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デアカルテ
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悪魔のアプリLvEX2「Lv:***」




「さ、入って」

「で、っか・・・」

仁美は、郊外にある自宅に明子を招き入れた。


「まあ、“こっち”は何でも大きいから・・・」

確かに、日本と比較すれば。国土や食べ物、あらゆるモノが大きい国ではある。


「そういう問題かなぁ・・・?」

だけど、目の前の仁美の自宅は、単純なビッグサイズって言うのとは違う。


一言で評するなら、“巨人の家”なのだ。

扉や窓、部屋の内観が、一般的な家の数倍はある。


「まあ、入口やスペースが大きいと、家具の出し入れとか楽だし」

「・・・っ!?」

奥に見える部屋の“モノ”を見て、明子は更に目を丸くした。


「あー、“アレ”か。“アレ”もまあ、今の私にとっては家具みたいな物だから・・・」

仁美と明子が視線を送ったのは、一階の一番奥にある部屋だった。


それは、絶対に一階でないと設置出来ない空間。

仁美専用のトレーニングスペースだった。


「・・・これ、タイヤ? 『500lb』って・・・」

明子が思い浮かべたのは、一般車ではなく大型重機のそれ。

床に置かれた円形のウェイトプレートは、高さだけでも明子と同じぐらいあった。


「うん、ポンドだよ。『227kg』ぐらい、かな」

「・・・うぇぇっ!!?」

巨大とはいえ、たった一枚の『金属製の重り』が、227kg。

明子の頭の中には、常に相撲取りに変換されるような、そんな高重量。


「色々と試したんだよね」

仁美は最初、『100ポンド(45kg)』や『200ポンド(90kg)』で試した。

しかし、扱う重量が増えるに連れ、シャフトが耐えられなくなった。


「1tぐらいまでなら普通の物でもギリ、行けたんだけど・・・」

2tを積もうとすると、片側だけで十枚ものプレートが載る。

通常のシャフトだと長さが足りない上に、想定以上に撓(しな)ってしまうのだ。


「最終的に、そうなっちゃった」

バーベルシャフトを特注するなら、ウェイトプレートも纏めて特注してしまえ、という事らしい。


「じゃあ、この紙の【腕力】って・・・」

「あー。実はそれ、ちょっと古いんだよね」

そう言って、仁美は床に置かれたバーベルに手を添える。


「え、間違いとかじゃ・・・」

「今はもう、“これ”ぐらいなら行けちゃう」

超巨大なバーベルが、片手でスッと持ち上がる。


「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・片方に四枚。だから、えーっと・・・」

直径140cm、厚さ25cm。『227kg』の、特注のウェイトプレート。

それが、左右で八枚。バーベルシャフトも仁美が握り潰さないよう、特注製の極太。


227×4×2+50 = ・・・


「『1850kg』ぐらい、かな?」

正確には、『1866kg』である。


「・・・・・」

明子はもう、言葉が出なくなっていた。


明子が気になっていたのは、【身体データ】の【腕力:1748kg】について。

単位は『キログラム』だけど、『ポンド』の間違いじゃないかと思ったのだ。


『1748ポンド』なら、キログラムに換算すれば、『800kg』ぐらい。

一般人が持てる重さではないが、仁美ならわからなくもない。


そう、思っていた。

もしくは、両手の腕力値を誤って記載してしまった、とか。


「ん、っしょ」

ウォーミングアップとばかりに、仁美は小刻みにバーベルをカールする。


モゴゴゴッ。


「ん、っしょ」

その度に、【身体データ】通りと言わんばかりに、377cmの力瘤が盛り上がる。


モゴゴォッ!


