SamSuka
デアカルテ
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悪魔のアプリLvEX3「Lv:***」

「相撲取りが、八人・・・」

「・・・何の話?」

会話の最中もずっとカールさせ続けていたバーベルを、仁美は漸く置いた。

まるで、ルームランナーでジョギングしているかのような、軽快さ。


「昔、自動車を持ち上げてたよね」

「あー、そんなこともしてたね」

あれから何年も経っているので昔話、ということにはなる。


あの時、明子は脳内で車体重量を『相撲取り五人』に例えていた。

※相撲取り一人に付き、200~220kgな計算。


「これが・・・」

明子は、仁美が“ソッと置いた”バーベルの前に立った。


直径、つまりは高さが140cmある円形のウェイトプレート。

一枚で厚さ25cmなので、片側だけで締めて、1m。

1mの巨大ウェイトを繋ぐシャフトは、持ち手部分だけでこれまた、1m。


横の長さが実に3m、総重量1866kgの超々重量の巨大バーベル。


「んぅ・・・ん!」

明子は体重を掛け、力の限り押してみた。


「何してるの?」

「え、いや・・・」

ウェイトプレートは円形なので、押せば動くかと思ったが、そう甘くは無かった。

2t近いウェイトなのだ。非力な明子では、転がすことすら不可能。


「これを・・・」

この『相撲取り八人』を、仁美は片手で事も無げに扱って見せた。


体重1.2tの仁美は、歩くだけで地響きが起こる。

その仁美自身より重い1.9tのバーベルを、“音も立てず”に置いたのだ。


1.9tを片手カールするのも凄まじいが、重さを殺して置くのはどれ程の荒業だろうか。


「いつも、挙げてるの?」

「うん。手が寂しい時に、ぐらいだけどね」

何と、ウォーミングアップですら無かったのだった。


学生時代、暇な時にペンを掌で指を使って、回す技が流行ったことがある。

慣れると、考え事をしながらペンを回していた、なんてのは良くある話だ。


今の仁美にとって、1.9tのバーベルは“その程度の代物”でしかないのだ。


「でも、こういうのって、『ラック』とかに置かなくて良いの?」

仁美宅のトレーニング部屋では、全てのウェイト類が直置きされていた。


「あー。ラックは置いても無駄っていうか、要らないっていうか・・・」

理由は至極、単純明快だった。


先ず、1.9tのバーベルなんて、置けるラックが存在しない。

そして、ここまで重いバーベルだと、そもそも転がらないのだ。


「基本的に、地面があるとこじゃないとダメなの。“私自身も含めて”」

「・・・あ」

仁美宅には、二階も無ければ、地下室も無かった。

かなり広い土地を使う代わりに、地上階しか存在しない大邸宅。


「引っ越す前、何度か“落ちた”んだよね・・・」

仁美は、こればっかりはと苦笑した。


かつて、二階建ての家に住んでいた頃、寝ている時にベッドごと一階に落ちてしまった。

商業施設などの大型建築ならまだしも、一般宅だと、床が抜けてしまうのだ。


何もしていなくても床を壊すぐらいには、1.2tという体重は重い。


「今使ってるベッドは、鋼鉄製の特注品」

総重量2tの、超大型ベッド。


身長375cmな時点で特注は必至だったので、折角ならと重くした。

すると、業者が運べるように部品がかなり細かくなり、組み立てるのに苦労したらしい。


「今なら、自動車で“お手玉”とか出来そう」

「あはは。出来る、っていうか、もう“やった”」

そう言って、仁美は“チャンネル”を切り替えた。


それは、とあるバラエティ番組だった。


罰ゲームと称して、タレント所有の高級車を空中に投げてはキャッチ。

また、投げてはキャッチ。


仁美はそれを、二台同時にやって見せたのだ。文字通り、日本古来のお手玉。

タレントは頭を抱え、その様を見て他の出演者や観客が大笑い、といった趣向だ。


「タレントみたいな事もやってるんだね」

「まあ、ね」

明子は内心、賞金とジムのプロデュースだけでここまでの大邸宅をゲット出来るのか疑問だった。


「スポーツ方面で活かしたりは、しないの?」

「あー、ね・・・」

仁美は何故か、言い淀んで言葉を濁す。


「ほら、何て言ったっけ。ボディビル? 力瘤とか凄いじゃん」

明子はかつて、仁美と一緒にスマホで検索してポージングしたことを思い出した。


「ボディビルは、ねぇ」

仁美は今、タンクトップシャツに短パンと、かなりラフな格好。

テレビショーのビキニ水着とは行かずとも、筋肉の露出は充分。


「・・・んっ」

仁美も思い出したのか、当時やったポージングを幾つか再現して見せた。

1.2tの内、どれだけが筋肉なのかと言わんばかりに、全身が盛り上がる。


