悪魔のアプリLvEX3「Lv:***」
Added 2022-10-04 15:00:00 +0000 UTC「相撲取りが、八人・・・」
「・・・何の話?」
会話の最中もずっとカールさせ続けていたバーベルを、仁美は漸く置いた。
まるで、ルームランナーでジョギングしているかのような、軽快さ。
「昔、自動車を持ち上げてたよね」
「あー、そんなこともしてたね」
あれから何年も経っているので昔話、ということにはなる。
あの時、明子は脳内で車体重量を『相撲取り五人』に例えていた。
※相撲取り一人に付き、200~220kgな計算。
「これが・・・」
明子は、仁美が“ソッと置いた”バーベルの前に立った。
直径、つまりは高さが140cmある円形のウェイトプレート。
一枚で厚さ25cmなので、片側だけで締めて、1m。
1mの巨大ウェイトを繋ぐシャフトは、持ち手部分だけでこれまた、1m。
横の長さが実に3m、総重量1866kgの超々重量の巨大バーベル。
「んぅ・・・ん!」
明子は体重を掛け、力の限り押してみた。
「何してるの?」
「え、いや・・・」
ウェイトプレートは円形なので、押せば動くかと思ったが、そう甘くは無かった。
2t近いウェイトなのだ。非力な明子では、転がすことすら不可能。
「これを・・・」
この『相撲取り八人』を、仁美は片手で事も無げに扱って見せた。
体重1.2tの仁美は、歩くだけで地響きが起こる。
その仁美自身より重い1.9tのバーベルを、“音も立てず”に置いたのだ。
1.9tを片手カールするのも凄まじいが、重さを殺して置くのはどれ程の荒業だろうか。
「いつも、挙げてるの?」
「うん。手が寂しい時に、ぐらいだけどね」
何と、ウォーミングアップですら無かったのだった。
学生時代、暇な時にペンを掌で指を使って、回す技が流行ったことがある。
慣れると、考え事をしながらペンを回していた、なんてのは良くある話だ。
今の仁美にとって、1.9tのバーベルは“その程度の代物”でしかないのだ。
「でも、こういうのって、『ラック』とかに置かなくて良いの?」
仁美宅のトレーニング部屋では、全てのウェイト類が直置きされていた。
「あー。ラックは置いても無駄っていうか、要らないっていうか・・・」
理由は至極、単純明快だった。
先ず、1.9tのバーベルなんて、置けるラックが存在しない。
そして、ここまで重いバーベルだと、そもそも転がらないのだ。
「基本的に、地面があるとこじゃないとダメなの。“私自身も含めて”」
「・・・あ」
仁美宅には、二階も無ければ、地下室も無かった。
かなり広い土地を使う代わりに、地上階しか存在しない大邸宅。
「引っ越す前、何度か“落ちた”んだよね・・・」
仁美は、こればっかりはと苦笑した。
かつて、二階建ての家に住んでいた頃、寝ている時にベッドごと一階に落ちてしまった。
商業施設などの大型建築ならまだしも、一般宅だと、床が抜けてしまうのだ。
何もしていなくても床を壊すぐらいには、1.2tという体重は重い。
「今使ってるベッドは、鋼鉄製の特注品」
総重量2tの、超大型ベッド。
身長375cmな時点で特注は必至だったので、折角ならと重くした。
すると、業者が運べるように部品がかなり細かくなり、組み立てるのに苦労したらしい。
「今なら、自動車で“お手玉”とか出来そう」
「あはは。出来る、っていうか、もう“やった”」
そう言って、仁美は“チャンネル”を切り替えた。
それは、とあるバラエティ番組だった。
罰ゲームと称して、タレント所有の高級車を空中に投げてはキャッチ。
また、投げてはキャッチ。
仁美はそれを、二台同時にやって見せたのだ。文字通り、日本古来のお手玉。
タレントは頭を抱え、その様を見て他の出演者や観客が大笑い、といった趣向だ。
「タレントみたいな事もやってるんだね」
「まあ、ね」
明子は内心、賞金とジムのプロデュースだけでここまでの大邸宅をゲット出来るのか疑問だった。
「スポーツ方面で活かしたりは、しないの?」
「あー、ね・・・」
仁美は何故か、言い淀んで言葉を濁す。
「ほら、何て言ったっけ。ボディビル? 力瘤とか凄いじゃん」
明子はかつて、仁美と一緒にスマホで検索してポージングしたことを思い出した。
「ボディビルは、ねぇ」
仁美は今、タンクトップシャツに短パンと、かなりラフな格好。
テレビショーのビキニ水着とは行かずとも、筋肉の露出は充分。
「・・・んっ」
仁美も思い出したのか、当時やったポージングを幾つか再現して見せた。
1.2tの内、どれだけが筋肉なのかと言わんばかりに、全身が盛り上がる。
「“これ”、がこうなって・・・」
肩の高さで腕を曲げる、『ダブルバイセップスポーズ』。