実は、明子は力瘤のサイズも疑っていた。

幾ら力瘤を盛り上げようが、人間の腕が4m近くも膨らむ訳がない、と。


「・・・・・」

明子の目の前で隆起する、仁美の力瘤。

上腕二頭筋だけで、明子の上半身ぐらいあり。

上腕三頭筋だけで、明子の下半身ぐらいあった。


因みに、明子が着目している単位は、高さ。力瘤の縦幅。

例えば、仁美が寝そべりながら力瘤を盛り上げると、小学生ぐらいなら姿を隠せてしまう事になる。


「・・・あれ。仁美って身長が『375cm』だから・・・」

「あー、うん。身長と同じぐらい、だね」

力瘤の外周サイズが、身長と同じ。

もし仮に、仁美の身長が元の150cmだとすれば、その異常さがわかるだろうか。


「“こっち”に来て、正解だったよ」

「そう、かもね」

仁美はあの後、数ヶ月の準備期間を経て、電撃留学した。


元々は、両親の海外旅行が発端だった。

実は、両親に海外転勤の話があり、その下見を兼ねてのことだったのだ。


「ご両親は何年か前に、日本に戻ったんだっけ?」

「うん、そう。今は、私だけ」

結局、仁美の両親は勤め先の方針転換もあり、数年で日本に戻る羽目になった。

その頃、既に“こちら”で生活基盤が出来ていた仁美だけ、残ることになったのだ。


「反対されなかったの?」

「ううん。すっごく、反対された」

それは、そうだろう。

十代の一人娘を、治安の良くない海外に一人残すなんて、普通は有り得ない。


“いろいろ”やって見せたら、渋々だけど納得してくれたよー」

「“いろいろ”って・・・」

それはつまり、今の仁美に“こちら”で生活出来るだけの、基盤と“実力”があるって訳で。


「“こっち”で、“どう”してるの?」

勿論これは、どうやって生活しているか、の意味に他ならない。


「ん-、“いろいろ”かなぁ?」

仁美はおもむろに、壁に設置されている大型モニタのスイッチを入れた。


「・・・これ、ケーブルテレビ?」

「他にも、ネットテレビも観られるよ」

仁美から渡された特注と思しき特大リモコンで、幾つかチャンネルを切り替えてみる。


「“こっち”の言葉、わかるんだっけ?」

「うん、大学で専攻してたしね」

刑事物にカートゥーン。そして、他にはフットボールなんかもある。

ドラマ、アニメ、スポーツとジャンル分けすれば、日本と大差ない感じ。


「・・・あれ、これって」

「うん。それ、私。“一般チャンネル”だと、その辺りかな」

明子が手を止めたテレビショーに、ビキニ水着姿の仁美が映っていた。


「これ、“ビックリ人間ショー”的な番組だよね。ってか、何で水着なの」

「・・・それ、ね。苦情を受けて仕方なく」

普通は逆じゃないのか、と明子は思った。

いわゆる“ポリコレ”に配慮して、女性に服を着せるならまだしも。

テレビショーで、一般人枠の女性を脱がすなんて聞いた事がない。


「まあ、観てればわかるよ」

ビキニ水着だからか、仁美のチョモランマな筋肉が惜しげもなく晒されている。

にも関わらず、観客は沸きに沸いている。


テレビ番組としては、得意分野を持つ素人が出演し、番組側がそれに沿った課題を提示。

無事、クリア出来れば賞金を獲得する、というものだ。


例えば、数学の天才なら、超難問を限られた時間で解く、であったり。

料理人なら、限られた食材で審査員を唸らせる料理を作ったり。


課題をクリアする毎に、賞金がアップ。それに伴い、難易度も上がる。

賞金はどちらかというと自分自身への賭け金な扱いで、『レイズ』か『ドロップ』を選択。


『ドロップ』すれば、そこまで獲得した賞金を貰って、終了。

『レイズ』は倍賭けで、次の課題にチャレンジする。

課題に一度でも失敗すれば、獲得賞金はチャラ。


そこへ更に、視聴者は挑戦者が成功するか失敗するかを賭ける、システムなのだ。

素人、そして視聴者参加型番組としては、全員がヒリ付くスリルを味わえる仕組みという訳だ。


『さぁ、本日もやって来ました、マッスルクイーン! ミス、フジヤマ!』

「フジヤマって・・・」

『藤 仁美』だから、富士山よろしく『ミス フジヤマ』。


『先ずは、これまでのお浚いを見てみましょう』

「す、っご・・・」

VTR越しとはいえ、明子が観たのは以前にも増して、パワーアップした仁美の姿だった。


鋼鉄製の極太の鎖を腕にグルグル巻きにして、力瘤だけで引き千切ったり。

人間大はあろうかという巨大な大岩を、抱き潰して粉々にしたり。