「“これ”、がこうなって・・・」

肩の高さで腕を曲げる、『ダブルバイセップスポーズ』。

・・・なのだが、上腕に対して前腕が『45度』ぐらいまでしか曲がっていない。


それでも、“高さ”が150cm近い、377cmもの超特大力瘤が盛り上がっている。


「“これ”、だとこうだし・・・」

「・・・?」

明子は最初、何のポーズをやろうとしているのか、わからなかった。


仁美は、『サイドチェスト』が出来なくなっていた。

『サイドチェスト』は脇の下辺りで両手を組むのだが、そもそも両手が組めない。


上腕と上半身のボリュームが有り過ぎて、左右の手が届かないのだ。


「おっぱいが大き過ぎるのも、ダメみたいなの」

アンダー差が69cmの『Xカップ』という、驚異的なビッグバスト。

体脂肪率が全て、乳房分ではないとはいえ、50kg近い重さの超々爆乳。


バルク(筋肉量)、カット(キレ)、ポージング(姿勢)の内。

少なくとも、二つの項目においてアウトなのだ。


「そっか。ボディビルがダメなら、後は・・・」

明子は、文字通り仁美を見上げながら、適当にチャンネルを変えてみる。


「・・・ん?」

残るはプロレスとかの格闘技辺り、と思った矢先。


「あれ?」

黒と赤が基調の、暗い雰囲気のチャンネル。

金網に囲まれた空間で、数人の男たちが“巨人”と相対していた。


「これ・・・」

その“巨人”は、正確には“巨女”だった。

覆面で顔は窺い知れないが、“ビキニ水着”なことからも女性なのは間違いない。


「ひょっとして・・・」

大柄な男たちより、倍近い長身。

筋骨隆々な男たちが“モヤシ”に見えるぐらい、チョモランマな筋肉。


「・・・・・あ」

“実物”と見比べるまでもなく、その“覆面筋肉巨女”は仁美その人だった。


「何だ、プロレスもやっ・・・て、えぇ!?」

「あ、あぁ~・・・」

これまで何度も驚かされていた明子だが、ここに来て今日一番の声。

一方の仁美は、落胆の溜め息。


それらを掻き消すかのように、大型モニタの中では男たちの絶叫が響き渡る。


とても、リングとは呼べない武骨な空間。

金網は、あくまで男たちを逃がさない為の檻でしかなかった。


一対多。女一人に対し、男十数人。

勝負の呈を為さず、一方的な展開。


数で勝る方が、一方的に・・・ではなく。

フィジカルで勝る方が、一方的に嬲っていた。


「う、っわ・・・」

“覆面筋肉巨女”が、右腕をブゥンッと振り回す。ラリアットとすら、呼べない代物。

にも関わらず、屈強な男たち数人が纏めて、金網まで吹っ飛ぶ。


「うぁ・・・」

足首を極めて、関節技を決めようとした者にそのまま体重を掛ければ、下敷きになり。


「・・・っ」

飛び蹴りして来た者をキャッチして、片手で持ったまま地面に叩き付けたり。


明子が余りの光景に目を覆い、また恐る恐る目を開けて、モニタを観る。

その度に、男たちが一人、一人と減って行く。


「良く見たらこれ、相手は武器持ってるじゃん」

男たちは何も、やられるだけになっていなかった。


本来は、打撃や投げ、関節技に精通した猛者たち。

だが、何をやっても、“覆面筋肉巨女”は一向に意に介さないのだ。


「そりゃ、そうか・・・」

“銃が効かない”ような筋肉に、タカが格闘家が何かをした所で、効く筈がない。

勿論、明子自身、“相手”と呼ぶ時点で確信めいたものを感じている。


「・・・・・」

ものの数分で、十数人居た男たちは動かなくなっていた。


「ねぇ・・・」

“知らない”よ」

何かを言おうとした明子を、仁美は遮った。


「こういうのは、“知らない方が良い”よ」

仁美は、念を押すかのように、そう言った。


高校時代の親友とは言え、五年以上会っていなかった。

既に学生ではなく、お互い成人した大人。


収入をどのように、得ようと。

自分の能力をどのように、活かそうと。


他人がとやかく、口を挟むべきではないのだ。

何か、“特別な事情”でもない限りは。


「私、ね。実は・・・」

明子は意を決したかのように、口を開くのだった。

...DEAD END?

Comments

感想、ありがとうございます。 続きですが、実は構想だけはあったりします。まだ私の中で形になっていないのですが…。機会があれば、着手したいと思っています。

デアカルテ

続きが見たいです…

zxeh

感想、ありがとうございます。 仁美が床をブチ抜くシーンはいつか何処かで書いてみたいです。

デアカルテ

更新お疲れ様です。 何度か床をぶち抜く明子ちゃん、とてつもないですね。 仁美ちゃんに観られたのは、ウッカリなのか意図的なのか…

okita


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