・・・なのだが、上腕に対して前腕が『45度』ぐらいまでしか曲がっていない。
それでも、“高さ”が150cm近い、377cmもの超特大力瘤が盛り上がっている。
「“これ”、だとこうだし・・・」
「・・・?」
明子は最初、何のポーズをやろうとしているのか、わからなかった。
仁美は、『サイドチェスト』が出来なくなっていた。
『サイドチェスト』は脇の下辺りで両手を組むのだが、そもそも両手が組めない。
上腕と上半身のボリュームが有り過ぎて、左右の手が届かないのだ。
「おっぱいが大き過ぎるのも、ダメみたいなの」
アンダー差が69cmの『Xカップ』という、驚異的なビッグバスト。
体脂肪率が全て、乳房分ではないとはいえ、50kg近い重さの超々爆乳。
バルク(筋肉量)、カット(キレ)、ポージング(姿勢)の内。
少なくとも、二つの項目においてアウトなのだ。
「そっか。ボディビルがダメなら、後は・・・」
明子は、文字通り仁美を見上げながら、適当にチャンネルを変えてみる。
「・・・ん?」
残るはプロレスとかの格闘技辺り、と思った矢先。
「あれ?」
黒と赤が基調の、暗い雰囲気のチャンネル。
金網に囲まれた空間で、数人の男たちが“巨人”と相対していた。
「これ・・・」
その“巨人”は、正確には“巨女”だった。
覆面で顔は窺い知れないが、“ビキニ水着”なことからも女性なのは間違いない。
「ひょっとして・・・」
大柄な男たちより、倍近い長身。
筋骨隆々な男たちが“モヤシ”に見えるぐらい、チョモランマな筋肉。
「・・・・・あ」
“実物”と見比べるまでもなく、その“覆面筋肉巨女”は仁美その人だった。
「何だ、プロレスもやっ・・・て、えぇ!?」
「あ、あぁ~・・・」
これまで何度も驚かされていた明子だが、ここに来て今日一番の声。
一方の仁美は、落胆の溜め息。
それらを掻き消すかのように、大型モニタの中では男たちの絶叫が響き渡る。
とても、リングとは呼べない武骨な空間。
金網は、あくまで男たちを逃がさない為の檻でしかなかった。
一対多。女一人に対し、男十数人。
勝負の呈を為さず、一方的な展開。
数で勝る方が、一方的に・・・ではなく。
フィジカルで勝る方が、一方的に嬲っていた。
「う、っわ・・・」
“覆面筋肉巨女”が、右腕をブゥンッと振り回す。ラリアットとすら、呼べない代物。
にも関わらず、屈強な男たち数人が纏めて、金網まで吹っ飛ぶ。
「うぁ・・・」
足首を極めて、関節技を決めようとした者にそのまま体重を掛ければ、下敷きになり。
「・・・っ」
飛び蹴りして来た者をキャッチして、片手で持ったまま地面に叩き付けたり。
明子が余りの光景に目を覆い、また恐る恐る目を開けて、モニタを観る。
その度に、男たちが一人、一人と減って行く。
「良く見たらこれ、相手は武器持ってるじゃん」
男たちは何も、やられるだけになっていなかった。
本来は、打撃や投げ、関節技に精通した猛者たち。
だが、何をやっても、“覆面筋肉巨女”は一向に意に介さないのだ。
「そりゃ、そうか・・・」
“銃が効かない”ような筋肉に、タカが格闘家が何かをした所で、効く筈がない。
勿論、明子自身、“相手”と呼ぶ時点で確信めいたものを感じている。
「・・・・・」
ものの数分で、十数人居た男たちは動かなくなっていた。
「ねぇ・・・」
「“知らない”よ」
何かを言おうとした明子を、仁美は遮った。
「こういうのは、“知らない方が良い”よ」
仁美は、念を押すかのように、そう言った。
高校時代の親友とは言え、五年以上会っていなかった。
既に学生ではなく、お互い成人した大人。
収入をどのように、得ようと。
自分の能力をどのように、活かそうと。
他人がとやかく、口を挟むべきではないのだ。
何か、“特別な事情”でもない限りは。
「私、ね。実は・・・」
明子は意を決したかのように、口を開くのだった。
...DEAD END?
Comments
感想、ありがとうございます。 続きですが、実は構想だけはあったりします。まだ私の中で形になっていないのですが…。機会があれば、着手したいと思っています。
デアカルテ
2024-06-27 22:26:45 +0000 UTC続きが見たいです…
zxeh
2024-06-27 11:02:58 +0000 UTC感想、ありがとうございます。 仁美が床をブチ抜くシーンはいつか何処かで書いてみたいです。
デアカルテ
2022-10-04 22:22:36 +0000 UTC更新お疲れ様です。 何度か床をぶち抜く明子ちゃん、とてつもないですね。 仁美ちゃんに観られたのは、ウッカリなのか意図的なのか…
okita
2022-10-04 20:04:15 +0000 UTC