コンテナを積載した、超大型トレーラーを持ち上げて、スクワットしたり。


「苦情って、“これ”・・・ね」

その課題は、銃弾を筋肉で弾き返す、というものだった。


その時既に、賞金額は『100万ドル』に達していた。

日本円に換算して、『約1.37億円』。


番組としては明らかに、仁美を潰しに掛かっていた。

成功すれば、2億円超え。かといって、『ドロップ』する空気でもない。


過去に、『50万ドル』で『ドロップ』した挑戦者が、自宅を襲撃されてしまった。

その挑戦者に賭けて破産した視聴者が、日和って途中で降りて賞金獲得なんて許さない、と凶行に及んだのだ。


「服着たまま挑戦したら“イカサマ”だ、って」

「え? それって、つまり・・・」

番組で丁度、そのシーンが流れていた。


元警官という肩書の屈強な男が、両手で拳銃を構える。

その銃口は、仁美のお腹を狙っている。


ダァンッ!!


ガンッという金属同士がカチ合う音と共に、銃弾が跳ね返って床に落ちた。


観客からは、どよめきが聞こえる。

元警官が床に落ちた弾丸を拾うと、確かにそれは縦に圧し潰れていた。

仁美が着ているシャツのお腹部分は、それと思われる弾痕が刻まれている。


一般的な『Tシャツ』と同じような薄い生地なのに、イカサマを疑われたってことになる。


「この番組、月イチなんだけど。結局、三ヶ月に渡ってやる羽目になっちゃった」

その結果のビキニ水着、という訳だ。


「ウチの親は、これ観て最終的に納得してくれたから・・・まあ、良かったのかな」

「これ、見せたんだ・・・」

実の娘が銃で撃たれる様を見せられた、仁美の両親の心中や如何に・・・。


「・・・ん? って、いうかっ!」

「どしたの」


「・・・銃、効かないの?」

「あ、そっち? ・・・うん」

サラッと答える仁美を見て。明子はもう、呆れるのも無駄だと悟った。


人間離れしたのは何も、怪力だけではなく。

その筋肉の頑強さも、ついには人間の範疇を大きく逸脱したのだった。


「実は、この番組の途中に何度か襲われちゃって」

「・・・へ? 襲われ・・・たの?」

賞金狙いや、賭けの結果を逆恨みしての犯行が増え。

最終的にこの番組は、過去の遺物と化す羽目になったのだ。


「その時は、もっと治安の悪い都市に住んでたから、ね。今は大丈夫」

「いやいや! そういうことじゃなくて・・・」

この国で襲われた、ということは。

それはつまり、刃物どころか、この番組みたいに銃で撃たれたって訳で。


「流石に、“この身体”になって長かったし。予感はあったの」

それはつまり、銃弾にも耐え得る肉体になった、という自信。自負。


「あー、その件は流石に親には言ってないから。後でもし聞かれても言わないでね」

「あ、うん。流石に、言えないよ・・・」

貴方の娘さんは過去に拳銃で襲われました、なんて口が裂けても言えない。

裏を返せば、銃で襲われたのに事件にすらならなかったということ。


「じゃあ、“今”はどうしてるの?」

「“今”は、ねぇ・・・」

結局、番組は『200万ドル』獲得で終了。

殿堂入り扱いだが実質、番組側の『ドロップ』・・・というか、ギブアップだった。


この番組のお陰か、カルト的な人気を博し、特定の層に名前が売れることになり。

トレーニング機器メーカーがスポンサーになって、広告やコマーシャル出演。

いつしか、トレーニングジムのプロデュースや管理を任されるようになった。


「日本に居たら多分、こうなってないと思う」

「まあ、ね」

多種多様な人種が住まう国だからこそ、マイノリティでも享受される。

日本に居たら、“身体一貫”で稼ぐことなど到底、無理だったろう。


「今の身体に、自信持てるようになったんだね」

「うん!」

明子は、新天地で頑張る親友の笑顔に、心から安堵した。

Comments

感想、ありがとうございます。 襲われたのに事件になっていないのは、海外だから、というのはあります。スラムとか、そう言った地域に近い場所だと細かい小競り合い程度なら事件化しないのでは、と勝手に想像しています。

デアカルテ

更新お疲れ様です。 描写が本当に海外感が溢れてて良いですね。 襲われたのに事件にならなかったのはどうしてでしょうね… 襲われた時の話も出たりするのでしょうか?

okita


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