴンッと、金属音がしそうなぐらい強固な腹筋が盛り上がっていた。
「袖は・・・それ、『フレアスリーブ』?」
“裾が広がる”という『フレア』の言葉通り、スカートのように大きく袖が広がっていた。
「そうだよ」
明子に聞かれて、仁美は腕を動かして見せた。
「・・・・・」
仁美が腕を前後に振るだけで上腕二頭筋がモゴゴォッ。更に、三頭筋もモゴゴゴォッ。
・・・と、超特大の力瘤群が盛り上がり、前腕とカチ合う。
その度にギュギュッ、ギュギュギュッと筋肉が擦れ、犇(ひし)めき合う音。
「音、鳴るんだね・・・」
「あー、うん」
歩けば地響きが起こり、腕を動かせば筋肉同士が音を奏でる。
たった数年で、仁美はそんな身体になっていた。
「今って、“どのぐらい”なの?」
明子でなくとも、“今の仁美”を見れば誰でも疑問に思う、特大ボディのサイズ等々。
「そう言うと思って、持って来たよ」
仁美はそう言って、明子に一枚の紙を渡した。
「これって・・・」
「前にも見せたこと、あったかな・・・?」
一枚の紙には、所狭しと仁美の身体データが記載されていた。
「・・・あれ?」
「どうしたの?」
「バスト167に、ウェスト65・・・? ってか、身長・・・147??」
パッと見、特段おかしくはないデータに見えた。
でも、明子は目の前の仁美の身長が“147cm”とは到底、思えない。
今の明子は、当時の仁美と同じ、身長150cm。
その明子自身が、仁美の股下にすら届いていないのだ。
「あ、ごめん。“こっち”だった」
「・・・え」
明子は、仁美からもう一枚の紙を貰う。
「う、あ・・・」
明子は一瞬、思考停止してしまった。
明子が最初に渡されたのは、インチやポンド表記の身体データだった。
だから、所々で“普通の数値”になっていて、今の仁美の数値に見えなかったのだ。
勿論、インチやポンド表記なだけで、実際の数値としては何も間違ってはいないのだが。
改めて受け取った、見慣れたセンチ表記の数値を見て、明子はようやく理解したのだ。
この数値がどれだけ異常で。且つ、どれだけ正確な数値かということが。
「積もる話もあるし、また後で・・・あ」
グギャッという、何かが拉(ひしゃ)げる音。
「私の傍に居る間は、絶対に横に並んでね」
そう言って、身体データ表とにらめっこしている明子を横に並ばせる。
「・・・じゃないと、“こう”なっちゃうから」
両脚の間から、半分ほどの厚さに圧縮されたキャリーケースを取り出した。
「・・・え、それ・・・あ」
仁美の巨体さ故か、手に持った“それ”は片手で持つポーチのように見える。
しかし、それは確かに明子が持って来た旅行用のキャリーケースだった。
明子は、仁美の超絶ボディな巨体や身体データに気を取られ、キャリーケースを放置。
それが偶々、仁美の両脚の間に入ってしまったのだった。
体重の内、片脚分で15%を占めると言われている。
つまり、片脚だけで200kg近くあり、それだけで相撲取り一人分なのだ。
しかも、相撲取りとは違い。その全てがほぼ、これ筋肉。
200kgの筋肉の塊にプレスされれば、旅行用のキャリーケース程度では、一溜まりも無い。
「私の股下、176cmあるから・・・」
仁美のトップバストの『サイズ』が、驚異の425cm。
且つ、トップバストの『高さ』は、300cmにもなる。
仁美にとって、足元が見えないレベルの話ではない。
前方、数メートルの広範囲に渡って、死角になってしまうのだ。
更に、長い脚から齎(もたら)される歩幅は、1.5mほど。
例えるなら、一秒に付き1.5m進む、超強力重機と言った所だろうか。
高さ2mまでの物体なら、何でも巻き込み、何でも圧し潰してしまう。
「前に、“ヤッちゃった”こともあるし」
凶悪犯が警察車両から逃げる形で大型バイクで逃走、というシーンに出会(くわ)し。
出会い頭、そのバイクは仁美に突っ込み・・・。
「それ、って・・・」
屈強な凶悪犯が乗る、大型バイク。
普通、人間と接触すれば、轢かれるか飛ばされるかのどちらかだろう。
アクション映画に出るような役者なら、上手く擦り抜けたかも知れない。
しかし、現実は非情だった。もしくは、因果応報か。
仁美が、人間らしい反応速度で気付いた時にはもう、凶悪犯は両脚の間で圧壊していた。
勿論、大型バイクごと、である。
仁美から見て前方5m、幅2m。高さは、地面から3m。
『デッドスペース』。
いつしか、仁美の周りの人間はその空間をそう、呼ぶようになった。
家具の配置などで使えなくなった部屋の一部・・・では勿論、無い。
立ち入れば、文字通り死と隣り合わせになる、『死の空間』。
デアカルテ
2022-08-02 08:02:30 +0000 UTCsunagimo7
2022-08-02 07:50:14 +0000 UTC